サウナの扉を閉めると、外の世界がすっと遠ざかります。木の香り、石のはぜる音、じんわり満ちていく熱。ただ座っているだけの、静かな時間。けれど、あなたの体の中では、驚くほど忙しい出来事が起きています。
70℃から100℃という温度は、自然界のどこにも存在しません。真夏の砂浜でも、たき火のそばでも、全身がここまでの熱に包まれることはない。だから体は、少し戸惑います。そして、けなげに働きはじめる。その、サウナのなかで起きていることを、今日は書いてみます。
体は「危険」と感じて、身を守る
高温に包まれた瞬間、体は本能のスイッチを入れます。太古から備わった「闘争・逃走反応」。敵に出会ったときや、崖から飛びのくときに働く、あの緊急モードです。心臓が速くなり、呼吸が深くなる。感覚も妙にはっきりしてくる。体は熱を「乗り越えるべきもの」と受けとめて、守りに入るわけです。
ただ、この緊張はずっとは続きません。張りつめた糸がふっとほどけるように、体はリラックスのほうへ傾いていきます。サウナ上がりのあの心地よさは、たぶん、いちど身構えた体がようやく力を抜けたところなんだと思います。
心臓は、座ったままのアスリート
サウナの中では、心拍数が一分間に120から150ほどまで上がります。これは、軽いジョギングをしているときとほぼ同じ。あなたは木のベンチにじっと座っているだけなのに、心臓は運動しているのと変わらない仕事をこなしています。
熱で広がった血管へ、たっぷりの血を送り出し、全身をめぐらせて、皮膚の表面から熱を逃がす。動かずして走る、座ったままのアスリート。心臓は、そんな健気な働きを黙々と続けています。だからこそ、心臓や血圧に不安のある方は無理をせず、体調と相談しながら、短めの時間から始めてください。
汗は、あとからやってくる
サウナに入ってすぐは、じつはたいして汗をかきません。まず温まるのは皮膚の表面で、皮膚温はやがて41℃あたりまで上がります。汗が本格的に出はじめるのは、そのあと。体の芯、つまり深部体温がじわりと上がってからなんです。
そこからが本番です。一時間ほどのサウナで、最大1.5リットルもの汗が流れることがあると報告されています。ペットボトル一本分に近い量です。だから、サウナの前後の水分補給は欠かせません。喉が渇く前に、こまめに飲む。これだけで、汗のかき方はずいぶん変わります。

脳は、むずかしいことをお休みする
熱に対応するあいだ、脳は体温の調整に全力を注ぎます。そのぶん、複雑な考えごとは、少し苦手になります。
試しに、サウナの中で頭のなかに鏡を思い浮かべて、そこへ自分の名前を書いてみてください。いつもなら簡単なことが、なぜだか、するりとまとまらない。難しい計算も、悩みごとの整理も、サウナの中ではうまくいかない。でも、それでいいんです。頭のなかが静かになる。考えごとから、少し離れられる。それはそれで、悪くない時間です。
おなかが、すかなくなる
高い温度に置かれると、体のなかでレプチンというホルモンが働きはじめます。食欲にブレーキをかける役目を持つホルモンです。サウナのあと、不思議とがつがつ食べたくならない。あの感覚には、こうした体の仕組みがそっと関わっていると考えられています。ゆっくり水を飲んで、体を落ち着かせてあげてください。
血が、指の先まで届く
サウナの大きな贈りものは、血管が大きく広がること。ふだんは縮こまりがちな手足の先の細い血管にまで、あたたかい血がすみずみと巡っていきます。
流れる血は、体のあちこちにたまった疲れの元、老廃物を拾い集めて運び去ってくれます。冷えていた指先が、じんわりあたたかくなる。肩の奥のこわばりが、いつのまにかゆるんでいる。血という運び屋が、体じゅうを掃除して回っているんです。回復というのは、たぶん、こういう静かな巡りのなかで少しずつ進んでいくものなのでしょう。
眠りが、深くなる
夜、寝る前のサウナには、うれしいおまけがついてきます。
サウナで一度ぐっと上がった体温は、外に出るとゆっくり下がっていきます。人は、体温が下がっていくときに眠気を感じる生きもの。だから、この体温の落差が、すーっとした入眠を助けてくれます。眠りにつくのが速くなり、そして深くなる。寝つきに悩む夜には、サウナがやさしい味方になってくれます。朝と夜、どちらのサウナが自分に合うのかは朝サウナか、夜サウナかの読みものにまとめました。

熱は、ウイルスにも厳しい
高い温度は、多くのウイルスにとって、居心地の悪い環境だと報告されています。サウナに入れば風邪が治る、という話ではありません。けれど、体をあたため、巡りを良くし、しっかり休むことは、体が本来もっている力をそっと後押ししてくれます。無理のない範囲で、体調のいい日に。それが、サウナと上手に付き合ういちばんの近道です。熱でつらいときや、体調のすぐれない日は、思い切って休むことも大切な選択です。
熱に身をまかせているだけ。
そのつもりでも、体はちっとも休んでいません。
こうして並べてみると、ただ座っているだけに見えて、体のなかはなかなかの働きぶりです。心臓は走り、血は巡り、汗が流れ、そのあいだ脳はぼんやり休んでいる。サウナを出たあとのあの深いここちよさは、それだけ働いた体が、ようやくひと息ついた、そのしるしです。
次にサウナへ入るときは、この体の物語を、少しだけ思い出してみてください。自分の体が、こんなにも一生懸命であることに、きっと愛おしさがわいてきます。自宅にサウナを、と考え始めた方はサウナの設計・施工のページをご覧ください。盛岡・国道4号線沿いのショールームでは、薪サウナストーブの実物とともに、体にやさしいサウナの楽しみ方をご案内しています。ご相談は無料です。
参考文献:Hõbepappel & Nellis『Suur saunaraamat(大サウナの本)』



