走ったあとの、あの感覚を覚えていますか。息が整い、汗が引き、脚がじんわり熱を持ったまま、椅子に体を沈める。あの余韻に、もうひとつだけ熱を重ねてやる。運動とサウナは、そういう関係だと思っています。どちらが上でも下でもなくて、片方が終わったところから、もう片方が始まる。
アスリートが試合のあとにサウナへ向かうのは、ご褒美である以上に、体を早く元に戻すための、理にかなった一手です。今日は、運動とサウナがどう手を取り合うのか、順にほどいていきます。
運動後のサウナは、回復装置になる
激しく動いた筋肉は、酸素と栄養を欲しがっています。そこへサウナの熱が加わると、血管が大きく開き、血のめぐりが速くなる。温まった血液が、疲れた筋肉へ酸素と栄養をせっせと運び込みます。ストレスホルモンであるコルチゾールや、エネルギー源のグルコースが動き出し、代謝が活発になる。ここで体は、回復に向かって動きはじめます。
ロウリュで立ちのぼる蒸気には、マイナスイオンが多く含まれます。この蒸気を浴びることで、運動でたまった乳酸の血中濃度が下がるという報告もあります。汗と一緒に疲れが抜けていく気がするのは、たぶん、気のせいだけではありません。

筋肉の緊張が、ほどけていく
力を出しきった筋肉は、こわばり、痛みを抱えています。熱で血行がよくなると、たまった老廃物や二酸化炭素が押し流され、張りつめていた筋肉がゆるんでいく。翌朝の重だるさが、少しやわらぐのを感じられます。
この温熱の力は、関節炎やリウマチ、あるいは軟部組織の痛みをやわらげることにも役立つと考えられています。運動する人に限らず、体のあちこちに小さな痛みを抱える方にとっても、熱は頼りになります。ただし炎症が強い日は無理をせず、体調と相談しながら入ってください。
持久力を、静かに底上げする
意外に聞こえますが、じっと座っているサウナの中で、心臓はしっかり働いています。熱にさらされた体の心拍数は、毎分100から180あたりまで上がる。これは速歩や縄跳びといった軽い運動に匹敵する負荷です。定期的にサウナに通うことは、心肺をおだやかに鍛え、持久力を育てることにつながると考えられています。
もちろん、汗として失われる水分は相当な量になります。心臓を働かせているぶん、水分補給は絶対に欠かせません。入る前と、出たあと。喉が渇く前に、こまめに飲んでください。ミネラルも一緒に補えると、なおいい。

暑さに慣れると、パフォーマンスが上がる
体を繰り返し熱にさらすと、暑さそのものへの耐性が育ちます。これを暑熱順化と呼びます。汗をかく仕組みが整い、体温を上手にさばけるようになる。熱帯での試合や遠征を控えたアスリートが、出発前の一週間ほどサウナで体を暑さに慣らしておく。そういう準備の使い方が、実際に行われています。暑い環境で力を出しきりたいなら、サウナで前もって暑さに慣れておく、という手が使えます。
呼吸も、深くなる
熱にゆだねられた体は、呼吸がゆっくりと深くなります。肺いっぱいに空気を取り込み、静かに吐く。この深く穏やかな呼吸を繰り返すことが、肺の容量や呼吸の働きにいい影響をもたらすと考えられています。ただし前提がひとつ。空気のこもったサウナではなく、換気のよい、新鮮な空気の流れるサウナであること。息を大きく吸いたくなる環境こそが、この効果を支えます。
減量にも、遠回りに効く
サウナに入っただけで脂肪が燃えるわけではありません。けれど、心拍が上がり代謝が動き、食欲や眠りが整うことで、運動と食事の努力を後押しする。じかにではなく、まわり道で効いてくる感じです。減量を目指す人にとって、サウナは主役にはなれません。でも、なかなかいい脇役です。
トレーニングの「前」より「後」
サウナは、運動の前ではなく、後に入ってください。ここだけは、けっこう大事です。トレーニング前に熱で体をゆるめてしまうと、中枢神経に負担がかかり、肝心の場面で力が出にくくなります。ほぐれすぎた体は、踏ん張れません。汗をかくのは、動いたあと。順番を、まちがえないように。
上手に続けるための、いくつかのこと
週に2〜3回を目安に。毎日でなくていい。続けられる頻度が、いちばん効きます。入るのは運動のあとに。この順番だけは変えないでください。水分とミネラルをしっかり。失った量を、意識して取り戻す。温度は100℃以下を。高すぎない熱のほうが、運動で疲れた体にはやさしく届きます。新鮮な空気の中で。換気のよいサウナを選ぶことが、呼吸にも回復にも効いてきます。
いちばん効くのは、たぶん、肩の力が抜けること。
日々のストレスから、少し離れられること。
数字や記録の話をしてきましたが、正直なところ、運動後のサウナがくれるいちばんの贈り物は、リラックスです。走り終えた体を熱にあずけ、頭を空っぽにする時間。頻繁にサウナへ通う人ほど、日々をいきいきと過ごしているように見えます。回復というのは、体だけの話ではないのかもしれません。
最後に、私自身の話を
偉そうに書いてきましたが、私自身、サウナには毎日入っています。正直に言うと、入らない時期は血圧が高めなのですが、入り続けていると、まあ落ち着いている。眠りも深いし、朝の目覚めもいい。だから、やめられません。もちろん、これは私個人の実感です。血圧や心臓に不安のある方は、まず主治医に相談してください。急な温冷の繰り返しは、体に負担になることもありますから。
それと、体を動かす人なら分かってもらえると思うのですが——トレーニングのあとに来る、あのランニングハイのような感覚。息が整って、頭がすっと軽くなる、あの気持ちよさ。よく似たものが、サウナに入ると訪れます。あの感じは、たぶん、体験した人でないと伝わらない。
それが、走らなくても、日常の中で、ただサウナに入るだけで味わえるとしたら。私は、けっこう素敵なことだと思うんです。自分の体をいたわりながら、気持ちよく、健康でいる。その手段のひとつとして、サウナは、悪くないですよ。
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出典:Ille Hõbepappel、Ants Nellis『Suur saunaraamat(大きなサウナの本)』。運動とサウナの関係について、上記の記述を参考にしています。



