ヘルシンキ観光の定番といえば大聖堂にマーケット広場ですが、サウナ好きの旅程は少し違います。この街は、公衆サウナで巡るのがいちばん面白い。かつて数百軒あった公衆サウナは家庭サウナの普及で一度ほとんど姿を消し、いま新しい波で復活しています。今日は、その代表格を巡る話です。
コティハルユ、1928年から続く下町の熱
まずは老舗から。カッリオ地区のコティハルユサウナは、1928年創業、ヘルシンキで営業を続ける最古参の薪サウナです。薪で熱する大きなストーブ、飴色の階段ベンチ、そして名物は、サウナの合間にバスタオル一枚で店の前の歩道に涼みに出る常連たちの姿。気取りのかけらもない、暮らしの中のサウナの原風景です。ここでは、昔ながらのアカスリや整体のサービスを受けることもできます。地元の人に混ざって静かに座れば、言葉が分からなくても、熱の共通語で会話ができます(静けさの話)。
ロウリュ、海に開いたサウナの新星
対極の新星が、海辺の再開発地区に2016年に生まれたロウリュ(Löyly)。木の板をまとった彫刻のような建物に、スモークサウナを含む複数のサウナ、そして目の前はバルト海。夏は桟橋から海へ、冬は氷の穴へ、そのまま飛び込めます。サウナとレストランが一体で、水着で入る男女混合スタイル。サウナ初心者の同行者や家族連れでも入りやすく、フィンランドの「サウナは社交場」という顔を、いちばん現代的な形で体験できます。市民の寄付と手仕事で建てられたクルットゥーリサウナ(文化サウナ)のような、静寂重視の小さな名店もあり、気分で選べるのが今のヘルシンキです。
ソンパサウナ、みんなで守る無料サウナ
忘れてはいけないのが、ソンパサウナ。港の埋立地に、有志のボランティアが手作りで建て、みんなで維持している、誰でも無料で入れる公衆サウナです。決まった管理人はおらず、来た人が自分で薪をくべ、水を汲み、掃除をして帰る。水着を着て、見知らぬ者どうしが石に水を打ち、そのまま海に飛び込む。フィンランドのサウナが本来もっていた「みんなのもの」という精神が、いちばん剥き出しの形で残っている場所です。旅人にも国境はなく、来れば笑顔で場所を空けてくれます。
サウナは、世界遺産になった
2020年、フィンランドのサウナ文化は、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。立派な建物ではなく、蒸気で身を清め、静かに語らい、心身を整えるという「暮らしの営み」そのものが、人類の宝と認められたのです。ヘルシンキの公衆サウナを巡ることは、その生きた世界遺産を、体で味わうことにほかなりません。観光名所を写真に収めるのとは違い、その土地の呼吸に、じかに混ぜてもらう旅。サウナ好きの旅程が特別に面白いのは、そういうわけです。
巡り方の、小さなコツ
公衆サウナ巡りの実務も少し。タオルと水着を持参し、混雑する夕方より昼過ぎが狙い目。ロウリュの回し方は常連の様子に合わせ、迷ったら、ひと声かけてから石に水を打つのが作法です。サウナ後はどの店にも軽食と飲み物があるので、急がず一杯やりながら余韻を(フィンランド旅のコツはこちら)。一日二軒までにしておくと、体も記憶もちょうど良く仕上がります。
旅の熱を、持ち帰るなら
ヘルシンキのサウナから帰ると、皆さん同じことをおっしゃいます。「あの熱を、家にも欲しい」。岩手・盛岡のD'STYLEは、フィンランド研修で本場の熱を浴びてきた店として、ハルビアのサウナヒーターであの気持ちよさの再現をお手伝いしています。旅の計画のご相談も、帰ってからの土産話も、ぜひ店へ。
写真: Henri Bergius from Finland (Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)



