サウナ室に、続けて三十分。やってみると、これがなかなか長い時間です。二〇二六年にフィンランドから届いた報告は、その三十分を五十一人ぶん、血を採りながら測っていました。増えた細胞と、三十分で戻った細胞。そして、下がっていた二種類のサイトカイン。都合のいい数字だけを並べずに、岩手・盛岡の施工現場から、この一本をゆっくり読みます。
三十分は、思っているより長い
盛岡の一月。朝いちばんに玄関前の雪を寄せて、それから家の裏の小屋に火を入れます。薪が熾になるまで、およそ一時間。その間に朝ごはんを済ませ、タオルを持って戻ります。扉を開けると、木と煙のにおいが顔に当たる。冬の朝の、決まった手順です。
ここで、ひとつ伺わせてください。あなたは、サウナ室に何分いますか。
五分で一度出る方。八分あたりで汗が出てくる方。十二分の砂時計をきっちり守る方。私たちが施工したお宅をまわってお話を伺う限りでは、多くの方が十分前後で一度外に出ます。三十分続けて座っている、という方はまずいません。
三十分。文字にすると短いのですが、木のベンチに座って、汗を拭きながら過ごすと、これがなかなか長い。砂時計を二回半、返すことになります。途中で必ず一度は、外の雪のことや、夕方の予定のことを考えます。それくらいの長さです。
ところが二〇二六年、フィンランドから届いた報告は、その「三十分」を五十一人ぶん、血を採りながら測っていました。今日はその一本を、ゆっくり読みます。数字は途中で出します。急ぎません。

二〇二六年、五十一人の血液を測った報告
出典は Temperature という学術誌の二〇二六年、十三巻二号一八六ページ。東フィンランド大学とトゥルク大学の研究チームによるものです。筆頭にヘイノネン、共著にラウカネンの名前があります。
対象は、成人五十一人。女性が二十七人で平均五十歳、ばらつきの幅は上下九歳。男性が二十四人で平均五十歳、幅は上下十歳。「±」というのは、その前後にどれくらい散らばっているかを示す印だとお考えください。
この五十一人には、共通点があります。心血管リスク因子——心臓や血管の病気になりやすさに関わる要因のことです——を、一つ以上持っている。ただし症状は出ていない。つまり「健診で何か指摘されてはいるが、今のところ困ってはいない」という方々です。
四十代、五十代、六十代。当社の店頭でサウナのご相談をいただく年代と、ちょうど重なります。「血圧を言われまして」「コレステロールが少し」。カウンターでよく聞く言葉です。
この方々に、三十分のフィンランド式サウナに入ってもらう。前後で血を採り、体温を測る。研究の骨格は、これだけです。
もうひとつ、書いておきます。この研究は女性が二十七人と、男性より多く入っています。男女がほぼ半々で測られている点は、読み手として素直にありがたいところです。
体温が、三十六・四度から三十八・四度へ
まず体温です。
サウナに入る前は三六・四度、ばらつきの幅は上下〇・五度。三十分後は三八・四度、幅は上下〇・七度。およそ二度、上がっています。
二度と聞くと小さく感じますが、体温の話です。三八・四度というのは、風邪をひいたときの熱と同じくらいの数字。それが、病気ではなく、木の部屋に座っているだけで起きている。
ここで現場の話を挟みます。当社が施工した室内サウナで、コントロールパネルが九二度を示している写真があります。室温は九二度。けれど体の芯は、三十分かけてようやく三八度台。この差が、サウナという場所の正体だと私は思っています。
まわりの空気が九十度を超えていても、体の中身はそう簡単には上がりません。だから時間がかかる。だから、五分や八分で出ていた頃の自分と、三十分座っていた研究の参加者とでは、体の中で起きていることがそもそも違う可能性がある。ここは押さえておきたいところです。
なお、この報告は「三十分入れば体温が二度上がる」ことを、どんな部屋でも保証したものではありません。あくまで、この試験の条件で測られた値です。室温、湿度、座る段、その日の体調。どれが変わっても、数字は変わります。

「汗で血が濃くなっただけ」への答えが、先に置いてあった
サウナと血液の研究には、昔からひとつ、やっかいな反論があります。
汗をかけば、体から水分が抜ける。水分が抜ければ、血の中の細胞は相対的に濃くなる。つまり「増えた」のではなく「濃くなっただけ」ではないか、という指摘です。台所で煮汁を煮詰めると味が濃くなる。具の数は変わっていないのに、濃い。あれと同じ理屈です。
この研究チームは、それを先に潰していました。血漿量——血液のうち、細胞を除いた液体の部分の量です——を測り、変化しなかったと報告しています。
液体の量が変わっていないのなら、濃縮では説明がつきません。つまり、このあと出てくる細胞の増減を、「水が抜けたから」では片づけられない、ということになります。
私は施工屋ですから、こういう手順に弱いのです。断熱材を入れる前に、まず下地の状態を確かめる。防水を張る前に、勾配を見る。順番を守った仕事は、あとで揉めません。研究も同じで、反論されそうな穴を先に埋めてある報告は、読んでいて気持ちがいいものです。
増えた細胞、三十分で戻った細胞、戻らなかった細胞
本題です。
白血球——血の中で、体を守る側の細胞のあつまりです——の数が、有意に増えたと報告されています。「有意」というのは、偶然のばらつきでは説明しにくい差、という意味の言い方です。
面白いのは、その後の動きでした。
好中球とリンパ球。どちらも白血球の仲間ですが、この二つは、サウナが終わっておよそ三十分で、ベースライン——入る前の値のことです——に戻っています。上がって、戻る。
一方、MXD分画と呼ばれるまとまりがあります。単球、好酸球、好塩基球という、数としては少ない細胞をひとくくりにした区分です。こちらは、上昇が続いていました。
同じ「白血球が増えた」でも、中を割ると、戻るものと戻らないものがある。ひとまとめの数字だけを見ていたら、この違いは見えません。
そして著者たちの考察です。細胞が新しく作られたのではなく、動員・再配置が主な仕組みだろう、と書いています。
つまり、増産ではなく、配置換え。
薪でたとえるなら、薪が増えたのではありません。奥に積んであった薪が、手前に出てきた。あるいは朝の台所で、戸棚にしまってあった鍋が、火の前に並べられた。総量は変わらないけれど、手の届くところに来ている。研究者が描いているのは、そういう絵です。
ただしこれは著者の考察であって、この一本で仕組みが確定したわけではありません。そこは分けて読んでください。

サイトカインは二種類だけ動いて、しかも下がった
ここからが、この記事でいちばん書いておきたかったところです。
サイトカイン——細胞どうしが情報をやりとりするときに出す、連絡役のような物質です——も測られています。
結果は、有意な変化があったのは二種類のみ。そして、そのいずれも低下でした。
上がったのではありません。下がったのです。
サウナの記事を書くとき、いちばん誘惑が強いのがここです。「白血球が増えた」だけを取り出して並べれば、読み心地のいい話になる。けれど同じ論文に、サイトカインはほとんど動かず、動いた二種類は下がったと書いてある。これを省いたら、それは紹介ではなく宣伝です。
なぜ下がったのか。それがよいことなのか、そうでないのか。この報告だけでは決められません。決められないことを、決められないまま置いておく。研究を読むというのは、たぶんそういう作業なのだと思います。
煙突掃除でも同じことがあります。煤が少ないから調子がいい、とは限りません。燃やし方が弱くて、そもそも煤の出る量が少ないだけ、ということもある。一つの数字だけを見て良し悪しを言うのは、いちばん危ないやり方です。
この五十一人は、誰だったのか
限界の話をします。ここを飛ばすと、記事として不誠実になります。
第一に、人数。五十一人です。集落ひとつぶん。少ない人数の研究は、たまたまの偏りが結果に出やすくなります。
第二に、国。フィンランドです。日本人ではありません。住まいの断熱も、サウナに入る習慣も、幼いころからの慣れも違う。岩手の私たちにそのまま当てはまる保証は、どこにもありません。
第三に、対象。心血管リスク因子を一つ以上持つ、症状のない成人です。健康そのものの若い方でもなければ、治療中の方でもない。ちょうどその間の層で、平均年齢は五十歳。八十代の方が同じ入り方をしたらどうなるかは、この研究は答えていません。
第四に、これは一回のサウナ浴の前後を測った、短い時間の体の反応を見た研究だということ。何年も追いかけて、病気になった人が減ったかどうかを見たものではありません。血の中の細胞が動いたという事実と、体が病気に強くなったという話のあいだには、まだ距離があります。
ですから、この報告をもって、サウナで病気が防げるとは言えません。当社も、そうは申し上げません。
持病のある方、お薬を飲んでいる方は、サウナの前に一度、主治医へご相談ください。体調のすぐれない日は入らない。これは研究の話ではなく、私たちが現場でお願いし続けていることです。
「三十分入っていられる温度」は、思ったより高くない
ここからは、施工屋としての読み方です。
研究の参加者は、三十分入りました。では、三十分入っていられるサウナ室とは、どんな部屋なのか。
まず、上段と下段。熱は上にたまりますから、同じ部屋でも、座る段が変わると体感がまるで違います。上段で五分がやっとの日でも、下段なら落ち着いて座っていられる。逆に言えば、上段だけで組んだサウナは、長く入る使い方には向きません。盛岡や近郊のお宅にサウナを設置するとき、当社が必ず伺うのは「どの段で、何分過ごしたいか」です。
次に、部屋のかたち。バレルサウナ——樽型の、丸い部屋です——は、天井が曲面なので、熱と蒸気が中央にたまりやすい。箱型のサウナ室とは、熱の回り方が違います。岩手の庭先に置くバレルサウナも、この曲面をどう扱うかで居心地が決まります。
そして熱源。ハルビアの薪サウナヒーター、レジェンド二四〇(WK240LD)やエム3(WKM3)のような薪ストーブは、石をたくさん載せられます。石は蓄熱の材料です。いったん温まると、じんわり長く出す。金属が直接放つ熱の鋭さとは、質が違います。三十分座るなら、この石の柔らかい熱が効いてきます。
一方、薪は燃え方が上下します。焚きつけの直後と、熾になってからでは室温が動く。そこが薪の面白さでもあり、難しさでもある。ペレットサウナのVENERE matic(ヴェネレ マチック)は、ペレットを自動で送るぶん、温度の揺れが薪より小さい。長く一定の温度で座りたい方には、こちらをおすすめすることもあります。
九十度台まで一気に上げて短く入るのか、八十度台で長く座るのか。どちらが正しいという話ではありません。ただ、この研究が測ったのは「三十分」でした。三十分座れる部屋を作るには、温度を上げるための設計だけでなく、居続けるための設計が要ります。

終わってからの三十分を、どこで過ごすか
もうひとつ、この報告から現場に持ち帰れることがあります。
好中球とリンパ球は、サウナが終わっておよそ三十分で、入る前の値に戻っていました。逆に言えば、終わってからの三十分も、体の中ではまだ何かが動いている時間だ、ということです。
岩手の冬に、この三十分をどこで過ごすか。真剣に考える価値があります。
外気浴の場所が氷点下の吹きさらしなら、三十分どころか三分ももちません。脱衣所が冷え切っていれば、せっかく温まった芯が、着替えのあいだに抜けていきます。サウナ室ばかり立派で、そのあとの居場所がない——お伺いした現場で、いちばんよく見る惜しい設計です。
風の来ない位置に椅子を置く。屋根を少し伸ばす。脱衣所に暖房を一台入れる。動線を短くして、裸で歩く距離を減らす。派手な工事ではありませんが、ここを整えるだけで、冬のサウナはまったく別のものになります。
水風呂も同じです。芯まで温まる前に冷たい水へ飛び込むと、体には急な負担がかかります。三十分かけて体温が二度上がった研究の参加者と、五分で出て水に入る使い方とでは、体の状態がそもそも違う。下段でじっくり温めてから、ゆっくり冷やす。心臓に不安のある方は、水風呂の使い方も含めて、事前に主治医へご相談ください。

火を落としたあとのサウナ室には、しばらく木のにおいが残ります。誰もいなくなった部屋で、石がまだ熱を出している。あの静けさが、私は好きです。
研究が教えてくれるのは、たいてい「答え」ではなく「測り方」だと思っています。今回で言えば、三十分という長さと、終わってからの三十分。この二つを部屋の設計の言葉に置き換えられるかどうかが、私たちの仕事です。
有限会社D'STYLEは、岩手・盛岡から薪サウナ、ペレットサウナ、室内サウナの設置をお手伝いしています。ご相談は、温度の話からではなく、「どの段に、何分座りたいか」から始めさせてください。そこが決まると、ストーブの選び方も、脱衣所も、外気浴の場所も、自然と決まっていきます。
持病のある方、お薬を飲んでいる方は、事前に主治医へご相談ください。体調のすぐれない日は、入らない。それだけは、どうかお願いします。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Heinonen I, Laukkanen JA ほか. Temperature. 2026;13(2):186.(東フィンランド大学・トゥルク大学):心血管リスク因子を1つ以上持つ無症状の成人51人(女性27人・平均50±9歳、男性24人・平均50±10歳)が30分のフィンランド式サウナを実施。体温は36.4±0.5℃から38.4±0.7℃へ上昇、血漿量は変化なし。白血球数が有意に増加し、好中球・リンパ球は終了後約30分でベースラインに復帰、MXD分画(単球・好酸球・好塩基球)は上昇が持続。サイトカインは有意変化が2種のみでいずれも低下。著者は細胞の産生ではなく動員・再配置が主機序と考察している。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



