熱で変わる場所と、変わらない場所がはっきり分かれた。そんな報告を二つ、続けて読みました。片方は若い人の脚を8週間温め続けた実験、もう片方は高齢の方に8週間サウナに入ってもらった実験です。増えたのは毛細血管でした。筋肉そのものは、どちらの研究でもほとんど動きませんでした。岩手・盛岡でサウナの設置に関わる私たちが、この結果をどう受け止めているかを書きます。
実家の親に、何を言わないか
展示場に立っていると、こんな相談を受けることがあります。「親にサウナを一台置いてやりたいんだけど、筋力の維持にもなりますかね」。気持ちはよく分かります。岩手はおよそ3人に1人が65歳以上という土地で、雪の季節は外を歩く機会がぐっと減ります。何か体のためになる一台を、と考えるのは自然なことです。
ただ、この問いに正直に答えるなら、今のところ「筋力が維持できます」とは言えません。むしろ研究のほうが、そこをはっきり線引きしています。今回はその研究を二つ、そのまま紹介します。

若い人の片脚だけを8週間温めた実験
一つ目は、Hafen PSらがJournal of Applied Physiologyに2020年に発表した研究です。20代前半の若年成人12名(平均23.6歳)の、片方の脚だけを約52℃の温水を流すウェアで温め続けました。1回90分、週5日、8週間。反対側の脚は温めず、同じ体の中で左右を比べる形の実験です。
温めた脚では、eNOS(血管を広げる働きに関わる酵素)の量が4週間で約18%、8週間で約35%増えていました。また、加齢や不動で起きがちなタイプII線維(瞬発的に働く筋線維)周囲の毛細血管の減少が、温めた脚では起きませんでした。
一方で、筋肉そのものの太さ(筋線維の横断面積)や、細胞内でエネルギーを作るミトコンドリアの量には、左右で差がありませんでした。血管まわりは動いたけれど、筋肉そのものの量は動かなかった、ということです。
高齢の方に、実際にサウナで温めた実験
二つ目は、より私たちの仕事に近い条件です。Fuchs CJらが2024年に発表した研究で、健常な高齢者14名(男性9名・女性5名、平均73歳)に、約60℃の赤外線サウナに1回45分、週3回、8週間入ってもらいました。
結果は先ほどの実験とよく似ています。毛細血管の数(タイプI線維で31%、タイプII線維で33%、いずれも統計的に意味のある差)は増えました。ところが、安静時の筋タンパク質合成の速さ、食後の筋タンパク質合成の速さ、太ももの筋肉(外側広筋)の断面積、脚を伸ばす力の最大値のいずれも、8週間の前後でほとんど変化がありませんでした。数字の上では、増えたとも減ったとも言えない範囲に収まっていたということです。
ここで一つ、条件を正確に書いておきます。この研究で使われたのは約60℃の赤外線サウナです。私たちが施工している80〜90℃のフィンランド式ロウリュサウナとは、温度も熱の伝わり方も別のものです。ハルビアのヒーターで作る蒸気の熱と、赤外線パネルの熱は、体への効き方が同じとは限りません。この違いを混同したまま「サウナで血管が」と言ってしまうと、条件の違う話を一緒くたにすることになります。

毛細血管が増える、とはどういうことか
毛細血管というのは、体中に張り巡らされた、髪の毛より細い血管のことです。ここを通って、酸素や栄養が筋肉や皮膚の隅々まで届きます。年齢を重ねると、この毛細血管の数はだんだん減っていくことが分かっています。今回紹介した二つの研究は、その毛細血管の数が、熱を加え続けることで維持されたり増えたりする可能性を示したものです。
ただし、これは「筋肉が強くなった」という話とは別です。筋肉そのものが太くなる、力が強くなる、というのは別の仕組みで起きることで、今回の二つの研究では、そこには変化が見られませんでした。

筋トレの代わりにはならない、という線
サウナを扱う店として、ここは正直に書いておきたいところです。サウナは筋トレの代わりにはなりません。研究のほうがそう言っています。
増えたのは血管、変わらなかったのは筋肉。この線引きを飛ばして「サウナで体が若返る」とまとめてしまうのは、研究に書かれていないことまで運んでしまうことになります。私たちがお客様に一台をお勧めするときも、この線は越えないようにしています。
それでも、この結果に意味はあると思う理由
筋肉は変わらなかった、で終わる話ではないとも思っています。毛細血管が維持される、あるいは増えるという報告は、体を動かしにくい季節にとって小さくない話です。岩手の冬、雪かきと凍結路のせいで歩く距離が減る4か月は、体のあちこちで血の巡りが鈍りがちな時期でもあります。
運動の代わりにはならなくても、動けない時期の体に対して、何か一つ悪くない習慣を積み重ねられるとしたら、それは価値のあることだと考えています。ただし、それを「効果」と呼ぶには、まだ研究の数が少なすぎます。

数字の限界も、正直に
二つの研究とも、対象者の数はそれぞれ12名、14名と少人数です。若年成人の実験は日本人ではなく、高齢者の実験もオランダの方が対象でした。追跡期間も8週間と短く、これから先、何年もサウナに入り続けた場合にどうなるかは分かりません。持病のある方、服薬中の方がこうした温熱の習慣を取り入れる場合は、必ず主治医に相談していただくようお願いします。
設備屋として、正直に線を引く
私たちはハルビアをはじめ、フィンランド式の薪サウナも、赤外線方式のサウナも扱っています。方式によって温度も体への当たり方もまるで違います。だからこそ、研究に書かれた条件と、実際にお勧めする製品の方式を混ぜて語らないことを、この記事でも徹底しました。
実家に一台、というご相談をいただいたとき、私たちがお伝えするのは「筋力がつきます」ではなく、「こういう研究があって、こう書かれています」という事実そのものです。その上で、どんな一台が暮らしに合うかを、一緒に考えていきたいと思っています。

サウナに入ると血管まわりが変わる、という報告は確かにあります。けれど筋肉そのものは、8週間という期間では動かなかった。この二つを分けて書くことが、研究を紹介する上での最低限の誠実さだと思っています。\n\n私たちはサウナと薪ストーブを商う店です。効能を約束することはできませんし、するつもりもありません。ただ、雪に閉ざされる季節を、少しでも良い形で過ごすための一つの選択肢として、事実に基づいた情報をこれからも届けていきます。ご自宅やご実家への設置を検討される際は、方式や温度の違いも含めて、遠慮なくご相談ください。\n\n本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Hafen PS, et al. Journal of Applied Physiology, 2020. doi:10.1152/japplphysiol.00701.2019
- Fuchs CJ, et al. 2024. PMC11702915
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



