お客様のお宅にサウナを納めて数か月後、様子を伺いに伺うことがあります。「奥さんの方がよく入ってるみたいですよ」。そう笑いながら教えてくれるご主人は、意外と多いのです。ところがサウナの健康研究の話になると、決まって出てくるのはフィンランドの男性2,300人余りを追いかけた、あの有名な研究ばかり。女性のデータはどこにあるのだろう、と思っていたところに、2018年に発表された2本の論文を見つけました。今日はその話をします。
「男性研究しかない」という思い込み
サウナの健康効果を紹介する記事を読むと、判で押したように同じ研究が引用されています。フィンランド東部の中年男性、約2,300人を追跡したコホート研究です。もちろんそれは価値のある研究ですが、対象は男性だけでした。だから「女性についてはまだよく分かっていない」という書き方をされることが多いのです。
ですが実際に論文を探してみると、女性がほぼ半数を占めるコホートの報告が、2018年に2本発表されていました。一本は脳卒中について、もう一本は心血管死についてです。同じ研究グループの、同じような年代のフィンランドの人たちを対象にしています。ここでは、その2本の中身を、書かれている数字だけを使って読んでいきます。

脳卒中を追った研究
1本目は、脳卒中に関する報告です。対象は53歳から74歳、平均62.7歳の男女1,628人。研究が始まった時点で脳卒中の既往がない人を選んでいます。この人たちを中央値で14.9年、およそ15年にわたって追跡し、期間中に155件の脳卒中が発生しました。
サウナに入る頻度を週1回、週2から3回、週4から7回の3つの群に分けて比べたところ、週1回の人を基準にすると、週4から7回入る人は脳卒中のリスクが低く、ハザード比(危険度を示す数字で、1より小さいほどリスクが低いことを意味します)は0.39でした。95%信頼区間は0.18から0.84です。信頼区間というのは、本当の値がこの幅のどこかに収まっているだろう、という統計上の目安で、その幅が1をまたいでいなければ「統計的に意味のある差」と見なされます。この研究では1をまたいでいないので、有意な差ということになります。
身体活動の量や社会経済的な地位といった、他の要因の影響を差し引いて計算し直しても、ハザード比は0.38で、ほぼ変わりませんでした。これは多変量調整と呼ばれる統計処理で、サウナの頻度以外の条件をできるだけそろえた上での数字だということです。出典はKunutsor SKらによる論文で、2018年にNeurology誌に掲載されています(PubMed 29720543)。
心血管死を追った研究
もう1本は、心臓や血管の病気で亡くなった方についての報告です。対象は平均63歳の男女1,688人、女性の割合は51.4%とほぼ半数でした。中央値15.0年の追跡期間中に、致死性の心血管イベントは181件発生しています。
こちらも週1回を基準にすると、週4から7回入る人のハザード比は0.23、95%信頼区間は0.08から0.65でした。さらにこの研究では、頻度が増えるほどリスクが直線的に下がっていくという関係(用量反応関係と呼ばれます)が見られ、そこに明確な「ここから効果が出る」という境目があったわけではありません。出典はTanjaniina Laukkanenさんを筆頭著者とする論文で、2018年11月29日にBMC Medicine誌に「Sauna bathing is associated with reduced cardiovascular mortality and improves risk prediction in men and women: a prospective cohort study」という表題で掲載されました(PMC6262976)。これは1,688人分のコホートデータそのものを報告した原著論文であり、同じ研究者らが別にまとめたレビュー論文(Mayo Clinic Proceedings掲載)とは別の文献ですので、混同しないよう注意してください。
ここで正直に書いておきたいことがあります。181件、あるいは155件という発生数は、決して多い数字ではありません。頻度別の3群に分ければ、1つの群あたりの件数はさらに少なくなります。信頼区間の幅が広いのは、そのためです。0.08から0.65という幅は、実際の効果の大きさにかなりの不確かさが残っていることを意味しています。この2つの研究は別々のイベント(脳卒中と心血管死)を数えたもので、件数を足し合わせられるものではありません。
観察研究であって、因果関係の証明ではない
もう一つ、大事な注意点があります。この2本はどちらも観察研究です。サウナによく入る人と、あまり入らない人を、後から比べて統計を取ったものであって、被験者を実験的にサウナに入る群・入らない群へ無作為に振り分けたわけではありません。
つまり、サウナによく入る人はもともと体力があり、他の生活習慣も整っている、という可能性を完全には排除できません。研究者たちも身体活動量などを調整することでその影響を減らそうとしていますが、観察研究である以上、「サウナが脳卒中や心血管死を減らした」と言い切ることはできません。あくまで「サウナに入る頻度が高い集団で、リスクが低く出ていた」という関連が報告されている、という段階の話です。妊娠中の方や、持病のある方、特に心臓や血圧に不安のある方は、この研究を根拠に自己判断でサウナの頻度を変えるのではなく、必ず主治医に相談してください。

誰の体のデータなのか、を確かめる
自宅にサウナを納めさせていただいたお宅を、引き渡しから数か月後に訪ねることがあります。そこでよく聞くのが「実は妻の方が毎日入ってます」という話です。特に岩手では、母屋とは別に小さな離れを建てて、そこにサウナ小屋を据えるご家庭が少なくありません。ご主人は仕事の帰りが遅く、日中の時間を家で過ごす奥様の方が、結果として使う頻度が高くなる。そういう家を、これまでいくつも見てきました。
そう考えると、「サウナの研究といえば男性のデータ」という思い込みのまま記事を書くのは、実際に使っている人の姿とずれています。今回紹介した2本の研究は、女性がほぼ半数を占めているという点で、日本のサウナ愛好者の実感に近いものです。ただし対象はあくまでフィンランドの、ある年代の人たちです。日本人、まして岩手の気候や生活習慣の中でどうなるかは、この研究だけからは分かりません。数字を引用するときは、それが誰の体から得られたデータなのかを、そして論文のタイトルと著者が正しく対応しているかを、まず確かめる。書き手としては、そのことを一番大事にしたいと思っています。

火のある暮らしの中で
冬の岩手で、離れの小屋に薪ストーブで火を入れ、時間をかけて温まっていく。その時間を、ご夫婦のどちらか一方だけのものにしないというのは、案外大事なことなのかもしれません。今回の研究が示しているのは、あくまで統計上の関連であって、効果を保証するものではありません。それでも、女性を含めたデータがきちんと存在する、という事実だけは、これから書かれる記事の中でもきちんと伝えていきたいと思います。

本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Kunutsor SK, Laukkanen T, Laukkanen JA. Sauna bathing reduces the risk of stroke in Finnish men and women: A prospective cohort study. Neurology. 2018. PubMed 29720543.
- Laukkanen T, Kunutsor SK, Zaccardi F, et al. Sauna bathing is associated with reduced cardiovascular mortality and improves risk prediction in men and women: a prospective cohort study. BMC Medicine. 2018年11月29日. PMC6262976.
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



