サウナは、扉を閉めた瞬間からが後半戦です。熱くなった体を、外の空気や水で冷やす。雪に飛び込む人もいます。この「冷やし」まででサウナはひと通り。熱いだけで終わってしまうのは、正直もったいない。
私は氷点下17℃のフィンランドで、凍った海や湖の氷に開けた穴に何度も入ってきました。現地で「アヴァント(avanto)」と呼ばれる冬の入浴法です。最初の一歩は誰でも怖い。それでも水から上がった瞬間、体の内側から湧き上がる熱と、頭の芯まで冴えわたる感覚は、一度知ると忘れられません。その旅の記録はフィンランド・サウナ紀行に書きました。
冷やし方には、いくつもの流儀があります。覚えると、サウナは倍おもしろくなります。今日は代表的な7つの方法を、やさしい順に紹介します。
なぜ冷やすと、ととのうのか
仕組みは単純です。サウナの熱で血管が開き、皮膚の血流が増える。そこへ冷気や冷水を当てると、血管が一気に締まる。この「開く・締まる」の交互刺激が血行を促し、深い回復感につながると考えられています。冷刺激のあとに、多幸感をもたらすエンドルフィンが分泌されるという報告もあります。「ととのう」と呼ばれるあの感覚は、たぶんこの熱と冷の往復から来ています。
これは、昔からの知恵です。17世紀にエストニアを旅した記録者アダム・オレアリウスは、こう書き残しています。「人々は真っ赤な顔でサウナを飛び出し、雪で体をこすり、また戻っていく。それでいて何の害もない」。300年以上前から、北の国の人々は熱と冷のあいだを行き来してきました。

体を冷やす、7つの方法
1. 外気浴:もっともやさしい入口
サウナから出て、外の空気の中でただ座る。それだけです。風が皮膚の熱を少しずつさらい、呼吸が深くなっていきます。体への負荷が小さく、心臓にもやさしい方法です。初めての方は、必ずここから始めてください。冬の岩手なら、外気そのものが天然のクールダウン装置になります。
向いている人:初心者、水風呂が苦手な方、ゆっくり長く楽しみたい方。

2. 冷水をかぶる
桶に汲んだ冷水を、頭や肩から一気にかぶります。全身で浸かるより短時間で、素早く強い爽快感が得られます。かぶった瞬間は息が止まりそうになりますが、その直後に来る解放感で目が覚めます。
向いている人:短時間で切り替えたい方、水風呂の設備がない場所で入る方。

3. 湖や海で泳ぐ
フィンランドの流儀です。サウナ小屋のすぐ外に湖があり、火照った体のまま歩いて入る。全身が水に包まれて均一に冷え、外気浴とも冷水かぶりとも違う、静かな冷たさがあります。湖と海と川に恵まれた岩手は、この流儀を実践できる適地です。
向いている人:自然の中でサウナを楽しみたい方、水泳に慣れた中級者以上。

4. 雪にダイブ
雪国の特権です。サウナから出て、柔らかい新雪に体を預ける。数秒で十分です。雪で体を軽くこする方法も、オレアリウスが記した時代から続いています。ひとつだけ注意があります。凍って固くなった雪は肌を傷めるので禁物です。ふかふかの雪を選んでください。
向いている人:岩手・東北の冬を楽しみ尽くしたい方。

5. アヴァント(avanto):氷の穴に入る
冷やしの最高峰。というより、ここから先は別世界です。凍った湖や海の氷に穴を開けて、そこへ入る。私は氷点下17℃のフィンランドで、何度も入りました。マイナス18℃のリトアニアでは、サウナを出るたびに水面が凍り直すので、氷を割りながら入りました。水に触れた瞬間、全身に針。息が一瞬止まって、頭の中の雑音が全部消える。そして上がった瞬間です。体の内側から熱が噴き上がって、湯気をまとった体で見る世界が、やけに鮮やかになる。あれを一度知ってしまうと、もう戻れません。
負荷は7つの中で最大です。心臓に不安のある方はやめておく。入るなら、はしごのある場所で、仲間と。あとは自分の体と相談して、自分の責任で決めることです。やる方は、やる。その先にしかない景色が、確かにあります。
向いている人:サウナの、その先が見たい方。
6. 濡れタオル・部分冷却
冷水で濡らしたタオルを、首や手首に当てます。太い血管が通る場所を冷やすだけで、体感は大きく変わります。全身を冷やさずに済むため、夏のサウナや、強い冷刺激を避けたいときに向きます。
向いている人:夏場のサウナ、体力に自信のない方、強い冷刺激を控えたい方。
7. 冷水シャワー
家庭の定番です。ぬるめの温度から始めて、少しずつ冷たくしていく。特別な設備がいらず、毎日続けやすい。自宅サウナと組み合わせれば、平日の夜でも熱と冷の往復が完結します。
向いている人:自宅サウナ派、これから冷やしを習慣にしたい方。
安全に始める
冷やしは気持ちいい。気持ちいいからこそ、守ってほしいことがいくつかあります。
小さく始めてください。最初は5〜15秒で十分です。物足りないくらいでやめるのが正解です。震えたらやめてください。震えは体からの撤退信号です。我慢は上達ではありません。熱→冷→休のリズムを守ってください。冷やしたあとの休息は、熱や冷と同格の工程です。椅子に座り、呼吸が落ち着くまで待つ。この時間を削ると、ととのいは来ません。持病のある方は、医師に相談してください。心臓や血圧に不安のある方は、始める前に必ず確認を。
熱いのも、もちろん気持ちいい。
でも体がいちばん目を覚ますのは、冷やした瞬間だと思うんです。
岩手の冬を思い浮かべてください。ふかふかの雪。澄んだ外気。冬になれば湖も凍ります。フィンランドで私が味わってきた天然のクールダウンが、この土地にはもともと揃っているんです。サウナをつくるのに、これ以上の場所を私は知りません。
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