サウナを売る仕事をしている以上、本場を見ておかなければいけない。そう思って、フィンランドとリトアニアを巡りました。たどり着いた言葉は「石が泣かない」でした。この一言が、帰国してからの仕事を変えました。
第一章:フィンランド・ユヴァスキュラ
ヴィールの町と、湖畔のサウナ
ヘルシンキから北へ270キロ。フィンランド中部の湖水地方にユヴァスキュラはあります。湖の数がとにかく多い町です。バスの窓から見えるのは白樺と湖と、ときどき牛。フィンランドの地方都市は、どこもこうなのかもしれません。静かで、光の量が少なくて、寒い。十一月のユヴァスキュラは、日照が短い季節に入りかけていました。
ヴィールは、ユヴァスキュラの南東にある小さな町です。フィンランド語で「流れ」を意味する地名のとおり、川が穏やかに流れています。ここに来たのは、あるサウナを見るためでした。新しい建築思想で設計されたサウナがあるという話を聞いて、足を延ばしたのです。
そのサウナは、川沿いに建っていました。木造、平屋、大きな窓。フィンランドのサウナは暗くて小さいものだと思っていたのですが、ここは違いました。外の光が入ってきて、川面のゆらぎが天井に映る。石は、たっぷり。ハルビアのヒーターが二台、並んで石を温めていました。
案内してくれたのは地元の方で、「ここのサウナは柔らかいロウリュで知られている」と言いました。柔らかい、というのが気になりました。盛岡で私たちが扱っているハルビアのヒーターでも柔らかいロウリュは出ます。ただ、ここの「柔らかさ」は、次元がひとつ違いました。
「石が泣かない」という言い方
水をかけます。「ジュッ」という音がしない。静かに、蒸気が石の隙間から立ちのぼってきます。煙のように、ゆっくりと、四方に広がっていく。
石が泣かない。
案内役がそう言いました。フィンランドのサウナ通は、水をかけたとき石がジュッと鳴る状態を「石が泣いている」と呼ぶそうです。泣いているということは、石の表面温度が高すぎる。水が触れた瞬間に激しく蒸発して、鋭い蒸気が飛ぶ。あの、肌に突き刺さるようなロウリュは、石が泣いている音なのだと。
石が十分に蓄熱して、芯まで均一に温まっていると、水は石の表面で暴れません。じわりと染み込み、石の内側で蒸気になって、隙間を通り抜けてゆっくり上がってくる。だから、音がしない。だから、肌に優しい。
日本のサウナで「ジュッ」という音は、ロウリュの証拠のように扱われています。その音が気持ちいい、という方もいます。けれどフィンランドの言い方では、あの音は、石がまだ準備できていないサインなのでした。
なるほど、と思いました。石の量と積み方。温度の均一さ。ヒーターの出力と部屋の広さの釣り合い。ここのサウナは、その全部が揃っていたから、石が泣かなかった。帰国したら、ショールームの石の積み方を変えよう。そう決めたのは、この場所でした。
カンカーンのサウナと、音の球体
ユヴァスキュラの市街地に戻って、カンカーンという地区の公共サウナを訪ねました。もともと製紙工場があった再開発地区で、工場の建物がカフェや市民施設に生まれ変わっています。サウナも、その再開発のなかで作られたものでした。
このサウナで体験したのは、「サウンドボール・セッション」と呼ばれるプログラムです。サウナ室のなかで、チベタンボウルのような楽器を鳴らし、蒸気とともに音の振動を浴びる。言葉にするとスピリチュアルな響きがしますが、実際に中に入ると、不思議と落ち着きます。
密閉された空間に音が充満して、蒸気が音を伝えて、全身に振動が届く。目を閉じると、体のどこまでが自分で、どこからが蒸気なのか、境界があいまいになる瞬間がありました。フィンランドの人たちは、こういうことを何百年も前からやっていたのかもしれません。それがいま「ウェルネス」という言葉で再発見されている。
施設としては特別に豪華なものではありません。木の壁、木のベンチ、石を積んだハルビアのヒーター。特別なのは、サウナの「使い方」のほうでした。設備そのものにお金をかけるのではなく、蒸気のなかでどう過ごすかに工夫がある。このバランス感覚が、フィンランドらしいと思いました。
第二章:リトアニア・スモークサウナ
国道を外れて、森のなかへ
フィンランドから南へ。バルト三国のひとつ、リトアニアに渡りました。お目当ては、スモークサウナです。
スモークサウナは、煙突のないサウナです。薪を焚いて、石を焼く。煙は天井と壁のあいだを漂い、小さな換気口からゆっくり抜けていく。石が十分に温まったら火を落として、煙を出してから入る。フィンランドの古いサウナもこの方式ですが、リトアニアでは、今もこれが生きた文化として続いている土地があります。
訪ねたのは、リトアニアの田舎にある個人のサウナでした。案内してくれたのはアリダスという名の男性で、ウィスキング(ヴィヒタで体を叩く施術)の職人です。彼のサウナは、自分で建てた丸太小屋でした。

石を焼く。半日かけて
朝8時から火を入れて、午後2時まで焚き続けます。約6時間。その間、アリダスは薪を足しながら、石の色を見ています。花崗岩を主体にした石が、ゆっくり、赤みを帯びていく。石の全体が同じ色になるまで、火を切りません。

6時間というのは、石を芯まで温めるために必要な時間です。表面だけ熱い石では、水をかけた瞬間に温度が急落します。芯まで均一に蓄熱した石なら、何度ロウリュをかけても温度がほとんど変わらない。フィンランドで聞いた「石が泣かない」の原理と、まったく同じでした。方法は違いますが、たどり着くところは同じです。
火を落としたあと、サウナ室の掃除をします。ベンチとドアを開け放して煙を抜き、壁やベンチについた煤を布で拭く。この作業で30分ほど。ようやく入れる状態になります。
ウィスキング。白樺の束で、叩かれる
スモークサウナに入ると、最初に気づくのは匂いです。煤の匂い、白樺が焼けた匂い、石の匂い。電気ヒーターのサウナにはない、火と木と石の匂いが混ざっている。天井は煤で黒く染まっていて、その黒さに手触りがある。不思議と不快ではありません。燻された木の匂いは、心地よいものでした。

アリダスのウィスキングは、ベンチに横たわった体を、白樺の束で叩く施術です。まず蒸気を持ち上げて体にかぶせ、そのあと白樺で叩いていく。強く叩いているように見えて、受けている側の感覚は「風が来る」のほうに近い。白樺の葉が空気を含んで、パタパタと風を送ってくるような感覚です。
ロウリュをかけるたびに、蒸気がサウナ室の上のほうに溜まります。アリダスはヴィヒタを使って、その蒸気を天井からベンチの高さまで引きずり下ろす。蒸気と風と叩打が重なって、体のどこが温かくてどこが涼しいか、わからなくなる瞬間があります。
20分ほどで外へ出ます。真冬のリトアニアです。外気温は氷点下。庭に小さな池があって、表面が凍っていました。アリダスが斧で氷を割ります。四角く穴が開く。

「入れ」と言われます。入りました。息が止まります。体が引き締まるというよりも、外側の皮膚が一瞬で冷たくなって、内側の芯は熱いまま。二つの温度が同時にある状態は、日本の水風呂とは違う種類の衝撃でした。氷水から上がったあと、外気にあたっているだけで体がじんわり熱を返してくる。サウナ室に戻らなくても、体の中に蓄えられた熱が、あとからあとから出てきます。

半日かけて温めた石の余韻
氷の池から上がって、もう一度サウナに入りました。最初のセットから、かれこれ1時間以上が経っています。ところが石は、まだ温かい。ロウリュをかければ蒸気がちゃんと上がります。石に芯まで蓄えられた熱は、そう簡単には冷めない。半日かけて焚いた理由が、ここで腑に落ちました。
電気ヒーターなら、スイッチを入れてから1時間もあれば入れます。スモークサウナは6時間。その差は、石への蓄熱量の差です。電気ヒーターが劣っているという話ではありません。生活のなかで、どれだけの時間をサウナの準備に使えるか。その答えが違うだけです。日常のサウナとして電気ヒーターは理にかなっている。けれどスモークサウナには、時間をかけた石でなければ到達しない領域がありました。
帰国してから、変えたこと
盛岡に帰って、まずショールームのヒーターの石の積み方を変えました。石と石のあいだに適度な隙間をつくり、空気と蒸気の通り道を確保する。石が均一に温まるように、大きい石を下、小さい石を上に。フィンランドで見たとおりに積み直しました。
ロウリュの音が変わりました。以前は「ジュッ」と鳴っていた場面で、蒸気が静かに上がってくるようになった。体に当たる蒸気が柔らかくなった。これは、石の量を増やしたわけでも、ヒーターを替えたわけでもありません。積み方を変えただけです。
お客様への提案も変わりました。以前は「この機種はこの広さに合います」という出力の話が中心でした。いまは、「この石の量なら、ロウリュはこういう質になります」という話から入ります。石が泣かないロウリュをつくるには、出力だけでなく、石の量と積み方と、温まるまでの時間が要る。そのことを伝えるようにしています。
サウナは設備ではなく、蒸気の質で選ぶ。
フィンランドとリトアニアで見てきたものを一言にまとめれば、これに尽きます。温度計の数字でも、木材の種類でも、照明の色でもない。石がどれだけ熱を蓄えているか。水をかけたとき、蒸気がどう体に届くか。そこが、いいサウナかどうかの分かれ目でした。
盛岡のショールームでは、火の入った実機でロウリュを体感していただけます。石の積み方も、お見せします。言葉で伝えるより、一度浴びてもらうのがいちばん早い。北欧で見つけた「石が泣かない」を、盛岡で再現して、お待ちしています。
岩手・盛岡で自宅サウナの設置をお考えの方は、ハルビア岩手県正規代理店のD'STYLEへ。機種選びから石の積み方まで、ご相談は無料です。
