人がいつから火を使い始めたかについては、考古学的にまだ決着がついていない。南アフリカのワンダーウェルク洞窟から出た痕跡は約100万年前のものとされるが、確実に「日常的に火を使っていた」と言えるのは、およそ10万年前からだ。
焚き火の時代
最初の火は、地面に薪を組んで燃やすだけのものだった。暖を取り、肉を焼き、獣を遠ざける。この3つが火の最初の用途だったとされている。
焚き火は住居の中心にあった。旧石器時代の遺跡には、住居の真ん中に焚き火の跡が見つかる。家族が火を囲んで座る。食べ物を分ける。話をする。人類の社会的な行動の多くが、焚き火の周りで生まれた。
暖炉の発明
中世ヨーロッパで暖炉が発明された。壁に煙突をつけて煙を外に出す構造は、それまでの「部屋の真ん中で焚く」方式と比べて画期的だった。煙が室内に充満しなくなり、部屋が広く使えるようになった。
ただし暖炉の熱効率は低い。燃焼で生まれた熱の大部分が煙突から逃げてしまう。部屋を暖めるというより、炎のそばだけが暖かいという状態だった。
薪ストーブの登場
18世紀、ベンジャミン・フランクリンが鋳鉄のストーブを設計した。暖炉の開口部を鉄板で囲い込むことで、熱を室内に留める。輻射熱が部屋全体を暖める。燃焼効率が格段に上がった。
北欧ではそれ以前から鋳鉄のストーブが使われていたという記録もあるが、産業的に量産が始まったのは18世紀後半からだ。ノルウェーのヨツールは1853年創業。以来170年、鋳鉄のストーブを作り続けている。
10万年変わらないもの
暖房のテクノロジーは焚き火から暖炉、薪ストーブ、ガス暖房、エアコンへと進化した。しかし「火を見つめると落ち着く」という人間の反応は10万年前から変わっていない。炎の揺れ、熱の放射、薪のはぜる音。これらが人間の心拍を下げ、副交感神経を優位にするという研究がある。
薪ストーブが単なる暖房器具ではない理由が、ここにある。