盛岡の冬の朝、蛇口をひねると手がしびれるほど冷たい水が出ます。あの水を30秒浴びるだけで、会社を休む日が減る。そんな話を、オランダで3,018人に試した研究があります。使われた冷水は10度から12度。病欠は確かに29%少なくなりました。ただし、体調が悪かった日数のほうには差が出ていません。この食い違いと、研究が答えていないことを、水風呂を置けない自宅サウナのご相談を受け続けてきた立場から読んでみます。
「水風呂は置けません」から始まる、盛岡の相談
2月の朝、盛岡。台所の蛇口をひねると、しばらくは手がしびれるような水しか出ません。お湯に変わるまでの十数秒、私はいつもその水を眺めています。
自宅にサウナを、というご相談で、いちばん多く聞く言葉があります。
「水風呂は、うちには置けません」
敷地が足りない。浴室が広くない。予算がある。冬に凍る。理由はお宅ごとに違いますが、行き着く先はだいたい同じです。そして、ほぼ必ずこう続きます。
「冷水シャワーで代用できますか」
私たちは施工の会社です。効きます、とは申し上げません。申し上げてはいけない立場でもあります。ただ、その問いに使える資料でしたら、手元にあります。オランダで3,018人に30日間の冷水シャワーを試してもらった研究です。
型は無作為化比較試験。参加者をくじ引きのように振り分けて、条件の違いだけを比べる研究のことです。あとから集めて見比べる観察研究より、原因と結果の見当がつけやすい形と言われます。
そしてこの論文は、盛岡で読むと少し違って見えます。研究が使った冷水は、平均して10度から12度。実施は2015年の1月から3月で、オランダの地下水温がおよそ10度という、冬の水です。いっぽう盛岡の冬の水道水は、私たちが現場で手を入れてきた範囲では、一桁台まで落ちることが珍しくありません。同じ30秒でも、この土地のほうが冷たい水を浴びている場合がある。遠い国の話には、なりません。

3,018人を4つに分けた、30日間
この研究は、Buijze GAらが2016年に学術誌PLOS ONEで報告したものです。実施したのはオランダ、アムステルダム大学のAcademic Medical Center(AMC)。のちにVUmcと統合してアムステルダムUMCという名前になる、その前の時期の仕事です。紹介するときは、当時の名前で書くのが筋だと思います。
集められたのは、18歳から65歳で、冷水シャワーの習慣がない3,018人。募集は広告とインターネット、SNSでした。この人たちを無作為に4つに分けます。3つは、いつも通りの温水シャワーの最後に冷水を浴びる群です。30秒、60秒、90秒。残る1つは、冷水を浴びない対照群でした。
期間は30日間、連続。その30日が終わったあとの60日間は、続けたい人だけが続けてよい、という設計になっています。
浴びた水の温度も、論文に書かれています。実施は2015年1月から3月、オランダの地下水温はおよそ10度で、参加者が浴びた冷水は平均10度から12度。日本のサウナ施設の水風呂と、そう遠くない温度帯です。ここは大事なところなので、あとでもう一度触れます。
変えたのは、シャワーの最後に冷水を足すかどうかだけ。運動の指示も、食事の指示もありません。だから、暮らしに冷水を1つ足したら何が動くのかを見ている研究です。
30日という長さも、よくできています。習慣が身につくかを見るには短すぎず、参加者に我慢を強いるには長すぎない。しかも冷水を浴びる時間は、いちばん長い群でも90秒です。1日90秒を30日、足しても合計45分。この研究が生活に加えた冷たさは、その程度でしかありません。
どんな人が集まったのかも、控えておきます。女性がおよそ59%、平均年齢はおよそ39歳。96%の人が、自分の健康状態をgoodまたはexcellentと答えていました。心臓や呼吸器に重い持病のある方は、はじめから参加できない決まりです。つまり、健康で、しかも自分から手を挙げた人たちの集まりでした。
数の大きさにも目を向けてください。3,018人。冷水浴の研究は、十数人から数十人という規模のものが大半です。そのなかで四桁は、かなりの例外です。ただし、人数が多いことと、測っているものが正確であることは、別の話。ここには後で戻ります。
病欠が29%少なかった、という数字の中身
結果です。
冷水を浴びた群では、自己申告による病欠が、対照群と比べて29%少なくなっていました。統計の言い方だと、発生率比0.71。発生率比とは、起きた割合の比のことです。1なら差がない、0.71なら3割ほど少ない、という読み方をします。
p値は0.003。差がまったくないと仮定したとき、これくらいの差が偶然に現れる確率が1,000回に3回ほど、という目安の数字です。
使われた統計の手法は負の二項回帰。休んだ日数のように、ゼロの人が多く、たまに大きな値が出る、ばらつきの強いデータを扱うためのものです。
ここで、言葉を一つ整理しておきます。29%少ないというのは、3,018人のうち29%の人が休まずに済んだ、という意味ではありません。冷水を浴びなかった人たちの病欠の起こりやすさを1としたとき、浴びた人たちは0.71だった、という比の話です。もともと年に数日しか休まない人にとっては、0.71になっても、実際に減る日数はごくわずかになります。比の数字は、大きく見えるようにできています。
それでも、はっきりした差ではあります。冷水浴の研究の多くが小さな集団の短い観察であることを思えば、3,000人規模でこの結果が出たことには重みがあります。
ただ、この論文のおもしろいところは、ここではありません。
ところが、体調が悪かった日数には差が出なかった
同じ研究は、もう1つの項目も測っています。「体調が悪かった日数」です。英語ではillness days。
こちらには、統計的に意味のある差が出ませんでした。
ここは、言葉を慎重に選ぶところです。差が出なかったというのは、差がないと証明された、という意味ではありません。統計の検定は、差があると言い切れるかどうかを見るしくみで、言い切れなかったときに手元に残るのは「わからない」です。しかも数えたのは本人の記憶と申告。体調が悪かった日の数え方は人によってぶれますし、そのぶれは、本当にあった小さな差を覆い隠す方向にはたらきます。効果がなかった、と読むのは、この論文が言っている以上のことを言うことになります。
実際、この論文は性別で分けた結果も報告していて、男性では体調が悪かった日数が少なかった(発生率比0.86、p=0.010)と書かれています。全体では差が出ないのに、分けると差が出る。こういうときの正しい受け取り方は、「男性には効く」と決めることではなく、「全体の数字だけでは、まだ足りない」と保留することです。
そのうえで、この研究がはっきり捕まえたのは、休んだ日数のほうの差でした。体調が悪かった日数の差は、この設計では捕まらなかった。風邪をひく回数が減ったのか、それとも風邪をひいても出勤したのか。論文は、そこを分けて答えていません。
私は、この食い違いのほうが大事だと思っています。健康の話は、体の中で起きたことと、その人がとった行動とを、つい一続きにして語ってしまいます。この研究は、そこがずれることがあると示している。冷たい水を浴びる朝の習慣が、体を変えたのか、それとも「今日は動ける」という感覚のほうを変えたのか。両方の可能性が、まだ残っています。
もう一つ付け加えるなら、病欠は勤め先の事情にも左右されます。休みやすい職場かどうか。代わりの人がいるかどうか。その日に外せない用事があるかどうか。冬の岩手なら、雪で現場が止まるかどうかも効いてきます。研究はそこまでを測っていません。
都合の良い数字だけを取り出せば「病欠29%減」になります。けれど同じ論文に、差がつかなかった項目が並んでいる。両方を書かなければ、この研究を紹介したことにはなりません。
30秒でも90秒でも、ほぼ同じだった
もう1つ、覚えておく価値のある結果があります。
30秒群、60秒群、90秒群。この3つのあいだで、効果はほぼ同等でした。長く浴びた人が、より大きな差を得たわけではありません。
これは、現場で効きます。
サウナの話になると、どうしても長さと温度の競争になります。もう1分。あと1度低く。けれどこの研究の範囲では、90秒まで延ばしても30秒より大きな差は出ませんでした。がまんの量が成果に比例する、という前提が、少なくともここでは支持されていません。
30秒なら、朝の身支度に組み込めます。90秒は、冬の盛岡だとかなりこたえます。続くかどうかで選ぶなら、答えは短いほうです。
なお、この研究の冷水は「温水シャワーの締めに数十秒」という形でした。10度から12度という温度だけを見れば水風呂と近いのですが、熱いサウナ室で芯まで温めた体を、肩まで沈める行為とは、体にかかるものがまるで違います。直前に何をしていたか、どこまで浸かるか、息を止めるかどうか。同じ冷水という言葉でも、中身は別物として読んでください。この研究の数字を、そのまま水風呂の話に持ち込むことはできません。

この研究が答えていないこと
限界を並べます。ここを飛ばすと、紹介ではなく宣伝になります。
1つめ。病欠も、体調が悪かった日数も、すべて自己申告です。診断書を集めたわけでも、検査値を見たわけでもありません。
2つめ。冷水を浴びたかどうかは、本人にわかります。薬の試験のように、中身を隠したまま比べることができません。ですから、期待や気分の影響を切り離しきることができません。
3つめ。全員が最後まで続けたわけではありません。30日のやり方をやり通せたのは、冷水を浴びる群のおよそ79%(30秒群82%、60秒群79%、90秒群79%)。30日の時点で12%が、90日の時点では19.6%が、追跡から抜けています。5人に1人前後は、途中で離れている計算です。続けられた人の中で出た数字である、という補正を、読む側でかけておく必要があります。
4つめ。30日を過ぎたあとの60日間は、続けるかどうかが本人任せです。もっと長く続けたときにどうなるのかを、この設計から言うことはできません。
5つめ。誰が参加したか、です。対象はオランダの18歳から65歳で、女性がおよそ59%、平均年齢はおよそ39歳。日本人ではありませんし、私たちがふだんお会いしている60代、70代の方が中心の集団でもありません。しかも募集は広告やSNS。健康で、活動的で、やってみたいと自分から手を挙げた人たちが集まっています。96%が自分の健康状態をgoodかexcellentと答え、心臓や呼吸器に重い持病のある方は、そもそも参加できない決まりでした。あとで「持病のある方はご相談を」と書きますが、まさにその方々は、この研究の中にいません。自分に当てはめて読むときは、そこを外さないでください。
6つめ。水温は10度から12度でした。ここは論文にはっきり書かれていて、不明ではありません。ただし、それは2015年の冬のオランダの水です。盛岡の1月2月の水道水は一桁台まで下がることがあり、研究の条件より冷たい水を浴びる場合があります。数字を写して安心するのではなく、こちらのほうが重い負荷になりうる、と安全側に読むのが実際的です。
7つめ。差が出なかった項目の読み方です。体調が悪かった日数に有意差がなかったことは、冷水シャワーに何の影響もないと証明したことにはなりません。自己申告のばらつき、検出できるだけの差の大きさ、割り付け後の脱落。差を見えにくくする理由はいくつもあります。この記事の見出しも「差が出なかった」であって、「効果がない」ではありません。
そして、無作為化比較試験は原因と結果を推し量るのに強い型ですが、それでもこの研究は、病気を防げると示したものではありません。測ったのは、休んだ日数と、本人が「体調が悪い」と感じた日数。それ以上でも、それ以下でもありません。
岩手の蛇口は、冬に一桁まで落ちます
ここからは、私たちが見てきた範囲の話です。論文には書かれていません。
岩手の冬、水道水はよく冷えます。現場で手を入れると、しびれるほどです。夏でも、井戸水や地下水を引いているお宅では、驚くほど冷たい水が出ます。研究が使った10度から12度という水を、この土地は無理なく用意できてしまう。それどころか、真冬にはそれより冷たい水が、蛇口から出てきます。
そして、岩手で冷たいのは水だけではありません。1月の朝、玄関を開けた瞬間の空気。雪かきで濡れた手袋。除雪車が来る前の道。屋外の作業。この土地に住む人は、冷たさに触れる回数がもともと多いのです。冷水を1つ足すという発想が、暖かい土地のそれとは少し違う重みを持ちます。
用意できてしまうからこそ、注意も要ります。研究の30秒より冷たい水を浴びるということは、研究より重い負荷をかけるということです。真冬の盛岡の30秒は、決して軽くありません。心臓に持病のある方、血圧の薬を飲んでいる方は、始める前に主治医にご相談ください。先に書いたとおり、この研究には、そういう持病のある方は参加していません。研究の数字は健康な3,018人の平均の話であって、目の前のあなたの、明日の朝の話ではありません。
家で試すなら、やめどきを先に決める
そのうえで、家で試してみる方に、私たちがお伝えしていることを書きます。効き目の話ではなく、続け方と、やめ方の話です。
順番は、温水のあとに冷水。研究と同じ形です。最初は足首から。ふくらはぎ、腿、背中と、心臓から遠いところを先に濡らしていきます。顔と頭は、最後まで避けてかまいません。
長さは、まず30秒。届かなければ10秒でも構いません。この研究の範囲では、90秒まで延ばしても差は出ていないのですから、短いところから始めない理由がありません。水が研究より冷たい日は、さらに短くてよいと思います。
やめどきは、始める前に決めておきます。息が詰まって整わない。めまいがする。指先の色が抜ける。上がってからも震えが止まらない。どれか一つでも出たら、その日はやめる。お酒を飲んだあとは浴びない。ひとりで無理をしない。これは、水風呂でも冷水シャワーでも同じです。
もう一つ。1行でいいので、記録をつけてみてください。日付、秒数、その日の気分。研究は3,018人を集めて平均を出しました。ご自宅では、あなた1人の記録が全部です。1か月分の1行が並ぶころには、続けられる形が自分でわかります。
そして、気持ちよくなかった日は、やめてよいのです。あの研究でも、5人に1人ほどは30日を待たずに離れています。健康のためにと歯を食いしばって浴びる30秒は、たぶん、この研究が見ていたものとは別のものです。

水風呂の前に、動線を描く
冷水を浴びる群のおよそ79%が30日をやり通せたのは、冷水シャワーが、すでにある習慣の最後に数十秒を足すだけだったからだと思います。新しく場所を作る必要がない。着替えも、移動も増えない。それでも5人に1人は離れたのですから、続けるというのは、そもそも簡単ではないのです。
家のサウナも、同じです。続くかどうかは、たいてい熱さでも水温でもなく、動線で決まります。
ご相談の最初に私たちが描くのは、この順番です。脱衣室をどう暖めるか。サウナ室の扉からシャワーまで何歩か。床は濡れて滑らないか。つかまるところはあるか。出たあとに座る椅子を、どこに置くか。岩手の冬は、脱衣室とサウナ室の温度差が大きくなります。ここを詰めないまま設備だけ決めると、冬に使わない部屋ができあがります。
水風呂は、置けるなら置いたほうが選べる幅は広がります。ただ、置けないから諦める話ではありません。以前の読みもの「水風呂がなくても、ととのえます」でも書きましたが、体を冷ますのはシャワーだけではなく、岩手には外気という強い味方があります。冬の外気浴は、それだけで十分に冷たい。
D'STYLEは岩手県盛岡市で、屋内サウナ室の設置、バレルサウナ、ハルビア(HARVIA)の薪サウナストーブや電気サウナヒーター、ペレットサウナのVENERE maticまでを扱っています。サウナストーンは石ですから蓄熱して重く柔らかい蒸気を返し、鋳物の本体は熱の当たりがやわらかい。水風呂を置けないお宅には、シャワーと外気浴を前提にした設置計画がおすすめです。どれをおすすめするかは、水風呂を置くか置かないか、脱衣室をどこに取るかが決まってからの話になります。盛岡のショールームで、実物を見ながらご相談ください。

30秒の冷水で、休まなくなる人がいる。けれど、体調が悪い日数のほうには差が出なかった。差が出ないことは、効果がないことの証明ではありません。わかっていない、というだけです。わかっている範囲で言えるのは、人が動くかどうかは体の中だけで決まらない、ということ。私たちにできるのは、続けられる形をつくることです。脱衣室を暖かくする。扉からシャワーまでを二歩にする。外に椅子を一つ置く。それだけで、通う場所が家になります。持病のある方、薬を飲んでいる方は、始める前に主治医にご相談ください。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Buijze GA, Sierevelt IN, van der Heijden BCJM, Dijkgraaf MG, Frings-Dresen MHW. The Effect of Cold Showering on Health and Work: A Randomized Controlled Trial. PLOS ONE, 2016(オランダ・アムステルダム大学 Academic Medical Center(AMC)。2015年1〜3月実施、冷水は平均10〜12度、地下水温およそ10度、30日完遂は介入群の79%)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



