展示場に立っていると、ときどきこう聞かれます。「サウナって、がんにも効くんですか」。うちは薪サウナと薪ストーブを扱う店です。売りたい気持ちがないと言えば嘘になります。でも今日は、その質問に一番正直に答えてくれる研究の話をします。結論から言うと、関連は見られませんでした。
展示場でよく聞かれる質問
盛岡の国道4号沿いにあるショールームには、火の入った薪ストーブが何台も並んでいます。夜、明かりの灯った店の前を通りかかって、ふらっと入ってくる方がいます。サウナの相談に来て、世間話のついでに聞かれることがあります。「サウナに入ってると、がんになりにくいって本当ですか」。
答えに詰まります。詰まる、というより、正直に答えると相手ががっかりした顔をするのが分かっているからです。今日はその場でいつも言っていることを、そのまま文章にします。

フィンランドで長く追われている人たち
サウナと健康の関連を調べた研究の多くは、フィンランドのKIHD(Kuopio Ischemic Heart Disease、クオピオ虚血性心疾患研究)という追跡調査(コホート研究といいます。ある集団を長期間追いかけて、後から病気の起きた人と起きなかった人を見比べる研究の形です)を土台にしています。1980年代、東フィンランドのクオピオという街で登録された中高年の男性たちです。
このシリーズの他の記事でも紹介していますが、この集団を使った研究では、サウナに週に何回入るかと、心臓の病気や呼吸器の病気での死亡との間に関連が報告されています。ここまで聞くと、次はがんも同じように出るはずだと誰もが思います。私も最初はそう思いました。
がんについての報告は、ヌル結果だった
2019年、European Journal of Cancer誌(2019年10月4日オンライン公開、121巻184-191ページ)に、このKIHDコホートの男性2,173人(42歳から61歳、登録の時点でがんの既往のない人たち)を平均24.3年にわたって追跡した解析が発表されています。筆頭著者はLaukkanen JA(ラウッカネン)、共著者にMäkikallio TH、Khan H、Laukkanen T、Kauhanen J、そしてこのシリーズで何度も紹介してきたKunutsor SKも名を連ねています。追跡期間中に記録されたがんの発症は588件でした。
結果は、サウナに入る頻度と、がん全体のリスク、それから前立腺がん・消化器系がん・肺がんといった部位別に見たがんのリスクのどちらにも、統計的な関連は認められませんでした。専門用語では「ヌル結果」と呼びます。差が出なかった、という結果です。増えもしなければ、減りもしなかった。それだけです。
同じ集団・同じ方法で出なかった、という意味
ここで大事なのは、この結果が別の集団や別の手法で出たものではないということです。心臓の病気や呼吸器の病気で関連が報告されたのと、同じKIHDの人たち、同じような追跡の手法を使って、がんについては差が出なかった。都合よく集団を選んだ結果ではないということです。
もし研究チームが心血管や呼吸器の結果だけを発表して、がんの解析結果を出さなかったら、読者は「サウナはあらゆる病気に効くらしい」と思い込んだかもしれません。都合の悪い結果まで公表されている、というのは、この分野の研究の信頼を支えている部分だと私は思います。
観察研究は、因果関係を示さない
念のため、繰り返しておきます。この手の研究は「サウナに入る人を追いかけたら、こうだった」という観察研究です。実験室で条件をそろえて比べたものではありません。サウナによく入る人は、もともと元気だから入れている、という逆の向きの説明も排除しきれません。
がんについて言えば、そもそも関連自体が見られなかったので、因果関係うんぬん以前の話です。「サウナはがんの予防にならない」と断定することもできませんし、「関連がある」と言うこともできません。分からない、というのが一番正確な言い方です。
売る側が、先に言っておきたいこと
うちは薪サウナと薪ストーブの専門店です。橋本大治は三代続く火の家系で育ち、英国RODTECH社認定の煙突掃除インストラクターの資格を東北で最初に取った人間です。それでも、この記事で「がん予防」という言葉を使う気はありません。
売っている側が、自分に都合の悪い研究を先に出す。それがうちの読みものの型です。以前書いた『半分ホントで半分ウソ』という記事も、『サウナで酒は抜けない』という記事も、同じ立場で書いています。都合の良い数字だけを並べたら、それは広告であって、読みものではなくなります。


岩手の冬と、火のある暮らし
それでも、火のそばで過ごす時間そのものには意味があると、現場で感じることがあります。盛岡の冬は長く、雪かきで一日が始まり、日が短いまま暮れていきます。薪サウナに火を入れると、着火から入室まで一時間ほどかかります。その間、薪を割ったり、外の雪を見たりしながら待つ時間があります。
この時間を、効能の話にしないでおこうと思います。がんが防げるからではなく、ただ、冬の暗さの中で火を見ている時間が、暮らしの中にひとつあるということ。それだけで十分だと、私たちは思っています。
結局、何を伝えたいか
サウナに入っていれば、がんになりにくくなる。そう言い切れる根拠は、少なくとも今回紹介した研究にはありません。関連が見えなかった、という事実を、そのまま伝えることが、私たちにできる一番正直な仕事だと思っています。
体調に不安のある方、治療中の方は、サウナの利用について必ず主治医に相談してください。がんに限らず、持病のある方も同様です。私たちは設備を作る側であって、治療をする側ではありません。

がんの話に限らず、このシリーズでは研究に書かれていることだけを書き、書かれていないことは書かないようにしています。都合の良い結果だけを選んで並べるのは簡単ですが、それでは読みものとしての意味がありません。今回紹介したのは、関連が見られなかったという、いわば「地味な」結果です。ですが、その地味さこそが、この分野の研究全体を信じるに足るものにしていると、私たちは考えています。サウナも薪ストーブも、暮らしの道具です。効能の看板を掲げるより、火のそばで過ごす時間そのものを大事にしたいと思っています。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Laukkanen JA, Mäkikallio TH, Khan H, Laukkanen T, Kauhanen J, Kunutsor SK. Finnish sauna bathing does not increase or decrease the risk of cancer in men: A prospective cohort study. European Journal of Cancer. 2019;121:184-191. doi:10.1016/j.ejca.2019.08.031(オンライン公開2019年10月4日)
- https://www.ejcancer.com/article/S0959-8049(19)30501-5/abstract
- https://research-information.bris.ac.uk/en/publications/finnish-sauna-bathing-does-not-increase-or-decrease-the-risk-of-c/
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



