盛岡のショールームは、冬になると夕方から人が増えます。雪をはらいながら入ってきた方が、薪ストーブの前で手をあたためる。それから、少し声を落として言うのです。うちの父に、一台どうかと思って。健診の紙をそのまま持って来られた方もいました。今日は、その相談の場でよく話す研究をひとつ。フィンランドの2,575人を27.8年追いかけた、2022年の報告です。数字より先に、この研究が誰を見ていたのかから始めます。

「うちの父に一台」と言われたとき、私が最初に確かめること
相談は、たいてい息子さんや娘さんからです。八十を越えたお父さまが、冬になると家から出なくなった。歩かなくなった。健診で何かの数字を指摘された。だから温まる場所を家の中に作れないか。そういうお話です。
こういうとき、私はすぐに研究の数字を出しません。まず確かめるのは、その研究が誰を見ていたか、です。
サウナの研究は、フィンランドから出てくるものが圧倒的に多い。そして、その多くが同じ地方の、同じ年代の、同じ性別の人たちを追いかけた記録です。今日ご紹介する2022年の報告も、対象は男性2,575人。フィンランドの中年男性です。女性は入っていません。日本人でもありません。八十を越えた岩手のお父さまと、条件がそろっているとは言えないのです。
先に置いておきたいのは、この一点です。研究を読むというのは、数字を覚えることではなく、その数字がどこで採れたものかを覚えること。薪と同じだと思っています。どこの山の、いつ切った木か。それを見ないまま焚いても、思ったようには燃えません。
そのうえで、この報告はなかなか面白い読み方をさせてくれます。サウナは誰にいいのか、ではなく、差が大きく見えたのはどんな人たちだったのか。そこを扱っているからです。

2,575人を27.8年。まず研究の骨組みから
出所を書きます。Kunutsor SK、Jae SY、Laukkanen JA らが医学誌 European Journal of Epidemiology に2022年に発表した報告です。フィンランドの男性2,575人を、中央値で27.8年追いかけています。追跡のあいだに亡くなった方は1,618人でした。
中央値というのは、平均ではなく、真ん中の人の値のことです。長く追えた人と短かった人を順番に並べて、ちょうど真ん中に立つ人が27.8年だった。そういう意味になります。
27.8年。書いてしまえば一行ですが、これは相当な長さです。私たちが毎年煙突を掃除しているお宅でも、いちばん長いお付き合いで三十年に届くかどうか。据え付けたときに三十代だった施主が、いまは六十代です。その間ずっと、同じ人たちを名簿から落とさずに追い続けた。それがこの研究の骨組みです。
そして1,618人という死亡数。全死因死亡といって、死因を問わずに数えたものです。心臓の病気も、がんも、事故も、ひとまとめにして、亡くなったかどうかだけを見ています。細かく分けないぶん、数がそろって統計が安定しやすい。そのかわり、何の病気にどう関わったのかは、この数字からは分かりません。
hsCRPという、健診の紙の端にある数字
この研究のもう一方の主役が、hsCRPです。
CRPは、体の中で炎症が起きているときに血液の中で増えるたんぱく質です。風邪をひいて熱が出たときにも上がりますし、けがをしても上がります。hsは高感度、つまり、うんと細かいところまで測れる測り方という意味。ごく低いところの違いまで拾えるので、はっきりした病気のない人の、くすぶったような炎症を見るのに使われます。
盛岡の健診でも、項目に入っているお宅があります。持って来られた紙の端に、小さく載っている。あれです。
ですから、CRPが少し高いと言われたからといって、それだけで何かが決まるわけではありません。風邪の名残でも上がります。歯ぐきの炎症でも上がります。健診の紙一枚で、ご自分を分類してしまわないでいただきたい。これは研究の話ではなく、店頭で年配のお客様と話していて、私がいつも思っていることです。
この研究では、参加者をhsCRPが高い群と、そうでない群に分けました。ここで、ひとつ気をつけて読みたいところがあります。
この高い、高くないの線は、研究者が分析を始める前に決めた分け方です。データを見てから、ここに境目があった、と発見したわけではありません。紹介記事を読んでいると、区分がそのまま体の境目であるかのように書かれていることがありますが、それは違います。ものさしの目盛りを先に決めてから測った。ただそれだけの話です。目盛りが変われば、見え方も変わります。
四つの組み合わせに分けて比べた
この報告のうまいところは、hsCRPとサウナの頻度を掛け合わせたことです。
炎症の数字が高いか、高くないか。サウナの頻度が低いか、高いか。掛け合わせると四つの組み合わせができます。四つの箱に人を入れて、それぞれの箱で亡くなった方の出方を比べた。そういう形になります。
比べるときの土台になったのは、hsCRPが高くなくて、サウナの頻度も低い群です。この群を1.00と置いて、ほかの群がその何倍かで表されます。統計の言葉では基準群といいます。かけっこで誰かひとりの走った時間を1と置き、ほかの人がその何倍かかったかを見る。あれに近い考え方です。
そして、頻度の低い、高いという区分も、hsCRPと同じで、研究者が先に決めた分け方です。週に何回からが高頻度なのか。ここで私たちが扱う数字からは読み取れません。同じ研究チームの別の報告では週2から3回、週4回以上といった刻みが使われていますが、それをこの2022年の報告にそのまま当てはめて書くわけにはいかないのです。ここは、分からないまま置いておきます。
分からないところを分からないと書く。研究の紹介では、それがいちばん大事だと思っています。
1.28。偶然では説明しにくかった数字
まず、いちばんはっきり出た数字から。
hsCRPが高くて、かつサウナの頻度が低い群。この群の全死因死亡のハザード比は1.28、95%信頼区間は1.12から1.47と報告されています。
ハザード比というのは、リスクの比のことです。基準にした群を1.00として、1.28なら、その1.28倍の出方だったという意味になります。何人多く亡くなった、という人数の話ではありません。あくまで比です。
1.28倍と聞くと、百人のうち二十八人ぶん多い、という絵を描いてしまいがちです。でも、そうではありません。比べているのは人数ではなく、その出来事の起きやすさです。もとの起きやすさが小さければ、1.28倍になっても、実際に増える人数はわずかにとどまります。倍率というのは、もとの大きさとセットでしか意味を持ちません。
95%信頼区間は、推定の幅です。この1.28という数字は、たまたま集まったこの2,575人から計算した推定値であって、真の値そのものではありません。本当のところはだいたいこのあたりの範囲にあるだろう、という幅が信頼区間で、ここでは1.12から1.47。
大事なのは、この幅の両端が、どちらも1より大きいことです。幅の中に1.00が入っていない。つまり、差がなかったという値が、推定の幅の外にある。こういうときに、統計では有意といいます。偶然では説明しにくい差だった、という意味です。
炎症の数字が高くて、なおかつサウナの頻度が低かった人たちでは、亡くなる方の出方が基準の群より多かった。そう報告されています。

1.06。差がないのではなく、言い切れない数字
ここからが、この記事で本当に書きたかったところです。
同じくhsCRPが高い群でも、サウナの頻度が高かったほうはどうだったか。ハザード比1.06、95%信頼区間0.81から1.40と報告されています。
1.06。基準の群とほとんど変わらない値です。そして幅が0.81から1.40。今度は、幅の中に1.00が入っています。1より小さい値も、1より大きい値も、どちらもこの幅に含まれている。
こういう結果を、有意な上昇はみられなかった、と書きます。ここを読み違えないでください。差がなかったことが分かった、ではありません。差があるとも、ないとも言い切れなかった、です。この二つは、似ているようでまるで違います。
0.81から1.40という幅は、決して狭くありません。幅が広いということは、それだけ推定が定まっていないということです。人数がもっと多ければ幅は締まったかもしれない。締まった先が1をまたぐかどうかは、この研究からは分かりません。
そしてもうひとつ。この1.06は、サウナのおかげで何かが下がった、という意味ではありません。上がっていることが確かめられなかった、というだけです。ここを取り違えた紹介を、私は何度も目にしてきました。
交互作用。全員に同じ差が出たわけではない
1.28と1.06を並べると、こう見えます。炎症の数字が高い人たちのなかで、サウナの頻度が低い側と高い側とで、数字の出方が違っていた。
この、組み合わせによって出方が変わることを、統計では交互作用と呼びます。二つの要素がそれぞれ別々に働くのではなく、掛け合わさったところで見え方が変わる、という意味です。この報告では、加法的な交互作用と乗法的な交互作用の両方が報告されています。
加法的というのは足し算で見たときの呼び方、乗法的というのは掛け算で見たときの呼び方です。二つの要素が重なったとき、それぞれの影響を足し合わせただけでは説明がつかないか。掛け合わせただけでは説明がつかないか。物差しを持ち替えて二度測った、と考えていただくと近いと思います。見る角度を変えても、同じ向きの結果が出た。そういう報告のされ方です。
言い換えれば、全員に同じ差が出たわけではない、ということです。差が目立って見えたのは、炎症の数字が高い群のなかでした。この記事で扱っている数字は、その群についての比較です。
サウナは誰にいいのか。その問いには、ここでは答えが出ません。出るのは、この研究で差が大きく見えたのはどんな人たちだったか、というところまでです。
なお、亡くなった1,618人が四つの箱にどう分かれたのかは、ここまでに挙げたハザード比からは計算できません。比の数字と、人数の数字は別のものです。足し算でつなげないようにしてください。
この研究が言っていないこと
ここまでの数字を、いくつかの但し書きで囲みます。
第一に、これは観察研究です。後から見比べた研究、という意味になります。研究者が人を二つに分けて、片方の人たちにサウナに入ってもらったのではありません。もともとよく入っていた人と、あまり入らなかった人を、後から名簿の上で見比べています。ですから、サウナが原因でこうなった、とは言えません。因果関係は示されていません。
第二に、サウナによく入る人とあまり入らない人では、サウナ以外もいろいろ違います。体が動くから通える。通う時間がある。近所付き合いがある。そうした違いが数字の裏にある可能性は、この形の研究では消しきれません。年齢や生活習慣の違いを統計的にどこまで揃えたのかも、私たちがここで扱う数字だけからは分かりません。
第三に、対象です。フィンランドの中年男性2,575人。女性は入っていません。日本人でもありません。浴槽に湯を張って肩まで浸かるという日本の習慣も、この研究には入っていません。八十を越えた岩手のお父さまに、この数字をそのまま重ねることはできないのです。
第四に、この記事で扱った数字には、1回あたり何分入ったか、何度の部屋だったかという中身が含まれていません。頻度の話であって、入り方の話ではありません。
岩手の冬と、店頭でお伝えしていること
では、岩手ではどう読むか。
私たちが見てきた範囲では、この土地の冬は、体が温まる機会がはっきり減ります。玄関から車。車から店の入口。歩くのはその往復だけ、という日が続く。灯油のファンヒーターの前は暖かいけれど、足元は冷えたまま。雪かきをしていた頃は毎朝汗をかいていた方が、体をいたわって雪かきをやめたとたん、冬のあいだじゅう汗をかかなくなる。そういう話を、盛岡でも滝沢でも紫波でも聞きます。
うちのお客様には、秋のうちに薪を割って積み、冬はその薪でストーブを焚くという方が何人もいます。運んで、割って、積んで、また運ぶ。あの往復は、それだけでかなりの運動です。ところが年齢とともに、薪の量を減らし、玉切りを人に頼み、やがて割るのをやめる。減っていくのは、薪の量だけではありません。
フィンランドの数字をそのまま持ってくることはできません。それでも、温まる時間が生活からするりと抜け落ちていく。そこだけは、フィンランドの冬と岩手の冬で、少し似た顔をしているように思います。
そのうえで、うちの父に、と相談されたときに必ずお伝えしていることを書いておきます。
まず、持病のある方、薬を飲んでいる方は、設置を考える前に主治医にご相談ください。心臓や血圧のことは、私たちが判断できる話ではありません。
体調が悪い日は入らない。熱があるときや、お酒を飲んだあとは論外です。
年配の方ほど、温度を上げないこと。同じ部屋でも、上段と下段では二十度近く違うことがあります。まず下段に座って、短めに出る。ご家族が家にいる時間帯に入る。水を手元に置く。
この四つを守れないのなら、設置はおすすめしません。何度でも、そう申し上げています。

私たちは、サウナを売る店です。それでも、研究の数字を売り文句に変えるつもりはありません。今日の報告が示したのは、フィンランドの中年男性の記録のなかで、炎症の数字が高い群では組み合わせによって出方に違いが見えた、というところまで。それ以上でも、それ以下でもありません。
盛岡のショールームでは、実際にサウナ室に入っていただけます。数字ではなく、木の匂いと、上段と下段の温度差を体で確かめてから決める。そのほうが確かだと思っています。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Kunutsor SK, Jae SY, Laukkanen JA ほか. European Journal of Epidemiology, 2022(フィンランドの男性2,575人・追跡期間中央値27.8年・死亡1,618件。hsCRP高値かつサウナ低頻度の群の全死因死亡ハザード比1.28、95%信頼区間1.12〜1.47。hsCRP高値かつサウナ高頻度の群は1.06、95%信頼区間0.81〜1.40で有意な上昇はみられず。加法的・乗法的な交互作用が報告されている。観察研究であり因果関係を示したものではない)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



