サウナ室の点検で伺うと、木の色が教えてくれます。よく使われている家の板は、蜂蜜のような色に焼けている。そして「どなたが一番よく入っていますか」と聞くと、決めたのはご主人なのに、使っているのは奥さまだった、というお宅が続きました。ところが冷水浴の研究をいくら読んでも、女性の数字が出てきません。11件を集めたメタ解析でも、10件は男性だけの研究でした。その空白を、1,114人への調査が少しだけ埋めています。
半年後の点検で、木の色を見る
サウナ室をお納めして半年ほど経った頃、点検に伺います。玄関で靴を脱いで、まず見るのは木の色です。ベンチと壁の板が、蜂蜜のような色にゆっくり焼けていれば、ちゃんと使われている。新品のまま白く止まっていれば、あまり使われていない。木は正直で、報告書より先に教えてくれます。
それから、世間話のふりをして必ず聞くことがあります。ご家族の中で、どなたが一番よく入っていますか。
返ってくる答えは、こちらの予想とよくずれます。導入を決めたのはご主人でした。カタログを取り寄せたのも、ヒーターの出力で悩んだのも、図面の打ち合わせに毎回出てきたのもご主人です。ところが半年後、いちばん使っているのは奥さまだった。そういうお宅が、盛岡でも、県北の現場でも、続きました。
これは私たちが施工してきた範囲での話です。件数を数えて統計を取ったわけではありませんし、逆のお宅もあります。それでも同じ光景が続くと、こちらの図面が誰を見て描かれていたのかを疑うようになります。
水風呂の深さ。髪を乾かす場所。脱衣室の温度。打ち合わせの席で、この三つが話題になったことは、正直に言うとほとんどありませんでした。
冷水浴の研究には、女性がほとんどいない
その引っかかりを抱えたまま、冷水浴の研究を読み直しました。すると、思っていたよりずっと手前のところで足を取られました。研究の中に、女性がほとんどいないのです。
2025年にPLOS ONEという学術誌へ載った、Cainらのメタ解析があります。メタ解析というのは、条件の近い研究をいくつも集めて、数字ごと統合し、平均としての傾向を見る方法のことです。一本の研究だけでは偶然に振り回されるので、まとめて眺める。そういう道具だと思ってください。
この解析は、冷水浴の無作為化比較試験を11件、参加者にして計3,177人ぶんを集めました。無作為化比較試験というのは、参加者をくじ引きのように機械的に振り分けて、冷たい水に入る組と入らない組を比べる形式です。研究者や参加者の思い込みが入りにくく、いまのところ一番信頼できる形とされています。
その11件のうち、女性が参加していた研究は1件だけでした。残る10件は、参加者が全員男性です。著者ら自身が、これを研究の限界として論文に書いています。
ここは数字の読み方に少しだけ注意が要ります。人数で数えると、3,177人のうち55.4%は女性です。合計だけ見れば、女性のほうが多い。ところがその女性は、3,018人という飛び抜けて大きな1件にほとんど集まっていて、ほかの10件には一人もいません。人数の合計では女性が多数派に見えるのに、研究の件数で見れば10件が男性だけ。つまり「冷水浴はこうだ」という話を、11件のうち10件は男性のからだだけを見て確かめてきたことになります。人数で語るか件数で語るかで、風景がまるで変わる。これも母数の話です。
体格が違い、体脂肪の付き方が違い、熱の逃げ方が違い、ホルモンの周期がある。それでも、女性に向けて答えるための材料は、まだ十分に積み上がっていません。誰も意地悪をしたわけではなく、ただ、そういう順番で研究が進んできたということです。

1,114人に聞いた、たった一つの手がかり
その空白を、ほんの少しだけ埋めている調査があります。
2024年1月、Post Reproductive Healthという学術誌に載った、PoundさんとHarperさんらの報告です。ロンドン大学(UCL)らのグループによるもので、著者の所属は英国の複数の大学と、NHSの医療機関にまたがっています。冷水泳を習慣にしている女性1,114人に、オンラインでアンケートを取りました。
回答者1,114人のうち、785人が閉経周辺期——いわゆる更年期にあたる時期の方でした。この785人は1,114人の中に含まれる人数です。別々のグループが並んでいるのではないので、二つの数字を足し合わせることはできません。しかもこの調査は、設問によって答えた人数が変わります。入れ子の関係と、設問ごとの母数。この二つを見落とすと、同じ割合がまったく違う人数に化けます。
そして、この調査で私がいちばん長く目を止めたのは、泳ぐ目的についての一行でした。母数は回答者全員の1,114人ではなく646人。そのうち409人、割合にして63.3%が、症状の緩和を目的として泳いでいたと答えています。
ここは実数で覚えておくのが安全です。1,114人の63.3%だと勘違いすると700人ちかくになり、実際の409人より三百人ほど多く数えてしまう。私自身、最初に書き写したときに危うくそうしかけました。
景色のためでも、記録のためでも、仲間に会うためでもない。自分の体調のために、冷たい水へ入っていた人が、この設問に答えた人の三分の二近くを占めていた。これは効果の証明ではありません。効果の話ではなく、動機の話です。それでも、これだけの人数の動機がひとところにまとまっている資料は、そう多くありません。私たちのような設備の側にいる人間にとっては、ここがいちばん実用的な一行でした。
785人のうちの46.9%、34.5%、31.1%、30.3%
回答の中身を並べます。ここから先の四つは、1,114人全体ではなく、閉経周辺期にあたる785人を母数とした割合です。
冷水泳によって不安がやわらいだと答えた人が368人、785人のうちの46.9%。気分の変動については271人で34.5%。気分の落ち込みについては244人で31.1%。ほてり——hot flush、顔や上半身がふいに熱くなる、あの症状のことです——については238人で30.3%。
母数をしつこく書くのには理由があります。同じ論文は、月経に伴う症状についても別の割合を報告していて、そちらの不安は46.7%、気分の変動は37.7%、いらだちは37.6%です。46.9%と46.7%。並べて書き写せば、自分がどちらの話をしていたのか、書いた本人にも分からなくなります。数字を持ち帰るときは、必ず「誰の、何%か」まで一緒に持ち帰ってください。
数字だけを見ると、何かが起きているようにも読めます。ただ、ここは急がずに読む場所です。
まず、どれも半分に届いていません。いちばん高い不安の項目でも46.9%、人数にすれば785人中368人です。裏を返せば、半数以上の方は「やわらいだ」とは答えていないことになります。ほてりに至っては、およそ7割が改善を挙げていません。良い数字だけを取り出して並べると、この裏側がきれいに消えてしまいます。
並び順にも目が行きます。不安、気分の変動、気分の落ち込み、ほてり。上の三つは気持ちに関わる項目で、いちばん下のほてりは体に出る症状です。気持ちに関わる項目のほうが高く出ている、という形になっています。ただしこれも、そう答えた人が多かった、という以上のことは言えません。
言葉づかいも崩さずに書いておきます。効いた、ではありません。やわらいだと報告した人の割合が、785人中46.9%だった。そこまでです。細かい違いに見えて、この二つはまったく別のことを言っています。
対照群がない、ということの意味
研究の話でいちばん地味で、いちばん大事なのがここです。
対照群というのは、比べるための相手のことを言います。同じくらいの年齢で、似た暮らしをしていて、冷水泳だけしていない人たち。その集団と並べて初めて、差が冷たい水のせいなのかを問うことができます。
今回の調査には、それがありません。回答者は全員、すでに冷水泳を続けている人です。
ここが効いてきます。合わなかった人、寒くて続かなかった人、一度入って怖くなってやめた人、体調を崩して離れた人。その方々は、そもそもこのアンケートにたどり着いていません。続けている人だけに聞けば、続ける理由のある答えが集まりやすい。これは調査の落ち度というより、アンケートという方法そのものの性質です。
症状の変化も、本人の自己申告です。血液を採ったわけでも、機械で測ったわけでもありません。年齢やほかの生活習慣で数字をならす、多変量調整と呼ばれる処理もされていません。
まとめると、この調査は因果関係——冷たい水に入ったことが原因で症状が変わった、という関係——を示すものではありません。関連が語られているだけです。加えて英国での調査であり、日本人を対象にしたものでもありません。ここは、はっきり書いておきます。
それでも、この調査を紹介する理由
限界をこれだけ並べたうえで、では紹介する意味はどこにあるのか。
一つは、人数です。1,114人という規模で、女性にだけ冷たい水のことを聞いた資料は、いま手に入る中では数えるほどしかありません。11件中10件が男性だけ、という偏りの前では、粗い調査でも、無いよりはるかにましです。空白を空白のまま置いておくと、そこは誰かの思いつきや売り文句で埋められてしまいます。
もう一つは、646人中409人——63.3%という動機の数字です。繰り返しますが、これは効果の証明ではありません。ただ「冷たい水に入る女性が、何を求めて入っているのか」は、はっきり映しています。求めているものが分かれば、こちらが用意すべき場所の形も、少しだけ見えてきます。
私たちはサウナと薪ストーブの店であって、医療者ではありません。ですから、症状に効くかどうかを語ることはできませんし、語りません。持病のある方、お薬を飲んでいる方、体調について通院されている方は、冷たい水に入る前に必ず主治医へご相談ください。
私たちにできるのは、その人が入りたいと思ったときに、無理なく入れて、無理なく出られる場所を作ることだけです。ここから設計の話に移ります。

水風呂の深さと、出るときの一歩
自宅の水風呂で、私たちが最初に確かめるのは深さです。
肩まで浸かれる深さがいい、とよく言われます。ただ、深い槽は出るときに全身を持ち上げることになります。冷えた体で、濡れた足で、掴まるところのない縁を越える。ここが一番危ない場所です。
私たちが見てきた範囲では、身長差のある家族ほど、この一点で使う人と使わない人が分かれます。ご主人にちょうどいい深さが、奥さまには深すぎる。入るのは勢いでどうにかなっても、出るのは体力の話になります。冬の夜、暗い屋外で、というときはなおさらです。
ですから、深さを決める前に四つを図面へ入れます。槽の中に段を一段作ること。縁の高さを、腰かけて跨げる寸法にすること。手すりを縁の内側と外側の両方に付けること。足元を、濡れて滑りにくい仕上げにすること。この四つは後付けが難しく、槽の寸法と一緒に決めてしまうのが確実です。
そのうえで、設備ではない約束事もお伝えしています。ひとりで入らないこと。入る時間を先に決めておくこと。頭まで潜らないこと。
もう一つ、必ず付け加えていることがあります。岩手には川も湖も雪解け水もありますが、あれは家の水風呂とは別物だ、ということです。自然の水域は水温も深さも足場もこちらで決められません。急に深くなる場所があり、流れがあり、雪解けの時期は見た目よりずっと冷たい。冷たさで息が乱れて自分の体が言うことを聞かなくなる冷水ショックや、溺れる危険は、温度も深さも管理された家の水風呂とは比べものになりません。家で身につけた作法は、家の水風呂を安全に使うためのものです。外の水域へそのまま持ち出せる作法として、私たちはお伝えしていません。

髪と、着替えと、脱衣室の温度
サウナから出たあとの時間は、入っている時間より長くなります。設計で見落とされるのは、たいていこちら側です。
髪の長い方は、乾かし終わるまでが一続きの流れになります。ドライヤーを差す場所。鏡の位置。その前に立ったとき、背中側が寒くないかどうか。この三つが揃っていないと、冬に足が向かなくなります。私たちが見てきた範囲では、使われなくなった自宅サウナの理由の上位は、熱さでも冷たさでもなく、この「あと」の寒さでした。
岩手の冬は、脱衣室との温度差が大きい。盛岡でも冬の水道水は一桁台まで落ちますし、朝の脱衣室が一桁のままという家は珍しくありません。サウナ室が90℃で、脱衣室が5℃。その落差の中を、濡れた体で歩くことになります。雪かきのあとに玄関で立ち尽くす、あの寒さが、裸のまま来ると思ってください。
ですから、脱衣室の暖房計画までがサウナ設置の仕事だと考えています。床を冷たくしないこと。着替えを置く棚を、屈まずに手が届く高さにすること。扉を開けたときに、風が体へ真っすぐ当たらない向きにすること。どれも図面の段階なら小さな話で、建ててからだと工事になります。

数字が薄いところは、設計で埋める
研究の数字が薄い領域では、断定しないことがいちばん誠実だと思っています。
冷水泳をする女性1,114人の調査は、症状が良くなることを証明したものではありません。対照群がなく、自己申告で、すでに続けている人に偏った調査です。設問ごとに母数も違います。11件中10件が男性だけ、という偏りも、まだ埋まっていません。この先、女性を対象にした比較試験が積み上がれば、話はまた変わるでしょう。私たちはそれを待っています。
その日まで、こちらにできるのは、寸法と温度と動線を丁寧に決めることです。深さ、段差、手すり、鏡、ドライヤーの位置、脱衣室の暖房。数字で語れないぶん、手で触れる部分を確かめる。
打ち合わせで、私たちが最近いちばん早い段階で聞くようになったのは、ヒーターの出力でも、壁の樹種でもありません。完成したあと、たぶん一番よく入るのはどなたですか。その一問です。答えがご主人でも奥さまでも、その方の身長と、髪の長さと、冬の朝の動きを伺ってから、深さを決めます。
半年後の点検で木の色が焼けていれば、その設計は当たっていたということです。白いままなら、どこかで誰かに我慢をさせている。そう思って、次の図面を引いています。
冷たい水のことを、私たちは効能として語りません。研究がまだそこまで届いていないからです。それでも、入りたいと思った人が無理なく入れて、無理なく出られる場所なら作れます。D'STYLEでは盛岡のショールームで、ハルビアの電気ヒーター、薪サウナストーブ、ペレットのバレルサウナを、火の入った状態でご覧いただけます。図面より先に、冬の朝の動きを伺うところから始めています。持病のある方、お薬を飲んでいる方、通院中の方は、主治医にご相談のうえでどうぞ。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Pound M, Harper JC ほか. Post Reproductive Health, 2024年1月(ロンドン大学UCLらのグループ。著者の所属は英国の複数の大学およびNHSの医療機関にまたがる)——冷水泳を行う女性1,114人へのオンライン調査。閉経周辺期にあたる785人を母数として、不安の改善46.9%(368/785)、気分の変動34.5%(271/785)、気分の落ち込み31.1%(244/785)、ほてり30.3%(238/785)。症状の緩和を目的として泳いでいた人は63.3%(409/646)で、母数は1,114人ではない。なお同論文は月経に伴う症状について別途の割合(不安46.7%、気分の変動37.7%、いらだち37.6%)も報告しており、混同に注意。対照群のない自己申告のアンケート調査。
- Cain T ほか. PLOS ONE, 2025——冷水浴の無作為化比較試験11件・計3,177人を統合したメタ解析。参加者の55.4%は女性だが、女性は3,018人規模の1件にほぼ集中しており、残る10件は参加者が男性のみ。女性を含む研究が11件中1件のみである点を、著者らが限界として明記している。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



