フィンランド語のアヴァント(avanto)は、凍った湖や海に開けた穴のこと。そして冬のフィンランドでは、この穴は魚釣りのためだけのものではありません。サウナで温まった人たちが、はしごを伝って、この氷の穴に浸かりに行くのです。今日は、フィンランドの冬の国民的習慣アヴァントの話。文化と体の両面から、深く潜ります。
数十万人が続ける、冬の習慣
フィンランドの冬泳人口は、愛好団体の推計でおよそ十数万人から数十万人と言われます。人口約550万人の国でこの数ですから、日本で言えばラジオ体操なみの市民権です。各地の湖畔には冬泳クラブの小屋があり、会費を払えばサウナと管理されたアヴァントが使い放題。仕事帰りのおばあちゃんが、毛糸の帽子だけかぶって静かに浸かり、するりと上がって帰っていく。あの国では、冬泳は挑戦ではなく、日課なのです。歴史も古く、サウナと水浴びの組み合わせは何百年も前の農村の暮らしからの地続き。サウナ研究サイトのサウノロギア(saunologia.fi)も、サウナと冷水はフィンランド文化の中で常にひとそろいだったと繰り返し述べています。
浸かった体で、何が起きているか
氷点近くの水に浸かると、体はまず息をのみます。冷水ショック反応と呼ばれる反射で、呼吸が速くなり、心拍が跳ね上がる。ここで大事なのは、最初の数十秒を、あわてず呼吸を整えてやり過ごすことです。すると体は第二段階に入ります。皮膚の血管がきゅっと締まり、血液が体の中心に集まり、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質がどっと出る。上がった後に来る、あの明るくすっきりした気分の正体は、この化学変化です。オウル大学など北欧の研究チームは、定期的な冬泳を続ける人で緊張や疲労感の改善、気分の向上が見られたことを報告しています(Huttunenらの研究、2004年)。フィンランド人が「冬泳は天然の抗うつ剤」と冗談めかして言うのには、それなりの裏付けがあるわけです。
安全の鉄則は、五つだけ
ただし冷水は、強い刺激です。フィンランドの冬泳クラブが初心者に教える鉄則は、だいたい五つにまとまります。一つ、ひとりで入らない。必ず誰かと。二つ、頭まで潜らない。首から上は出したまま。三つ、時間は数十秒から一分程度で十分。我慢比べをしない。四つ、飲酒しての冷水は絶対に避ける。五つ、心臓や血圧に持病のある人は、始める前にかかりつけ医に相談する。これはラウッカネン博士らの研究チームも論文の注意書きで必ず触れる点です。裏を返せば、この五つさえ守れば、冬泳は何十年も続けられる穏やかな習慣だということを、フィンランドの何十万人が証明しています。
岩手の冬は、アヴァントの適地です
ここまで読んで、お気づきの方もいるはずです。凍る湖、深い雪、キンと冷えた空気。岩手の冬は、フィンランドの冬泳環境にかなり近い。本物の湖に穴を開けるのは管理の問題があるので気軽にはすすめませんが、家庭では立派な代用があります。雪です。サウナで限界まで温まって、庭の新雪にどぼん。雪は水より接触面がやわらかく、実は初心者向きの冷却です。たらいに水を張って一晩外に置けば、キンキンの天然水風呂もできる。フィンランド人がアヴァントで得ているあの明るい気分は、岩手の庭でちゃんと再現できます(冷やしの設計はこちら)。
温める側は、お任せください
アヴァントの気持ちよさは、直前のサウナの深い温まりがあってこそ。冷やす前に、芯まで温める。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターで、雪へ飛び込む勇気が湧くほどの熱をご用意しています。冬が楽しみになるサウナの話、店でどうぞ。



