盛岡の一月、朝いちばんの仕事は雪かきです。玄関を開けた瞬間、頬と鼻の奥がきゅっと締まる。手袋の中の指先だけが、なぜか妙に熱い。あの感覚を、体は毎年ちゃんと覚えていきます。冬のなかばになると、同じ寒さでも最初の一週間ほどには応えなくなる。さて、水風呂はどうでしょうか。毎日入るほど体は寒さに慣れて、良いことが増えていくのか。14℃の水に16日連続で入った12人の記録を、今日は落ち着いて読んでみます。
14℃の水に、16日間毎日入る
リトアニアのスポーツ大学から、2025年に一本の報告が出ています。Solianik R、Jarutiene L、Brazaitis M の三氏による研究で、掲載誌は Journal of Thermal Biology、第129巻、論文番号104088です。
参加したのは、若年で肥満ではない成人12人。14℃の水に全身で10分間浸かる。それを16日間、毎日続けました。
はじめに、ひとつだけ念を押させてください。14℃という水温も、10分という時間も、16日という日数も、研究者が実験を始める前に決めた条件です。体が音を上げる境目を探し当てた、という話ではありません。決めた条件でやってみたら、こうなった。それだけです。ここを取り違えると、数字はあっという間に一人歩きします。「16日を超えると危ない」「14℃が限界だ」といった言い方は、この論文からは出てきません。
そして、あとで別の研究と並べるときに効いてくるので、いまのうちに書き留めておきます。1日あたりの冷たさは、10分。たった10分です。この「1日にどれだけ」という数字を控えておかないと、研究どうしの比較は、まず間違いなく狂います。
では、何が起きたか。
ブドウ糖を飲んだあとの血糖の動きをあらわす血糖曲線下面積が増加し、耐糖能が有意に低下したと報告されています(p<0.05)。あわせて、松田インスリン感受性指数という別の目安も低下しました。
糖を処理する力の指標が、始める前より悪いほうへ動いた。冷水浴は代謝に良い、と語られるときの方向とは、逆です。
私は初めてこの抄録を読んだとき、しばらく画面を見つめていました。うちは水風呂の設計と施工を仕事にしている会社です。都合の良い研究ではありません。それでも、書かないという選択肢はありませんでした。

耐糖能、曲線下面積、松田指数——聞き慣れない言葉をほどく
言葉を先に片づけておきます。ゆっくり時間をかけて読んでくださる方のための記事なので、飛ばさずに置いておきます。
耐糖能とは、糖を処理する力のことです。甘い飲みものを飲んだあと、血糖がどれくらい上がって、どれくらいの速さで下がっていくか。上がり方がゆるやかで、下がり方が速いほど、処理の力があるとみなします。
血糖曲線下面積とは、その血糖の動きを何度か採血して点で結んだときにできる、山の面積のことです。山が大きいほど、糖が血の中に高く長く留まっていたことになります。この研究では、その面積が増えました。
松田インスリン感受性指数は、ブドウ糖を飲んだあとの血糖とインスリンの値から計算する目安で、インスリンの効きやすさを推し量るものです。これも下がりました。
p<0.05 というのは、「この差が偶然だけで生じたとは考えにくい」という統計上の目印です。有意、というのはその意味であって、「大きく変わった」「暮らしに響くほど変わった」という意味ではありません。ここはよく混ざります。有意に下がった、は、はっきり下がった、ではないのです。
数字の言葉は、冷たく見えて、じつはとても慎重です。慎重に書かれたものを、読む側が大胆に受け取ってしまう。行き違いは、たいていそこで起きます。
変わらなかったものも、同じ重さで書く
同じ研究で、動かなかったものもあります。むしろ、こちらのほうが大事かもしれません。
ひとつ、カテコールアミン。アドレナリンやノルアドレナリンといった、体を興奮させるほうのホルモンです。有意な変化はありませんでした。
ふたつ、安静時エネルギー消費量。じっと座っているだけで使われるカロリーのことです。これも有意な変化なし。
みっつ、基質酸化。糖と脂肪のどちらを、どれくらいの割合で燃やしているかという指標です。これも有意な変化はありませんでした。
「冷水浴で代謝が上がる」という話をするとき、よく持ち出されるのがこの三つです。その三つが、そろって動かなかった。
もうひとつ、正確を期しておきます。「有意な変化がなかった」は、「まったく変わらなかったことが証明された」とは違います。12人という規模では、小さな差があってもそれを拾いきれません。だから正しくは、「差があるとは言えなかった」。この二つは似ていて、まるで違います。
都合の良い結果だけを拾って、都合の悪いものを黙っている記事は、世の中にたくさんあります。私たちも過去に、そういう書き方の入口に立ったことがあったと思います。だから今は、有意だったものと有意でなかったものを、必ず両方並べることにしています。並べると、話は地味になります。地味なほうが、たぶん正しい。

そして、1週間でもとに戻った
この研究には続きがあります。
16日間を終えて冷水浴をやめたあと、1週間でこれらの指標はベースライン、つまり始める前の値に戻りました。
一時的だった、ということです。何かが壊れたわけでも、後戻りできない変化が起きたわけでもない。ここを落として「冷水浴は代謝を悪くする」とだけ書いたら、それは元の論文への裏切りになります。
そのうえで、限界を並べておきます。参加者は12人。若年で、肥満ではない人たちです。リトアニアの研究であって、日本人ではありません。年配の方も、持病のある方も含まれていません。そして介入は毎日16日連続という、日常の暮らしではまず選ばない密度です。
薪を割るのと同じで、一日で百本割るのと、二日おきに十本ずつ割るのとでは、体への当たり方が違います。研究は前者に近い設計でした。
この一本で「冷水浴は体に悪い」と言うことはできませんし、逆に「毎日でも平気」と言うこともできません。言えるのは、「14℃に10分、16日連続でやったところ、糖の処理の指標が一時的に下がったという報告がある」まで。それ以上でもそれ以下でもありません。もちろん、病気を防いだり治したりという話とは、まったく別の次元にあります。
逆を向いた研究もあります——8人の10日間
同じ「寒さ」を扱いながら、まったく逆を向いた報告もあります。
Hanssen MJW らによる研究で、Nature Medicine 第21巻863〜865ページ、2015年、オランダのマーストリヒト大学です。2型糖尿病の患者8人に、14〜15℃に保った室内で1日6時間、それを10日間続けるという、軽度の寒冷順化を行いました。
ここは大事なところなので、もう一度書きます。1日6時間です。10分ではありません。しかも被験者は、その時間のあいだ、震えを伴う程度の寒さにさらされていました。じっと我慢して座っている、という以上に、体のほうが勝手に震えはじめる温度に、毎日半日近く置かれていたということです。
その結果、末梢のインスリン感受性が約43%増加したと報告されています。43%という数字は、たしかに小さくありません。
そして、この研究のいちばん面白いところは、その担い手をめぐる部分でした。熱を作る褐色脂肪が主役だろうと考えられていたところ、報告されたのは少し違う絵だったのです。抄録によれば、基礎状態での骨格筋のGLUT4のトランスロケーションが著しく増えており、いっぽうインスリンシグナルやAMPKの活性化には影響がなく、褐色脂肪の糖の取り込みの増加はわずかだった、とされています。
GLUT4というのは、筋肉の細胞の中に待機している糖の運び屋のこと。トランスロケーションは、それが細胞の内側から表面へ移動してくることです。運び屋が持ち場についた、というくらいの意味だと思ってください。褐色脂肪は、体の中で熱を作るタイプの脂肪です。この研究では、そちらの寄与はわずかだったと書かれています。
ただし、ここでも慎重に進みます。「GLUT4が増えたから感受性が上がった」と、この研究が証明したわけではありません。8人、対照群なし、始める前とあとを見比べた形です。同じ時期に二つのことが起きていた、という報告であって、片方がもう片方を引き起こしたと確かめる設計にはなっていない。私たちはこのあとの節で「後から見比べた研究は、原因と結果を確定しません」と書きます。その物差しは、自分に都合の悪い研究にも、都合の良い研究にも、同じように当てなければ意味がありません。
そして対象は2型糖尿病の患者さんです。そのまま健康な方に当てはまるとは限りません。この報告もまた、病気の治療や予防の効果を示したものではありません。

水に浸かることと、寒い部屋にいることは、同じではない
数字だけを横に並べると、二本の研究はよく似て見えます。14℃と、14〜15℃。16日と、10日。それなのに、結果は逆を向きました。
けれど、条件は別物です。まず、総量が違います。
リトアニアの研究は、10分を16日。足すと160分、およそ2時間40分です。オランダの研究は、6時間を10日。足すと60時間。ざっと二十倍以上の開きがあります。同じ「寒さにあたった」という言葉でくくれる量ではありません。並べて書いてはじめて、二本が別の話をしていることが見えてきます。
次に、寒さの届け方が違います。リトアニアは14℃の水に全身で浸かるもの。オランダは14〜15℃の空気の中で過ごすものです。水と空気とでは、体から熱を奪う速さがまるで違います。冬の朝、外気が5℃でもコートを着て歩けますが、5℃の川に入って10分過ごすのはまったく別の話です。これは理屈というより、体で知っていることだと思います。
つまり二本は、「短くて強い刺激を、毎日16回」と「弱いけれど長い刺激を、10日ぶん」という、ずいぶん違う置き方をしているわけです。片方は冷たさに殴られる十分間、もう片方は半日かけてじわじわ冷やされる時間。同じような温度の数字が並んでいても、体の受け取り方は別物でしょう。
もうひとつ、強さの話も添えておきます。この流れで行われた後続の研究では、震えが出ない程度、16〜17℃という条件が試されていますが、そちらではインスリン感受性の改善は報告されていません。寒さの強さや長さが変われば、結論そのものが変わりうるということです。「寒冷順化は代謝に良い」と一行でまとめられない理由は、ここにあります。
参加者も違います。若年で肥満ではない人たちと、2型糖尿病の患者さん。測っている指標も、完全には一致しません。
ですから、「どちらが正しいか」を決める読み方はできません。今のところ言えるのは、条件の違う二つの報告がある、というところまでです。
私たちは論文を書く立場ではありませんから、この二本のあいだを埋める理屈をこしらえることはしません。ただ、盛岡のショールームで「毎日入ったほうがいいですか」と聞かれたときに、「研究の答えは、まだ一つに揃っていません」と正直に申し上げる根拠にはなります。歯切れは悪い。でも、嘘はない。
冬に泳ぐ人たちの体で、何が違っていたか
もう一本だけ紹介させてください。
Søberg S らによる研究で、Cell Reports Medicine、2021年10月、コペンハーゲン大学です。週2〜3回の冬季水泳とサウナを習慣にしている男性を調べたところ、快適な環境にいるときの深部体温——体の芯の温度のことです——が低く、寒さにさらされたときの熱産生が対照より大きかったと報告されています。
体が寒さの扱いに慣れている、という絵に見えます。
ただし、この形の研究は、習慣のある人とない人を後から見比べたものです。冷水とサウナがそういう体を作ったのか、それとも、もともとそういう体の人が冬に泳ぎ続けているのか、この研究では切り分けられません。後から見比べた研究は、原因と結果を確定しません。ここは何度でも書きます。
そして対象は男性です。女性についてはこの研究からは何も言えません。冷水浴の研究は、そもそも女性の参加者が少ない分野です。
もうひとつ。この研究の人たちは、毎日ではありません。週2〜3回です。研究者が「週2〜3回が最適だ」と決めたわけではなく、そういう習慣を持つ人たちを調べたら、そうだった、というだけの話。それでも、毎日16日連続という実験条件とも、1日6時間を10日という実験条件とも、ずいぶん違う暮らしぶりだということは、頭の隅に置いておいてよいと思います。

寒冷順化は、水風呂の外にもあります
寒冷順化という言葉を、そろそろほどいておきます。寒さに繰り返しさらされることで、体の反応が少しずつ変わっていくこと。震え方が変わる、皮膚の血の巡り方が変わる、熱の作り方が変わる。そういう一連の変化を、まとめてそう呼びます。
ここからは研究の話ではありません。私たちが岩手で見てきた範囲の話として、聞いてください。
盛岡の一月、朝いちばんに玄関を開けたときの空気。雪かきの十五分。灯油を運ぶ三分。ゴミ出しの往復。犬の散歩。畑や現場に立つ方なら、もっと長い時間。冬に現場でお会いする岩手のみなさんは、水風呂に一度も入らなくても、寒さに触れる時間をたっぷり持っています。窓を開けた台所の、朝の冷たさもそうです。
先ほどのオランダの研究が「14〜15℃の中で1日6時間」だったことを思い出すと、条件の見た目にいちばん近いのは、じつは水風呂ではなく、冬の暮らしのほうだという気もしてきます。もちろん、これは並べて眺めただけの話で、同じだと言っているのではありません。研究は温度も時間も服装も管理された環境の話で、雪かきは管理されていません。
それは承知のうえで、ひとつだけ言えるとすれば、寒冷刺激の入口は水風呂だけではない、ということ。冷たい水に沈むことだけが「寒さに慣れる」ではないのです。
だから私たちは、「水風呂を増やせば増やすほど良くなる」という話をしません。とくに冬。岩手の冬は、放っておいても寒さの分量が足りています。足りていないのは、たいてい、あたたまる時間のほうです。
では、どのくらいがいいのか——回数ではなく、設計の話
正直に書きます。ここまでの三本の研究から、「あなたにとっての最適な回数」を導くことはできません。12人、8人、そして習慣のある人とない人を見比べた一本。いずれも日本人ではなく、多くは若い方か男性か、あるいは特定の病気をお持ちの方で、岩手の冬を暮らしている方ではありません。条件も、10分と6時間というくらい違います。
それでも、施工と引き渡しを重ねてきた実感として、お客様にお伝えしていることはあります。
週に2〜3回くらいから始めて、あとは体調と相談しながら決めてください。冬は水風呂を短めに、外気浴を長めに。これは効能の話ではなく、続けられるかどうかの話です。
そして、ここからが私たちの本業になります。頻度が変われば、必要な設備が変わるからです。
毎日使うのか、週末だけなのか。水風呂の水は毎日入れ替えるのか、循環させるのか、チラー(水を冷やす機械)を入れるのか。外気浴の場所に風よけはあるか。雪が積もった日、裸足で立てる場所は残るか。脱衣室に暖房はあるか。手すりはあるか。段差は消せるか。床は濡れても滑らないか。夜、ひとりで出入りしても危なくない動線になっているか。
岩手の冬は、脱衣室とサウナ室の温度差が大きくなります。私たちが見てきた範囲では、ひやりとする場面はサウナの中ではなく、その前後の数十秒に潜んでいることが多い。だから設計の話は、いつも回数の話より先に来ます。
持病のある方、お薬を飲んでいる方は、始める前に主治医にご相談ください。可否を私たちが判断することはできません。
最後に、商売の話を数行だけ。私たちが岩手・盛岡で扱っているHARVIA(ハルビア)の薪サウナストーブ、たとえばレジェンド300(WK240LD)は、サウナストーンをたっぷり載せられる機種です。石は蓄熱するぶん、熱がやわらかく立ち上がります。自宅サウナの設置をお考えの方には、ストーブ選びと同じくらい、水風呂と外気浴と脱衣室の動線を先に決めることをおすすめしています。頻度は、その動線が決まってから、体のほうが教えてくれます。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Solianik R, Jarutiene L, Brazaitis M. Journal of Thermal Biology, 2025, Vol.129, 104088(リトアニア・スポーツ大学)。若年・非肥満の成人12人、14℃の全身冷水浸漬10分を16日間毎日
- Hanssen MJW et al. Nature Medicine 21, 863-865, 2015(オランダ・マーストリヒト大学)。2型糖尿病患者8人、14〜15℃の室内で1日6時間・10日間の軽度寒冷順化(震えを伴う条件)、対照群なしの前後比較
- Søberg S et al. Cell Reports Medicine, 2021年10月(コペンハーゲン大学)。週2〜3回の冬季水泳とサウナを習慣とする男性を対象とした観察研究
- 補足:震えが出ない16〜17℃の条件で行われた後続の寒冷順化研究では、インスリン感受性の有意な改善は報告されていない
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



