風呂上がりの廊下が冷たくて眠れない夜と、湯冷めの温かさのまま眠ってしまう夜。どちらも体が冷えていく過程なのに、結果は正反対です。熱を入れる側ではなく、熱が抜ける側を測った研究があります。イタリア・ドイツ・米国の3施設で72人が二晩ずつ脳波を記録した2024年の報告を、増えた7.5分と、ばらつき21.6分と、変わらなかった指標まで正直に読みます。そのうえで、岩手の冬の脱衣室と、寝室までの十歩の話をします。
風呂上がりの廊下が、いちばん眠気を持っていく
盛岡の冬の夜。風呂から上がって、脱衣室の戸を開けた瞬間の冷たさを、たいていの方はご存じだと思います。素足で廊下に出る。肩をすくめて、寝室までの数歩を早足で歩く。布団に入っても、足の先だけがいつまでも冷たいまま。なかなか寝つけない。一冬に何度もある夜です。
同じ冬に、こういう夜もあります。湯上がりのぼんやりした温かさを持ったまま、本を二、三ページ読んで、そのまま眠ってしまう。気がついたら朝になっている。
どちらも、体が冷えていく過程です。それなのに、片方は眠りを遠ざけ、もう片方は眠りを連れてきます。
サウナの話をするとき、私たちはつい「何度で何分入るか」に集中します。入れる熱の量の話です。ヒーターの容量、石の量、ロウリュの回数。ご相談の九割はそこに集まります。
けれど眠りに関して言えば、肝心なのはその後かもしれません。熱を入れる側ではなく、熱が抜けていく側を測った研究があります。72人の睡眠を、脳波まで含めて一晩ずつ二回記録した研究です。
先に申し上げておくと、これはサウナの研究ではありません。だからこそ、サウナを扱っている私たちが読むと、順番を考え直させられるところがありました。

眠りに入るとき、体は熱を捨てています
眠たくなった子どもの手を握ると、湯たんぽのように温かい。あれは昔からよく知られたことです。眠りに向かうとき、手足の皮膚は温かくなります。体の表面から熱が出ていっているからです。
熱が体から出ていくことを、放熱といいます。汗が蒸発して奪われる分、空気に触れて逃げる分、そして触れているものに移っていく分。三つ目を伝導性放熱と呼びます。難しい言葉ですが、要するに、触れた相手に熱が移ることです。
台所で言えば、熱い鍋を木のまな板に置いたときと、濡れた布巾を敷いた上に置いたときの違いです。同じ鍋でも、冷める速さがまるで違う。相手がどれだけ熱を吸えるかで、逃げていく量が変わります。
眠っている間、人が長時間触れているのは布団と敷き寝具です。背中は、体の中でいちばん広く、いちばん長く何かに触れている面になります。
今回ご紹介する研究が着目したのは、そこでした。サウナ室でも風呂でもなく、背中の下です。
温めるのではなく、熱を受け取らせる。順番としては逆方向の発想です。私たちのように火を扱う商売をしていると、つい熱を足すことばかり考えます。ですが、熱の話には必ず出口があります。薪ストーブでも同じで、入れた熱がどこから逃げるかを読めない人は、部屋を暖められません。煙突掃除の現場で最初に見るのも、実は熱の出口のほうです。
背中から熱を逃がした夜の、72人ぶんの脳波
2024年に Scientific Reports に掲載された研究があります(Herberger ほか、論文番号 s41598-024-53839-x)。
集められたのは、三つの施設で計72人。イタリアのトリノで15人、ドイツのベルリンで33人、アメリカのシカゴで24人です。内訳は、トリノが健康な若い男性(26.5±1.4歳)、ベルリンが男性(46.2±4.0歳)、シカゴが閉経後の女性(62.5±8.3歳)。±のあとの数字は、年齢のばらつきの幅だと思ってください。日本で行われた研究ではありません。
この方たちが、二種類のマットレスで一晩ずつ眠りました。ひとつは熱容量の高い、つまり熱をよく吸い込んで溜めておける放熱マットレス。もうひとつは通常のマットレスです。
熱容量が高いというのは、石の上に手を置いたときのことを思い浮かべると近いと思います。石はしばらく冷たいままで、手のほうの熱を吸い続ける。木や布だと、そうはなりません。サウナストーンが、火が落ちたあともしばらく熱を放し続けるのと、裏表の関係です。
二晩は一週間あけて行われ、盲検クロスオーバーという方法がとられました。クロスオーバーは、同じ人が両方の条件を順番に試すこと。人が入れ替わらないので、体質の差が結果に紛れ込みにくくなります。盲検は、今夜がどちらのマットレスなのかを本人に知らせないこと。「今日は良いほうだ」という思い込みを減らすためのやり方です。
測ったのは睡眠ポリグラフ。脳波、眼球の動き、筋肉の力み具合などを一晩まとめて記録する検査で、眠りの深さを段階に分けられます。アンケートではなく、機械が刻んだ記録です。
増えたのは7.5分。ばらつきは21.6分
結果です。
背中からの伝導性放熱を促した夜は、深い眠り(N3)が、7.5時間の記録あたり平均7.5±21.6分増えたと報告されています(p=0.0038)。総睡眠時間に対する割合でいうと1.93±5.02%にあたります(p=0.0017)。睡眠中の心拍数は、平均2.36±1.08拍/分低かったと報告されています。
N3というのは、ノンレム睡眠のいちばん深い段階のことです。脳波が大きくゆっくりした波になる時間帯で、いわゆる「ぐっすり」に近い。
ここからが大事なところです。7.5±21.6分の「±21.6」は標準偏差といって、人によるばらつきの幅を表します。平均の7.5分より、ばらつきの21.6分のほうが大きい。これは、全員が判で押したように七分半増えた、という話ではないことを意味します。うんと増えた人もいれば、変わらなかった人も、減った人もいた。その平均が7.5分だった、という読み方が正しいはずです。
割合のほうも同じで、1.93±5.02%。ばらつきが平均の倍以上あります。
p=0.0038という数字は、「こういう差が偶然だけで出る可能性は小さい」という意味です。差が大きいという意味ではありません。ここを取り違えた紹介文を、私たちも何度か見かけました。
心拍数のほうは、逆にばらつきが小さい(±1.08)。こちらは比較的そろって低かったと読めます。
体温の数字も出ています。放熱マットレスの夜は、深部体温が0.15±0.23℃、背中の皮膚温が0.44±0.61℃、それぞれ低かったと報告されています。背中が触れている面に熱が移った分だけ皮膚の温度が下がり、体の中心の温度もわずかに下がった、という並びです。どちらも小数点以下の話で、手で触って分かるような差ではありません。
そして、動かなかったものも書いておきます。レム睡眠の量は、二つの夜で有意な差がありませんでした(p=0.3564)。N2という浅めのノンレム睡眠も、覚醒とN1を合わせた時間も、有意な差はなかったと報告されています。動いたのは、いちばん深いN3の分数と割合、心拍数、そして体温。眠り全体がまるごと作り変わった、という結果ではありません。
ここを飛ばして「眠りが変わる」と書くと、話が一段も二段も大きくなってしまいます。売る側にとって都合の悪い数字ほど、先に書いておくのが結局は早い、というのが私たちの考えです。
「サウナで深睡眠が70%増える」の出どころ
サウナと睡眠の話を調べると、ほぼ必ず出てくる数字があります。「サウナのあと、深い眠りが70%以上増えた」。
出どころは1976年、フィンランドの Putkonen と Elomaa による報告です。半世紀近く前になります。
まず、数の話から。被験者は5人です。そして、これに続く同じ規模の再現研究は、その後ほとんど行われていません。
5人という数を、現場の感覚に置き換えてみます。うちの社員が四人と、たまたま居合わせたお客様がひとり。その五人の一晩を測って出た数字が、五十年間、世界中のサウナの説明文に使われ続けている。そう考えると、扱い方には慎重になります。
もうひとつ、引用されるときにほぼ必ず落ちる条件があります。時間の窓です。70%以上という増加は、入浴後の最初の2時間についての数字で、最初の6時間で見ると45%と紹介されています。同じ夜の、同じ人の記録でも、どこを切り取るかで数字はこれだけ動きます。「70%」だけが独り歩きしているのは、この窓が省かれているからです。
被験者が何歳で、どんな暮らしの人だったのか。私たちが参照できた資料からは、そこまで確認できませんでした。分からないことは、分からないと書いておきます。
数字が間違っている、という話ではありません。ただ、五人の五十年前の記録と、72人を二晩ずつ機械で測った記録とでは、重さが違う。しかもこの二つは、測っているものが違います。片方は入浴後2時間という短い窓での増加率、もう片方は7.5時間の記録全体での増減の分数。「70%と7.5分」と並べて大小を比べられる数字ではありません。
売る側としては、70%のほうを書きたくなります。書かない理由は、あとで嘘になるからです。
この研究は、サウナの研究ではありません
限界を、きちんと書いておきます。
第一に、72人の研究で使われたのはマットレスです。サウナ室に入ったあとの眠りを測ったものではありません。サウナで温まった体がその後どう冷えるかという話とは、条件がまったく違います。ですから「サウナでN3が7.5分増える」とは書けません。この数字をそのままサウナに当てはめることはできない、とはっきり申し上げておきます。
第二に、比べられたのは熱容量の高いマットレスと通常のマットレスの二つだけ、という点です。「温める」条件は、この研究には出てきません。ですから、温めるのと熱を逃がすのとでどちらが効くのか、という比較は、この研究からは言えません。言えるのは、熱が抜ける側にも余地がありそうだ、というところまでです。
第三に、対象者の偏りです。男性が48人、女性が24人。しかも女性は閉経後の方に限られています。閉経前の女性、若い女性は含まれていません。女性の体温調節はホルモンの周期に左右されますから、ここは無視できない限界です。
第四に、年齢の幅です。20代半ば、40代半ば、60代前半という三つの集団で、70代・80代の方や、お子さんは入っていません。
第五に、一人あたり各条件一晩ずつ、という点。毎晩続けたらどうなるかは、この研究からは分かりません。
第六に、行われた場所です。トリノ、ベルリン、シカゴ。イタリア・ドイツ・アメリカの3施設で実施された研究で、日本人は含まれていません。気候も住まいも寝具の習慣も、岩手とはずいぶん違う場所の記録です。
第七に、その3施設で、集められた人の顔ぶれがきれいに分かれていることです。トリノは若い男性、ベルリンは中年男性、シカゴは閉経後の女性。年齢や性別による違いと、施設ごとの環境の違いを、あとから切り分けにくい組み立てになっています。
そのうえで、この研究が示したのは、大きさというより方向でした。熱を入れる側ではなく、抜ける側にも、眠りを動かす余地があるらしい。岩手で家を建て、サウナを据える立場からすると、この方向のほうが、実は設計の話に直結します。
岩手の冬に起きているのは、たぶん「逃げすぎ」
熱が逃げることが眠りに関わるのなら、冬の岩手は有利ではないか。そう思われるかもしれません。私も最初にそう考えました。
けれど、現場を回っていると、逆のことが起きている気がします。
私たちが見てきた範囲では、岩手の住宅の脱衣室と廊下は、冬のあいだ、体が震えるほど冷えます。震えるというのは、体が熱を作ろうとしている状態です。熱を逃がすどころではありません。血の巡りは体の中心に引き上げられ、手足の先は冷たいまま。布団に入っても、その冷たさがしばらく続きます。
湯冷めと放熱は、別のものです。ゆっくり熱が抜けていくのと、寒さで体が身構えるのとでは、体にとって同じ出来事ではないはずです。
サウナのあとも同じです。盛岡の一月、氷点下の外気に出れば、体はあっという間に冷えます。気持ちがいい、という感覚はある。ただ「冷却が早すぎる」ということが、冬の東北では普通に起きます。夏の外気浴と冬の外気浴を、同じ言葉で語ることはできません。
ですから私たちは、サウナ室の温度についてご相談を受けたとき、そのあとの場所の話を必ずします。どこで座るのか。足元は何を張るのか。風はどちらから来るのか。庇はあるのか。そこを決めないまま室温だけ上げても、冬の夜の過ごし方はよくなりません。

脱衣室から寝室までの、十歩ぶんの設計
図面を引くとき、私たちがサウナ室の位置より先に決めるものがあります。出たあとに座る場所と、そこから寝室までの道です。
順番は、こうです。
まず、外気浴のベンチの向き。盛岡の冬は北西から風の来る日が多い。同じ氷点下でも、風のあるなしで体の冷え方はまるで違います。風下側に置けるか、雪囲いや板塀で一枚受けられるか。ここを外すと、冬は結局、誰も外に出ません。
次に、足元です。冬に素足で立つ場所にタイルを張ると、そこだけ極端に冷たくなります。私たちが見てきた範囲では、板張りにしておくだけで冬の使い方が変わります。屋外なら、すのこ状の板を一枚敷けるようにしておく。石やタイルは熱をよく吸う材で、それは眠りの研究では利点になっても、真冬の素足には厳しく出ます。
三つめが庇。雪の降っている日に外で休めるかどうかは、屋根が一間出ているかどうかで決まります。
四つめが、前室と脱衣室の温度です。ここを寒いまま放置すると、せっかくの放熱が「震え」に変わります。暖房を一台入れるのか、母屋とつなげるのか、断熱をどこまで回すのか。図面の段階でしか決められないことです。
そして最後が、寝室までの動線。屋外の小屋なら、母屋に戻るまでの数十歩。屋内なら、廊下の数歩。この短い距離の温度差が、実は一日の締めくくりを決めています。
長さでいえば、十歩ぶんの話です。図面の上ではほんの数センチ。そこに冬の体験のほとんどが乗っています。

熱を持って帰る、という考え方
私たちは、サウナ小屋の基礎も自社で仕様を決めています。ベタ基礎、凍結深度以下の根入れ、スラブ下に押出法ポリスチレンフォーム(XPS)を厚さ100ミリ。床から熱を取られないためです。数字だけ見れば地味な部分ですが、冬の岩手では、ここが効きます。
考え方としては、こうです。体から熱が抜けること自体は、悪いことではないらしい。ただ、抜けかたには速さと道筋がある。急に、風の当たる場所で、震えながら抜けるのと、静かに、座っていられる場所で抜けるのとでは、おそらく別のことが起きています。
材料の話も同じ土俵です。サウナストーンは熱を溜める材で、火が落ちてからもしばらく放し続けます。だから岩手の冬におすすめしているのは、石をたっぷり積める薪サウナストーブです。母屋の薪ストーブでいえば、鋳物の本体がやわらかい熱を長く出すのと同じ理屈で、どの材を選ぶかは、熱の出入りの速さを選ぶことでもあります。眠りの研究が触っていたのも、結局は同じところでした。
KUUTA sauna を建てるときも、HARVIAの薪サウナストーブ(レジェンド150・240・300など)を据えるときも、ペレットサウナのVENERE maticを入れるときも、私たちは同じ順番で図面を引きます。ヒーターの容量は、いちばん最後に決めます。
もし今、岩手・盛岡で自宅サウナの設置をお考えで、まだ間取りの相談だけしたい、という段階でしたら、それで構いません。国道4号沿いのショールームで、図面を広げてお話しします。
持病のある方、お薬を飲んでいる方は、入り方について一度主治医にご相談ください。冬の急な温度差は、体にこたえます。

サウナの熱は、扉を閉めた瞬間から逃げはじめます。逃げていく熱をどう扱うかは、室温の設定ではなく、その外側の設計の話です。ベンチの向き、足元の板、庇の出、脱衣室の暖房、寝室までの十歩。図面の端に引かれる目立たない線のほうに、冬の夜の質は宿ります。72人の脳波が示したのは、たかだか7.5分の差、しかも人によるばらつきのほうが大きい差でした。レム睡眠は変わらず、浅い眠りも覚醒も動いていません。それでも、熱は入れるだけでなく抜けていくものだという方向は、憶えておく価値があると思っています。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Herberger ほか, Scientific Reports (2024) 論文番号 s41598-024-53839-x/熱容量の高い放熱マットレスと通常マットレスを比べた盲検クロスオーバー試験。トリノ(イタリア)・ベルリン(ドイツ)・シカゴ(米国)の3施設・計72人(若年男性15人=26.5±1.4歳、男性33人=46.2±4.0歳、閉経後女性24人=62.5±8.3歳、日本人は含まれない)の睡眠ポリグラフ測定。深睡眠N3が7.5±21.6分/7.5時間増加(p=0.0038)、総睡眠時間比1.93±5.02%増加(p=0.0017)、睡眠中心拍数-2.36±1.08拍/分、深部体温-0.15±0.23℃、背部皮膚温-0.44±0.61℃。レム睡眠は有意差なし(p=0.3564)、N2および覚醒+N1も有意差なし
- Putkonen P, Elomaa E (1976年, フィンランド)/サウナ後の睡眠脳波に関する報告(Sauna Studies 1976, pp.270-279)。被験者5人。深睡眠の増加は入浴後最初の2時間で70%以上、最初の6時間では45%と紹介されている。以後、同規模の再現研究はほとんど行われていない
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



