薪を割り終えて、手袋を外す。汗が下着に張りついて、風が急に冷たく感じる。そのまま家に入って、着替えて、少し休む。岩手の冬には、よくある十五分です。 この十五分をどう使うかで、体の反応が変わるかもしれません。そんな比較をした試験が、フィンランドで行われています。ランダム化比較試験、つまり介入の試験です。運動の後にサウナを足す。順番を、変えただけの話でした。

「順番」だけを変えた、数少ないランダム化比較試験のひとつ
サウナと心血管の研究は、そのほとんどが観察研究です。何千人という人を何十年も追いかけて、よく入る人とそうでない人を後から比べる。関連は見えますが、原因と結果までは言えません。
観察研究というのは、こちらから何かをしてもらう研究ではありません。すでにそう暮らしている人を、後から数えて比べる研究です。ここに、ひとつ厄介な事情が残ります。サウナによく入る人は、そもそも入りに行ける体力と、時間と、余裕がある人かもしれない。健康だからよく入るのか、よく入るから健康なのか。この順番の疑いは、人数をどれだけ増やしても消えません。
そこに、数少ない介入試験のひとつがあります。2022年、American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology 誌の323巻に載った報告です(NCT04540718)。運動とサウナを組み合わせた介入試験は、4週間のパイロット試験や冠動脈疾患の患者さんを対象にしたものなど、ほかにもいくつか報告されています。唯一の一本ではありません。そのうえで、設計と数字がはっきり書かれている報告として、これを読みます。
対象は、デスクワーク中心の職に就いていて、週の身体活動が合計30分に満たない方。加えて、心血管の危険因子を一つ以上持つ成人です。ここは「運動」ではなく「身体活動」の合計で線が引かれています。歩く、階段を使う、そういう分も含めて30分未満、ということです。岩手では、冬のあいだだけ雪かきで思いのほか体を使う、という方もいます。ただしこの試験が集めたのは、ふだんから動く時間の少ない方でした。
登録されたのは48人。女性42人、男性6人。平均年齢は49±9歳でした。
この48人を、くじ引きで三つに分けます。運動にサウナを足す群、運動だけの群、何もしない対照群。
くじ引きにするのには、理由があります。年齢も体力も暮らし方も、人によってばらばらです。それを誰かが見て振り分ければ、どうしても偏ります。元気そうな方をサウナの群に入れてしまえば、結果はいくらでも良く見えてしまう。くじにしておけば、その偏りは平均するとならされていきます。だから後から出てきた差を、やったことの差として読みやすくなる。ランダム化比較試験と呼ぶのは、この一点のためです。
割り付けの時点では、どの群も16人ずつでした。ただし運動+サウナ群の1人が最初の週に抜けたため、最後まで解析できたのは47人(女性41人、男性6人)。群ごとの人数は15人・16人・16人となりました。数が揃っていないのは、そういう理由です。期間は8週間です。
運動は週3回、1回60分。運動+サウナ群は、その運動を終えてから15分のサウナに入ります。温度は65℃から始めて、2週間ごとに5℃ずつ上げ、最後は80℃まで。
比べたのは、運動の中身ではありません。運動の後に何をするか。変えたのは、そこだけです。
上乗せ分は、収縮期血圧で8.0mmHg
結果です。まず運動だけの群。何もしない対照群に比べて、最大酸素摂取量が6.2 mL/kg/分ふえました。週3回、1回60分、8週間。運動そのものの力が、まずここに出ています。
最大酸素摂取量というのは、体をめいっぱい動かしたときに、一分間にどれだけ酸素を取り込めるかという量のことです。体重1kgあたりの値で表します。持久力の目安として広く使われている指標で、数字が大きいほど、動き続けるための余力があるとされます。坂を上るとき、雪をかき続けるとき、その息の上がりにくさに関わる数字だと考えてください。
問題は上乗せ分です。運動+サウナ群を運動だけの群と比べると、最大酸素摂取量はさらに2.7 mL/kg/分(95%信頼区間 0.2〜5.3)。収縮期血圧は8.0mmHg低い(95%信頼区間 −14.6〜−1.4)。総コレステロールは19mg/dL低い(95%信頼区間 −35〜0)という数字でした。
信頼区間というのは、幅の話です。一回の試験で出た数字は、たまたまこの47人で出た数字にすぎません。同じような試験を何度も繰り返したなら、だいたいこの幅のどこかに落ち着くだろう。そう見積もった範囲が、95%信頼区間です。
収縮期血圧なら、−14.6から−1.4の間。0に近いほうの端、つまり上限が−1.4ですから、ほとんど差がないに近い可能性も残っています。逆の端まで振れれば14.6mmHg。それくらい幅のある数字だ、と読むのが正しい読み方です。一本の数字だけを見て決めない。幅は、そのために付いています。
総コレステロールについては、丁寧に書いておきます。19mg/dL低いという数字に付いた区間は、−35から0でした。上限がちょうど0と書かれていますが、これは表示のうえで丸められた0です。区間が0をまたいでいる、という意味ではありません。原著はこの項目にp=0.0467という値を付け、運動だけの群より低かったと報告しています。
p値というのは、ざっくり言えば「たまたまそうなっただけ」という説明のつきにくさを表す数字です。小さいほど、偶然では説明しにくい。0.05より小さければ有意とみなす、という線引きが慣習として使われています。0.0467は、その線のすぐ内側です。しかも47人の試験の、主たる目的ではない項目のひとつです。強い結果として持ち出すには足りません。そういう報告があった。そのくらいの重さで受け取るのが、妥当だと思います。

8.0mmHgとは、どのくらいの大きさなのか
数字が出たら、それがどれくらいの大きさなのかを、一度ふだんの言葉に置き直しておきたいと思います。
収縮期血圧というのは、血圧計の表示で上に出るほうの数字です。8.0mmHg低いというのは、たとえば上が132だった方が124になる、それくらいの差にあたります。血圧は一日のあいだにも動きますし、測る時間や部屋の寒さでも変わります。ですから、一回測っただけでは気づけない大きさかもしれません。この8.0mmHgは、47人を8週間追いかけて、群と群の平均を比べたときに出てきた差です。どなたか一人の測定値の話ではありません。
最大酸素摂取量の上乗せ分、2.7 mL/kg/分も同じように読みます。運動だけの群が対照群より6.2ふえて、サウナを足した群はそこにさらに2.7。ただし信頼区間は0.2から5.3と広く、下の端は0.2です。ほとんどないに近い可能性も残っています。
そして限界です。47人は、健康の研究としては小さい部類に入ります。人数が少ないと、たまたま体調のよい方が一方の群に何人か多く入っただけで、平均が動いてしまう。信頼区間が広くなるのは、そのためです。人数が増えるほど幅は狭くなり、数字は落ち着いていきます。この試験は、まだそこまで来ていません。
男女の偏りもあります。女性41人に対して、男性は6人。この結果が男性にも同じように当てはまるかどうかは、この試験からは言えません。
盲検化もできていません。盲検化というのは、参加した方にも、測る側にも、どちらの群なのかを伏せておく工夫のことです。薬の試験なら、見た目の同じ偽薬を使って伏せられます。サウナでは無理です。入ったか入らなかったかは、本人がいちばんよく知っています。期待や気分が結果に混ざる余地は、最後まで残ります。
ですから「運動の後にサウナで血圧が8mmHg下がります」とは書けません。8週間のあいだ、この47人ではそういう結果でした。今わかっているのは、そこまでです。
研究が使ったのは65〜80℃。私たちが見てきた日本の設定より、だいぶ低い
見落とされやすいのが温度です。この試験のサウナは65〜80℃。私たちが見てきた範囲では、日本の施設サウナは90℃を超える設定も珍しくありませんから、感覚としてはかなりぬるい部屋になります。ただしこれは全国を調べた数字ではなく、あくまで岩手で仕事をしてきた中での見聞きです。
しかも、いきなり80℃ではありません。65℃から始めて、2週間ごとに5℃ずつ上げています。最初の2週間は65℃、次の2週間は70℃、その次が75℃、最後の2週間で80℃。8週間かけて、四段で上げていく組み立てです。日本の設定より、だいぶ低いところから入ることになります。
なお、その温度でどう感じるかまでは原著に書かれていません。ここは設定温度の話として読んでください。65℃であっても、15分入れば汗はかきます。ぬるいから汗が出ない、という意味ではありません。
この設定は、家庭用サウナならそのまま再現できます。温度を自分で決められるという点では、家庭用のほうが合わせやすいと思います。サーモスタットで設定できますし、その日の体調に合わせて下げることもできます。施設だと、その日の設定は自分では動かせません。
岩手の冬なら、脱衣の場所が一桁の気温という日もあります。そこからいきなり高い温度の部屋に入るのか、低めの設定から始めて何週かかけて上げていくのか。研究が選んだのは、後者の順番でした。
15分という長さも、家なら現実的です。移動がないぶん、時間の勘定に往復が入りません。週3回の運動の後に15分。合計しても週45分です。ここまでなら続けられる、という方は多いように思います。
温度を上げるほど良い、という話ではないのだと思います。研究が置いた数字は、むしろ控えめでした。低い温度で、長さと回数を確保する。そういう組み立て方もある、ということです。

続くかどうかは、玄関からの距離で決まることが多いように思います
岩手の冬に、運動の後の15分をどこで過ごすか。ここから先は、動線の設計になります。
庭にサウナ小屋があると、散歩から戻った足でそのまま入れます。薪を割った後も同じ。着替えて、車に乗って、施設まで行って、という手順が全部消えます。研究のプロトコルで言えば、運動と15分のサウナのあいだに、余計な工程が挟まりません。
ただ、雪国では小屋の位置がそのまま使用頻度になります。冬の岩手では、母屋からサウナまでの数メートルが、夏の数十メートルより遠く感じられます。母屋から離れていれば、なおのこと足が向きません。吹き溜まりのできる向きに扉があると、朝いちばんに雪をかいてからでないと開かない。濡れた靴で母屋とサウナを何往復もする間取りだと、それだけで面倒になります。
ですから設計のときは、経路を先に描きます。母屋からサウナまでをどう歩くか。屋根はどこまでかけるか。脱衣のスペースを先に暖めておけるか。飲み物をどこに置くか。除雪の動線と重ならないか。屋根から落ちた雪が、扉の前に積み上がらないか。
お引き渡しの後に伺うと、使う回数が落ちた理由は、だいたい似たところにありました。扉の前が吹き溜まりになる。着替える場所が寒い。夜は足元が暗い。どれも、意志の強さの話ではありません。距離と手順の話です。そしてそこは、図面の段階でかなり減らせます。
もちろん、これは統計で確かめた話ではなく、施工とお引き渡し後の訪問で見てきた範囲の実感です。それでも、週3回を8週間続けるという研究の条件を、岩手の冬に置き直して考えるなら、まず考えるのは温度でも時間でもなく、玄関からの距離だろうと思います。

ただし、雪かきの後だけは同じ扱いにしない
ひとつ、はっきり書いておきます。雪かきは、この研究でいう運動とは別のものです。
研究の運動は、週3回60分の計画された運動でした。準備をして、決まった強さで、決まった時間だけ動く。雪かきは違います。寒い中でいきなり始まる高い負荷です。息が上がって、腕も背中も使って、しかも途中でやめにくい。終わった直後は、体がまだ落ち着いていません。朝の岩手では、玄関を開けた瞬間から始まってしまう仕事でもあります。
雪かきの後にサウナへ直行するのは、順番としてお勧めしません。まず着替えて、水を飲んで、しばらく座る。呼吸と汗が落ち着いてから、いつもより低い温度で、短めに。飲酒の後は入らない。ひとりきりで長く入らない。家庭のサウナは、このあたりを自分で守るしかない部分です。
もうひとつ。この試験に参加したのは、デスクワーク中心で身体活動が少なく、心血管の危険因子を一つ以上持つ成人です。ご自身がそこに当てはまるかどうかは、記事の数字だけでは決められません。持病のある方、薬を飲んでいる方は、入ってよいかどうかを主治医に聞いてください。温度と時間の上限、水風呂を使ってよいか。そこまで具体的に尋ねると、返ってくる答えも具体的になります。この記事にある温度と時間の条件を控えて、先生に見せてもいいと思います。

D'STYLEは岩手・盛岡で、薪ストーブとサウナを設置している会社です。代表の橋本大治は三代続く火の家系で、英国RODTECH社認定の煙突掃除インストラクターでもあります。
この研究を読んで思ったのは、順番は設計できる、ということでした。運動の後の15分を、寒い脱衣所で震えて過ごすか、暖めておいた部屋で座って過ごすか。根性ではなく、間取りと動線の話です。
家庭用サウナKUUTAは、研究が使った65〜80℃という温度域を設定できます。同じ温度の部屋を日常に置ける、という設備の話であって、同じ結果が出るという話ではありません。庭に置くか、母屋に寄せるか。除雪の経路をどう避けるか。盛岡のショールームで、図面の段階からご相談ください。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。KUUTAは医療機器ではなく、血圧やコレステロールを下げる効果をうたうものではありません。持病のある方、薬を飲んでいる方は、必ず主治医にご相談ください。
参照した研究
- Lee E, Kolunsarka I, Kostensalo J ほか. American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology. 2022;323(3):R289-R299(NCT04540718 / PMC9394774)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



