サウナに入る人は、もともと元気なだけではないのか。長く読んでいると、必ずこの疑いに行き当たります。2024年、その疑いに統計の側から答えようとした解析が出ました。フィンランドの中年男性2,221人を中央値25.2年追った記録から、サウナの頻度と精神病性障害(幻覚や妄想を主とする精神疾患のまとまり)の関連が、心肺体力の差を差し引いても残るかを見た研究です。数字はそのまま置きます。都合の悪いほうの結果も、同じ大きさで置きます。
十一月、走るのをやめる朝
十一月の終わり、玄関を出た一歩目で足が滑ります。盛岡では、これが冬の合図です。前の晩に降った雪が薄く固まり、日中にわずかに溶けて、夜にまた凍る。この繰り返しが三月まで続きます。
走るのも自転車も、たいていの人はここでいったん止めます。私たちが薪ストーブやサウナの現場でお客様と話していても、冬の運動不足は毎年のように出てくる話題です。歩けばいいと言われても、四時過ぎには暗くなる土地です。雪かきで汗はかきますが、あれを運動と呼ぶには、朝の気持ちが少し重い。
先に、書いている側の立場を明かしておきます。D'STYLEは盛岡で、薪サウナストーブや電気サウナヒーター、ペレットのサウナストーブを扱い、自宅サウナの設置のご相談を受けている会社です。サウナストーンに熱を溜めて使う薪の機種も、ハルビアのシリンドロのように石を積んだ電気の機種も、日々現物を見ています。売り物のある側が研究を紹介するのですから、都合のいい数字だけを並べない。それが今日の約束です。以下は商品の説明ではありません。
そういう場所でサウナの研究を読んでいると、一つ引っかかることが出てきます。サウナによく入る人は、もともと体を動かす習慣があって、体力もあって、その結果として健康なのではないか。だとすれば、研究に見えている差は、サウナの差ではなく体力の差ではないのか。
この引っかかりには名前があります。交絡です。交絡とは、比べたい二つの物事の裏側に、別の要因がまぎれ込んでいること。サウナと体力のように一緒に動きやすいもの同士では、どちらの働きなのか見分けがつきにくくなります。
2024年、この疑いを統計の側から扱った解析が発表されました。今回はその一本を、条件ごと読んでいきます。扱われているアウトカム、つまり数えられた出来事は、精神病性障害です。幻覚や妄想といった症状を主とする精神疾患のまとまりを指します。体調が全体としてどうなるか、疲れの取れ方がどう変わるか、という話ではありません。数字はそのまま置きます。都合の悪いほうの数字も、同じ大きさで置きます。

心肺体力を、統計で差し引くということ
この解析の鍵になるのが、心肺体力という言葉です。英語の頭文字をとってCRFと書かれます。心臓と肺が、動いている筋肉にどれだけ酸素を送り届けられるか。ひらたく言えば、坂道を登ったときに息が上がりにくいかどうかの目安です。運動の習慣がある人ほど高くなりやすい値で、この解析では、その高さが計算の中に組み込まれています。
もう一つ、多変量調整という言い方が出てきます。これは、結果に影響しそうな要素を数式の上でそろえてから比べる、という手続きのことです。年齢の違う人同士、血圧の違う人同士をそのまま比べても、何を見ているのか分からなくなる。だから、そこをできるだけ揃えた形にしてから比の値を出します。
同じ研究チームがこのフィンランドの追跡から出した2017年の認知症の解析では、年齢、飲酒量、BMI、収縮期血圧、喫煙、2型糖尿病、心筋梗塞の既往、安静時心拍、LDLコレステロールが調整されていました。おおよそ、こうした顔ぶれを揃えてから比べているのだと考えてください。
今回の解析で比べられているのは、精神病性障害と診断された人が、追跡の中でどれだけ出てきたかという発生の速さです。そこに心肺体力を調整として加えるというのは、比べ方の中に、体力の高い低いをもう一枚重ねる、ということになります。もし見えている差が体力の差にすぎないのなら、この一枚を重ねた時点で、比の値は1.00の側へ寄っていくはずです。
ただし、揃えられるのは記録に残っている項目だけです。記録されていない要素までは揃えようがありません。統計で差し引くというのは、そこまでの作業です。ここを大きく見積もらないことが、この種の研究を読むときの入り口になります。
2,221人、25.2年、精神病性障害215例
数字を置く前に、誰を追いかけた記録なのかを置きます。
対象は男性2,221人。研究の開始時点の年齢は42歳から61歳。追跡期間の中央値は25.2年です。中央値というのは、長い順に並べたときのちょうど真ん中の値のこと。平均とは違い、極端に長い人や短い人に引っ張られにくい示し方です。フィンランド東部で1980年代に始まったKIHD(クオピオ虚血性心疾患リスク因子研究)という追跡調査の記録で、先に触れた2017年の認知症の解析も、同じ調査から出ています。
その四半世紀ほどの間に、精神病性障害が215例記録されました。精神病性障害とは、幻覚や妄想といった症状を主とする病気のまとまりを指す言い方で、統合失調症などがここに入ります。今日の記事が扱うリスクは、最初から最後までこの一点だけです。
主要な曝露、つまりサウナの入り方の分け方も、ここで先に書いておきます。この解析でいう高頻度は週3回から7回、低頻度は週2回以下です。境目は、週2回と週3回のあいだにあります。あとで岩手の暮らしと比べるときに効いてくる数字なので、覚えておいてください。頻度の区分であって、一回の温度も、一回の長さも、この二分割には入っていません。
ここで先に限界を書いておきます。対象は中年の男性だけです。女性は含まれていません。日本人でもありません。北欧の家サウナと、岩手で施設に通う入り方、あるいは自宅に一室を設ける入り方とでは、頻度も一回の長さも同じではないでしょう。2,221人という数は追跡研究としては相応の規模ですが、世界のすべてを代表する数ではありません。
なお、この研究チームは、同じKIHDのデータから、同じ精神病性障害というアウトカムについて、2018年にも解析を報告しています。約25年の追跡で2,138人・203件を扱った報告がそれです。別のテーマの研究が同じ結論に届いた、という話ではありません。参加者が大きく重なる同じコホートの、同じ問いに対する先行解析です。対象の絞り方も追跡期間も少しずつ違うため、件数を足し合わせることはできませんし、二本あるから確からしさが二倍になる、という読み方もできません。同じ窓を、少し違う角度から二度覗いた記録だと考えるのが近いと思います。

0.49が、0.50になっただけだった
ハザード比という言葉が出てきます。リスクの比、と読み替えてください。比である以上、必ず何かを1.00と置いています。その1.00に置いた群を基準群と呼びます。1.00なら基準群と差がない。0.49なら、基準群のおよそ半分ということです。どの群を基準にしたのかが書かれていない数字は、読みようがありません。ですから以下、毎回書きます。
あわせて括弧の中に、95%信頼区間という幅が付きます。これは推定の幅です。同じような調査を何度も繰り返したら、この範囲あたりに収まるだろうと見積もられた区間のこと。幅が1.00をまたいでいなければ、統計のうえで有意、つまり偶然だけでは説明しにくい、という扱いになります。
結果です。基準はサウナ低頻度群、つまり週2回以下の群で、これを1.00と置きます。これに対する高頻度群、週3回から7回の群の多変量調整後のハザード比は0.49、95%信頼区間は0.32から0.74でした。そこに心肺体力をさらに加えて調整すると、0.50、0.33から0.75。ほとんど動きませんでした。
0.49が0.50になった。差し引いたつもりの体力は、この関連をほとんど説明しなかった、という報告です。
一つ断りを入れます。週2回以下と週3回以上という区分は、研究者が解析の前に決めた分け方です。研究がここに境目を見つけた、という話ではありません。区分の切り方が変われば、比の値も変わります。ちなみに、同じフィンランドの追跡を扱った別の解析では、週1回・週2〜3回・週4〜7回という三つの区分が使われています。区分は研究ごとに違う。これも覚えておいてください。
体力そのものの数字は、きれいに並ばなかった
この解析では、心肺体力そのものについての比も報告されています。ここが、読み飛ばされやすいところです。
こちらの基準群は、心肺体力が低い群です。体力の低い人たちを1.00と置いて、そこから上の二つを比べています。サウナの比とは基準が違うので、数字を並べるときには混ぜないでください。
心肺体力が中程度の群で0.65、95%信頼区間は0.46から0.90。低体力群を1.00としたときの値です。幅が1.00をまたいでいないので、統計のうえで有意とされる形です。
一方、心肺体力が高い群では0.75、95%信頼区間は0.52から1.07。これも低体力群を1.00としたときの値です。こちらは幅の上端が1.00を越えています。つまり統計のうえでは有意ではない。偶然の範囲を否定しきれない、という扱いになります。
体力が高いほど比が小さくなる、という素直な並びにはならなかったわけです。0.65より0.75のほうが、1.00に近い。理由を私たちが論じる立場にはありませんし、元の報告に書かれていないことを想像で足すこともしません。ただ、この数字を省くわけにはいきません。
サウナの話をする側にとって、体力の側がきれいに並ばなかったという結果は、むしろ扱いやすい数字に見えるかもしれません。だからこそ、幅が1.00をまたいだことを、はっきり書いておきたいのです。都合のいい数字だけを並べた記事は、五年後に読み返したときに恥ずかしくなる。私たちはそう思っています。

四つに分けた、その三つの数字
この解析には、サウナの頻度と心肺体力を組み合わせた比も出てきます。ここは、箱がいくつあるかを先に確かめないと読めません。サウナが高頻度か低頻度か。心肺体力が低いか、中から高いか。掛け合わせると、箱は四つになります。
四つのうち、基準に置かれているのは、サウナ低頻度かつ心肺体力が低い群です。これを1.00とします。報告される比が三つしかないのは、残りの三つの箱の数字だからです。基準になった箱は、比の一覧には出てきません。数字が三つだからといって、三つに分けた話ではないのです。
サウナ高頻度かつ心肺体力が低い群で0.26、95%信頼区間0.11から0.60。サウナ高頻度かつ心肺体力が中から高い群で0.41、0.25から0.68。サウナ低頻度かつ心肺体力が中から高い群で0.62、0.45から0.84。いずれも、サウナ低頻度かつ心肺体力が低い群を1.00としたときの値で、幅は1.00をまたいでいません。
ここで気をつけたいのが、いちばん小さい0.26の読み方です。この値の幅は0.11から0.60と、ほかの二つよりずいぶん広い。信頼区間の幅は、当てはまる人数が少なくなるほど広がります。幅が広いということは、推定がまだ定まりきっていないということ。数字の小ささだけを見て、ここがいちばん強い、と読むのは早すぎます。
もう一つ。この組み合わせの区分も、比べ方も、研究者が事前に決めたものです。体力の低い人ほどサウナとの関連が大きい、と研究が結論づけたわけではありません。決めておいた四つの箱に分けて数えたら、こういう数字が並んだ。今わかっているのは、そこまでです。
見出しだけを拾って「体力のない人ほどサウナがいい」と広まる。この種の数字は、そうやって形を変えていきます。元の幅と、1.00に置いた群を、数字とひとまとめにして持ち歩く。研究の紹介におすすめの読み方があるとすれば、これがいちばん安全だと思います。
この研究が言っていないこと
見出しに戻ります。サウナは運動の代わりではない、と私たちが書いたのは、この解析が代替を主張していないからです。
体力を差し引いても関連が残った、というのは、体力とは別の枠でも関連が観察された、という報告です。サウナが運動を置き換えられる、という結論ではありません。ここを取り違えると、冬に体を動かさない理由としてサウナが使われてしまいます。
数えられたのが精神病性障害という特定の病気のまとまりであることも、もう一度書いておきます。気分の落ち込みや不眠の話ではありませんし、体調が全体としてよくなるという報告でもありません。研究が数えたのは、その診断が付いた人の数だけです。
そして、これは観察研究です。観察研究とは、後から見比べた研究のこと。誰かをくじ引きで二つの群に分け、片方だけサウナに入ってもらった、という作り方ではありません。ですから、原因と結果の関係は示せません。サウナによく入る人と、そうでない人の間に、記録に残らなかった違いがまだあるかもしれない。統計で差し引けたのは、記録された分だけでした。
さらに言えば、順番が逆である可能性も、この形の研究では消しきれません。調子を崩しつつある人がサウナから足が遠のいていく、という並びだったとしても、記録の上では同じように見えます。追跡が25年と長いことは、その心配をいくらか小さくしますが、ゼロにはしません。
対象の限界も、もう一度書いておきます。42歳から61歳の男性2,221人。女性は含まれず、日本人でもありません。気候も、住まいの造りも、サウナとの付き合い方も、岩手とは違います。
持病のある方、薬を飲んでいる方は、サウナの入り方について主治医に相談してからにしてください。血圧や心臓の状態は一人ひとり違います。研究の平均は、あなたの体の説明にはなりません。

岩手の冬に、この数字をどこへ置くか
ここからは研究の外の話です。私たちが見てきた範囲では、という前置きを付けます。
盛岡とその周辺で自宅サウナのご相談を受けるとき、必ず伺うことがあります。実際は週何回入れそうですか、と。返ってくる答えは、たいてい週に一度か二度です。薪サウナストーブなら火を熾す手間があるぶん、毎日にはなりにくい。
ここで、さきほどの境目が効いてきます。この解析の高頻度群は週3回から7回、低頻度群は週2回以下でした。岩手で聞く週に一度か二度は、この分け方では低頻度群の側に入ります。0.49という比が付いていたのは、そちらではありません。研究の高頻度群と、岩手の暮らしの実際との間には、正直に言って距離があります。その距離を読者が自分で測れるように、区分の数字をくどいほど書いてきました。
それでも、この解析が冬の岩手で少しだけ意味を持つとすれば、体力とは別枠で関連が観察された、という一点でしょう。十一月から三月まで走れない土地では、体力の指標がどうしても落ちる季節があります。その季節に何を見ておくか、という問いを、この報告はほんの少しだけ広げてくれます。ただし、答えまでは出してくれません。関連が観察された、というところで報告は止まっていて、私たちもそこで止めます。
雪の日の現場で見てきたのは、もっと素朴なことでもあります。薪を運ぶ、火を熾す、湯気の立つ小屋まで雪を踏んで歩く。サウナに入るまでの一連の動きが、冬のわずかな運動になっている家が、確かにあります。これは研究の話ではなく、私たちが現場で見ている光景です。
今日の記事は、何かを勧めるためのものではありません。研究は研究、商品は商品。この線は、これからも引いたまま書いていきます。
十一月の朝、また足が滑る季節が来ます。走れない冬は、岩手ではもう何十年もそのままです。2024年の解析が教えてくれたのは、答えというより、数字の置き方のほうだったと思います。0.49と0.50。基準に置いた群を1.00としたときの、1.00をまたいだ幅と、またがなかった幅。どちらも同じ大きさで置いておくこと。扱われたのは精神病性障害という特定のアウトカムで、しかも観察研究です。サウナの入り方に迷ったときは、研究の平均ではなく、ご自身の体調と主治医の言葉を先に置いてください。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Kunutsor SK, Kauhanen J, Laukkanen JA. Journal of Psychiatric Research. 2024;175:75-80(PMID 38718442/フィンランドKIHDコホート、男性2,221人・42〜61歳・追跡期間中央値25.2年・精神病性障害215例。曝露区分はサウナ週2回以下=低頻度、週3〜7回=高頻度。観察研究)
- Laukkanen T, Kunutsor S, Kauhanen J, Laukkanen JA. Age and Ageing. 2017;46(2):245-249(東フィンランド大学/同じKIHDコホートの認知症に関する解析。本記事では多変量調整の変数の顔ぶれを示す例として参照)
- Laukkanen T, Laukkanen JA, Kunutsor SK. Medical Principles and Practice. 2018;27(6):562-569(Karger/同じKIHDコホート・同じ精神病性障害を扱った先行解析。約25年追跡・2,138人・203件。参加者が大きく重複するため、2024年の解析とは独立した別研究ではない)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



