一月の盛岡。朝いちばんに台所へ立つと、喉の奥が少しいがらっぽい。ストーブを一晩焚いた家の空気は、思っているよりずっと乾いています。 今日は、その「息の通り道」とサウナの頻度を、二十五年かけて追いかけた研究の話です。都合のいい数字だけを並べないように書きます。有意ではなかった結果も、そのまま載せます。
心臓の話ばかりが、先に有名になりました
サウナの研究といえば、心臓や血管の話が知られています。新聞やテレビで取り上げられるのも、たいていそちらです。
けれど同じフィンランドの追跡調査からは、息の通り道――呼吸器のほうを長く追いかけた報告も出ています。日本語ではほとんど紹介されていません。
今回紹介するのは、Kunutsor SK、Laukkanen T、Laukkanen JA の三氏が2017年に European Journal of Epidemiology へ発表した論文です。KIHD という、フィンランド東部で長く続いてきた追跡調査のデータを使っています。
ここで「前向き研究」という言葉が出てきます。先に大勢の人を登録しておいて、その後の年月を追いかけていく研究のことです。あとから記録をたどって「あの人はどうだったか」と見比べるのではなく、最初に名簿を作って、待つ。手間も時間もかかるやり方です。
呼吸器の病気全般とサウナの頻度の関連を、この形で調べたのは初めてとされています。
ただし、最初にお断りしておきます。これは観察研究です。後から見比べた研究、という意味で、原因と結果を証明したものではありません。この一文は、記事の最後までずっと効いてきます。

1,935人を、中央値およそ25年
対象はフィンランドの中年男性1,935人。追跡した期間は中央値で25.6年です。
中央値とは、長さの順に並べたときの真ん中の値のこと。平均とは少し違って、極端に長い人や短い人に引っぱられにくい数字です。
その二十五年余りのあいだに、入院して診断がついた呼吸器の病気が379件、数えられました。
サウナに入る回数で三つの群に分けて比べています。週1回以下の群を「1」としたとき、週2〜3回の群はハザード比0.73、週4回以上の群は0.59でした。
ハザード比というのは、リスクの比のことです。1より小さければ、比べた相手より起こりにくかった、という意味になります。
括弧の中の数字も同じくらい大事です。週2〜3回は95%信頼区間が0.58〜0.92、週4回以上は0.37〜0.94。信頼区間は推定の幅のことで、「本当の値はだいたいこのあたりにありそうだ」という範囲を示します。
どちらも幅の上端が1を下回っています。偶然では説明しにくい差だった、という読み方になります。
一方で、週4回以上の幅は0.37から0.94まで、ずいぶん広い。幅が広くなるのは、その群に含まれる人数が少なく、推定が定まりきっていないときです。0.59という一点の数字だけを取り出して覚えないほうがいい、ということでもあります。
「週2回」は、研究が見つけた境目ではありません
ここは誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。
週1回以下、週2〜3回、週4回以上という分け方は、研究者が調べる前に決めておいた区分です。データを見てから「週2回のところに境目があった」と発見したわけではありません。
ですから、「週2回を超えると何かが変わる」とは言えません。もし区分の切り方が違っていれば、並ぶ数字も違っていたはずです。
この報告が示したのは、あらかじめ決めておいた三つの群を比べたら、こういう順に数字が並んだ、ということ。それ以上でも、それ以下でもありません。
回数が多いほど良い、と一直線に読むこともできません。手元にあるのは三つの点だけで、その間がどうなっているかは、この報告からは分からないからです。
私たちの店でも「週に何回がいいんですか」と聞かれることがあります。正直に申し上げると、研究の数字は、その問いにきれいには答えてくれません。答えられるふりをしないほうが、結局は誠実だと思っています。
同じ流れの研究は、有意でない結果も出しています
都合のいい報告だけを並べると、話は簡単になります。けれど、それでは読んでくださる方に失礼です。
同じ Kunutsor らのグループは、2023年に European Journal of Clinical Investigation(53巻 e13940)で、COPD――慢性閉塞性肺疾患を取り上げた報告も出しています。長年の喫煙などで気道と肺に変化が起き、息が吐き出しにくくなる病気のことです。対象は男性2,658人。
そこでの数字は、週3〜7回の群でハザード比0.53、95%信頼区間は0.20〜1.36でした。
点の値は0.53と小さい。けれど幅が0.20から1.36まであって、1をまたいでいます。1をまたぐというのは、「起こりにくかった」とも「起こりやすかった」とも言い切れない状態のことです。有意ではなかった、と表現します。有意とは、偶然では説明しにくい差、という意味の言葉です。
つまりCOPDに絞って見たときには、はっきりした差は出ていません。
もう一つ、数字の扱いについて。2017年の報告は1,935人で379件、2023年の報告は2,658人。人数も、見ている病気の範囲も違います。呼吸器の病気全般という枠の中には、COPDのような病気も含まれますから、二つは入れ子の関係にあります。件数を足したり引いたりして考えることはできません。
別々の報告を並べて眺めるのはいいのですが、合算はできない。ここは押さえておいてください。

この報告に、湿度と換気の数字は出てきません
ここからは、施工屋としての読み方です。
並んでいるのは、サウナに入る回数と、病気の件数です。サウナ室の湿度がいくつだったか、換気はどうだったか、その日の外気温は何度だったか――そういう数字は、ここで紹介した報告には出てきません。
つまり「頻度」と結びついた関連であって、「湿度」と結びついた関連ではない、ということです。日本語の記事でこの点に触れているものを、私たちはあまり見かけません。
それから、観察研究であることの限界も、もう一度書いておきます。
サウナによく入っていた人は、そもそも時間に余裕があったかもしれない。体を動かす習慣があったかもしれない。逆に、体調のすぐれない人はサウナから足が遠のいていたかもしれない。そういう「もともとの違い」が、数字の背景に混じっている可能性は残ります。
喫煙や運動といった生活の違いがどこまで差し引かれた計算なのかも、ここに挙げた数字だけからは読み取れません。関連が示された、というところで止めておくのが正直なところです。
岩手の冬は、家の中のほうが乾いています
盛岡の一月。窓の外は雪で、家の中はストーブが焚かれています。
私たちが見てきた範囲では、暖房を入れた室内の湿度が30%を切る日は、珍しくありません。洗濯物が半日で乾く。指先が紙に引っかかる。朝起きたとき、喉の奥が少しいがらっぽい。
薪ストーブの前は特にそうです。輻射の熱がまっすぐ届いて、体はよく温まる。けれど空気そのものは乾いている。やかんを載せる、鍋の湯気を立てる、洗濯物を室内に干す――冬の東北の家では、みなさん自然にそれをやっています。
近ごろの家は気密が高くなりました。熱は逃げにくいぶん、換気を止めると空気が動かない。冬に窓を開けたくない気持ちも分かりますが、暖かさと空気の入れ替えは、本来は別の話です。
サウナ室の空気は、これとはまた別のものです。同じ「熱い」でも、蒸気があるかないかで、喉に入ってくる感じがまるで違う。
研究が数えたのは回数だけですが、実際に体が受け取っているのは、熱と蒸気と、その揺れです。ここは数字ではなく、体感の話として書いておきます。

ロウリュの前と後で、計器の針はどう動くか
サウナ室に温湿度計を一つ置いてみると、面白いことが分かります。
火を入れて温度が上がっていくあいだ、湿度の針は乾いた側へ寄っていきます。空気が熱くなるほど、水分の量が同じでも湿度の表示は下がるからです。
そこへ柄杓一杯。ストーンに水をかけると、針が跳ね上がります。そして数分かけて、ゆっくり戻っていく。この「上がって、戻るまで」の時間が、その部屋の効きだと私たちは思っています。
石の量が効きます。サウナストーンは熱をため込む素材で、量があるほど蒸気が一気に、そして長く立ちます。本体が鋳物のものは、鋼板のものより熱の当たりが柔らかい。同じ温度でも、肌に届く感じが違います。
薪サウナストーブは、電気ヒーターのように温度が一定になりません。薪をくべた直後は上がり、熾になれば下がる。この揺れを嫌う方もいますし、これが好きだという方もいます。
上段と下段でも別物です。天井近くにたまった熱い層と、足元の空気は、同じ部屋の中とは思えないほど違う。
フィンランドの報告に出てくるのは週の回数だけですが、一回一回の中身は、こんなふうに揺れています。
誰を見た研究だったのかを、忘れない
大事なことなので、最後にもう一度書きます。
2017年の報告の対象は、フィンランドの中年男性1,935人です。女性は入っていません。日本人でもありません。追跡が始まったのは、今から数十年前の暮らしの中でした。
住宅の造りも、冬の過ごし方も、食べているものも違います。サウナが生活に組み込まれている国と、これから一台入れようかという私たちの土地では、前提がそもそも違う。
ですから、この数字をそのまま自分の体に当てはめて考えるのは、慎重にしてください。関連が示された、という報告があるだけです。
そのうえで、実務的なお願いを三つ。
持病のある方、薬を飲んでいる方は、まず主治医にご相談ください。体調のすぐれない日、お酒を飲んだあとは入らないこと。年配の方は下段から、短めに、水分を取りながら。
店頭でも、同じことをお伝えしています。研究の話より先に、こちらの話をすることのほうが多いくらいです。

それでも、家に一つあるということ
週2回、週3回という頻度を、冬の岩手で作るのは簡単ではありません。雪道を運転して施設まで通い、それを毎週続ける。頭では分かっていても、二月の夜には続かない。
家にサウナがあると、回数の作り方が変わります。これは効能の話ではなく、単純に距離と時間の話です。
D'STYLEでは、浴室の隣に納める屋内の電気サウナ室から、庭に置く薪サウナストーブ、手間の少ないペレットサウナまで扱っています。HARVIA(ハルビア)のレジェンド300のような薪サウナストーブは、サウナストーンをたっぷり積めるので蒸気が強く出ます。火の管理まで手が回らないという方には、ペレットサウナや電気ヒーターをおすすめしています。
盛岡・国道4号沿いのショールームには、実際に火の入る機械を並べてあります。岩手県内の設置と施工のご相談は、いつでもどうぞ。
冬の夜、サウナ小屋の煙突から煙がまっすぐ立つ日があります。そういう日は、たいてい、よく冷えています。
持病のある方、治療中の方は、主治医の判断を優先してください。体調のすぐれない日は、無理に入らないことです。
ここで紹介した研究はいずれも観察研究であり、原因と結果を証明したものではありません。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Kunutsor SK, Laukkanen T, Laukkanen JA. European Journal of Epidemiology, 2017(KIHD/フィンランド中年男性1,935人・中央値25.6年追跡・呼吸器疾患379件)
- Kunutsor SK ら. European Journal of Clinical Investigation, 2023;53:e13940(男性2,658人・COPD/週3〜7回 HR 0.53、95%CI 0.20〜1.36)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



