本文へ
YOMIMONO / 火の技術

焚き付けの組み方で、
火の性格が変わる

文・有限会社D'STYLE|岩手・盛岡の薪ストーブとサウナの店

公開日:2026年9月12日 / 最終更新日:2026年10月25日

薪ストーブを使い始めた方が最初に戸惑うのは、思うように火がつかないことです。太い薪にマッチの火を近づけても、表面が少し焦げるだけで炎は立ちません。木が炎を上げて燃えるまでには、いくつかの段階を順に通る必要があり、焚き付けの組み方は、その段階を滞りなく進めるための工夫です。

この読みものでは、木が燃える仕組みを温度の段階からたどり、上から着火する方法と下から着火する方法の違い、そして空気と乾燥の役割を、研究機関や公的機関の資料をもとに整理します。

木は、炎を上げる前に三つの段階を通ります

米国農務省林産物研究所の『木材ハンドブック』は、加熱された木材の変化を温度ごとに説明しています。100〜200℃では木材から水分が抜け、水蒸気や二酸化炭素、酢酸など、燃えない気体が出てきます。200〜300℃になると本格的な熱分解が始まり、一酸化炭素や沸点の高いタール分が多く放出されます。300〜450℃では、燃える気体が盛んに発生します。

同じ資料によると、木材の表面は300〜400℃に達してから、火種によって着火するとされています。私たちが目にする炎の多くは、木から出てきた気体が燃えている姿です。木を燃やすとは、木を温めて燃える気体を引き出し、その気体に火を移していく作業だと言えます。

太い薪にマッチを近づけても燃えないのは、マッチの小さな炎では薪の表面をこの温度まで上げられず、熱が薪の内部へ逃げてしまうためです。まだ温度の低い段階で出てくる水蒸気やタール分は、燃えないまま煙となり、ガラスや煙突の内壁を汚す原因にもなります。

細いものから太いものへ、熱を受け渡します

焚き付けを細い木から順に組むのは、この温度の段階を小さな材料から順に越えさせるためです。細い木は体積に対して表面積が大きく、少ない熱で全体の温度が上がります。細い焚き付けが燃えて生まれた熱がひと回り太い薪を温め、その薪の炎がさらに太い薪を温める。熱を少しずつ大きな薪へ受け渡していくことが、焚き付けの基本です。

米国環境保護庁(EPA)も、火をおこすときは小さく乾いた焚き付けを使い、よく燃え始めてから小さめの薪を加えるよう勧めています。焚き付けや薪は前の晩に室内へ入れておくと、外の湿気が抜けてよく燃えるとも述べています。

もう一つ大切なのが乾燥です。薪に水分が残っていると、熱はまず水を蒸発させることに使われ、燃える気体を引き出す段階へなかなか進めません。含水率20%以下まで乾かした薪を使うことは、焚き付けを成功させるための前提です。薪の乾燥と熱量の関係は「薪の話」で詳しく説明しています。

上から着火すると、煙が炎の中を通ります

上から着火する方法では、太い薪を下に並べ、その上に細めの薪、さらに上に細い焚き付けと着火剤を重ねて、いちばん上に火をつけます。カナダの薪暖房の解説サイトWoodheat.orgは、底に太い薪を3〜4本置き、その上に太めの焚き付け、さらに細い焚き付けを重ね、最上部に新聞紙を置く組み方を紹介しています。

この方法の利点は、煙の通り方にあります。スイスがん連盟とスイス肺連盟が2010年に始めた啓発活動では、上から火をつけた薪はろうそくのように上から下へ燃え進み、発生した気体が高温の炎の中を通るため、ほぼ完全に燃え尽きると説明しています。下の薪から出てくる気体は、上部の炎を通り抜けてから煙突へ向かうことになります。

スイス連邦環境局(BAFU)も、薪を燃やす過程で微小粒子状物質が最も多く出るのは着火のときであり、多くの場合、上から着火する方法が最も排出の少ないやり方だとしています。同局によると、2024年のスイスでは木の燃焼がPM2.5の排出の3割近くを占め、そのうち半分以上は薪を使う暖炉やストーブなどの暖房器具によるものでした。一方で、これらの器具が燃やしている木は、木の燃焼全体のおよそ6分の1です。着火の仕方を改めることが大気環境の対策として取り上げられているのは、こうした事情によります。

上から着火した火は、下の太い薪が崩れて火を押しつぶすことが少なく、いったん火が回れば、しばらく手を加えずに見守ることができます。Woodheat.orgの筆者は、この方法を1992年に石積み暖炉の協会の会報で知ったと記し、1810年に鳥類画家のオーデュボンがケンタッキー州で書き留めた野営の火にも、同じ組み方が見られると紹介しています。

下から着火する方法と、その使いどころ

焚き付けと細い薪を下に置き、太い薪を上に載せて下から火をつける方法は、キャンプの焚き火でもおなじみの組み方です。炎は上へ向かって燃え広がるため火の回りが早く、短い時間で大きな炎が立ちます。

一方で、着火の直後は、上に載った太い薪がまだ冷たいまま下から熱せられます。温められた太い薪からは水蒸気やタール分が出てきますが、その上にはまだ炎がないため、燃えきらないまま煙突へ向かいやすくなります。下から着火したときに、着火の直後の煙が多く、ガラスが黒くなりやすいのはこのためです。

下から着火する方法が向いている場面もあります。鋳鉄や鋼板の薪ストーブは炉の高さが限られていることが多く、Woodheat.orgも、そうした炉では上から着火する組み方をそのまま再現するのが難しく、薪を低く積む工夫が必要だと述べています。また、熾火の残る炉に薪を足すときは、下の熾火から火が回る形になります。機種によっては取扱説明書に推奨の組み方が示されていますので、まずはそれに従うのが確実です。

隙間は、空気と炎の通り道です

どちらの方法でも共通して大切なのが、薪と薪のあいだに隙間を残すことです。燃焼には酸素が欠かせず、薪を密着させて積むと空気の通り道が塞がれ、火は勢いを失います。隙間は空気の通り道であると同時に、炎が次の薪へ移っていく通り道でもあります。

着火の段階では煙突がまだ冷えていて、煙を引き上げる力(ドラフト)が弱い状態です。EPAは、着火剤が煙突を温め、ドラフトが早く立ち上がる助けになると述べています。また、着火直後の数分間は扉を開けて空気を十分に入れるよう勧めています。その間は炉の前を離れないことが前提で、空気調整を絞るのは、炉内と煙突が十分に温まってからにします。煙突が煙を引く仕組みは「煙突について」で紹介しています。

火が安定するまでの時間が、汚れの量を左右します

着火から火が安定するまでの時間は、炉内の温度が最も低く、燃えきらない成分が出やすい時間です。この時間に出た煙は冷えた煙突の内壁に付着しやすく、煤やタールのもとになります。焚き付けを丁寧に組み、短い時間で炉内の温度を上げることは、ガラスの曇りを抑え、煙突の汚れを減らすことにもつながります。

スイスの啓発活動は、燃やしてよいのは手を加えていない乾いた木だけであり、ごみは決して薪ストーブで燃やさないよう呼びかけています。塗装した木材や接着剤を含む板、プラスチックなどは、焚き付けにも使わないようにします。焚き付けに使う木も、薪と同じく、よく乾いた無垢の木を選ぶことが基本です。

着火剤については、同じ啓発活動がロウを染み込ませた木毛などを使うよう勧めています。身近な焚き付け材それぞれの使い心地は「焚き付け材のおすすめ比較」にまとめていますので、あわせてご覧ください。

上から着火する方法にも下から着火する方法にも、炉の形や薪の太さ、乾き具合によって向き不向きがあります。何度か試しながら、火のつき方、煙の量、ガラスの曇り方を観察すると、ご自宅のストーブに合った組み方が見えてきます。煙が少なく、短い時間で炎が安定する組み方は、燃料を無駄なく使い、煙突を清潔に保つ焚き方でもあります。

参考:木材の熱分解と着火の温度は米国農務省林産物研究所『木材ハンドブック』第18章(英語)、上から着火する組み方とその由来はWoodheat.org(英語)、燃え方の説明と着火剤はスイスがん連盟・スイス肺連盟の発表(2010年、ドイツ語・PDF)、微小粒子状物質の数字はスイス連邦環境局(ドイツ語)、焚き付けと空気の扱いは米国環境保護庁の旧Burn Wiseの解説(英語・アーカイブ)による。

D'STYLE
橋本 大治(有限会社D'STYLE 代表)

岩手・盛岡で薪ストーブの施工を手がけて20年。火のつけ方にはこだわりがあります。

焚き方から、教えます。

薪ストーブは焚き方で変わります。盛岡のショールームで、実際に焚き方をお見せします。