二〇二六年の一月末、ヘルシンキ南端の海沿いに建つ公共サウナに入りました。サウナ室を出て、湯気を上げたまま外の休憩スペースへ歩いていくと、そこに薪が積んでありました。飾りではありません。運搬用のキャスター付きラックに割った薪が満載で、その脇に椅子が並んでいる。休む場所と、燃料を置く場所が、同じ場所でした。

薪が、しまわれていなかった
日本で薪を置く場所というと、たいてい建物の裏です。人の目に触れない所へ寄せて、必要なぶんだけ運んでくる。ところが向こうは逆でした。いちばん人の通る場所に、いちばん見えるかたちで積んである。
これは見せるためだけの配置ではないと思います。薪は湿ると燃えません。風が抜けて、雨と雪が直接当たらない場所が、薪にとってはいちばん都合がいい。屋根があってルーバーの壁がある半屋外は、その条件をそのまま満たしています。加えて、ストーブまで運ぶ距離が短い。焚く人が一日に何往復もする動線の上に置いてあるわけです。
合理を突き詰めた結果、いちばん目立つ所に薪が来た。そう見えました。
休憩スペースに、火の気配がある
椅子は金網の、細い脚のものでした。座面に雪が乗っていても、払えばすぐ座れる。デッキは板張りで、そこにも雪が積もったまま放置されている。除雪して乾いた床にする、という発想がそもそもない。寒い場所を、寒いまま使う設計です。
その空間に、薪と、覆いをかけた炉がある。火は焚かれていない時間でしたが、燃料と道具がそこにあるだけで、この場所が何のための場所かが分かる。日本の温浴施設でいう「休憩室」とは、まるで別の考え方でした。

ユヴァスキュラでは、レンガの部屋だった
翌日に訪れた中部の街の施設は、また違う作りでした。サウナ室と水風呂から続く部屋が、古いレンガの壁を残したラウンジになっている。テーブルと椅子が置かれ、照明は落としてあり、飲みものが出る。日本でいえば、サウナのあとに入る食堂に近い機能ですが、明るさと音がまったく違いました。

同じ施設の廊下側の壁に、こういうものが据えてありました。

石を見せる、という一点にかなり手が入っています。日本ならストーブ本体を隠す方向に設計しがちですが、ここでは石だけを切り取って壁の中に見せていました。サウナ室に入る前から、これから当たる熱がどこから来るのかが分かる作りです。
火が、部屋のまん中に置いてあった
ヘルシンキで入った別の施設には、そのものずばり、火を囲む部屋がありました。

壁付けにすれば場所を取りません。それでも真ん中に置いてあるのは、囲むためです。人は火の周りに、自然と輪になって座ります。壁際に付けた瞬間、その輪が半分になる。サウナのあとの時間に何を期待しているかが、この置き方ひとつで分かりました。
日本の「休憩室」と、何が違ったか
日本の温浴施設の休憩室を思い浮かべると、たいてい次のようになります。明るい蛍光灯、リクライニングチェア、自動販売機、テレビ。空調で温度が一定に保たれていて、外の寒さは完全に遮断されている。
向こうで見た休憩スペースは、その全部が逆でした。暗い。椅子は固い。飲みものは人が運んでくる。そして外の寒さは、遮断されるどころか、あえて残してある。
どちらが良いという話ではありません。日本には日本の事情があります。ただ、「サウナのあとに休む」という同じ行為に対して、これだけ違う答えが出るのだということは、実際に座ってみるまで分かりませんでした。
岩手で、これをどう使うか
当社は薪ストーブの施工を九百件以上、いまも年間およそ二百五十軒のメンテナンスに伺っています。薪の置き場所については、毎年のように相談を受けます。ヘルシンキで見た配置は、その相談への答えとしてかなり実用的でした。
持ち帰った点を三つ書きます。
ひとつ。薪棚は、動線の上に置く。裏手に回さない。ストーブから薪棚までの距離が長いほど、冬の途中で運ぶのが億劫になり、屋内にため込むようになります。屋内に大量にため込むと、虫と湿気の問題が出ます。玄関から炉までの間に、屋根付きで風の抜ける置き場を作るのが結局いちばん続きます。
ふたつ。外気浴の場所には、屋根だけ架ける。壁で囲うと、外気浴になりません。岩手の冬は風が強い日があるので、風上側だけ板を張り、あとは開けておく。ヘルシンキのルーバーは、風を殺しながら景色と空気は通す、という都合のいい仕事をしていました。同じことは、板の間隔を空けて張るだけでできます。
みっつ。椅子は、雪が乗ってもいいものにする。布張りのものを外に出すと、一冬で使えなくなります。向こうで使われていたのは金網とスチールのものでした。座面に雪が乗ったら払って座る。それでいい、と割り切った作りです。
正直に書いておくこと
そのまま真似できない部分もあります。
薪を人の通る場所に積むと、樹皮や木くずが落ちます。飲食を出す場所と近づけすぎると、掃除の手間が跳ね上がります。向こうの施設は床が板張りで、隙間から落ちるぶんには気にしない作りでした。日本の施設でこれをやるなら、清掃の頻度を先に決めておく必要があります。
それから、屋根付きでも雪は吹き込みます。写真のとおり、床に積もったまま営業していました。「雪が入らないようにする」ではなく「入っても困らないようにする」という発想に切り替えないと、この作りは成立しません。
よくあるご質問
Q. 薪棚は、家からどのくらい離すべきですか。
運ぶ手間で言えば近いほどよく、火の粉や湿気で言えば離したほうがよい、という相反する条件になります。建物の外壁から少し離し、地面から浮かせて風が下から抜けるようにするのが基本です。敷地の形によって最適な位置は変わりますので、図面か写真を見せていただければ一緒に決めます。
Q. 外気浴のスペースに屋根を架けると、外気浴になりませんか。
屋根だけなら問題ありません。困るのは壁で囲ったときです。雪が直接当たらないだけで、冬の使い勝手はかなり変わります。
Q. サウナ室の外に薪を置くと、虫が出ませんか。
屋外の薪棚であれば通常の範囲です。問題が出るのは屋内に長期間ため込んだときで、特に樹皮の付いたまま室内に積むと出やすくなります。屋内に置くのは、その日に焚くぶんだけにしてください。
帰ってきて、思ったこと
向こうの施設には、休憩室という名前の部屋がありませんでした。あるのは、火のそばで、寒さの中で、座れる場所です。休むというのは温度を一定にすることではなく、熱と冷たさの往復のあいだに椅子を置くことなのだと、実際に座ってみて分かりました。
薪をどこに置くか。椅子をどちらに向けるか。屋根をどこまで架けるか。設計というほど大げさな話ではなく、置き方の話です。ただ、その置き方が、その場所で過ごす時間の質をほとんど決めていました。
D'STYLEは岩手・盛岡で、薪ストーブとサウナの設置をしています。薪棚の位置や外気浴スペースの作り方は、建てる前に決めておくほど安く済みます。庭や敷地の写真をお持ちいただければ、その場で一緒に考えます。岩手県はもちろん、秋田県・青森県まで伺います。
この記事について
- 写真は2026年1月26日〜28日、ヘルシンキおよびユヴァスキュラの公共サウナ施設で撮影したものです(撮影・有限会社D'STYLE)。
- 施設名は伏せています。設備の作りについての記述は、当日その場で見た範囲のものです。
- 薪ストーブ施工実績・年間メンテナンス軒数は当社の実績値です。


