庭に薪サウナがあると、思い立ってから入るまでが早くなります。岩手の冬は日没が早く、夕食前のひと汗という人も多いでしょう。ただ、インスリンを使っている方にとって、この「早さ」が体にどう働くかを調べた古い研究があります。今日はその話をします。
46年前、8人だけの実験
1980年、イギリスの医学誌British Medical Journalに、フィンランドの研究者コイヴィストによる小さな報告が載りました。対象はインスリン依存性糖尿病の患者8名。決して大きな研究ではありません。85℃のサウナに25分、これを2回。同じ人が、サウナに入る日と、室温のまま過ごす日を分けて比較しました。8人という数字は、統計としては心もとない規模です。それでも、後の教科書や論文に繰り返し引用され続けている理由は、結果があまりに分かりやすかったからです。

皮下からの吸収が、110%速くなった
注射したインスリンは、皮膚の下の脂肪組織からゆっくり血液中に染み出していきます。この染み出す速さが、サウナに入った日は室温で過ごした日と比べて110%増加しました。統計的にも意味のある差(P<0.01、偶然では説明しにくい差という意味です)でした。皮膚の血流が温まって増えることで、そこに留まっていたインスリンが早く運ばれてしまう、という理屈です。
血糖値は、はっきり下がった
吸収が速くなった結果として、サウナに入った日の血糖値は、室温で過ごした対照日より3.0から3.3 mmol/L、日本でよく使う単位に直すと54.1から59.5 mg/dLほど低い値になりました(P<0.05)。血糖値がどれだけ下がったかと、インスリンの吸収がどれだけ増えたかの間には、緩やかな相関(r=0.30、P<0.01。数値が動く方向がある程度そろっていたという意味で、強い関係ではありません)も確認されています。
8人という規模、そして誰を対象にした実験かを、正直に書いておきます
この研究は46年前のもので、対象はわずか8名です。使われているインスリン製剤も当時のもので、いまの持効型や超速効型とは吸収の性質が違う可能性があります。加えて、原著論文には対象者の性別や年齢の内訳が詳しく記載されておらず、実施されたのはフィンランド国内の医療機関(著者の所属から、ヘルシンキ大学に関連する施設と考えられます)という情報にとどまります。つまり、体格や体質、生活習慣が異なる日本人の患者、あるいは高齢者や小児にそのまま当てはまる結果かどうかは、この論文だけでは判断できません。ですから「サウナに入るとインスリンが必ず110%速く効く」と読むのは正確ではありません。読み方としては、皮下注射という仕組み自体が、皮膚の温度や血流の影響を受けうる、という一つの観察として受け止めるのが妥当だと思います。因果関係を確定させる大規模な研究ではなく、対象も国も限られた、一つの実験の記録です。

岩手の庭サウナが持つ、施設とは違う早さ
銭湯や公衆サウナに行くには、着替えを持って、移動して、という段取りが挟まります。その間に、注射から入浴までにはある程度の時間が空くものです。ですが庭にサウナがあると、この段取りがほとんどなくなります。D'STYLEが岩手で自宅サウナを納めてきた実感として、思い立ってから15分後には入っている、という声をよく聞きます。この「早さ」こそが自宅サウナの魅力である一方、この研究の文脈では、注射のタイミングと入浴のタイミングが近づきやすいという意味でもあります。冬の岩手は日没が早く、夕食前に入る方が多いという生活時間の傾向も、あわせて頭の片隅に置いていただければと思います。

設備でできることは、運用の工夫まで
D'STYLEとして、医療的な指示をするつもりはありません。できるのは、設備を納める側としての運用提案までです。脱衣室に糖分をひとつ置いておく。家族が入室した時刻をなんとなく把握できるようにしておく。長く一人で入らない。こうした小さな工夫は、KUUTAのような薪サウナ・ペレットサウナを設置する際に、私たちが実際にお客様へお伝えしていることです。

主治医への相談を、必ず先に
インスリンを使用中の方は、サウナの利用そのものよりも先に、注射から入浴までの時間の取り方や、入浴前後の血糖測定について、主治医や薬剤師にご相談ください。この記事で紹介した数字は、あくまで46年前、フィンランドで実施された対象8名という小さな実験の記録であり、性別や年齢の詳細も明らかではありません。いまお使いの薬剤や治療方針、そしてご自身の体格や年齢にそのまま当てはまるものではないという前提で読んでいただければと思います。
46年前、対象がわずか8名、実施地もフィンランド国内という限られた条件下の小さな実験が、いまも引用され続けているのは、体の仕組みそのものを静かに示しているからだと思います。皮膚が温まれば血流が増え、そこにあるものは早く運ばれる。それだけの、単純な話です。庭にサウナがあるということは、この「早さ」がすぐそばにあるということでもあります。持病や服薬のある方は、どうか一人で判断せず、主治医への相談を先に置いてください。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Koivisto VA. "Sauna-induced acceleration in insulin absorption from subcutaneous injection site." British Medical Journal 1980;280(6229):1411-1413.
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



