走れない日が続く冬に、走らずに温まるだけの5週間を測った研究が2025年に出ました。よく鍛えられたランナー10名。40℃以上の湯に1回45分、週5回。5週間のあとで、ヘモグロビン量が33グラム、総血液量が284ミリリットル増えたと報告されています。ただし、この研究で使われた熱は湯であって、サウナではありません。数字と限界を並べたうえで、岩手の冬に45分をどう作るかというところまで書きます。
雪が積もった朝に、走る予定が消える
盛岡の1月は、朝6時でもまだ暗いままです。玄関を開けると、夜のうちに降った雪が昨日の足跡をきれいに埋めています。道の端には除雪車が寄せた雪の山。日中に少しだけ溶けて、朝には氷になっています。
走るつもりで靴紐を結んだ人が、そこで足を止める。
11月から3月まで。岩手で走る人、自転車に乗る人にとって、この5か月は距離が落ちる季節です。路面が凍る。日が短い。風の強い日は体感がまるで違う。無理をして転べば、その先のひと月がまるごと消えます。だから今日はやめておく。判断としては正しいのに、走らなかった日の夜は、どこか後ろめたい。
そういう話を、店の薪ストーブの前でよく聞きます。フルマラソンに出ている方。八幡平のほうまで自転車で登る方。山を歩く方。皆さんが似た言い方をされます。冬に、積み上げてきたものが減っていく感じがする、と。
その冬に少しだけ重なる研究が、2025年に出ました。走る量は増やさず、ただ温まる。それを週5回、5週間続けた10名の体で、血液とVO2max(最大酸素摂取量)が動いたと報告されています。
ただし、この研究で使われた熱は、サウナではありません。先にその話をさせてください。

先に断ります。この研究の熱は、湯でした
この研究の加熱手段は温浴です。英語ではhot-water immersion。40℃以上の湯に、1回45分。サウナ室ではありません。
湯とサウナの空気は違います。湯は体の表面全体を同じ温度で包み、熱の伝わり方が速い。サウナは空気ですから、湿度や天井までの高さ、座る段によって、同じ室内でも体が受ける熱が変わります。ロウリュをかけた瞬間だけ体感が跳ね上がる、ということも起きます。
つまり、同じ「温める」でも条件が別物です。
ですからこの記事は、サウナに入るとこうなる、という話ではありません。体を温めることを調べた研究に、こういう報告がある、という話です。
私たちはサウナを設計して設置している側の人間です。だからこそ、条件をずらして自分に都合よく読ませることは、やめておきます。研究は研究のまま置いて、そのあとで岩手の冬の話に移ります。

10名が、5週間かけてやったこと
報告したのはJenkinsらの研究チームです。掲載誌はThe Journal of Physiology、2025年。カーディフ・メトロポリタン大学ほかによるものです。
対象は、よく鍛えられたランナー10名。うち男性が9名。平均のVO2maxは64.5±8.1 mL/kg/分でした。VO2max(最大酸素摂取量)とは、全力で動いたときに、体重1kgあたり1分間に取り込める酸素の上限のことです。64という値は、市民ランナーの中でもかなり高いほうに入ります。
方法は被験者内クロスオーバー試験でした。これは、参加者を2つのグループに分けるのではなく、同じ人が期間をずらして両方の条件を経験し、自分自身と比べるやり方です。人数が少なくても差をとらえやすい代わりに、季節の移り変わりや体調の変化が結果に混じりやすい、という弱点もあります。
やったことは単純です。普段の練習はそのまま続けたうえで、40℃以上の湯に1回45分。それを週5回、5週間。運動を足さずに、ただ体を温めることを、受動的暑熱曝露(じゅどうてきしょねつばくろ)と呼びます。受け身で熱を浴びる、という意味です。
回数にして25回。時間にすれば1,125分、18時間45分。5週間でこれだけの時間、湯に浸かった。まずこの手間のほうを、頭の隅に置いてください。
増えたのは、血液でした
5週間のあとに測られた値を、そのまま並べます。いずれも温浴の期間の前後を比べた変化です。
ヘモグロビン量が33グラム増えた(95%信頼区間 18〜49グラム、p<0.001)。ヘモグロビンは、赤血球の中にあって酸素を運ぶたんぱく質です。その体内の総量が33グラム増えた、という報告です。95%信頼区間というのは、本当の値はこのあたりだろう、という推定の幅のこと。p<0.001は、偶然では説明しにくい差、という意味です。
総血液量が284ミリリットル増えた(95%信頼区間 113〜455ミリリットル)。350ミリリットルの缶よりやや少ないくらいの量です。ただし推定の幅は113から455まであって、かなり広い。
左室拡張末期容積が10ミリリットル増えた(95%信頼区間 6〜13ミリリットル)。心臓の左の部屋、左心室が、いちばん膨らんだときに入る血液の量のことです。1回の拍動で送り出せる量に関わります。
VO2maxが2.7 mL/kg/分上がった(95%信頼区間 1.4〜4.1)。
そしてVO2maxに到達したときのトレッドミルの速度が、0.8 km/h速くなった。
走る人にとっていちばん手触りがあるのは、最後の0.8 km/hでしょう。ただしこれは、限界近くまで追い込んだ場面での速度です。日々のジョグのペースがそのまま速くなる、という意味ではありません。
なぜ、血液の話になるのか
研究チームは、VO2maxの改善を最もよく説明した独立の予測因子がヘモグロビン量だった、と報告しています。独立予測因子とは、ほかの要素の影響を差し引いても結びつきが残った項目、という意味です。ここは、複数の要素を同時に扱った解析(多変量解析)から出てきた結果になります。
そこに心臓側の変化、つまり左室拡張末期容積を加えたモデルでは、あてはまりの良さを示すR²が0.961でした。R²は0から1までの数字で、1に近いほど、そのモデルが手元のデータをよく説明できているという意味になります。
ただし、よく説明できたことと、原因だと確かめられたことは別の話です。加えて、一般に人数が少ないほど、モデルは手元のデータによく合いやすくなります。0.961という数字だけを取り出して、仕組みが解明されたと読むのは行き過ぎでしょう。
この研究が言えているのは、ここまでです。酸素を運ぶ側の総量が増えたこと。それを送り出す部屋が少し大きくなったこと。そして、VO2maxの伸びが前者とよく結びついていたこと。5週間の中で、それらが一緒に動いていた、というところまで。
10名という小ささを、そのまま置いておきます
この研究には、はっきりした限界がいくつもあります。良い数字だけを取り出さないために、並べておきます。
まず人数です。10名。しかも男性9名、女性1名。男女で分けて論じることはできません。
次に対象です。よく鍛えられたランナーでした。平均のVO2maxは64.5。日常的に走り込んでいる体で起きた変化であって、運動の習慣がない方や、持病のある方に同じことが起きるかどうかは、この研究からは言えません。
場所も違います。英国での研究です。日本人を対象にしたものではありません。気候も、住まいの断熱も、湯に浸かる習慣も違います。
数字の幅も見ておきます。総血液量の推定の幅は113〜455ミリリットル。上と下でおよそ4倍の開きがあります。10名という人数では、この幅の広さは避けられません。
それから、私たちが手元で確認できている数字は、いま挙げたものだけです。ほかの指標がどうだったのかは分かりません。都合の良い結果だけを選んだつもりはありませんが、見られる範囲には限りがある、と正直に書いておきます。
そして、繰り返します。加熱手段は湯でした。サウナではありません。
岩手の冬に、45分をどう作るか
まず、はっきりさせておきます。研究の45分は、湯に浸かり続けた45分です。サウナ室に45分座り続ける、という意味ではありません。私たちが見てきた範囲では、家庭のサウナは10分ほどで一度出て、体を冷まし、また入る、という区切りで使われることがほとんどです。
ここから先は、研究の再現の話ではありません。冬の岩手で、温まる時間を45分ぶん確保するには家の側に何が要るか、という段取りの話です。
薪サウナストーブの場合、いちばん時間を食うのは立ち上がりです。私たちが見てきた範囲では、外気温が氷点下の日、屋外の薪サウナで、着火から使える温度に落ち着くまでにおよそ1時間前後かかります。ただしこれは、室の広さ、断熱の入り方、風の向き、薪の乾き具合で毎回変わります。同じ小屋でも、11月と1月では違います。
薪は、乾いたものをおすすめします。目安として2年ほど乾かしたもの。雪をかぶった薪を使うと、立ち上がりが伸びるだけでなく、煙突の内部に煤とタールが付きやすくなります。薪棚に屋根をかけて、風が抜けるように積む。これは冬が来る前の仕事です。
サウナストーンは、温まるまでに時間がかかる代わりに、温まってからは熱を抱えてくれます。扉の開け閉めで下がった室温を、石が戻す。ストーブ本体の鋳物や鋼板は上がり下がりが速く、石はゆっくり。この速度差を知っておくと、薪を足す間隔が読めるようになります。
家族で入るなら、順番を決めておくだけで薪の量が変わります。扉が開くたびに熱は逃げるからです。入れ替えを続けざまに済ませてしまうほうが、結果として楽になります。
火の管理そのものを減らしたい方には、ペレットサウナという選び方もあります。燃料を入れて点火すれば、あとは機械が温度を保ちます。45分という時間を作る、という一点だけで見れば、こちらのほうが手間は少ない。薪の音と炎を取るか、手間の少なさを取るか。ここは好みの話です。

汗をかく前に、水を用意する
岩手の冬は乾きます。外の空気が乾いていて、暖房を焚いた家の中はさらに乾く。夏ほど汗を意識しないぶん、水分が減っていることに気づきにくい季節です。喉が渇いたと感じたときには、もう減っています。
入る前に一杯。出たあとに一杯。長く過ごす日は、途中にも一杯。これは効能の話ではなく、単純な段取りです。
そのうえで、はっきり書いておきます。研究の条件、つまり40℃以上の湯に45分というやり方を、家でそのまま真似しないでください。研究は管理された環境で、体調を見ながら行われたものです。
お酒を飲んだあとに入らない。ひとりで長く入らない。年配のご家族と入るときは、温度を低めから始めて、下段に座っていただく。のぼせは、本人が気づく前に周りが気づくことのほうが多いものです。
血圧のお薬を飲んでいる方、心臓や血管に持病のある方、妊娠中の方は、入る前に主治医にご相談ください。この研究の対象は、よく鍛えられた若いランナーでした。同じ条件の話ではありません。

走れない冬の、もう一つの時間
雪の日の夕方、サウナ小屋の煙突から煙が上がるのを見ていると、あれで一日が締まるな、と思います。走れなかった日でも、火は入る。薪を運んで、割って、燃やして、温まって、外へ出て、冷たい空気を吸う。それだけの時間です。
今回の研究が示したのは、湯に浸かった10名の体で、血液の量とVO2maxが同じ5週間の中で一緒に動いた、という報告でした。それ以上でも、それ以下でもありません。サウナで同じことが起きるとは書かれていませんし、私たちもそう言うつもりはありません。
ただ、冬の岩手で走れない日が続くとき、家に温まる場所があると、その5か月の過ごし方は少し変わります。私たちが見てきた範囲では、それは体の数字よりも先に、生活の側に現れます。夕方に予定ができる。家族と同じ時間に座る。それくらいのことです。
当社ではハルビアの薪サウナストーブ(レジェンド150、レジェンド300ほか)と、ペレットサウナのVENERE maticを扱っています。盛岡・国道4号沿いのショールームで実際に火を入れていますので、設置の可否や薪の手当てを含めて、冬が来る前にご相談ください。岩手の冬は、着工が遅れるとそのまま一年ずれます。
紹介した研究は10名を対象とした小規模な報告で、加熱手段は温浴であってサウナではありません。ヘモグロビン量とVO2maxの結びつきは統計上の関連であり、因果関係を確かめたものではありません。持病のある方、お薬を飲んでいる方は、必ず主治医にご相談ください。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Jenkins ほか, The Journal of Physiology, 2025(PMID 41267396、カーディフ・メトロポリタン大ほか)。よく鍛えられたランナー10名(うち男性9名、VO2max 64.5±8.1 mL/kg/分)の被験者内クロスオーバー試験。通常練習に加え、40℃以上の温浴に1回45分、週5回、5週間の受動的暑熱曝露。
- 上記研究の報告値:ヘモグロビン量+33 g(95%CI 18〜49、p<0.001)、総血液量+284 mL(95%CI 113〜455)、左室拡張末期容積+10 mL(95%CI 6〜13)、VO2max +2.7 mL/kg/分(95%CI 1.4〜4.1)、VO2max到達時のトレッドミル速度+0.8 km/h。ヘモグロビン量がVO2max改善の最も強い独立予測因子、心臓側の適応を加えたモデルのR²=0.961。
- 加熱手段に関する注記:本研究の加熱はサウナではなく温浴(hot-water immersion)である。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



