フィンランドの古い言い伝えに、こんな話があります。サウナには、トントゥという小さな妖精が住んでいる。サウナトントゥは、そのサウナの主のような存在で、家の人たちがサウナを大切に使っているかどうかを、いつも小屋のすみから見守っている、というのです。今日は、サウナの本場に伝わる、やさしい民話の話をさせてください。
妖精は、行いを見ている
トントゥという言葉は、もともとスウェーデン語のトムテ、家や屋敷を守る精霊から来ていると言われます。北欧の古い世界観では、家や納屋、井戸や森に、それぞれハルティアと呼ばれる守り神が宿っていて、サウナにもその一柱がいる。それがサウナトントゥです。ふだんは姿を見せませんが、家の人がサウナを清潔に保ち、静かに行儀よく使っていると、機嫌よく家とサウナを守ってくれる。反対に、騒いだり汚したり乱暴に扱ったりすると、へそを曲げていたずらをしたり、家を出ていってしまう。フィンランドの子どもたちは、この話を通じて、サウナが特別な場所であることを、自然と覚えていくのだそうです。
サウナは、教会のように
フィンランドには「サウナでは、教会にいるようにふるまいなさい」という古いことわざがあります。それほどにサウナは神聖な建物でした。かつて多くの家庭では、子どもはサウナで生まれ、病人はここで手当てを受け、家でいちばん清潔で暖かいこの一室が、暮らしの節目に静かに立ち会ってきたのです。トントゥの物語は、そんなサウナへの畏敬を、子どもにも伝わる可愛らしい姿に置き換えたものだと言えます。妖精を思いやることは、そのまま、場所を敬うことでした。
最後のロウリュは、トントゥに
いちばん好きな風習が、これです。サウナを上がるとき、最後にもう一杯だけ、石に水をかけていく。それは自分のためではなく、あとから入るサウナトントゥのためのロウリュ。一日の終わり、無人になった小屋で、妖精がゆっくり蒸気を浴びている。そんな情景を思い浮かべながら、ひしゃくの水を残していくのです。クリスマスには、家族が入り終えたサウナを暖かいまま残し、トントゥのために夜を空けておく地方もあったと伝わります。道具への感謝を、こんなに愛らしい形にした文化を、私はほかにあまり知りません。
物語は、暮らしの知恵
もちろん、これはおとぎ話です。でも、よくできたおとぎ話は、暮らしの知恵の器でもあります。サウナを清潔に保つこと。静かに使うこと。使い終わったら、きちんと乾かして、次に備えること。トントゥの機嫌を損ねないための作法は、そのまま、サウナを長持ちさせ、心地よく保つための手入れの基本と重なっています。妖精を大事にする家のサウナは、実際にカビも傷みも少なく、木の香りも長く続きます。物語の力で道具を守り、次の世代へ渡していく。昔の人は、賢かったのです。(サウナのお手入れの話は、掃除の現場の話もどうぞ。)
あなたのサウナにも、一杯を
自宅サウナを持ったら、ぜひこの風習も一緒に持ち帰ってください。上がりぎわの、トントゥへの一杯。それは迷信というより、今日も気持ちよく汗をかかせてくれた小屋への、小さなお礼です。その一杯を続ける人のサウナは、きっと長く、いい状態で保たれます。子どもと「妖精さんの分ね」と声をかけて水をかければ、それは家族の小さな儀式にもなります。(ロウリュの話はこちら、サウナの言葉たちはこちら。)
妖精の住みたくなるサウナを
岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビア岩手県正規代理店として、トントゥが住みつきたくなるような、木の香りのいいサウナの設置をお手伝いしています。長く大切に使えるサウナ選びと、手入れの作法まで、まるごとご相談ください。あなたの家の小さな住人に、今夜も一杯、残してあげてください。
写真: Ximonic (Simo Räsänen) (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



