走る量を増やさずに、走り終えたあとの三十分だけを変える。英国の中距離ランナー二十名を三週間追った研究が、そういう試みを数字にしています。最大酸素摂取量はおよそ八パーセント。ただし人数は二十名で、温度は101〜108℃。動いた数字と、延ばした先の小さな上乗せと、この研究が言っていないことを、岩手で薪サウナを施工している側から順に読んでいきます。
十一月、走れる日が減っていく
盛岡の朝は、十一月の半ばを過ぎると路面から変わります。前の日の雨が薄く凍り、アスファルトの色がひとつ暗くなる。北上川沿いの道も、日の当たらない側だけ白く残ります。走る人はそれを見て、その朝のコースを短くします。
冬の岩手で走行距離が落ちるのは、気持ちの問題ではありません。転べば終わるからです。お客様のなかにも、秋まではフルマラソンに向けて積み上げていたのに、十二月から二月はほとんど走らないという方がいます。ジムのトレッドミルに移る方もいますが、片道三十分の運転がついてくると、週の回数はやはり減っていきます。
年が明ければ雪。三月になっても朝晩は凍ります。十一月から三月まで、およそ五か月。この間、練習量のグラフは静かに下がっていきます。春先に「戻すのに一か月かかった」と聞くのは、毎年のことです。
そういう季節に読むと、少しだけ違って見える研究があります。走る量そのものは増やさず、走り終えたあとの三十分だけを変えた研究です。英国で行われ、二〇二一年に報告されました。
数字は決して大きくありません。人数も二十名です。それでも、この研究には珍しい親切さがあります。「どれくらい続ければいいのか」という、いちばん知りたいところに手をかけている。今日はそこを、順番に見ていきます。

二十名を、くじ引きで二つに分けた
研究を行ったのは、英バーミンガム大学ほかのグループです。Kirby NV ほかによる報告で、二〇二一年に Frontiers in Physiology という学術誌に載りました(PMC7862510)。
対象は中距離ランナー二十名。平均年齢は二十±二歳、つまり十八歳から二十二歳あたりの若い競技者です。試験を始める前の最大酸素摂取量は 56.1±8.7 mL/kg/分。同年代の平均よりかなり高い、すでに鍛えられた集団でした。
この二十名を、くじ引きのように無作為に二つに分けています。無作為化比較試験、つまり、あらかじめ人を割り振ってから比べる研究です。後から成績のいい人を集めて見比べる形(観察研究)とは違い、条件をそろえやすくなります。内訳はサウナ群が十二名、対照群が八名でした。
サウナ群がやったことは、こういう内容です。練習を終えてから五分以内に、101〜108℃のサウナに入る。一回あたり 28±2 分。これを週に 3±1 回、三週間続ける。合計で 10±1 回、時間にして 290±48 分。だいたい五時間弱です。
対照群は、練習だけを同じように行いました。
条件のなかで、いちばん見落とされやすいのが「運動を終えて五分以内」という一行です。これは最後にもう一度出てきます。
最大酸素摂取量は、0.27L/分の差
三週間後の測定です。
最大酸素摂取量、いわゆる VO2max は、一分間に体へ取り込める酸素の最大量のことです。持久力のものさしとして、いちばんよく使われます。息が上がりきったところで、それでもどれだけ酸素を回せるか、という数字。
サウナ群は +0.27 L/分。対照群は +0.08 L/分。この群の差は、偶然では説明しにくい差と判定されたと報告されています(p=0.02)。p というのは、その差が偶然で出てしまう確率の目安です。0.02 は、百回に二回くらいしか偶然では起きない、という意味合いになります。
+0.27 L/分 は、およそ八パーセントにあたると報告されています。
ここで単位に一言だけ。研究の最初に出てきた 56.1 という数字は mL/kg/分、体重一キロあたりの値です。一方、変化量の 0.27 は L/分、体全体での値。ものさしが二本あるので、八パーセントという割合のほうを持ち帰ったほうが誤解が少ないと思います。
そして、対照群も +0.08 L/分 だけ動いています。練習そのものの効果です。八パーセントという数字は、何もしなかった体との差ではなく、同じ練習をした仲間との差だということ。ここは押さえておきたいところです。

走りの数字も、二つ動いた
VO2max は実験室の指標です。走る人にとっては、実際の走りがどうだったかのほうが気になります。この研究は、そこも測っています。
ひとつめ。血中乳酸が 4mmol/L になるときの走行速度が、+0.6 km/h(p=0.01)。乳酸というのは、強度を上げていくと血のなかにたまってくる物質です。4mmol/L という値は、そのたまり方が急になる手前の目安としてよく使われます。同じ「きつさ」で走れる速度が時速 0.6 キロ上がった、という読み方になります。
キロ四分ペースの方なら、感覚としては数秒の話です。小さい。けれど、三週間で自然に出る差でもありません。
ふたつめ。疲労困憊まで走り続けられた時間が +54 秒。対照群は −6 秒でした(p<0.01)。限界まで走らせる試験で、片方は一分近く延び、片方はわずかに縮んだ。
五十四秒という数字を、走ったことのある方は想像できると思います。もう終わりにしたいと体が言い始めてからの、一分弱。あそこが延びる、ということです。
なお、ここに挙げた数字は、いずれも群の差が認められたものです。私たちが読んだ範囲では、この三週間の試験で「差がなかった」と明記された運動の指標は見当たりませんでした。ただし、それは「すべてが動いた」という意味ではありません。測っていない指標については、何も言えません。
40℃の部屋で、体の芯を測る
この研究は、暑さへの強さも測っています。
三週間の前後に、40℃・湿度40% の環境で運動する試験を行いました。日本の真夏の、風のない日を思い浮かべるとちょうどいい条件です。
結果、サウナ群ではピーク時の直腸温が 0.3℃ 低く、ピーク時の心拍数が 11 拍/分 少なくなったと報告されています。直腸温というのは体の芯の温度です。皮膚ではなく、内臓側。ここが上がりすぎると人は動けなくなりますから、同じ運動で 0.3℃ 低く済むというのは、余裕が増えたことを意味します。
心拍が 11 拍少ないというのも、同じ話の別の言い方です。体を冷やすために皮膚へ血を送るという仕事を、心臓が少ない回数でこなせるようになった。
これを暑熱順化と呼びます。暑さに体が慣れること。汗が早く出るようになったり、血液の量が増えたり、いくつかの仕組みが重なって起きるとされています。
これは夏の走りのためだけの話ではありません。この研究では、暑さへの順応と、涼しい環境での持久力の指標の改善が、同じ三週間のなかで一緒に起きています。ただし、どちらがどちらを引き起こしたのかまでは、この研究の数字からは決められません。
七週まで延ばしたら、どうなったか
ここからが、この研究のいちばん実用的なところです。
同じ研究で、サウナを七週間(19±1 回)まで延ばした条件も調べられています。回数はほぼ倍。では、体の変化も倍になったか。
なりませんでした。直腸温の低下は、さらに 0.1℃ ほど下がる程度。追加分は小さかったと報告されています。
十回で得られたものの大部分が、そこまでで出ていた、という読み方になります。
ただし、ここは慎重に言葉を選びたいところです。「三週間で伸びが止まった」と書きたくなりますが、それは言いすぎになります。三週間・十回という区切りは、研究者が最初に決めた実験の条件であって、体のなかにそういう境目が見つかった、という話ではありません。九回では足りないのか、十二回ならどうか。この研究はそれを調べていません。
もうひとつ。七週まで延ばしたときに VO2max や走行速度がさらに伸びたのかどうかは、私たちが参照した範囲の数字には含まれていません。0.1℃ という数字は、あくまで暑さへの順応の指標についてのものです。ここを混ぜて語ると、話が一段ずれてしまいます。
それでも、「三週間・十回という条件で、これだけの数字が報告された」という事実は残ります。始めるときの目安としては、十分に具体的です。

この研究が言っていないこと
限界を並べます。ここを飛ばすと、記事がただの宣伝になってしまうので。
まず人数。二十名です。しかも対照群は八名。八人の平均値は、一人の体調で簡単に動きます。無作為化比較試験という、条件をそろえやすい形はとっていますが、規模が小さいという事実は変わりません。
次に、誰を調べたか。平均二十歳の中距離ランナーです。すでに鍛えられた若い競技者。五十代、六十代の体で同じことが起きるかどうかは、この研究からは分かりません。英国で行われた研究であり、日本人を対象にしたものでもありません。
期間も三週間と七週間だけです。一年続けたらどうなるか、やめたらどれくらいで戻るか。触れられていません。
そして、いちばん大事なこと。この研究が示したのは、運動と組み合わせた条件での持久力の指標の変化であって、病気を防いだり治したりする話ではまったくありません。持病のある方、血圧の薬を飲んでいる方、心臓に不安のある方は、サウナに入ること自体を主治医に相談してから決めてください。101〜108℃ という温度帯は、健康な若い競技者を対象にした実験の条件です。
私たちが見てきた範囲でも、体調のすぐれない日に無理をして良かったという話は、一度も聞いたことがありません。
101〜108℃を、薪で保つということ
ここからは、設置する側の話をします。
まず、研究の温度帯は高いです。101〜108℃。日本の家庭用サウナで一般的なのは、八十℃台から九十℃台の前半です。私たちが施工した室内サウナのパネルも、多くは九十℃前後で落ち着きます。研究と同じ数字を家で追う必要はありません。追わないほうがいい、というのが私たちの立場です。
そのうえで、温度を「保つ」という話を少しだけ。
電気ヒーターであれば、設定温度に達したあとはサーモスタットが入り切りして、室温はおおむね一定に保たれます。ハルビアのシリンドロのような円筒形の電気ヒーターは、その典型です。
薪は違います。火には山と谷があります。私たちが見てきた範囲では、着火から室温が使える温度まで上がるのに一時間前後。そこから薪を足すたびに温度が持ち上がり、熾になれば下がっていく。二十八分という時間は、この波のちょうどよいところに当てないと、思った温度になりません。
ですから薪サウナで大事なのは、最高温度ではなく、入る時間から逆算した火の組み立てです。何時に着火して、何時に薪を足し、誰が何番目に入るか。家族で使うなら、この順番のほうが温度計の数字より効いてきます。
ストーブ選びも同じ考え方です。ハルビアのレジェンド150(WK150LD)やレジェンド300(WK300LD)といった薪サウナストーブは、機種ごとに適応するサウナ室の容積が定められています。小さすぎる機種で無理に温度を上げようとすれば、火を焚きっぱなしにすることになり、薪の消費も本体への負担も増えます。逆に大きすぎれば、狭い室内が上がりすぎる。
そして、週三回を三週間ということは、薪を運ぶ回数も三週間分だということ。続けるという話は、いつも準備の話です。

運動後五分以内、という一行
最初に飛ばした条件へ戻ります。「運動を終えて五分以内」。
これは、この研究のなかでいちばん再現しにくい条件かもしれません。
盛岡から施設のサウナまで、車で二十分から三十分。着替えて、受付をして、体を洗って、それから入る。その頃には、走り終えてから一時間近く経っています。研究と同じことをしているつもりでも、条件はもう別のものです。運動直後の体の状態を利用する設計だとすれば、そこがずれれば話が変わる可能性はあります。
五分以内という条件を無理なく満たせるのは、走り終えた場所にサウナがある場合だけです。庭まで三十秒、玄関から十歩。自宅サウナのご相談をいただくとき、私たちはこの距離のことを先にお話しするようになりました。
もうひとつ、岩手の冬ならではの注意を。暖房の効いた家は、思っている以上に乾いています。喉が渇いたと感じる前に、体の水分は減っています。汗をかく前提の日は、入る前と後に、意識して水を。
薪の火で温める部屋を考えている方には、盛岡のショールームで実際に火を入れてお見せしています。国道4号沿い、夜も灯りがついています。冬に走れなくなる話でも、薪の減り方の話でも、どうぞ。
三週間、十回、一回二十八分。数字にしてしまえば、それだけの話です。英国の若い競技者二十名で報告された数字が、盛岡の五十代の体でそのまま起きるかどうかは、誰にも分かりません。分からないことを分からないまま書くのが、研究を紹介するということだと思っています。それでも、雪で走れない冬に、走り終えた場所から三十秒のところに温かい部屋があるという暮らしは、数字とは別に成り立ちます。ご相談は、その暮らしのほうから伺えれば十分です。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。ご紹介した研究は特定の条件下で行われたもので、結果がすべての方に当てはまるわけではありません。持病のある方、服薬中の方は、必ず主治医にご相談のうえお決めください。
参照した研究
- Kirby NV ほか, Frontiers in Physiology, 2021(PMC7862510/英バーミンガム大学ほか)。中距離ランナー20名(サウナ群12・対照群8、平均20±2歳)を対象とした無作為化比較試験。101〜108℃のサウナに運動後5分以内、1回28±2分、週3±1回、3週間で10±1回(計290±48分)。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



