凍りついた湖の上に、ぽつんと座る人影。足元の小さな穴に釣り糸をたらし、じっと待っている。フィンランドの冬の風物詩、アイスフィッシングです。フィンランド語ではピルッキ(pilkki)と呼ばれ、国民的な冬の楽しみとして親しまれています。今日は、氷の上の静かな時間の話です。
凍った湖が、釣り場になる
フィンランドの冬は長く、湖は分厚い氷に覆われます。この氷が十分に厚くなると、その上を歩き、車を停め、テントを張れるほどになる。人々は専用のドリルで氷に直径十数センチの穴を開け、その穴に短い竿と糸をたらして魚を釣ります。狙うのはパーチ(スズキの仲間)やカワカマスなど。氷の下の暗い水の中から、魚が餌に食いつくのを待つ。夏の釣りとは違う、静けさに満ちた釣りです。自然享受権(こちら)の国では、多くの湖でこの穴釣りが自由に楽しめます。
待つことが、豊かさになる
ピルッキの魅力は、たくさん釣ることではありません。氷の上の、静かな時間そのものです。真っ白な雪原と化した湖、澄みきった冷たい空気、遠くの森。物音ひとつしない世界で、ただ糸の先に集中する。魚が食いつくかどうかは分からない。それでも、待つ時間が心を落ち着かせてくれる。サウナの静けさ(こちら)や、ベリー摘みの無心の時間と、どこか似ています。結果を急がず、その場にいることを楽しむ。フィンランド人が得意とする、時間との付き合い方が、ここにもあります。
小さな竿と、あたりを感じる
ピルッキという言葉は、この釣りそのものだけでなく、氷の穴に落とす小さな仕掛けそのものも指します。手のひらほどの短い竿の先に、色をつけた小さな疑似餌をむすび、糸をわずかに上下させて魚を誘う。氷の下の暗がりから伝わってくる、こつんという小さなあたりを、かじかんだ指先で感じ取る。あたりがあれば、そっと合わせて引き上げる。単純なようでいて、水温や時間帯によって誘い方を変える奥の深さがあります。竿一本と穴一つで、大人も子どもも同じように夢中になれる。ピルッキが世代を越えて愛されてきた理由が、この素朴な仕掛けの中にあります。
サウナとセットの、冬の一日
アイスフィッシングは、しばしばサウナとセットで楽しまれます。氷の上で冷え切った体を、湖畔のサウナで芯まで温める。温まったら、また氷の上へ。あるいは、サウナで温まった勢いで、氷の穴、アヴァント(こちら)に浸かる猛者もいます。釣った魚をその場で焼いて食べれば、これ以上のごちそうはありません。冷やす、温める、待つ、食べる。冬の湖畔で完結する、素朴で満ち足りた一日。フィンランドの冬の楽しみ方の、ひとつの完成形です。
氷の上の、安全の基本
楽しい氷上の釣りにも、守るべき基本があります。いちばんは氷の厚さです。人が乗るには十分な厚さが必要で、薄い氷や、流れのある場所、雪解けの時期は危険です。現地では、氷の状態をよく知る人と一緒に出かけ、単独行動を避けるのが鉄則です。防寒は万全に、滑り止めと、万一にそなえた道具も。安全あってこその楽しみです。日本でも、岩洞湖などでワカサギ釣り(こちら)として同じ氷上の釣りが楽しめますが、こちらも管理された釣り場で、ルールを守って楽しむのが基本です。
静かに待つ楽しみを、火のそばで
氷の上でも、サウナの中でも、フィンランド人は「静かに待つ」ことを楽しみます。この感覚は、火のある暮らしにも通じます。薪が燃えるのを、湯が沸くのを、サウナが温まるのを、静かに待つ。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターで、そんな待つ豊かさのある暮らしをご提案しています。冬の楽しみの話も、店でどうぞ。
写真: Markus Trienke (Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)



