薪ストーブを使い始めた方から、「薪は買えばすぐに使えますか」とよくお尋ねいただきます。十分に乾いた薪であれば、そのまま焚いていただけます。一方で、割ったばかりの木を焚ける状態にするには時間がかかり、広葉樹の薪では、伐ってから1年半から2年を見ておくのが岩手での目安です。
この「2年」という数字は、昔からの言い伝えのように聞こえるかもしれません。ただ、季節ごとに木の中で何が起きているかをたどると、そこには筋の通った理由が見えてきます。この読みものでは、薪が乾いていく二年間を、盛岡の季節に沿って追いかけてみます。
乾いた薪は、煙突を守ります
伐ったばかりの木は、重さのかなりの部分を水が占めています。この水が残ったまま燃やすと、熱の一部が水を蒸発させるために使われ、火力が上がらず、部屋も思うように暖まりません。
より大きな問題は煙突です。燃焼温度が下がると、煙に含まれる燃え残りの成分が煙突の内側で冷えて、タールとして付着します。これが積み重なると、タールに火が移って煙突の中で燃え広がる煙道火災につながるおそれがあります。年に一度以上の定期的な煙突掃除をおすすめしているのは、これを防ぐためでもあります。
薪ストーブの世界で「よく乾いている」とされる目安は、含水率20%以下です。米国環境保護庁(EPA)も、薪は含水率20%未満でよく燃えると説明し、焚く前に水分計で確かめること、少なくとも6か月は乾かすことを勧めています。岩手で広葉樹を使う場合、この6か月はあくまで最短の目安で、実際にはその3倍ほどの時間を見ておきます。その理由は、季節ごとの乾き方の違いにあります。
乾き方を決めるのは、湿度と風です
木は、まわりの空気の湿り具合に見合った含水率に向かって、水を出し入れしています。この落ち着き先を平衡含水率といいます。空気が乾いていれば木はよく水を手放し、湿っていれば乾きが止まり、ときには水を吸い戻します。
北海道の林産試験場が1961年から翌年にかけて旭川で行ったナラ板の天然乾燥試験は、このことを季節ごとに確かめています。それによると、乾燥の速さを左右したのは気温よりも湿度でした。湿度が低く、風の比較的強い春から初夏がもっとも乾きやすく、梅雨から夏にかけて、さらに秋の長雨の時期と、条件は順に悪くなりました。降雪期の冬は乾燥条件として最も悪い季節と結論づけられています。
盛岡の平年値(気象庁、1991〜2020年)を見ると、同じ傾向がはっきり表れます。月平均の相対湿度がもっとも低いのは4月の65%で、平均風速も4月の毎秒3.4メートルが一年でいちばん強く、日照時間は5月の188時間が最多です。反対に、7月は降水量が197.5ミリと一年で最も多く、7月と9月の平均湿度は80%に達します。盛岡の春は、薪にとって一年でいちばんの乾燥日和といえます。
一年目の春から夏、水はいちばん速く抜けます
春の乾きの速さを示す、岩手の試験結果があります。岩手県林業技術センター(矢巾町)が、県産のナラ丸太から挽いた厚さ40ミリの板を、2024年5月10日から屋根の下に積んで乾かしたところ、全乾法で測った含水率の平均は、69%から13日後に43%、68日後に21%となり、115日後には20%でした。春から夏にかけて、2か月ほどで20%まで乾いたことになります。
注目したいのは、7月半ばから9月初めまでの約50日間で、数字がほとんど動いていないことです。夏の湿った空気の中では、木はそれ以上水を手放さず、平衡含水率の近くで足踏みします。前半の大きな下がり方と、後半の足踏み。乾燥はいつも、この二つの段階をたどります。
ただし、これは厚さ4センチの板の話です。薪は太さ6〜10センチほどに割るのが一般的で、板よりも水の出口までの距離が長く、外側に樹皮も残ります。米国アラスカ州フェアバンクスで2010年に行われた試験では、春に伐って割った薪は、日当たりと風通しのよい野外で6週間から3か月のうちに含水率20%以下になりました。一方で、割らずに丸太のまま置いたものは、夏の終わりでも21〜43%の水分が残り、ひと夏では乾ききりませんでした。乾燥の速さを大きく分けたのは、樹種や置き方よりも、割ったかどうかだったと報告されています。木の水分は木口と割った面から抜けていくため、早めに割ることが何よりの近道です。
梅雨と長雨、そして冬は、足踏みの季節です
一年目の夏を越えると、薪は次の試練を迎えます。旭川の試験では、7月末から8月上旬の雨の多い時期に、含水率35%まで乾いた板が45%まで戻ったことが記録されています。試験で計算された平衡含水率は、春で15〜18%、夏から秋で16〜20%でした。雨の多い季節には、乾いた分が少し戻ることも覚悟しておく必要があります。
この時期に薪を守るのが、積み方です。地面から浮かせて下からの湿気を断ち、雨と雪は上だけを防いで、横は風を通します。シートで全体を覆うと、湿気がこもって乾きにくくなります。アラスカの試験でも、上だけを覆ってパレットに積んだ薪小屋のような置き方に比べ、シートですっぽり覆ったものや覆わずに置いたものは、冬のあいだに乾きが遅れ、なかには水分を吸い戻したものもありました。薪棚の作法は「薪棚は、庭の美術品。」でもご紹介しています。
そして冬です。盛岡の1月は平均気温がマイナス1.6℃、平均湿度は73%で、降雪の深さの合計は一冬で200センチを超えます。旭川の試験は、雪と寒さの続く約半年のあいだ、天然乾燥では4〜5か月たっても含水率30〜35%以下は期待できないと結んでいます。ただアラスカの試験では、秋に割って屋根の下に積んだ薪は、冬のあいだも目に見えて乾き続けました。冬は大きく乾く季節というより、雨と雪から薪を守り、次の夏へ渡す季節です。
二度目の夏が、芯まで仕上げます
ここまでをつなげると、2年という数字の意味が見えてきます。春に割った広葉樹の薪は、一年目の夏に表面近くから大きく乾きます。ところが、ナラのように密度の高い木は内部の水の動きが遅く、太い薪ほど芯に水が残ります。秋の長雨と冬を屋根の下でやり過ごし、二度目の春と夏の乾いた風に当てることで、芯まで含水率がそろってきます。春に割った薪を翌年の秋から焚き始めると、ちょうど1年半ほど。夏を二度くぐらせることが、「1年半から2年」という目安の中身です。
伐る季節よりも、割る季節が大切だという点も覚えておきたいところです。アラスカの試験では、立ち木の含水率は春に高く秋に低いと予想していましたが、シラカバやアスペンではその差は見られませんでした。一方で、秋に伐って割った薪は、翌年5月の時点でどの置き方でも乾ききっていませんでした。乾燥の季節を前にして割ることが、仕上がりを早めます。
樹種ごとの乾燥期間の目安は「薪の話」に表でまとめています。針葉樹は比較的早く乾きますが、樹脂分が多いため、広葉樹と組み合わせて使うのが基本です。白樺のように樹皮が水を通しにくい木は、割らずに置くと中から傷みやすいため、「白樺の薪」のように早めに割ることが欠かせません。乾いたかどうかの最終確認は、割った面の中心を水分計で測るのが確実です。測り方の作法は「含水率20%を、正しく読むために」で詳しくご説明しています。
二年先を見て、薪を仕込む暮らし
薪の乾燥を季節で考えると、段取りも自然に決まります。原木を手に入れたら、雪が解けて空気が乾く春のうちに玉切りして割り、風の通る場所に積みます。一年目の夏は乾燥がいちばん進む時期なので、薪棚は日当たりと風通しを優先して選びます。冬のあいだは、雪で薪棚が埋もれないように通り道を確保し、焚く数日前に必要な分だけ室内や風除室へ移すと、表面の湿りが抜けて火つきがよくなります。
岩手の気候では、冬の間に積もる雪を考えると、薪小屋があると管理が楽です。数年分をまとめて保管できる大きさのものを用意しておくと、いつも乾いた薪から順に使えるようになります。当社でも、薪棚・薪小屋の製作についてご相談をいただくことがあります。
今年の冬に間に合う乾いた薪が必要な方には、乾燥薪の販売もしています。薪の段取りから煙突の手入れまで、薪ストーブのある暮らしのことは、どうぞまとめてご相談ください。
よくある質問
Q. 1年乾燥させた薪は使えますか。
樹種と割った時期によります。春に割って夏をひとつ越えた薪は、針葉樹や比較的軽い広葉樹であれば使える状態に近づいていることが多くあります。一方、ナラのような重い広葉樹や、秋に割った薪は、1年では芯に水が残りがちです。使う前に一本を割り、断面の中心を水分計で測って、20%以下を確かめてからお使いください。
Q. 薪を買うとき、どこを確認すればよいですか。
「乾燥薪」「乾燥済み」と書いてあっても、含水率をどのように測っているかは販売する側によって異なります。いつ割った薪か、どこでどのくらい乾かしたか、含水率はどの方法で測ったかを尋ねると、状態を判断しやすくなります。当社でも、薪の入手先についてご相談を承っています。
参考:盛岡の平年値は気象庁。岩手のナラ板の乾燥試験は岩手県林業技術センター研究成果速報No.421(2025年)。旭川の試験は北海道立総合研究機構が公開する「インチ材の天然乾燥に関する試験」。アラスカの試験は寒冷気候住宅研究センターの報告(2011年、英語)。EPAの推奨はBurn Wise(英語)による。
