盛岡のショールームで自宅サウナの図面を広げていると、途中で声のトーンが変わる瞬間があります。実は心臓の薬を飲んでいまして、と。そのあとに続く質問に、私たちが答えることはできません。ただ、紹介できる記録なら一つあります。慢性心不全と冠動脈疾患の患者さん25人と、病気のない健常な方12人。合わせて男性37人が、80℃のサウナと12℃の水風呂を実際に通った試験の記録です。数字は、思っていたより正直でした。
「入っていいですか」と、必ず聞かれます
盛岡の冬は、朝の玄関から始まります。戸を開けた瞬間、頬に張りつくような冷たさ。雪をかいて、車の屋根の雪を落として、それだけでもう背中が温まっている。そういう土地です。
12月から2月にかけて、ショールームには自宅サウナの相談が増えます。来られるのは50代から70代の方が多い。図面を広げて、電気か薪か、置き場所は屋内か庭か、という話をしていると、たいてい途中で声のトーンが少し変わります。
「実は、血圧の薬を飲んでいまして」 「去年、心臓にカテーテルを入れたんです」
そのあとに続く言葉は、ほとんど決まっています。こういう体で、サウナに入っていいものでしょうか、と。
私たちは、それに答えません。答える資格を持っていないからです。サウナ室をつくり、煙突を立て、水まわりを引くのが私たちの仕事で、その方の心臓を診ているわけではない。ここを曖昧にすると、あとで誰も幸せになりません。
ただ、答えの代わりに紹介できる記録が一つだけあります。80℃のサウナと12℃の水風呂に、心臓に病気を抱えた人と、そうでない人が並んで入った、10年ほど前の試験です。

37人が、80℃と12℃を順番に通った
Radtke T らが、European Journal of Preventive Cardiology という予防循環器の専門誌に、2016年4月に発表した研究です。
参加したのは男性37人。三つのグループに分かれています。
慢性心不全の患者が12人、平均61.8歳。冠動脈疾患の患者が13人、平均61.2歳。そして、病気のない対照の方が12人、平均60.9歳。
先に一つ、はっきりさせておきます。37人全員が患者だったわけではありません。心臓に病気があったのは25人で、残りの12人は、比べるために入っていただいた健常な方です。「心臓病の37人が入った」と縮めてしまうと、事実が変わります。
もう一つ。この研究がグループを分けた病名は「冠動脈疾患」であって、「狭心症」ではありません。冠動脈疾患は、心臓そのものを養っている血管が狭くなったり詰まったりする病気の総称で、狭心症も、心筋梗塞のあとの状態も、この傘の下に入ります。ですから、この13人が全員狭心症だったとは言えません。似ているからといって、言葉を勝手に置き換えないほうがいい場面です。
慢性心不全のほうは、心臓のポンプとしての力が落ちて、体に十分な血を送り出しにくくなっている状態のこと。どちらも、サウナの相談の席で実際に名前の挙がる病名です。
この37人が、同じ順番をたどりました。80℃のフィンランド式サウナに2セット。そのあと、12℃の水に浸かる。
水風呂は「頭部露出型」と書かれています。頭は水面から出したまま、という入り方です。ここは覚えておいてください。頭まで沈める入り方や、水の中で息を止める入り方は、この試験では行われていません。ですからこの記録から、そういう入り方の話を読み取ることはできません。
サウナの中では、上の血圧は下がっていた
まず、サウナ室の中で起きたこと。
収縮期血圧が低下したと報告されています。収縮期血圧というのは、心臓が縮んで血を押し出した、その瞬間のいちばん高い圧のこと。健康診断の紙に上下2つ並んでいる、上のほうの数字です。
その低下がいちばん深くなったのは、入って6分の時点でした。
6分というのは、実感としては短い時間です。木の匂いがしてきて、汗が額に浮いて、ようやく肩の力が抜けはじめるあたり。まだ「そろそろ出ようか」とは思っていない頃合いだと思います。
熱で体の表面の血管が広がる。通り道が太くなれば、同じ量を流すのに必要な圧は下がる。理屈としては素直です。サウナに入ると血圧が下がる、という話はよく耳にしますし、この試験でもその方向の変化が観察されています。
ただし、ここで読むのをやめてはいけません。この試験がわざわざ記録に残したのは、このあとに起きたことのほうだからです。

水風呂に入ると、上がった
12℃の水に入ったとき、収縮期血圧は上昇したと報告されています。しかも、3つの群すべてで有意に上がった、と。
「有意」という言葉は、統計の用語です。噛み砕けば、偶然のばらつきだけでは説明しにくいくらい、はっきりした差があった、という意味になります。
大事なのは、上がったのが健常な方だけではなかったこと。心不全の方も、冠動脈疾患の方も、同じ方向に動いています。
つまり、サウナで下がった血圧が水風呂でもとに戻る、という話ではありません。下がって、そのあと上がる。落として、上げる。この振れ幅こそが、温冷交代浴と呼ばれているものの中身です。
冷たい水に触れた瞬間、皮膚のセンサーが反応して、体は表面の血管を一気に締めます。締まれば、同じ量の血を流すのに高い圧が要る。ごく単純な仕組みです。単純だからこそ、誰の体にも同じように起きます。
サウナの話をするとき、私たちはつい「熱」のほうばかり見てしまいます。ヒーターの出力、石の量、ロウリュの蒸気。けれど体にとっては、12℃の水のほうがよほど急な出来事なのかもしれません。
心拍出量と心拍数、そして揃わなかった二か所
血圧のほかにも測られています。心拍出量と心拍数、それに自律神経の指標です。
心拍出量というのは、1分間に心臓が送り出す血液の量のこと。ポンプの仕事量、と考えるとわかりやすいと思います。
心拍出量と心拍数は、サウナのあとも水風呂のあとも、3つの群すべてで有意に増えたと報告されています。ただし、一か所だけ例外があります。冠動脈疾患の患者さんの、サウナ後の値。ここだけは、有意な増加が示されませんでした。
そして、きれいに揃わなかったところは、もう一か所あります。自律神経です。
この研究では、心拍の間隔のゆらぎ(心拍変動)を周波数ごとに分解して、低周波成分と高周波成分の比、いわゆるLF/HF比を見ています。交感神経と副交感神経のバランスの目安として使われる数字です。
結果はこう書かれています。慢性心不全の患者さんでは、LF/HF比に変化は見られなかった。一方、冠動脈疾患の患者さんと健常な対照の方では、1回目のサウナのあとにLF/HF比の遷延的な上昇が観察された、と。
「遷延的」というのは、その場かぎりで戻らずに、しばらく続いたという意味です。サウナ室を出たあとも、交感神経寄りに傾いた状態がしばらく残っていたグループがあった、ということになります。
都合のいい数字だけを並べるのは、この手の記事でいちばんやってはいけないことだと思っています。だから両方書いておきます。全部がきれいに揃ったわけではありませんし、自律神経のほうが何も動かなかったわけでもありません。
そのうえで、補足を二つ。
一つめ。LF/HF比は、交感神経の活動そのものを直接測った数字ではありません。心拍のゆらぎから間接的に推定した「バランスの目安」で、その読み方には研究者のあいだでも議論があります。上がった=危ない、と一足飛びに読むための物差しではない、ということです。
二つめ。有意差が出なかったことは「何も起きなかった」の証明ではありません。13人という人数では、差があると言い切れなかった、というだけのことです。人数が少なければ、本当にある差も見えなくなる。統計とはそういうものです。
もうひとつ添えておくと、これらはすべてグループの平均の話です。37人のなかに平均から大きく外れた人がいたかどうかまでは、平均値からは読めません。
「よく耐えられた」という結論を、どこまで広げていいか
論文の結びには、こう書かれています。全被験者が良好に耐容した。過度な交感神経(アドレナリン系)の活性化も、複雑性不整脈も誘発されなかった、と。
交感神経というのは、体を緊張させて心拍や血圧を上げる側の神経のこと。複雑性不整脈は、脈の乱れのなかでも警戒される種類のものです。それらが出なかったという報告は、確かに安心できるものです。
ただし、ここは言葉を正確に受け取ってください。論文が書いているのは「交感神経は動かなかった」ではありません。「過度な活性化は起きなかった」です。実際、さきほど書いたとおり、冠動脈疾患の方と対照の方では、初回のサウナのあとにLF/HF比が上がったまま、しばらく戻っていません。動いてはいる。ただ、研究者の目から見て度を越したものではなかった。そういう報告です。ここを縮めて「何も起きなかった」と書けば、それは嘘になります。
そのうえで、この結論をどこまで広げていいかは、慎重に見たほうがいい。条件を並べます。
対象は37人。統計として大きい数ではありません。しかも、心臓に病気があったのは25人で、病名ごとに割れば12人と13人。ひとつの群は十数人です。全員が男性です。女性の体がどう反応するかは、この研究からは何も言えません。平均年齢は3群とも61歳前後で、20代にも80代にも、そのまま当てはめられません。論文に、日本人を対象にしたという記載はありません。
そして何より、これは医療の監視下で行われた試験です。異変があればすぐ止められる人と機械がそばにある場所での記録であって、自宅の脱衣室でひとりきり、という場面の話ではありません。
さらにもうひとつ。80℃、12℃、2セットという数字は、研究者があらかじめ決めた条件です。研究が「これが最適だ」と探し当てた境目ではありませんし、誰かに勧めるために出された目安でもありません。ここは本当によく混同されます。
最後に。これは、その日その場の体の反応を測った記録です。何年も続けたらどうなるか、病気が良くなるか、防げるか。そこには何も触れていません。
数字は、図面に置き換えるためにあります
では、この記録から私たちが現場に持ち帰れるものは何か。
一点だけです。水風呂では血圧が上がる。健康な人でも、心臓に持病のある人でも、同じ方向に上がる。
これを図面に置き換えると、こうなります。
水風呂から出る瞬間に、必ずつかまれるものがあること。手すりは「あったほうがいい設備」ではなく、体の中で圧が動いている最中に立ち上がる、その動作を支える構造物です。位置は槽の縁の少し内側、立ち上がりきる前に手が届く高さ。実際に座っていただいて決めます。素材も選びます。冬の金属は、濡れた手には冷たすぎます。
段差をつくらないこと。濡れた足で10cmの立ち上がりをまたぐ。それだけで、動作の難しさは倍になります。
床は、濡れて滑らないもの。タイルなら防滑のもの、木ならすのこの目の向きまで見ます。
出入口は、人ひとりが横向きにならずに通れる幅。誰かを抱えて外へ出る場面まで想定すると、幅はもう少し要ります。
そして、ひとりで入らない動線。声が届く位置に誰かがいること。これは設備ではなく約束ごとですが、間取りで助けることはできます。サウナと台所が近ければ、湯を沸かしながらでも声は届きます。

岩手では、脱衣室が設計項目になります
岩手でサウナをつくるとき、私たちがいちばん時間をかけて話すのは、実はサウナ室の中ではありません。脱衣室です。
盛岡の冬、暖房を入れていない脱衣室は、驚くほど冷えます。私たちは温度計を持って各家を測って回っているわけではないので、数字は出しません。ただ、現場に立った体感として、真冬の朝の脱衣室は、服を脱ぐのに一度ためらうくらいの冷たさです。そこで服を脱ぎ、80℃に入り、12℃に浸かり、また冷えた脱衣室に戻ってくる。
この研究が記録したのは、サウナと水風呂という2つの段階だけです。脱衣室のことは測られていません。けれど実際の暮らしでは、そこも立派に一つの段階です。
だから私たちは、サウナのお見積もりのなかに脱衣室の暖房を必ず入れます。パネルヒーターでも、床暖でも、薪ストーブの熱を回す方法でも構いません。要は、裸になる場所と、熱と、水と、そのあいだの温度が階段状につながっていること。急な段差をつくらないという考え方は、床でも温度でも同じです。
外気浴も同じ話です。岩手の冬の外気浴は、それ自体がかなり強い刺激になります。雪の照り返しのなかで、頬が痛くなるほどの冷たさ。あれは得がたく気持ちのいいものですが、水風呂から濡れたまま出るのと、いったん体を拭いてから出るのとでは、体にかかるものが違います。私たちは、拭いてから出ることをお伝えしています。

答えられないことは、答えないままにする
最初の質問に戻ります。持病がありますが、サウナに入っていいですか。
私たちは、これに答えません。同じ「心臓の病気」という言葉でも、状態も、飲んでいる薬も、通院の間隔も、その方の暮らしも、一人ずつ違います。それを判断できるのは、その方を診ている医師だけです。
ですから、こうお伝えしています。かかりつけの先生に、こう聞いてみてください、と。
以下は、聞き方の言い回しの例です。数字の中身は、私たちが決めるものではありません。
「サウナに入っていいですか」では、漠然としすぎています。先生が答えやすいのは、これから自分がやろうとしている中身が具体的に並んでいるときです。サウナ室の温度、一回に入る時間、そのあと水風呂に入るかどうか、入るなら水の温度、外気浴を挟むかどうか、そして週に何回のペースで続けるつもりか。それを書き出して、「この内容で続けても差し支えないでしょうか」と聞く。そういう形にすると、話が早いはずです。
書き出す中身は、ご自身がやってみたいと思っている内容で構いません。この記事に出てきた80℃と12℃は、あくまでこの研究が設定した実施条件であって、私たちがおすすめしている数字でも、目安として示している数字でもありません。そこは持ち込まないでください。水風呂は省いて外気浴だけにするという選択肢があることも、あわせて相談してみてください。
そして、迷いが残るなら、水風呂は後からでもつくれます。配管の逃げと電源だけ先に取っておけば、1年目は外気浴だけ、体が慣れてから水風呂を足す、という順番も組めます。急いで全部そろえる必要はありません。
サウナは、10年20年と使うものです。最初の1年でどれだけ気持ちよかったかより、10年後にまだ週に2回入れているかどうかのほうが、たぶん大事です。
D'STYLEは岩手・盛岡で、薪・電気・ペレットのサウナヒーターと、サウナ室そのものの設計施工を行っています。KUUTA saunaの自宅サウナでは、水風呂やシャワーの位置、手すり、段差、脱衣室の暖房までを一枚の図面に落としてからお見積もりをお出しします。研究が語れることには、はっきりと限りがあります。私たちが語れるのは、そこから先の、床と手すりと動線の話だけです。持病のある方、薬を飲んでいる方は、必ず主治医にご相談のうえでお使いください。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Radtke T, Poerschke D, Wilhelm M, Trachsel LD, Tschanz H, Matter F, Jauslin D, Saner H, Schmid JP. Acute effects of Finnish sauna and cold-water immersion on haemodynamic variables and autonomic nervous system activity in patients with heart failure. European Journal of Preventive Cardiology. 2016;23(6):593-601. doi:10.1177/2047487315594506(PMID: 26152773/男性37人=慢性心不全12人・61.8±9.2歳、冠動脈疾患13人・61.2±10.6歳、健常対照12人・60.9±8.9歳。80℃のフィンランド式サウナ2回連続のあと12℃の頭部露出型冷水浸漬を実施。心拍出量・心拍数はサウナ後・冷水浸漬後に全群で有意に増加、ただし冠動脈疾患群のサウナ後を除く。サウナ中の収縮期血圧は全群で有意に低下し最低値は6分時点、冷水浸漬では全群で有意に上昇。LF/HF比は慢性心不全群では変化なし、冠動脈疾患群と対照群では初回サウナ後に遷延的な上昇が観察された。全被験者が良好に耐容し、過度なアドレナリン活性の上昇や複雑性不整脈は誘発されなかったと報告。少人数・男性のみ・医療監視下という条件がある) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26152773/
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



