「サウナに入ると毒素が出る」という言葉を、私たちも一度は口にしたことがあります。ですが、実際に汗の成分を測った研究を並べてみると、思っていたより単純な話ではありませんでした。良かった数字も、そうでない数字も、そしてニッケルや鉛のように運動の汗のほうが濃く出た数字もあります。今日はその研究を、売る側ではなく読む側として並べてみます。

薪を割る手を止めて、汗のことを考える
岩手の冬は、外での仕事が汗をかく機会そのものです。薪割りをすれば背中がじっとり濡れますし、除雪を終えた頃には下着まで湿っています。汗は当たり前すぎて、普段はその中身を気にすることがありません。
ですが「サウナに入ると汗と一緒に体に溜まった悪いものが出ていく」という言い方を、私たちも接客の中で耳にしてきました。実際のところ、汗の成分を測った研究では何がわかっているのでしょうか。今回は、専門店として一度立ち止まり、根拠のある範囲だけを紹介します。

24報をまとめた研究が見たもの
Sears、Kerr、Brayという研究者らが2012年に発表した論文(Journal of Environmental and Public Health誌)は、汗の中のヒ素・カドミウム・鉛・水銀について調べた22〜23件の試験、合計24報をまとめて読み比べたものです。個々の実験を新しく行ったのではなく、これまでの研究を集めて整理した「まとめ論文」にあたります。
結果として、ヒ素にさらされた経験のある人では汗の中の平均濃度が1リットルあたり3.1マイクログラム(1マイクログラムは100万分の1グラム)でしたが、これは尿の中の濃度よりも低い値でした。カドミウムは1リットルあたり0.5〜36マイクログラム、鉛は一般の人で最大283マイクログラム、仕事で鉛にさらされてきた人では17,700マイクログラムに達したという報告もありました。これらの数値は、あくまで元論文が引用した個々の試験の報告値であり、私たち自身が測定したものではありません。極端に大きい17,700マイクログラムという値も、鉛を扱う仕事に長年従事してきた人という特殊な集団の報告であって、一般的なサウナ利用者に当てはまる数字ではない点は、公開前に一次資料を確認したうえでお伝えしています。
数字だけを見ると「やはり汗から出ているのか」と思いたくなります。ですが、この論文の著者たち自身が、いくつもの限界を書き添えています。集めた研究の多くが20年以上前のもので、汗をどう採取するかの方法が研究ごとにばらばらだったこと、そして個人差が非常に大きかったことです。つまりこの論文は「健常な人が日常的にサウナに入ることで、体から重金属をきれいに排出できる」ということを裏づけたものではありません。集めてみたら、まだそこまでは言えない、というのが正直な結論です。

運動の汗の方が濃かった、という結果
もうひとつ、2022年に発表された比較試験があります。健康な大学生12名を対象に、25℃でのトレッドミル走を20分行った日の汗と、45℃のサウナに20分入った日の汗を、同じ人で比べたものです。この試験は対象がある大学の学生12名という少人数・特定の集団に限られており、性別の内訳や国籍、年齢層といった詳細まで本記事では確認しきれていません。少人数の限られた集団で得られた結果である、という前提を踏まえてお読みください。
結果は、私たちが漠然と期待していたものとは違いました。ニッケルは運動の汗が1リットルあたり57.3マイクログラムに対しサウナの汗は5.2マイクログラム、鉛は運動の汗が52.8マイクログラムに対しサウナの汗は4.9マイクログラムと、いずれも統計的に意味のある差(専門的には「p<0.001」、つまり危険率0.1%未満と表現されます。この差が偶然によって生じた可能性は0.1%未満、おおまかに言えば1000回に1回に満たない、という統計上の目安です)で、運動の汗の方が濃く出ていました。この数値と表現は元論文の記載に沿って紹介していますが、原文の言い回しそのものではなく、一般の方に向けた言い換えである点はご承知おきください。
ただしこの試験のサウナ条件は45℃と、フィンランド式の一般的な設定よりかなり低い温度です。もっと高い温度や長い時間であれば違う結果になった可能性もあり、この一点をもって「サウナより運動の方が優れている」と決めつけることもできません。加えて先ほど触れた通り、大学生12名という少人数の集団で得られた結果であることも、あわせての限界として書いておきます。ここは研究の条件そのものの制約として、正直に書いておきます。
デトックスという言葉と、私たちの立場
D'STYLEはサウナと薪ストーブを販売する店です。売る側が「サウナで毒素が出ます」と言えば、お客様は喜んで聞いてくださるかもしれません。ですが、それは今日読んだ研究が示している内容ではありません。
汗にはヒ素やカドミウム、鉛、そして比較試験で取り上げられたニッケルといった物質がわずかに含まれることがある、という報告はあります。しかしそれが健康な体にとってどれほどの意味を持つ排出量なのか、まして病気の予防や治療につながるのかは、今回の研究群からは語れません。医薬品的な「排出」「解毒」という表現は、私たちの立場では使わないようにしています。

岩手の冬だからこそ、続けやすい熱の浴び方に価値がある
それでも、私たちがサウナの施工を続けている理由は別にあります。岩手の冬は日照時間が短く、外に出る回数そのものが減ります。除雪と背中合わせの生活の中で、体を動かす機会は自然と細っていきます。
そんな季節に、家の裏や庭先に自分のサウナがあれば、天候や道路の凍結を気にせず、短い時間でも熱を浴びる習慣を保てます。実際に施工させていただいたお客様の中にも、冬場だけ入る回数が減るのではなく、むしろ「外に出られない分、サウナで体を動かした気持ちになれる」と話してくださる方がいました。これは研究の結果ではなく、現場で聞いた実感としてお伝えします。

最後に、正直な立ち位置として
今日紹介した研究は、汗の成分を測ってはいますが、サウナが病気を防いだり治したりすることを示すものではありません。むしろ「運動の汗の方が濃かった」という、都合の良くない結果も含めてご紹介しました。数値や引用は元論文・レビュー論文の記載をもとにしていますが、二次的な言い換えを含むため、正確な数値を確認されたい方は出典の一次資料もあわせてご参照ください。
体調に不安のある方、持病がある方、通院・服薬中の方は、サウナの使い方についても主治医にご相談いただくことをお勧めします。私たちは施工の専門店として、正しい情報をそのままお伝えすることを大切にしています。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
汗をかくことは、体にとって当たり前の営みです。その中身を丁寧に測った研究者たちの仕事を、私たちは尊重したいと思います。数字が都合よく揃わなくても、それをそのままお伝えすることが、施工の現場に立つ者としての誠実さだと考えています。今回のように、統計の表現や対象集団の限られた範囲、一次資料との照合が必要な数値については、断定を避け、確認できた範囲を正直に書くことを心がけました。岩手の冬に、外に出づらい季節だからこそ、無理なく続けられる熱の浴び方を、これからもお客様と一緒に考えていきます。
参照した研究
- Sears ME, Kerr KJ, Bray RI. Journal of Environmental and Public Health. 2012;2012:184745 (PMC3312275)
- 比較試験(健康な大学生12名、25℃トレッドミル走20分 vs 45℃サウナ20分). PMC8998800(2022年発表)※対象者の性別・国籍等の詳細は本記事では未確認のため、必要な場合は一次資料をご確認ください
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



