冬になると、風邪の話が増えます。マスクにうがい、こまめな手洗い。外から来る敵には、みんなちゃんと備えます。でも、体そのものが持っている「最初の壁」のことは、あまり語られません。その壁は、鼻の奥にあります。
今日は、少し体の内側の話をします。サウナが、ウイルスに対してどんな味方になってくれるのか。先に言っておくと、これは予防の話で、治療の話ではありません。それでも知っておくと、冬のサウナがちょっと違って見えてくる。まあ、そういう話です。
鼻の奥の、透明な守り手
私たちの鼻や喉の内側は、うすい粘液の層でおおわれています。ねばりのある、透明な膜です。空気と一緒に入ってきたウイルスは、まずこの膜に捕まります。膜の下では、無数の細かい毛が波のように動き、捕まえたウイルスを喉の奥へ、外へと押し流していきます。これが、体がいちばん最初に張る防御線だと考えられています。
ここで大事なのが、湿り気です。粘液は、うるおっていてこそ働きます。乾けば、ねばりが失われ、毛の動きも鈍る。ウイルスは、乾いた膜の上をやすやすとすり抜けていきます。相対湿度が20%を下回るような乾いた空気では、この防御が弱まりやすいと報告されています。冬に風邪が流行るのは、寒さそのものより、空気の乾きが理由のひとつだと示唆されています。

ロウリュが、うるおいを連れてくる
ここでサウナの出番です。じつはサウナ室の空気って、意外と乾いています。何もしなければ湿度は10〜20%ほど。冬の乾いた部屋と、そう変わりません。ただ、サウナにはひと手間ある。熱した石に、水をかける。ロウリュです。
柄杓の水が石に触れた瞬間、水はいっせいに蒸気へと変わり、部屋の湿度は一気に跳ね上がります。かけ方によっては、室内の湿度が80%近くまで上がることもあります。乾ききっていた粘膜が、あたたかい湿気を吸って、また息を吹き返す。うるおいを取り戻した粘液の層は、ウイルスを捕まえる本来の力を取り戻しやすくなると考えられています。
フィンランドの人たちが何百年も石に水をかけ続けてきたのも、たぶん気持ちよさだけじゃない。乾いた冬の国で、体の内側にまでうるおいを届ける。そういう知恵も、あの一杯の水には混ざっているんだと思います。

熱にも、意味がある
熱そのものにも、ウイルスに対する意味があります。多くのウイルスは、高い温度が苦手です。たとえば、いわゆる風邪の原因になるライノウイルスは、33℃以下の少し低い環境でよく増えるとされ、鼻の奥という体のなかでも温度の低い場所が、その温床になりやすいと考えられています。逆に、45℃で20分ほど置くと、増える力が大きく落ちるという報告もあります。
新型コロナウイルスをめぐる研究でも、似た傾向が示されています。55〜65℃で15〜30分、あるいは80℃なら1分ほどで、ウイルスを包む脂の膜(エンベロープ)が壊れ、感染する力を失うという報告があります。熱は、ウイルスにとって手ごわい相手です。
ただし、単純ではありません
と、いい話ばかり並べてきましたが、ここは正直に書きます。「じゃあサウナに入ればウイルスは死ぬのか」と聞かれると、そう単純でもないんです。
サウナ室が120℃でも、私たちの体温は数度しか上がりません。皮膚の表面は熱くても、体の芯まで熱くなるわけではないからです。そして何より、いちど体の細胞のなかに入り込んだウイルスには、外からの熱は届きません。サウナは、体内のウイルスを焼き払う装置ではないのです。
効くとすれば「入る前」です。粘膜をうるおして、守りを整えておく。上気道にただよう、まだ細胞に入っていないウイルスに、乾きと低温という逃げ場を与えない。免疫の働きを、そっと後押しする。だからサウナは予防の味方であって、風邪を治す薬ではありません。ここだけは、取り違えないでほしいんです。
サウナは、ウイルスを焼く炎じゃない。
体がもともと持っている守りに、うるおいと熱をちょっと足してやる。それくらいの味方です。
だからこそ、体調が悪い日は休む
最後に、これがいちばん言いたいことなんですが。すでに具合が悪いとき、熱っぽいときは、サウナは避けてください。
弱った体は、急な温度変化に耐える力が落ちています。熱いのと冷たいのの往復は、元気なときには心地よい刺激でも、体が戦っている最中はただの負担です。予防にいいからと、ひきはじめに無理をして入る。これはいちばんやってはいけない入り方だと思います。サウナが力を貸してくれるのは、元気な日の、備えの時間だけです。
岩手の冬は、長くて乾きます。だからこそ、うるおいと熱をたっぷり連れてくるサウナは、この土地の暮らしによく似合います。石に水をかけて立ちのぼる蒸気を、ただ気持ちいいだけのものにしておくのは、少しもったいない。体の奥の透明な守り手のことを思いながら入ると、いつものロウリュが、また少し愛おしくなります。
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※本記事は健康法としてのサウナの一般的な情報をまとめたもので、診断や治療を目的としたものではありません。効果には個人差があり、体調のすぐれない日、発熱時、持病のある方は無理をせず、心臓・血圧などに不安のある方は事前に医師へご相談ください。ここで紹介した温度や湿度の数値は各研究の報告に基づく目安です。



