火のある部屋と聞いて、壁に口をあけた暖炉を思いうかべる方は多いと思います。炎がまっすぐ見え、薪のはぜる音が部屋に響く暖炉は、西洋の家の象徴として物語や映画にもくり返し描かれてきました。一方、鋳物や鋼板の箱に炎を収めた薪ストーブは、同じように木を燃やしながら、暖まり方も設置の考え方も大きく異なります。
違いを生んでいるのは、火の囲い方です。炎の前を開けておくか、扉で閉じるか。床に据えるか、壁の中に組み込むか。この読みものでは、開いた火が部屋を暖めにくい理由、炉の形を改めた人物の工夫、扉を閉じたときに燃え方がどう変わるかを順にたどり、岩手の家にどの火を置くかを考える手がかりをお伝えします。

「暖炉」という言葉が指すもの
日本語の「暖炉」は、実際にはいくつかの異なる設備をまとめて呼んでいます。ひとつは、れんがや石を現場で積み上げ、建物と一体につくる昔ながらの暖炉です。炉の前面が大きく開いていて、炎と部屋のあいだをさえぎるものがありません。
もうひとつは、工場でつくった金属の炉を壁の中に納める暖炉です。米国環境保護庁(EPA)の資料では、こうした工場生産の暖炉にはガラス扉やルーバーを備え、燃焼に使う空気の量を抑える工夫が多く見られると説明されています。さらに、扉を閉じて燃やす前提で設計された組み込み型もあり、こちらは燃え方の点で薪ストーブにかなり近くなります。
これに対して薪ストーブは、床に据える独立した機器です。本体のまわりに必要な距離をとり、炉台と煙突を整えれば、間取りが決まった家にも後から入れられます。当社の暖炉のページでも、壁に組み込む暖炉と床に据える薪ストーブを別の設備として分けてご紹介しています。つまり両者を見分ける軸は二つあり、火を開けておくか閉じるか、そして壁に組み込むか床に置くかです。
開いた火が、部屋を暖めにくい理由
開放型の暖炉の前に立つと、顔や手には強い熱を感じます。ところが少し離れると、部屋全体はそれほど暖まっていないことに気づきます。この現象には、はっきりした理由があります。
EPAの排出係数資料は、石積みの暖炉は主に放射で部屋を暖め、燃焼で生じた熱のかなりの部分が排気と炉の壁から失われると述べています。さらに、煙突へ吸い上げられた空気を補うために外の冷たい空気が家の中へ入り、放射熱の一部はその空気を温めることに使われてしまいます。資料は、燃え方が悪いときや外気が冷たいとき、火がくすぶっているときには、暖炉を使うことで家全体としてはかえって熱を失う場合があるとまで書いています。
開いた火は、必要以上の空気を大量に取り込みます。空気が多すぎると炉の温度が上がりきらず、燃え残りが煙として出ていきます。同じ資料によれば、木材は乾燥重量のおよそ80パーセントが揮発分、つまり熱で分解されてガスとなって出ていく成分です。開放型の暖炉には、このガスをもう一度燃やすしくみがないため、薪が持つ熱の多くを使わないまま煙突から逃がしてしまいます。
煙の問題は、都市の歴史も動かしてきました。英国では1952年12月にロンドンで深刻なスモッグが発生し、1956年に大気浄化法が制定されました。この法律によって、指定された煙規制地域では煙を出さない燃料しか燃やせなくなり、家庭の暖房は電気やガスへと移っていきました。
炉の形を見直した、ラムフォードの工夫
開いた火をどうすれば暖房として生かせるか。この問いに18世紀の終わりに取り組んだのが、熱の研究で知られる物理学者ベンジャミン・トンプソン、のちのラムフォード伯です。1794年にロンドンの邸宅の改修で、煙が部屋に流れ込む暖炉に関心を持ったことをきっかけに、1795年の終わりごろ最初の改良暖炉を実際に設け、1796年と1798年にその設計を論文にまとめました。
ラムフォードは、炉を浅く小さくし、左右の側壁を大きく開いた角度で立てました。斜めの側壁が炎の熱を部屋の側へ反射するためです。また、炉の上部から煙突へ向かう喉の部分を丸めて煙の流れを整え、煙突の中に棚状の段を設けて、部屋の暖かい空気が無駄に吸い出されにくいようにしました。この形は「ラムフォード暖炉」と呼ばれ、いまも石積みの暖炉を設計するときの基本として参照されています。
ただし、どれほど形を工夫しても、前面を開けたままでは空気の量を細かく調整することはできません。火を囲い込み、空気の入り口を人の手で制御する方向へ進んだのが、鋳鉄のストーブです。その歩みは「火の10万年」でたどっていますので、あわせてお読みください。
扉を閉じると、燃え方が変わる
薪ストーブの扉を閉じると、燃焼に使われる空気は決められた入り口からだけ入るようになります。空気の量を絞れば炎は落ち着き、薪はゆっくり燃えます。開けば勢いが戻ります。開いた火では難しかった火力の調整が、レバーひとつでできるようになります。
閉じた炉の中は温度が高く保たれるため、薪から出たガスに予熱した空気を当てて、もう一度燃やすことができます。これが二次燃焼です。揮発分を燃やし切るほど、同じ薪から取り出せる熱は増え、煙突から出る煙は減ります。多くの自治体が薪ストーブの補助金で二次燃焼機能を条件にしているのも、このためです。
熱の伝わり方も変わります。炎の熱はまず鋳物や鋼板の本体にたまり、本体の表面から放射として部屋に広がります。同時に、本体のまわりで温められた空気が上昇し、部屋の中をゆっくり巡ります。目の前だけが熱く、背中が寒いという開いた火の弱点は、こうして和らぎます。
扉の正面に大きな耐熱ガラスを備える機種が多いのは、閉じた火でも炎を眺めていたいという願いに応えるためです。ガラスの内側に沿って空気を流し、すすが付きにくいように工夫された機種もあります。部屋の明かりを落とし、ガラスの向こうでゆらぐ炎を見つめる時間は、暖炉が受けつがれてきた理由そのものと言えます。
壁に組み込む暖炉という、もうひとつの道
扉を閉じて燃やす火を、床に据えずに壁の中へ納める方法もあります。チェコのホクスターは、壁に組み込む暖炉を専門につくるメーカーで、フロント、トンネル、コーナー、3面ガラスと、33機種をそろえています。出力は機種により5.9〜16kWです。炎の見せ方を建物の意匠に合わせて選べるのが、組み込み型の大きな魅力です。
アメリカのマジェスティックが手がけるSA36CとSA36Rは、工場でつくられた炉を壁の木枠に納める薪暖炉です。末尾のCは熱循環式で、室内の空気を本体の内部で温めてから送り出します。Rは放射式で、炎からの放射で暖めます。ガラスドアは別売りで、開口部を開けて炎を楽しむこともできます。詳しくはマジェスティックのページにまとめています。
組み込み型の暖炉は建物の一部になるため、炉台の構造、煙突の抜き位置、壁の不燃化を、基本設計の段階で決めておく必要があります。間取りが固まってから相談すると、選べる形が限られます。新築や大きな改装の計画があるときは、早めにご相談いただくのが確実です。
岩手の家に、どの火を置くか
暖房として火にどれだけの役割を求めるかは、土地の寒さで変わります。気象庁の平年値(1991〜2020年)で、盛岡の1月の平均気温は氷点下1.6度、日最低気温の平均は氷点下5.2度です。家庭用エアコンの省エネ性能を計算する日本産業規格(JIS C 9612)も、暖房期間を11月8日から4月16日までと定めており、一年のほぼ半分にあたります。これだけ長く寒い季節を過ごすには、火力を調整でき、薪の熱を部屋に生かせる閉じた火が頼りになります。
近年の住宅は気密が高く、開いた火を焚くと燃焼に必要な空気が足りなくなるおそれもあります。閉じた火であっても、給気の取り方と煙突の計画は欠かせません。住まいの性能に合わせて火を選ぶことが、快適さと安全の両方につながります。
既存の家に後から火を迎えるなら、床に据える薪ストーブが現実的です。新築で壁に炎を組み込みたいなら、組み込み型の暖炉が候補に入ります。炎を眺める楽しみを何より大切にするのか、冬じゅう家を暖める力を求めるのか。火に何を望むかを家族で話し合うことが、選択の出発点になります。盛岡のショールームでは、薪ストーブと、壁に組み込むホクスターの両方に火を入れてご覧いただけます。熱の届き方の違いを、ぜひ肌で確かめてください。
写真: Ildar Sagdejev (Specious) (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)
参考:暖炉の熱損失と木材の揮発分は、米国環境保護庁 AP-42「1.9 Residential Fireplaces」(英語)による。ラムフォード暖炉は百科事典の解説(英語)、英国の大気浄化法は同(英語)による。盛岡の気温は気象庁の平年値(1991〜2020年)、暖房期間はJIS C 9612:2013による。ホクスターとマジェスティックの仕様は当社の各ページによる。



