「サウナに入ってもタイムは伸びなかった」という報告があります。理由を探っていくと、腰の高さで実測した気温が31℃だった、という一行に行き当たりました。表示温度と、体が実際に受けている温度は、同じではありません。岩手・盛岡で自宅サウナの設置を手がける私たちが、現場でストーブ直上から足元まで温度を測ってきた経験から、この研究を読みます。
設定は50℃、しかし腰の高さは31℃だった
バスケットボール、フットサル、アイスホッケー、アメリカンフットボールの女子選手40名(最終的に解析されたのは36名、サウナを使う群18名・使わない対照群18名、平均年齢22〜23歳)を対象にした試験があります。フィンランドの研究チームが2025年にFrontiers in Sports and Active Living誌に発表しました。
サウナ群は、練習のあとに設定温度50℃の赤外線サウナに1回10分、週3回、6週間、合計18回入りました。ここでひとつ、静かに書かれている数字があります。「設定は50℃だが、腰の高さで実測した気温は約31℃だった」という一文です。赤外線サウナは、フィンランド式のように空気全体を高温にする方式ではなく、体に近い赤外線パネルで局所的に温めます。パネルの表示は50℃でも、離れた場所の空気温はそこまで上がらない、という構造です。
表示された数字と、体が受けている数字がずれる。これは私たちが自宅サウナの施工現場で、ストーブの直上・上段ベンチ・下段ベンチ・足元の四点で温度を測るたびに目にしてきたことでもあります。同じ室内でも、座る場所によって受ける熱はまったく違います。この研究の一行は、現場の実感と重なりました。

20mスプリントも最大筋力も、群の差はなかった
6週間後、20mスプリントのタイム、最大随意収縮(思い切り力を入れたときに出せる筋力)、スクワットジャンプの高さには、サウナ群と対照群のあいだで統計的な差が出ませんでした。太もも前面の筋肉(外側広筋)の断面積は両群とも増えていましたが(サウナ群21.21→22.81平方センチ、対照群23.17→24.12平方センチ、いずれも統計的に意味のある増加)、二つの群を比べる「交互作用」という検定では有意差がなく、サウナを使ったから余分に増えた、とは言えない結果でした。
一方で、差が出た項目もありました。体重の15%の重りを持ったカウンタームーブメントジャンプ(反動をつけた垂直跳び)の跳躍高は19.5センチから21.0センチへ(p=0.006)、瞬発的な力の出力(ピークパワー)は2,519ワットから2,690ワットへ(p=0.002)、いずれもサウナ群のほうが伸び方が大きいという交互作用が見られました。都合の良い項目だけを取り出さず、動かなかった項目と動いた項目を両方並べておきます。

10研究・199名のまとめでも、効果は「小さい」
個別の研究だけでなく、複数の研究をまとめた解析(メタ解析)も報告されています。2025年にBMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation誌に載った解析は、10本の研究、合計199名(男性156名・女性43名、20〜32歳)を対象に、暑熱環境(33〜40℃)での運動能力への影響を調べました。結果は比率の平均が1.04、その推定の幅(95%信頼区間)は0.94〜1.15で、統計的に意味のある差ではありませんでした(p=0.46)。研究チーム自身が、この結論の確からしさを「低い〜非常に低い」と評価しています。
さらに2026年、プレプリント(査読前論文)として公開されたベイズ流の解析では、筋力トレーニング後の温熱療法を扱った6研究をまとめ、筋肥大の効果量は0.12、推定の幅(信用区間)は−0.09〜0.31で、温熱側が有利である確率は89.7%と算出されました。筋力については−0.05(−0.28〜0.19)で、意味のある差はありませんでした。効果があるともないとも言い切れない、幅の広い結果です。
「サウナは筋トレの代わりにならない」という、静かな結論
三つの報告を並べると、共通する像が浮かびます。サウナで運動パフォーマンスが劇的に伸びるという証拠は、今のところ乏しい。一方で、瞬発力に関する一部の項目にはわずかな動きが見られる。そして、その効果の大きさを測ろうとすると、条件――温度、時間、対象者、測定方法――によって数字が大きくぶれる、ということです。
これらの研究の対象は、いずれも20代前後の若い競技選手や運動習慣のある成人です。年齢を重ねた方や、運動習慣のない方に同じ結果が当てはまるかどうかは、この研究からは分かりません。また、いずれも観察研究ではなく比較試験ではありますが、期間は6〜8週間と短く、長期的な影響を示すものではありません。

現場で温度を測ると、いつも同じ場所が違う
私たちが自宅サウナの施工前後に温度計を持ち込むのは、この「表示と実測のずれ」が設計そのものに関わるからです。ストーブの真上は瞬間的に高温になりますが、足元は思ったより上がらない。窓際に近い座席は冷えやすい。ロウリュ(サウナストーンに水をかけて蒸気を出すこと)をかけた瞬間だけ体感が跳ね上がる、ということもあります。
この研究の「設定50℃・実測31℃」という一行は、赤外線サウナに限った話ではありません。フィンランド式の薪サウナでも、同じ室内でどこに座るかで受ける熱はまったく違う、という現場の実感そのものです。表示温度だけを見て「効くはずだ」「効かないはずだ」と判断するのは、少し早いのかもしれません。
岩手でサウナを検討する方へ、売る側からの一言
盛岡でショールームを構え、年間を通じて自宅サウナの設置に携わっていると、「サウナに入れば体力がつきますか」と聞かれることがあります。今回紹介した研究を踏まえると、正直な答えは「運動能力が明確に上がるという強い証拠は、今のところありません」というものです。
それでも私たちがサウナを設置し続けているのは、体力向上のためではなく、火を焚いて汗をかき、雪の中で外気に触れる時間そのものに価値があると考えているからです。効能を約束する道具ではなく、暮らしの中に静かな時間を作る設備として、ハルビアの薪サウナヒーターや赤外線方式など、複数の方式からご相談に合わせてご提案しています。

「サウナは効かなかった」という報告を、そのまま見出しだけで終わらせず、条件まで下りて読むと、違う景色が見えてきます。設定温度と実測温度のずれ、対象者の年齢や競技レベル、観察期間の短さ。どれも、記事の見出しには出てこない情報です。\n\n私たちは研究を紹介する立場であり、効能を保証する立場ではありません。サウナに何を期待するかは人それぞれですが、少なくとも「運動能力が上がる」という一文を鵜呑みにする必要はない、ということは伝えておきたいと思います。持病のある方、体調に不安のある方は、必ず主治医にご相談ください。\n\n本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Ahokas E ほか, Frontiers in Sports and Active Living, 2025(PMC11913669)
- BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation, 2025(PMID 39762944)
- Hopper A ほか, SportRxiv プレプリント, 2026
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



