サウナと炎症の話には、向きの違う二つの報告があります。長い年月をかけて人を追った観察研究は「低い」と言い、入浴中に血を採った試験は「上がる」と言う。2020年に報告された、健康な中高年20人のクロスオーバー試験を読みます。矛盾に見えるものを、そのまま並べたまま。岩手の冬のサウナ室の実際と、研究の限界も一緒に。
火を入れて、温度計の針を見上げる夕方
盛岡の一月です。夕方の四時を過ぎると、もう外は薄暗くなります。
雪を踏んで薪を運びます。サウナストーブの扉を開けて、焚きつけを組んで、マッチを擦る。扉を閉めて、しばらく待つ。壁の温度計の針は、まだ動きません。
火の仕事は、待ち時間の仕事です。煙突掃除で県内をまわっていても、冬の現場では必ず、火が回るまでの十分か十五分を黙って過ごすことになります。手持ち無沙汰で、ただ扉のガラス越しに炎を見ている時間。
三代続けて火を扱ってきた家に生まれ、いまは煙突掃除の講習で人に教える立場になりました。それでも、火が回るまでの時間を短くする方法は知りません。待つしかないのです。
その待ち時間に、ふと考えることがあります。体の中でも、似たようなことが起きているのだろうか、と。熱が入って、何かが動いて、やがて落ち着く。その順番を、私たちは見ることができません。
サウナと炎症の話には、一見すると向きの違う二つの報告があります。長い年月をかけて人を追いかけた研究と、入浴中の血を採った研究。前者は「低い」と言い、後者は「上がる」と言います。
今回は、その食い違いをそのまま並べてみます。どちらかを消して、都合よくそろえたりはしません。

長期の研究は「低い」と言い、入浴中の試験は「上がる」と言う
まず、言葉の整理から始めます。
炎症とは、体の中で起きた火事の後始末のようなものです。傷ができたり、細菌が入ったりすると、体はそこへ人手を送り込んで片づけをします。腫れる、熱を持つ、赤くなる。あれが片づけの現場です。その片づけが小さく、長く、だらだらと続いている状態を、慢性の炎症と呼びます。
血液からその気配をのぞく目印のひとつが、hsCRP(高感度CRP)です。数字が高いほど、体のどこかで片づけが続いていると考えられています。健康診断の紙に出てくることもある項目です。
フィンランドの研究グループは、Annals of Medicine という医学誌の2018年の報告で、サウナに入る頻度が高い人ほど、多変量調整後のhsCRPが低かったと報告しています。多変量調整というのは、年齢や喫煙といった条件の違いを、できるだけ計算で差し引いたうえで比べた、という意味です。
ただし、これは観察研究です。観察研究とは、後から人を見比べた研究のこと。サウナが原因でそうなったと示したものではありません。もともと体を動かす習慣のある人がサウナにもよく行く、という可能性は、この形の研究では消し切れないのです。
一方で、サウナに入っている最中に血を採ると、話が変わります。炎症を進める側の物質が、むしろ上がるという報告があります。
低いのか、上がるのか。今回読むのは、この後者の側にある一本です。
20人が三つの条件を順番に。2020年の小さな試験
Hussain J らが、Complementary Therapies in Medicine 誌の2020年に報告した試験です。
参加したのは、健康な中高年20人。男性9人、女性11人。年齢は66±6歳と書かれています。この「±6」というのは、多くの方がおよそ60歳から72歳のあたりに散らばっている、という意味の幅です。
この20人が、三つの条件をすべて経験しました。
一つ目は、80℃・湿度20%のサウナに10分間入る条件。二つ目は、同じ条件で10分間を2回行う条件。三つ目は、サウナに入らずに安静にしている対照の条件です。対照というのは、比べるための「何もしない側」のことです。
そして、どの条件を先にやるかという順番を、ランダム化しています。くじ引きで順番を決めた、ということです。先にやったほうが有利になったり、疲れが後の条件に響いたりするのを、なるべく打ち消すための工夫です。
同じ人が全部の条件を順番に試すこの設計を、クロスオーバー試験と呼びます。人が入れ替わらないぶん、体質の違いという邪魔者が入りにくい。20人という小さな人数でも比べられるのは、この設計の利点です。
裏を返せば、20人しかいない、ということでもあります。そこは後の節でもう一度触れます。
それにしても、三つの条件をすべてこなすということは、一人あたり三度、決められた場所に通って血を採られたということです。平均66歳の方が、です。20人という数字の裏に、その手間があります。研究の数字は、こういう地味な往復の積み重ねで出来ています。

上がったのは、炎症を進める側だけではなかった
結果です。
サウナの条件で、血中のIL-6とIL-1raが上昇したと報告されています。
IL-6は、インターロイキン6という物質です。細胞どうしが情報をやりとりするための伝令のようなもので、サイトカインと呼ばれる仲間に入ります。炎症を進める側として名前が出ることの多い物質です。
IL-1raのほうは、抗炎症性、つまり炎症を抑える側の物質です。ブレーキ役、と言い換えてもいいかもしれません。
ここが、この試験のいちばんの読みどころだと思います。
上がったのは、アクセルだけではありませんでした。ブレーキも一緒に上がっている。体は熱という刺激に対して、片側だけを押したのではなく、両方を出したことになります。
薪ストーブにたとえるなら、給気口を開けると同時に、ダンパーにも手をかけているような格好でしょうか。勢いよく燃やしながら、行きすぎないように押さえてもいる。火を扱う仕事をしていると、この両手の使い方はよくわかります。
なお、この試験でどの数値がどれだけ動いたのか、細かい数字までは今回扱う資料には書かれていません。ですので、ここでは「上がった」という方向だけをお伝えします。数字がないところに、数字を作って書くわけにはいきません。
2回のほうが、IL-6の反応が大きかった
もうひとつ報告されているのが、10分間を2回行った条件のほうが、IL-6の反応が大きかったということです。
一行で書けてしまう結果です。けれど、これはそのままサウナの入り方の話に直結します。1セットと2セットでは、体の中から返ってくる返事が違った。そういうことになります。
ただ、ここで気をつけたいことがあります。
研究は「反応が大きいほど良い」とは言っていません。大きい・小さいという話であって、良い・悪いという話ではないのです。
私たちが見てきた範囲では、ここを取り違えて読む方が少なくありません。セット数を増やせば増やすほど体が強くなる、といった読み方です。けれど、そういう話はこの試験からは出てきません。ましてや、何セットが最適かという答えも出ていません。
もうひとつ、この結果には静かな含みがあります。1回でも数字は動きました。けれど2回のほうが大きかった。つまり体は、二度目の熱を一度目と同じものとしては受け取っていない、ということになります。一度温まった体に、もう一度熱が入る。そのときの返事は、最初とは違っていました。
数字が動いた、という事実だけがあります。その意味づけは、まだこれからの研究の仕事です。
上げて、戻る。運動と同じ読み方をすると筋が通る
では、長期の「低い」と、入浴中の「上がる」は、やはり矛盾しているのでしょうか。
この試験の解釈として示されているのが、ホルミシス的な読み方です。ホルミシスというのは、弱い刺激がかえって体の調子を整える方向に働くことがある、という考え方を指します。
いちばん身近な例が、運動です。
雪かきをした翌日、肩が張ります。薪を一日割れば、腕が痛みます。あのとき、体の中では炎症の物質がたしかに上がっています。けれど、雪かきや薪割りを何年も続けている人の、普段の炎症の数字が高いままかというと、そうではないことが知られています。
上がって、戻る。上がって、戻る。その繰り返しの先に、普段の水準のほうが変わっていく。そういう筋書きです。
サウナも同じように読めるのではないか、というのが、この試験に添えられた解釈です。入浴中に上がるIL-6と、長期に低いhsCRPは、別々の時間軸の話をしているだけなのかもしれません。
ただ、ホルミシスという言葉には、便利すぎるところもあります。何にでも当てはめられてしまう。うまく説明がついたような気になれてしまう。ですから私たちは、この言葉を答えとしてではなく、いまのところの見取り図として受け取っています。地図と実際の道は、違います。
ただし、これはあくまで解釈です。証明ではありません。この試験が測ったのは入浴の前後という短い時間であって、そこから何年も先の体の状態までを橋渡ししたわけではないのです。橋の向こう側は、まだ霧の中にあります。
20人。そして、日本人を対象にした研究ではない
限界の話をします。ここを飛ばすと、読み物としての値打ちがなくなってしまいます。
第一に、20人です。小さい。20人前後の試験というのは、たまたまそうなった可能性を十分には振り払えません。同じ設計でもう一度やったら違う結果になった、ということが起こりうる規模です。
第二に、参加者は健康な中高年です。66±6歳という年齢は、この記事を読んでくださっている方に近いかもしれません。けれど「健康な」という条件がついています。持病のある方、薬を飲んでいる方に、そのまま当てはめられる結果ではありません。
第三に、測ったのは急性の反応だけです。入る前と、入った後。それだけです。半年後どうだったか、十年後どうだったかは、この試験からは何もわかりません。
第四に、私たちが確認した範囲では、日本国内で日本人を対象に同じ設計で行われた研究は見当たりません。気候も、住まいの造りも、入浴の習慣も違う土地の20人だということは、頭の隅に置いておいたほうがいいと思います。
一方で、良い点もあります。男性9人に対して、女性11人。女性のほうが多いのです。サウナの長期研究の多くがフィンランドの中年男性を対象にしてきたことを思うと、女性が半数を超えている点はめずらしく、貴重です。
それでも、20人です。この一文は、何度でも添えておきます。

80℃・湿度20%を、岩手のサウナ室に置いてみる
研究の条件は、80℃・湿度20%でした。
数字だけ見ると、そう高くありません。日本のサウナ施設に慣れた方なら、ぬるいと感じる温度かもしれません。
けれど、私たちがお引き渡ししたお宅のコントロールパネルは、90℃台を指していることのほうが多いのです。しかも、上段に座れば体感はさらに上がります。同じ一室でも、上段と下段では十℃以上の差が出ることは珍しくありません。熱は上へたまるからです。研究の80℃に近い環境で座りたければ、実際には下段のほうが近い、ということになります。
湿度20%というのも、静かな数字です。ロウリュを打てば、湿度は跳ね上がります。石に水をかけた瞬間、温度計の針はほとんど動かないのに、肌に触れる熱だけが明らかに変わる。あの変わり方は、温度計では説明できません。研究が測っていたのは、ロウリュを打つ前の、乾いた静かな80℃だったと考えるのが自然です。
薪サウナは、さらに事情が違います。電気ヒーターと違って、薪は燃え上がり、やがて熾になります。温度は一定ではなく、上下します。この揺れは欠点ではありません。薪サウナの性格そのものです。ただ、研究のように「80℃を10分」ときっちり再現しようとすると、薪はなかなか言うことを聞いてくれません。
研究の条件と、現場の実際。この距離を正直に測っておくことが、数字を自分の暮らしに引き寄せる第一歩だと思っています。

二回目に入る前の、氷点下の休憩
もうひとつ、岩手ならではの話を書いておきます。
10分間を2回、という設計には、当然その間に休憩があります。ただ、その休憩をどれくらいの長さで、どんな環境で取ったのかまでは、今回扱う資料には書かれていません。
これは、実は小さくない話です。
盛岡の一月、外気浴のスペースは氷点下です。夏の外気浴と冬の外気浴では、体の戻り方がまるで違います。夏なら十分ほどかけてゆっくり冷えていくところが、冬は数分で芯まで冷えてしまう。そのまま二回目に入ると、体は温め直しからやり直しになります。
私たちが見てきた範囲では、冬に外気浴を長く取りすぎて、二回目が苦しくなってしまう方が少なくありません。夏と同じつもりで座っていると、冬の東北の外気は容赦がないのです。
ですから冬は、休憩の場所を選ぶことをおすすめしています。風の当たらない軒下。脱衣所の温度を落としすぎない設計。屋外サウナなら、扉を開けてすぐのところに腰かけられる場所があるかどうか。こうしたことは、設計の段階で決まってしまう場合が案外多いものです。
そして、いちばん大事なことを書きます。
体調がすぐれない日は入らない。持病のある方、薬を飲んでいる方は、まず主治医にご相談ください。無理に高温にしない、無理に回数を増やさない。研究に出てくる条件は、体調を押してまで真似るものではありません。

火が回って、温度計の針が動き始めるまでの時間。
その間に体の中で何が起きているのかは、まだ全部はわかっていません。20人の小さな試験が見せてくれたのは、上がる側と抑える側が一緒に動いていた、という一場面だけです。長期の研究が見ていたのは、それとは別の時間軸でした。
わからないことは、わからないまま。それでも、静かに座る時間はそこにあります。
D'STYLEは盛岡で、自宅サウナの設計と施工、薪サウナストーブの取り付けをしています。上段と下段の高さ、休憩する場所の位置、冬の外気の入り方。研究の再現ではなく、その家の冬に合う温度を一緒に探すのが、私たちの仕事です。ご相談は、国道4号沿いのショールームで承ります。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Hussain J, ら. Complementary Therapies in Medicine, 2020(健康な中高年20人・男性9人/女性11人・66±6歳、順序をランダム化したクロスオーバー試験。80℃・湿度20%で10分×1回/10分×2回/安静対照の3条件。IL-6とIL-1raが上昇し、2回条件でIL-6の反応が大きかった)
- Kunutsor SK, Laukkanen T, Laukkanen JA. Annals of Medicine, 2018(KIHD。サウナ頻度が高い群ほど多変量調整後のhsCRPが低かったと報告。観察研究であり因果関係を示すものではない)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



