「1回12分」「長く入るほど良い」。日本のサウナ本でよく見る言葉には、たいてい一つの研究が根拠として置かれています。フィンランドの男性2,315人を20年以上追ったJAMA内科学誌の論文です。今回はその原著の表まで戻って、何が有意で何がそうでなかったのかを、そのまま並べてみます。
盛岡の待合室で聞いた「12分」という数字
施主さんとサウナの間取りを詰めているとき、時々「12分って本当ですか」と聞かれます。書籍やネット記事に必ず出てくる数字です。出どころをたどっていくと、たいていフィンランドの研究にたどり着きます。ところが原著を開くと、書籍で紹介されている話と、論文が実際に書いていることの間に、けっこうな距離があることに気づきます。今回はその距離を埋める記事です。
どんな研究か
2015年にJAMA内科学誌(JAMA Internal Medicine)に載った、ラウカネン(Laukkanen)らによる論文です。フィンランドの男性2,315人を、中央値20.7年という長い期間追跡しています。20年というのは、生まれた子どもが成人するくらいの時間です。その間に、心臓が突然止まって亡くなった方が190件、致死性の冠動脈疾患(心臓の血管が詰まる病気による死亡)が281件、致死性の心血管疾患(心臓や血管が原因の死亡)が407件、そして原因を問わない全死因死亡が929件、記録されました。ここで一つ注意です。この190件・281件・407件・929件という数字は、それぞれ別の集計方法(死因の絞り方)で数えたもので、単純に足し算はできません。全死因死亡929件の中に、他の三つの数字が(定義の重なる範囲で)含まれている、という入れ子の関係にあります。

「長く入る」ことで差が出たもの
研究では、1回のサウナ室滞在時間を「11分未満」「11〜19分」「19分超」の三段階に分けています。これは研究者が集計のために事前に決めた区分であって、体に何か境目があると見つかったわけではありません。この点は誤解されやすいので、ここで一度はっきりさせておきます。11分未満を基準にしたとき、19分超のグループでは、心臓突然死のリスク比(ハザード比、リスクの比だと考えてください)が0.48でした。95%信頼区間(推定の幅、真の値がだいたいこの範囲に収まるという目安)は0.31〜0.75で、統計的に意味のある差(p=0.001)とされています。致死性の冠動脈疾患もハザード比0.64(95%信頼区間0.46〜0.88)、致死性の心血管疾患も0.76(0.59〜0.97)と、いずれも入室時間が長いグループで数字が低く出ています。

ところが、全死因死亡では差がなかった
ここが今回いちばん伝えたい部分です。同じ「19分超」のグループを、全死因死亡(理由を問わない死亡すべて)で見ると、統計的に意味のある差はありませんでした(p=0.82)。心臓突然死や冠動脈疾患といった一部の死因では差が見えたのに、死亡全体で見るとその差は埋もれてしまう、ということです。都合の良い数字だけを取り出さず、有意だったものと、そうでなかったものを両方並べる。これがこの記事で守りたい姿勢です。
差が出ていたのは、時間より頻度だった
一方、サウナに入る頻度では、全死因死亡でもはっきりした差が出ています。週4〜7回入るグループは、ハザード比0.60(95%信頼区間0.46〜0.80)。週2〜3回のグループでも0.76(95%信頼区間0.66〜0.88)でした。つまりこの研究の中では、1回あたりの滞在時間よりも、どれだけの頻度で通っているかのほうが、全死因死亡との関連が強く出ていたことになります。書籍で「長く入るほど良い」とだけ紹介されると、この頻度の話が抜け落ちてしまいます。
これは観察研究であって、証明ではない
ここまでの数字はすべて観察研究、つまり後から生活習慣と結果を見比べた研究であり、実験のように原因と結果を直接確かめたものではありません。サウナに週4〜7回通える人は、そもそも体力があり、時間に余裕があり、健康的な生活を送れている人かもしれません。この「逆の因果」を、統計的な調整だけで完全に排除することはできません。実際、死亡率を確かめるためにサウナに入る人・入らない人を無作為に分けて追跡した実験(ランダム化比較試験)は、存在しません。対象もフィンランドの男性が中心で、女性のデータは限られています。日本人や、日本の入浴文化にそのまま当てはめられる話ではない、という前提も添えておきます。



設備屋として見えている「続けられる頻度」の話
頻度は、設備そのものよりも距離で決まる部分が大きいと、現場では感じています。盛岡から施設サウナへ通うと、冬は往復で1時間以上かかることも珍しくありません。雪の夜は、それだけで足が遠のきます。年間百軒近いお宅にお邪魔していると、サウナが続いている家と、そうでない家の差が「距離と手間」に出ているのがわかります。薪サウナは着火から本気の熱まで60〜90分かかりますから、時間のかかる設備であることは間違いありません。それでも、玄関を出て数歩で入れる場所にあることが、週に何度も火を入れる暮らしにつながっていくのを、これまで何度も見てきました。この研究が示した「週4〜7回」という頻度は、あくまでその研究の中の一つの群の結果であり、私たちが皆さんに推奨する数字ではありません。ただ、続けられる形に設計することの意味を、この論文はあらためて教えてくれます。
私たちは岩手・盛岡でハルビアの薪サウナを中心に、設置とアフターの両方を手掛けています。この研究が教えてくれるのは「何分入るか」より「どれだけ続けられる形にするか」という、設計の話に近い視点でした。薪ヒーターは着火から本気の熱まで時間がかかりますが、それも含めて生活の中に組み込めるかどうかが、続く続かないの分かれ目になります。ご自宅やお庭にサウナ小屋を考えている方は、間取りや導線のご相談から承っています。なお、本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。持病のある方、通院・服薬中の方は、頻度や時間について必ず主治医にご相談ください。
参照した研究
- Laukkanen T, Khan H, Zaccardi F, Laukkanen JA. "Association Between Sauna Bathing and Fatal Cardiovascular and All-Cause Mortality Events." JAMA Internal Medicine, 2015;175(4):542-548.
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



