「サウナは危ない」という声を、盛岡の店先でも何度も聞いてきました。ですが、その危なさがどれくらいのものか、数字で確かめた方は少ないのではないでしょうか。フィンランドが自国の司法解剖の記録を十数年分数えた研究があります。開いてみると、恐怖でも安心でもない、静かな数字が並んでいました。
雪の降る夜、離れのサウナで
岩手の冬は日が短く、午後四時にはもう暗くなります。母屋から少し離れた場所にサウナ小屋を建てたお宅では、家族が「行ってくるね」と一声かけて、雪道を渡っていく姿をよく見かけます。声が届く距離ではないことも珍しくありません。
そういう現場を見てきたからこそ、「サウナは危ない」という漠然とした不安の正体を、一度きちんと確かめておきたいと思いました。

フィンランドの記録が数えたもの
手がかりになるのは、フィンランドの研究者ケンタミエスとカルコラが2008年にJournal of Forensic Sciences誌に発表した論文「Death in Sauna」です。1990年から2002年までの13年間、フィンランド全国の警察記録・司法解剖記録・死亡診断書・毒物検査を洗い直し、サウナ内で発生した死亡がどれくらいの頻度で起きていたかを数えました。
結果は、人口10万人あたり年間で2人未満というものでした。フィンランドは人口あたりのサウナの数が世界でも際立って多い国です。それでもこの数字は、サウナが日常の一部である国での実態として、記録に残されています。

死因の内訳と、目立った共通点
論文によると、死亡の内訳は約51%が自然死とされ、熱そのものが直接の死因とされたのは25%でした。残りは他の要因が絡んだものです。自然死の内訳として心疾患が多くを占めるとされていますが、この論文の要旨で示されているのは自然死・熱中症・その他という大枠の区分であり、細かな死因の割合まで踏み込んだ記述ではない点は補足しておきます。
そしてもう一つ、この記録には目立った数字があります。全症例の50%が、飲酒の影響下にあったという点です。著者らはこの結果から、死亡の予防の焦点を「飲酒量を減らすこと」「酔った状態の入浴者を一人にしないこと」に置くべきだと結論づけています。
同じ著者グループの一人カルコラが関わった別の報告も、この傾向を裏づけています。コルテライネンが1991年にAmerican Journal of Forensic Medicine and Pathology誌に発表した論文「Hyperthermia Deaths in Finland in 1970-86」では、1970年から1986年までにフィンランド中央統計局の記録から集められた高体温死230例のうち228例を分析対象としており、その大半がサウナ入浴中に発生したもので、決定者(死亡者)の多くは42歳から62歳の男性だったとされています。そして大多数の症例から急性の飲酒が検出されていました。ここで挙げている数値は研究者が設定した集計区分に基づくものであり、フィンランド国内の記録という限られた母集団の中での傾向として理解する必要があります。二つの記録は、飲酒という同じ方向を指しています。
数字の分母を、正しく見る
「サウナは危ない」という言い方には、実は分母が抜けています。年間10万人あたり2人未満という数字は、日常的にサウナに親しむ国での、長期にわたる全数記録から出たものです。これを恐ろしい数字と読むか、思ったより少ないと読むかは、人それぞれでしょう。
ただ、この研究がはっきり示しているのは、死亡の半数に飲酒という共通因子があったという事実です。減らせる部分がどこにあるのか、この記録は静かに指し示しています。
岩手の自宅サウナで、実際に伝えていること
D'STYLEでは、盛岡近郊で薪サウナやKUUTAのサウナをお届けする際、引き渡しの場で必ず口頭でお伝えしていることが三つあります。
一つは、入る前にお酒を飲まないこと。二つ目は、家族に「これから入る」と一声かけてから入ること。三つ目は、扉を内側から押して外へ開く向きにしておくことです。万が一、中で動けなくなった場合でも、扉が外開きであれば、体重をかけるだけで開きます。
岩手の自宅サウナは、施設のサウナと違って、その場に係員はいません。母屋と離れが分かれ、冬は雪と二重サッシで声も届きにくくなります。だからこそ、行動で減らせる部分と、設備で支えられる部分を分けて考える必要があると、私たちは日々の施工の中で感じています。

数字を、脅しに使わないために
この研究が優れているのは、恐怖を煽る書き方をしていない点です。フィンランドという、世界で最もサウナが日常に根づいた国の全数記録から、淡々と数字を積み上げています。
私たちがこの記事で伝えたいのも同じことです。サウナが危険だと言いたいのでも、安全だと言いたいのでもありません。数字の分母を正しく見たうえで、行動で減らせる部分がどこにあるかを、静かに知っておいていただきたいと思っています。

数字を並べてみると、サウナそのものが持つ危なさと、飲酒という行動が重なったときの危なさは、はっきり分けて考えるべきものだと分かります。フィンランドの13年分の記録は、そのことを静かに教えてくれました。
岩手の冬、離れのサウナに一人で入る夜は、これからも続くでしょう。だからこそ、入る前の一杯を控えること、家族に一声かけること、扉の向きを確かめておくこと。小さな習慣の積み重ねが、この数字の分母を支えているのだと思います。
本記事は研究の紹介であり、個々の研究における集計区分や対象の限定を踏まえたうえでの一般的傾向の紹介です。サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Kenttämies A, Karkola K. "Death in Sauna." Journal of Forensic Sciences 2008;53(3):724-729. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1556-4029.2008.00703.x
- Kortelainen ML. "Hyperthermia Deaths in Finland in 1970-86." American Journal of Forensic Medicine and Pathology 1991;12(2):115-118. https://journals.lww.com/amjforensicmedicine/abstract/1991/06000/hyperthermia_deaths_in_finland_in_1970_86.6.aspx
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



