この先、私たちはサウナと健康にまつわる研究をいくつか紹介していきます。その前に一本、土台の話をさせてください。なぜサウナの研究はフィンランドのものばかりなのか。「ハザード比」という見慣れない言葉は何を意味するのか。そして、なぜ「サウナに入ると長生きする」と言い切れないのか。この記事は、この先の記事を読むときの道具箱です。
盛岡のショールームで、いちばん聞かれる質問
「サウナって体にいいんですよね」。お客様との会話で、この一言は驚くほど頻繁に出てきます。私たちは薪ストーブとサウナを扱う店として、この問いに正直でありたいと思っています。実際のところ、サウナと健康の関係を調べた研究は世界にいくつも存在します。ただし、その多くには共通点があります。舞台がフィンランドだということです。なぜそうなるのか、まずそこから話します。

KIHDという一つの研究の土台
この先の記事で何度も出てくる名前があります。KIHDというコホート(集団追跡調査)です。1980年代、東フィンランドのクオピオという街で、中高年の男性を中心に登録された集団で、その後の人生を長期間にわたって追いかけています。追跡期間は中央値で20年から28年に及ぶものもあります。全死因死亡929件・2,315人・20.7年、あるいは1,618件・2,575人・27.8年といった規模の報告が、このコホートから出ています。裏を返せば、この先読む記事の多くは、同じ集団を別の角度から切り取ったものだということです。一つの町の、一つの世代の、一つの生活習慣の記録です。
ハザード比とは、リスクの比のこと
研究の中に必ず出てくる「ハザード比」という言葉を、先にほどいておきます。これは難しい概念ではなく、ある出来事(たとえば死亡)が起きる速さの比だと考えてください。基準となる群を1として、それより数字が小さければ出来事が起きにくかった、大きければ起きやすかった、という比較です。もう一つ、「95%信頼区間」という表記もよく出てきます。これは推定の幅のことです。研究で得られた一つの数字は、あくまで手元のデータから計算した推定値であり、この幅の中に本当の値がある確率が95%だ、という読み方をします。幅が広いほど、その推定はまだ不確かだということでもあります。

『サウナに入る人は、もともと元気だから入れている』という壁
観察研究には、越えられない壁があります。逆因果と呼ばれるものです。サウナに週に何度も入っている人が長生きだったとして、それはサウナのおかげなのか、それとも、もともと体が丈夫で時間にも余裕がある人がサウナによく入っているだけなのか。この二つを、後から見比べる研究(観察研究)では完全には切り分けられません。年齢や体力、身体活動量などをできる限り数値として調整して比較するのが精一杯で、それでも見えていない要因が残っている可能性は消せません。だから研究者は『関連が示された』とは書いても、『効果がある』『予防する』とは書きません。私たちもこの記事群で、その言葉づかいを守ります。
都合の悪い結果も同じ集団から出ている
このシリーズでは、心血管疾患や呼吸器疾患でサウナ頻度との関連が見られた報告を紹介していきます。ですが同じKIHDのコホートを使った解析で、がんについては関連が認められなかった、という報告もあります(Laukkanen JA, Kunutsor SK et al., European Journal of Cancer, 2019)。同じ人たち、同じ手法で、出た結果と出なかった結果がある。この事実は、都合よく数字を選んでいないという証拠として、むしろ大事に扱うべきものです。サウナは万能薬ではありません。効いた場所と、効かなかった場所がはっきり分かれている、という報告そのものに価値があります。
死亡率を確かめたランダム化比較試験は、存在しない
研究の世界でもっとも因果関係に近づける方法は、対象者を無作為に二群へ分けて比較するランダム化比較試験(RCT)です。ただしサウナと死亡率については、この形の試験は行われていません。何十年もかけて、多数の人を対象に、サウナに入る群と入らない群に無作為に割り付けて追跡する、というのは現実的に難しい試験です。実際に行われているRCTは、血圧やコレステロールといった代替指標を、8週間程度の短い期間で見るものにとどまります。この先の記事でも、代替指標の試験と、長期の観察研究とは、はっきり分けて書きます。
対象者の限界を、いつも頭に置く
もう一つ大事な但し書きがあります。これらの研究の対象者の多くは、フィンランドの中高年男性です。女性を含む研究も一部ありますが、まだ数は少なく、信頼区間も広めです。そして何より、対象は日本人ではありません。フィンランドでは週に何度もサウナに入るのが暮らしの一部として当たり前という前提があり、その生活文化ごと日本にそのまま持ち込めるものではありません。私たちが研修でフィンランドとリトアニアを訪れたとき、現地の人たちが週の後半になると『そろそろサウナだね』と当然のように話していたのを覚えています。その土壌があってはじめて『週4〜7回』という群が成立しているのだ、ということは、記事を読むときにいつも頭の片隅に置いておいてほしいと思います。

この先の記事を読む前に
私たちはこれから、サウナと死亡率、血圧、呼吸器疾患、女性を含むコホートなど、いくつかの研究を一本ずつ紹介していきます。どの記事にも共通して守ることを、ここに書いておきます。研究に書かれていない数字は書かない。区分は研究者が事前に決めたものであって、研究が発見した境目ではない。都合の悪い結果があれば必ず併記する。多変量調整後の値であればその旨を書く。対象者の限界を毎回書く。これは私たちが過去に失敗してきた反省でもあります。サウナを売る店だからこそ、効能を誇張しない書き方を選びます。

岩手の冬と、火のそばで過ごす時間
盛岡は12月から3月まで、路面が凍りついた日が続きます。除雪で腰を痛めた、散歩をやめた、という話をお客様から聞くことも少なくありません。研究の話を離れて、私たちが現場で見てきたことを一つだけ書かせてください。薪ストーブやサウナの前で過ごす時間は、体を鍛えるものではありません。ただ、寒くて外に出づらい季節に、家の中に一つ、火のそばで座っていられる場所がある、というだけで、冬の過ごし方は変わります。それは研究が示した数字とは別の、暮らしの側の話です。
この記事は、この先に続くサウナと健康の研究紹介の入口として書きました。私たちはサウナと薪ストーブを扱う店であり、研究者でも医療者でもありません。だからこそ、書かれていることと書かれていないことの境目を、できる限り正直に示すことを心がけています。持病のある方、服薬中の方、妊娠中の方は、サウナの利用について必ず主治医に相談してください。飲酒後の利用は避け、水分補給を忘れず、体調が優れないときは無理をしないでください。岩手・盛岡で自宅サウナの設置をご検討の方は、こうした研究の背景も含めてお話しできます。おすすめの機種や設計についても、現場を見ながらご相談いただければと思います。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Laukkanen JA, Kunutsor SK et al., European Journal of Cancer, 2019;121:184-191, doi:10.1016/j.ejca.2019.07.010
- Laukkanen T, Khan H, Zaccardi F, Laukkanen JA, JAMA Internal Medicine, 2015;175(4):542-548
- Kunutsor SK, Laukkanen T, Laukkanen JA et al., Annals of Medicine, 2017, PubMed 28972808
- Lee E, Kolunsarka I, Laukkanen JA et al., American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, 2022, PubMed 35785965
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



