盛岡の冬の夜、22時に布団へ入ると決めているお宅から、いちばん多くいただく質問があります。サウナは何時に入るのがいいですか、と。よく出回る答えが「寝る90分前」。この数字の出どころを、元の論文まで辿りました。5,322本から絞り込まれた17研究。ただし、この解析が扱ったのは主に40〜42.5℃の湯であってサウナ室ではありません。そこに書かれていたことと、書かれていなかったこと。そして、その時刻から薪をいつ運ぶかまで逆算します。

22時に寝る家の、20時30分
盛岡の夜は、片づけの音で終わります。食器を伏せる音、鍋を拭く音、最後に水道を止める音。22時に布団へ入ると決めているお宅なら、その音が鳴るのはだいたい21時前でしょう。
サウナを納めたお宅から、いちばん多くいただく質問のひとつが「結局、何時に入るのがいいのか」です。温度でもセット数でもなく、時刻。年配のお客様ほど、この質問をされます。夜の予定は、そう何度も組み替えられるものではありませんから。
そこで必ず出てくるのが「寝る90分前」という数字です。雑誌でも、テレビでも、うちのショールームでも耳にします。ただ、この90分がどこから来たのかを説明できる人は、そう多くありません。私たちも、しばらくは出どころを知らないまま口にしていました。人から聞いた数字を、そのまま渡していたわけです。
それで、元の論文まで辿ってみました。行き着いたのは、2019年にSleep Medicine Reviews誌へ載った、テキサス大学オースティン校のHaghayegh Sらによる解析です。5,322本の論文を集めるところから始まった、地味で、根気のいる仕事でした。
数字の中身に入る前に、ひとつだけ先に書いておきます。この解析が扱っているのは、主に「湯」です。入浴と、シャワー。サウナ室ではありません。あとで出てくる40〜42.5℃という数字も、湯の温度であって、サウナ室の設定温度ではない。ここを外すと、後の話が全部ずれます。見出しに「温めるタイミング」と書きましたが、その温めるは、まず湯のことだと思って読み進めてください。
5,322本を17本に絞る、という作業
論文の世界には「系統的レビュー」という言い方があります。難しく聞こえますが、やっていることは棚卸しに近い。あらかじめ探し方と選び方のルールを決めておいて、そのルールどおりに関係する論文を集め直し、条件に合わないものを落としていく作業です。思いついた論文を並べるのではなく、手順を先に決めてから探す。そこが違います。
この解析では、最初に5,322本が集まりました。そこから条件に合うものを絞り込み、重複を除いて残ったのが17研究。さらにそのうち13研究を、数字としてひとつにまとめ直しています。この「数字としてまとめ直す」ほうが、メタ解析と呼ばれるものです。研究を1本ずつ眺めるのではなく、複数の結果を計算で束ねて、全体としてどちらへ傾いているかを見る。ひとつひとつは小さな研究でも、束ねて初めて向きが見えることがあります。
数の落差に目が行きます。5,322本から17本。残ったほうより、落とされたほうがはるかに多い。条件がそろわない、測り方が違う、比べる相手がいない。そうした理由で外れていきます。この作業の大半は、集めることではなく、外すことなのだと分かります。
では、その17研究に、どんな人が何人参加したのか。ここは正直に書きます。私たちが確かめられたのは論文の抄録、つまり要旨までで、そこには参加者の合計人数も、年齢の幅も、男女の内訳も、どんな健康状態の人が含まれていたのかも、書かれていませんでした。全文の表まで開けば分かるのかもしれません。ですが、開いていないものを開いたように書くわけにはいきません。
数字を並べたい気持ちはあります。「およそ何人」と書いたほうが、記事は締まる。読む側も、規模が想像しやすくなる。ただ、確かめていない人数をそれらしく置いた時点で、この記事は自分で批判している当のものになります。だから書きません。
分かるのは、17という本数と、13という束ねられた本数。誰が何人、どんな体調で湯に浸かったのかは、少なくとも私たちが読めた範囲では見えないままです。この見えなさは、あとの限界の話で、もう一度出てきます。

40〜42.5℃、就寝の1〜2時間前、10分でも
報告されている中身そのものは、意外なほど素っ気ないものです。
40〜42.5℃の湯を使った受動的な加温を、就寝の1〜2時間前に行うと、入眠潜時が有意に短くなったと報告されています。あわせて、主観的な睡眠の質と睡眠効率も改善したとされています。しかも、10分でも、と書かれています。
言葉をほどきます。「受動的な加温」は、自分で動いて体温を上げるのではなく、外から温められること。湯に浸かる、シャワーを浴びる、足だけ湯に入れる、といった形です。「入眠潜時」は、布団に入ってから眠りに落ちるまでの時間。「睡眠効率」は、布団にいた時間のうち、実際に眠っていた時間の割合です。7時間横になって6時間眠っていれば、およそ86%になります。
そして「有意」。これは「大きい」という意味ではありません。偶然のばらつきだけでは説明しにくい、という統計上の判断です。効果が大きいことを保証する言葉ではない。ここはよく混ざるところです。
もうひとつ、この解析が何を測ったのかも、抄録に並んでいます。入眠潜時、中途覚醒、総睡眠時間、睡眠効率、徐波睡眠、主観的な睡眠の質。六つです。そして改善が報告されていると読めるのは、主観的な睡眠の質、睡眠効率、入眠潜時の三つ。六つ測って、三つ。この内訳は、あとでもう一度出します。
それから、40〜42.5℃という幅について。これは研究者が「ここが境目だ」と見つけた数字ではありません。もともとその範囲を扱った研究を集めた、という順番です。境目を発見した話ではなく、その範囲でこうなったという話。読み違えると、41℃と43℃の間に何か仕切りがあるように思えてしまいます。
「10分でも」というのも、長く浸かるほど良い、という意味ではありません。短くても報告があった、というだけのことです。
「約10分早く眠れる」は、どこから来たか
この研究を紹介する記事の多くに、「平均で約10分早く眠りにつけた」という一文が付いています。分かりやすくて、覚えやすい。私たちも一度は書きかけました。
ですが辿ってみると、この「約10分」は大学のプレスリリース、つまり研究機関が報道向けに出した紹介文に由来する説明でした。論文の抄録本文には、分単位で束ねた値の記載がありません。嘘が書かれているという話ではなく、紹介のために添えられた補足が、いつの間にか研究の結論そのものとして流通した、ということです。
ついでに書いておくと、この数字は記事によって揺れます。約10分と書くものもあれば、約9分と書くものもある。同じ研究を指しているはずなのに、一致していない。数字が揺れているときは、たいてい出どころが一段ずれています。
じつは、うちのサイトの別の読みものにも、この分単位の数字を書いていました。今回、元をたどって初めて出どころが分かり、そちらの記事も直しました。人のことを言えた立場ではありません。だからこそ、この節を残しています。
こういうことは、よく起こります。数字はひとり歩きが得意です。角が取れて、覚えやすくなって、出どころを置き去りにして走っていく。煙突掃除の講習でも同じ話をします。「年に1回」という目安だけが残り、その目安がどんな焚き方を前提にしていたのかは忘れられる。焚く量も、薪の種類も、家によって全然違うのに。
ですから、この記事では「10分早く眠れます」とは書きません。書けるのは、入眠潜時が有意に短縮したと報告されている、というところまでです。物足りないと思われるかもしれません。でも、物足りないところまでが、確かめられた範囲です。
これは湯の研究であって、サウナ室の研究ではない
いちばん大事なことを、はっきり書きます。
この解析が集めたのは、水系の受動加温、つまり湯を使った温め方が中心です。入浴と、シャワー。サウナ室に入ったときどうなるかを示したものではありません。40〜42.5℃という数字も、サウナ室の設定温度ではなく、湯の温度です。90℃のサウナ室と42℃の湯船を、同じものとして扱うことはできません。乾いた熱と、湯の熱。体の温まり方も、心臓にかかる負担のかかり方も、同じではないはずです。
先ほどの六つを、もう一度出します。入眠潜時、中途覚醒、総睡眠時間、睡眠効率、徐波睡眠、主観的な睡眠の質。抄録から読み取れる範囲で、改善が報告されているのは、主観的な睡眠の質、睡眠効率、入眠潜時の三つです。残る三つ。中途覚醒、つまり夜中に目が覚めている時間。総睡眠時間、つまり実際に眠った長さ。そして徐波睡眠、いわゆる深い眠り。この三つについては、改善したという記載がありません。
念のため書き添えると、これは「効かなかったと証明された」という意味ではありません。抄録に書かれていない、というだけのことです。ただ、六つ測って三つ、という内訳は、紹介する側がいちばん省きたくなるところでしょう。省けば、良い結果だけがきれいに並びます。良い結果だけがきれいに並んで見えるときは、たいてい見えていないものがあります。
限界は、他にもあります。まず、誰の話なのかが見えません。参加者が合計で何人だったのか、年齢がどのあたりに寄っているのか、男女の内訳がどうだったのか。男性が多かったのか、女性が多かったのか、半々だったのか。それらは、私たちが確認できた抄録の記載からは分かりませんでした。持病のある方がどれだけ含まれていたのかも同じです。そして、日本人だけを対象にした研究でもありません。毎晩湯船に浸かる暮らしと、そうでない暮らしとでは、そもそもの土台が違うはずですが、その差を差し引いた話にはなっていない。
それぞれの研究がどんな設計で行われ、何本ずつ入っているのか、その内訳も、確認できた記載からは分かりませんでした。含まれた研究がどこまで因果関係を確かめられる設計だったのかも、同じ理由で断定できません。分からないものは、分からないと書きます。歯切れが悪いと思われるでしょうが、歯切れをよくするには、確かめていないことを確かめたように書くしかありません。
そして当然ながら、湿度も、入り方も、上がったあとに何をするかも、家ごとに違います。研究の条件を、そのまま自宅の夜へ移し替えることはできません。
そのうえで。心臓や血圧に不安のある方、薬を続けて飲んでいる方は、入浴やサウナの習慣を変える前に主治医へご相談ください。これは決まり文句として書いているのではなく、私たちが設置前の打ち合わせで必ず口にしていることです。

それでも、時刻が決まると段取りが決まる
ここまで削っておいて言うのも妙ですが、私たちはこの研究を、けっこう役立てています。効き目の保証としてではなく、段取りの起点としてです。
夜の家事は、時刻が決まらないと動きません。「なるべく早めに」では、誰も動けない。ところが「就寝の1〜2時間前」という幅が示されると、そこから逆にほどいていけます。
22時に布団へ入るお宅を例にします。就寝の90分前、20時30分にはサウナから上がって、体が落ち着き始めている状態にしたい。だとすれば、決めるべきは入る時刻ではなく、上がる時刻から遡った先です。
私たちが岩手の現場で見てきた範囲では、薪のサウナストーブは、火を入れてから室内が使える温度に近づくまで、おおむね1時間前後を見込んでおくと段取りが崩れにくい。ストーブの大きさ、サウナストーンの量、小屋の断熱、そしてその日の外気温で、この時間は前後します。あくまで目安です。
そうすると、こんな並びになります。
20時30分、上がる。20時前、入る。19時ごろ、火を入れる。18時45分、薪を運び、焚きつけを組む。
18時45分。夕食の片づけを始める前に、一度、上着を着て外へ出る時刻です。90分前という数字が実際に決めているのは、サウナに入る時刻ではありません。薪を運ぶ時刻のほうです。
段取りというのは、たいてい後ろから決まります。雪かきも同じで、何時に家を出るかが決まって初めて、何時に起きるかが決まる。

薪と電気で、逆算はどこが変わるか
同じ逆算を、HARVIAの電気ヒーターでやってみます。
電気の場合、起点は「ボタンを押す時刻」になります。コントロールパネルで温度と時間を決め、機種によっては予約もかけられる。薪を運ぶ工程も、焚きつけを組む工程も、灰を掻き出す工程も、そこにはありません。20時30分に上がりたいなら、19時台のどこかで押しておけばいい。押すことすら前もって済ませてしまう方もいます。
薪はその逆です。工程が全部残っている。だから、外へ出る用事が増える。氷点下の庭を横切って、薪を抱えて、扉を開けて、火を見て、また戻る。それを寝る前の90分に組み込むことになります。
どちらが優れている、という話ではありません。就寝時刻から逆算した段取りを崩さずに続けやすいのは、まず電気です。時計に合わせやすい。一方、火を入れてから上がるまでの一連が、そのまま夜の過ごし方そのものになるのは薪のほうです。待つ時間が、生活の中にきちんと居場所を持ちます。
盛岡のお客様で、平日は電気、休みの日は薪、と使い分けている方がいます。曜日によって逆算の厳しさが違うから、という理由でした。理にかなっていると思います。設備を選ぶというのは、性能を選ぶことである以上に、続けられる段取りを選ぶことなのだと、この頃は思います。
逆算が崩れる、冬の夜のこと
段取りは、冬に崩れます。
まず外気温です。盛岡の1月は氷点下が続き、朝は氷点下十度を下回る日も珍しくありません。冷え切った小屋を温めるのに、秋と同じ時間で足りるとは限らない。私たちが見てきた範囲では、真冬は30分ほど余分に見ておくと、慌てずに済みます。
薪の乾き具合でも変わります。積んだ場所に雪が吹き込んでいれば、表面が湿る。火の立ち上がりが鈍り、煙が増える。着火剤を足して押し切ろうとされる方がいますが、そこは急がないほうがいい。煙突を見てきた人間としては、無理に押した火のあとが、どこにどう残るかを知っています。
それから、扉です。人が出入りするたび、温度は落ちます。家族で順番に使う夜は、その分をあらかじめ織り込んでおく。
もうひとつ、時刻そのものについて。研究が示しているのは「就寝の1〜2時間前」という幅です。90分は、その幅の真ん中あたりの一点にすぎません。20時30分ちょうどでなければ意味がない、というものではないのです。
分単位で守ろうとして、時計を気にしながらサウナに座る。それでは順番が逆でしょう。幅がある、と知っておくことのほうが、たぶん役に立ちます。
火を落として、灯りを消す
サウナから上がって、脱衣室で汗が引くのを待ちます。外はもう暗い。煙突から出た煙が、街灯の明かりのところだけ白く見えます。
家に入って、ストーブの残り火を確かめて、台所の灯りを消す。それが22時の少し前。
5,322本の論文を17本に絞り、13本を束ねて出てきたのは、入眠潜時が有意に短縮したと報告される、という一行でした。約10分という覚えやすい数字は、抄録本文には見当たりませんでした。六つ測って、改善が報告されたのは三つ。温度は40〜42.5℃で、それは湯の話です。誰が何人、どんな体で湯に浸かったのかは、抄録からは分かりませんでした。
そこから私たちが持ち帰ったのは、効き目の話ではありません。時刻の話です。夜のどこかに、体を温める時間を先に置いておくと、その前後の段取りが自然と決まっていく。薪を運ぶ時刻が決まり、片づけを始める時刻が決まり、灯りを消す時刻が決まる。
順番が決まるというのは、思っていたより静かな効き方をします。
D'STYLEは岩手・盛岡で、薪ストーブとサウナの設置を続けてきました。KUUTA saunaの薪サウナも、HARVIAの電気ヒーターを使った屋内サウナも、図面を引く段階で必ず伺うのが「何時に入って、何時に寝るお宅ですか」という一点です。逆算が現実的でない設備は、続きません。ご相談は盛岡のショールームで承っています。
なお、心臓や血圧に不安のある方、薬を続けて飲んでいる方は、入浴やサウナの習慣を変える前に主治医へご相談ください。本記事が引いた解析は湯を用いた入浴の研究であり、サウナ室の効果を示すものではありません。また、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものでもありません。
参照した研究
- Haghayegh S ら/Sleep Medicine Reviews 2019年8月号(テキサス大学オースティン校)。5,322本の候補論文から、重複を除いて条件を満たした17研究、うち13研究を定量統合。40〜42.5℃の水系受動加温(入浴・シャワー)を就寝1〜2時間前に10分でも行うと入眠潜時が有意に短縮し、主観的睡眠の質と睡眠効率も改善したと報告。
- 同抄録が検討項目として挙げているのは、入眠潜時・中途覚醒(WASO)・総睡眠時間・睡眠効率・徐波睡眠・主観的睡眠の質の6項目。このうち改善が報告されているのは主観的睡眠の質・睡眠効率・入眠潜時の3項目で、中途覚醒・総睡眠時間・徐波睡眠については改善の記載がありません。効果が否定されたという意味ではなく、抄録に記載がないという意味です。
- よく引用される「平均で約10分早く入眠」(記事によっては約9分)は大学プレスリリース由来の説明であり、論文の抄録本文に分単位の統合値の記載はありません。
- 被験者の合計人数、年齢の分布、男女の内訳、含まれた対象者の健康状態、および各研究の設計の内訳は、当社が確認できた抄録の記載からは分かりませんでした。本記事は抄録の範囲で執筆しており、全文(本文・表)は参照していません。
- 本解析は水系(湯)の受動加温、すなわち入浴やシャワーが中心であり、サウナ室の効果を示したものではありません。40〜42.5℃は湯の温度であって、サウナ室の設定温度ではありません。
- 薪サウナストーブの立ち上がり時間、冬季に見込む余裕、電気ヒーターとの段取りの違いは、当社が岩手・盛岡の現場で見てきた範囲の目安であり、研究に基づく数値ではありません。
- 当サイトの既存記事「寝つけない夜に、サウナという処方箋」に記載していた分単位の数字は、本記事の確認に合わせて、湯の研究であること・プレスリリース由来であることを明記する形へ修正しました。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



