十二月の盛岡。国道4号沿いのショールームには、駐車場の雪を長靴ではらってから入ってこられる方が多くなります。薪ストーブの前で手をあぶりながら、世間話の続きのように聞かれます。サウナに入っていれば、風邪をひかなくなるんですか、と。正直に申し上げます。私たちは、そうは言いません。ただ、この質問には古い研究と新しい研究があります。しかも二つは、少し食い違って見えます。今日はその二つを、都合のいいところだけを抜き出さずに並べてみます。
サウナで風邪をひかなくなりますか、と聞かれて
この質問が増えるのは、だいたい十一月の終わりからです。岩手の冬は、朝の車のフロントガラスが白く凍る日から本番になります。喉の奥がひりつく、家族が順番に寝込む、そういう季節の入口で、皆さん同じことを口にされます。
私たちは、サウナで風邪をひかなくなります、とは言いません。サウナを売っている店が言えば、それは商売の言葉になってしまうからです。三代にわたって火を扱ってきた家で、煙突の煤を落とす仕事を続けてきました。火のことは、言い過ぎないほうが長く信用される。現場で学んだのはそれだけです。
ただ、質問そのものは真っ当です。実際に、サウナと風邪を調べた研究はあります。よく引かれるのは1990年の小さな試験。そして2025年には、それとは向きの違う結果を出した比較試験も出ています。
以前この読みものでは、風邪のときサウナに入っていいか、を書きました。今回はその続きにあたります。ただし今回は、体験談ではなく研究の中身で線を引きます。良い結果だけを拾って並べる書き方は、しません。

1990年、ウィーンの50人。くじ引きで六か月を分けた
最初に置くのは、Ernst E, Pecho E, Wirz P, Saradeth T という四人の研究者が1990年に Annals of Medicine に報告した試験です。ウィーン大学から出たものです。
被験者は50人。この50人を、サウナに入る群25人と、入らない対照群25人に無作為に割り付けました。無作為割付とは、平たく言えばくじ引きです。研究者の好みや被験者の希望で振り分けると、もともと元気な人がサウナ群に集まってしまうかもしれない。それを避けるために、割り振りを偶然にゆだねます。
これは大事な点です。サウナの研究の多くは、後から見比べた研究、つまり観察研究です。サウナによく入る人と入らない人を長年追いかけて、結果を比べる。この形だと、サウナが良かったのか、サウナに通えるだけの体力と時間と余裕があったのが良かったのか、分けきれません。
その点、1990年の試験はくじ引きで分けています。数としては小さいけれど、形としては筋が通っている。だからこの研究は、三十五年たった今でも引かれ続けています。追跡した期間は六か月。冬をまたいで、風邪をひいた回数を数えました。
六か月というのは、風邪の季節をひととおり含む長さです。一冬を通して数えた、と言い換えてもいいと思います。
減ったのは回数。つらさと日数は変わらなかった
結果です。サウナ群のほうが、風邪のエピソード数、つまり風邪をひいた回数が有意に少なかったと報告されています。有意というのは、偶然のばらつきでは説明しにくい差、という意味の統計の言葉です。効果が大きいという意味ではありません。
さらに、六か月のうち後半の三か月では、発症率がおよそ半減したとされています。前半では差がはっきりせず、後半で開いた。この形は、続けた人としばらく続けなかった人の違いを考えるうえで、覚えておきたい部分です。
ここまでなら、気持ちのいい話です。けれども、同じ論文にはもう一つ書いてあります。風邪の平均持続日数と、平均重症度、つまりつらさの程度には、群の間で差がなかった。
回数は少なかった。けれども、ひいてしまえば、長さも重さも変わらなかった。この二つは同時に報告されています。片方だけを紹介するのはフェアではありません。
回数は減って、つらさは変わらない。読み手の期待とは、少しずれた形です。けれども研究の結果というのは、たいていこういう半端な形で出てきます。きれいに揃った話のほうを、私は疑うようになりました。
そして著者たち自身が、確認にはさらなる研究が必要だと述べています。50人という規模、1990年という時代。この試験ひとつで何かが決着したわけではない、というのが書いた本人たちの立場です。私たちが引用する側の姿勢も、そこに合わせるべきだと思っています。
三十五年後、オレゴンの20人が並べた三つの温まり方
新しいほうを見ます。2025年、オレゴン大学のグループが American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology 誌に報告した比較試験です。掲載は329巻R20-R35ページ。
参加したのは健康な成人20人。うち女性10人、年齢は24±4歳と記されています。プラスマイナス4というのは、平均24歳で、その前後におよそ4歳の幅で散らばっている、という意味です。つまり二十代前半の若い人たちです。
この20人が、三つの温まり方を実施しました。一つ目は40.5℃のお湯に45分つかる全身浴。二つ目は80℃の伝統的なサウナで、10分を3回。三つ目は45〜65℃の遠赤外線サウナに45分。
同じ20人が三つの条件を実施したと記されています。別々の人を比べるのではなく、同じ人に三つをやってもらう。この形だと、もともとの体質の違いが結果に混ざりにくくなります。ただし人数は20人。少人数の試験からわかるのは、傾向のかたちまでです。
設計として面白いのは、比べる相手をサウナ同士ではなく、お風呂に取ったところです。日本の暮らしには、そもそも湯船があります。サウナか、サウナでないか、ではなく、湯とサウナで体の中がどう違うのか。その問いに数字がついた研究は、そう多くありません。

1.1℃と0.4℃。動いたのは湯のほうだった
まず体温です。深部体温、つまり体の芯の温度は、全身浴で1.1℃上がったのに対し、サウナでは0.4℃の上昇にとどまったと報告されています。
次に心拍出量。心臓が一分間に送り出す血液の量のことです。全身浴では毎分3.7リットル増え、サウナでは毎分2.3リットルの増加でした。
そして免疫にかかわる指標です。IL-6という、免疫の細胞どうしが連絡に使う物質の一つが上がりました。24時間後にはNK細胞、これは体の中を見回る役の免疫細胞です、その増加がみられました。24時間後と48時間後には、CD8+T細胞、感染した細胞を片づける役の細胞ですが、こちらの増加もみられました。
ただし、これらが観察されたのは全身浴だけです。この試験の条件のサウナでは、免疫指標に有意な変化はありませんでした。80℃で10分を3回という、日本のサウナ室でもよくある入り方でも、45分と長い遠赤外線でも、そこは変わらなかったことになります。
誤解のないように書き添えます。ここで動いたのは血液の指標であって、風邪をひいた回数ではありません。指標が動いたから風邪をひかない、とは言えない。逆に、指標が動かなかったから意味がない、とも言えない。研究が測ったのは、あくまで一回ずつの温まりに対する体の反応です。
食い違って見える二つを、どこに置くか
1990年は、六か月の暮らしを追って、風邪の回数が少なかったと報告しました。2025年は、一回ずつの温まりを測って、この条件のサウナでは免疫指標が動かなかったと報告しました。
向きが違うように見えます。けれど、見ているものがそもそも違います。片方は半年の生活の積み重ね、もう片方は数十分の急性の反応です。物差しが違うものを、どちらが正しいと競わせても仕方がありません。
対象も違います。1990年はウィーンの50人。2025年は24±4歳の若い健康な20人で、女性は10人。どちらも小さく、どちらも日本人ではありません。岩手の六十代の体に、そのまま重ねられる数字ではない。ここは正直に置いておきます。
そのうえで、施工の仕事をしている人間として気になったのは、深部体温の1.1℃と0.4℃という並びです。同じ45分でも、湯とサウナで芯の温まり方がこれだけ違った。つまり、サウナに入ったかどうかより、体の芯がどれだけ温まったかのほうが、体の反応を分けている可能性がある。研究がそう証明したわけではありません。けれど、読み筋としては自然です。
そしてこの読み筋は、私たちの仕事に直接つながります。芯まで温まるかどうかは、室温の数字だけでは決まらないからです。

岩手の冬、芯が温まる前に外へ出ていないか
私たちが見てきた範囲での話を書きます。研究に書かれていることではありません。
岩手の冬のサウナは、夏とはまるで別物です。脱衣所が寒い。床が冷たい。サウナ室に入る前の体が、すでに冷え切っている。その状態で座ると、まず体の表面だけが熱くなります。背中がちりちりして、顔が火照る。もう十分だ、という気になります。
そこで外に出て、水風呂か雪へ向かう。氷点下の外気浴は気持ちがいい。けれども、芯まで温まる前に表面だけを熱くして、また芯まで冷やす。この往復を繰り返している方を、実際にお見かけします。
ロウリュを打てば、体感は一気に上がります。息が熱くなって、腕の産毛が立つ。あれは気持ちのいいものです。ただ、体感が上がることと、芯が温まることは、必ずしも同じではありません。蒸気で一瞬熱くなった直後に出てしまうと、表面だけを熱くして終わることになりがちです。
上段と下段の差も大きい。天井近くは熱く、足元はぬるい。頭が熱くて足が冷たいまま、我慢比べのようになってしまう。それより下段に長く座って、足元から温める。時間はかかりますが、湯船につかったときのじんわりした温まり方に近づきます。
オレゴン大の結果を横に置くと、この違いは無視できない気がしてきます。四十度そこそこのお湯に四十五分つかったほうが、芯は温まっていたのですから。
もちろん、長く入れば良いという話ではありません。のぼせは危険です。体調が悪い日は入らない。お酒を飲んだあとは入らない。水風呂は心臓に負担がかかりますから、血圧や心臓の持病がある方、薬を飲んでいる方は、必ず主治医に相談してから。この順番だけは、譲れません。

温度は設計できます。体のほうは、人それぞれです
では施工屋に何ができるか。温度そのものより、温度が保てる形をつくることです。
まず断熱と気密。岩手の外気は氷点下十度を下回ります。壁と天井の断熱が足りないと、ストーブの力で無理に温度を稼ぐことになり、上だけ熱くて下がぬるい部屋になります。石の量と容量に余裕を持たせるのも同じ理由です。
次に脱衣所です。ここが寒いと、温まった体が入るたびに冷やされます。サウナ室の中だけを設計して、その手前を忘れている例は少なくありません。外気浴のスペースも同じで、風の当たる向きひとつで冷え方が変わります。
ベンチの高さも設計事項です。下段でじっくり温めたいなら、下段が座って落ち着ける高さと奥行きになっている必要があります。上段しか使えない寸法の部屋では、結局のぼせて出るだけになります。
換気も忘れられがちです。空気が動かない部屋は、上ばかり熱くなって、長く座っていられません。給気と排気の位置をどこに取るかは、温度計の数字には表れない仕事です。
給湯と追い焚きも見ます。サウナのあとに湯船へ入りたい方は、岩手では多い。湯温が落ちない設計にしておくと、その日の入り方の選択肢が増えます。
ここまで書いてきたことは、研究がサウナの効き目を示したという話ではありません。ただ、体の芯が温まるかどうかで反応が違ったという報告があるのなら、芯まで温まりやすい部屋をつくるのは、道具をつくる側の仕事だと考えています。

サウナで風邪をひかなくなります、とは今日も言いません。1990年の試験は回数が少なかったと報告し、同時に、つらさと日数は変わらなかったとも報告しました。2025年の試験は、その条件のサウナでは免疫指標が動かなかったと報告しました。どちらも小さな研究で、どちらも日本の高齢の方を見たものではありません。わかっていることは、思っているより少ない。
それでも、冬の夕方に温まる場所が家にあるというのは、悪くないことだと思います。岩手・盛岡で自宅サウナの設計や薪サウナのご相談を承っています。研究の話とは切り離して、どんな部屋にしたいか、そこから伺います。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、必ず主治医にご相談ください。
参照した研究
- Ernst E, Pecho E, Wirz P, Saradeth T. Annals of Medicine, 1990(PMID 2248758、ウィーン大学):被験者50人をサウナ群25人・対照群25人に無作為割付し6か月追跡。風邪エピソード数が有意に少なく、後半3か月で発症率がおよそ半減した一方、平均持続日数と平均重症度には群間差なし。著者自身が確認にはさらなる研究が必要と述べている。
- University of Oregon. American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, 2025;329:R20-R35(PMID 40332494):健康成人20人(女性10人、24±4歳)が40.5℃の全身浴45分/80℃の伝統的サウナ3×10分/45〜65℃の遠赤外線サウナ45分を実施。深部体温上昇は全身浴+1.1℃に対しサウナ+0.4℃、心拍出量+3.7 L/分に対し+2.3 L/分。IL-6上昇、24時間後のNK細胞増加、24・48時間後のCD8+T細胞増加がみられたのは全身浴のみで、この条件のサウナでは免疫指標に有意な変化はなかった。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



