YOMIMONO / #546 本場は、こうだった。 第5話

薪が、休む場所のまん中に積んであった。
ヘルシンキとユヴァスキュラの休憩スペース

文・有限会社D'STYLE|岩手・盛岡の薪ストーブとサウナの店

公開日:2026年8月16日

二〇二六年の一月末、ヘルシンキ南端の海沿いに建つ公共サウナに入りました。サウナ室を出て、湯気を上げたまま外の休憩スペースへ歩いていくと、そこに薪が積んでありました。飾りではありません。運搬用のキャスター付きラックに割った薪が満載で、その脇に椅子が並んでいる。休む場所と、燃料を置く場所が、同じ場所でした。

ヘルシンキの公共サウナの半屋外テラス。木のルーバー越しに光が差し、割った薪のラックと金網の椅子が並ぶ
屋根はあるが、壁は木のルーバー。床のデッキには雪が吹き込んで積もっています。その中に椅子と小さなテーブル、そして薪。

薪が、しまわれていなかった

日本で薪を置く場所というと、たいてい建物の裏です。人の目に触れない所へ寄せて、必要なぶんだけ運んでくる。ところが向こうは逆でした。いちばん人の通る場所に、いちばん見えるかたちで積んである。

これは見せるためだけの配置ではないと思います。薪は湿ると燃えません。風が抜けて、雨と雪が直接当たらない場所が、薪にとってはいちばん都合がいい。屋根があってルーバーの壁がある半屋外は、その条件をそのまま満たしています。加えて、ストーブまで運ぶ距離が短い。焚く人が一日に何往復もする動線の上に置いてあるわけです。

合理を突き詰めた結果、いちばん目立つ所に薪が来た。そう見えました。

休憩スペースに、火の気配がある

椅子は金網の、細い脚のものでした。座面に雪が乗っていても、払えばすぐ座れる。デッキは板張りで、そこにも雪が積もったまま放置されている。除雪して乾いた床にする、という発想がそもそもない。寒い場所を、寒いまま使う設計です。

その空間に、薪と、覆いをかけた炉がある。火は焚かれていない時間でしたが、燃料と道具がそこにあるだけで、この場所が何のための場所かが分かる。日本の温浴施設でいう「休憩室」とは、まるで別の考え方でした。

ユヴァスキュラのサウナ施設の雪のテラス。間接照明に照らされた木の壁と、雪をかぶったベンチが並ぶ
こちらは中部ユヴァスキュラの施設。夜のテラスです。ベンチには雪が乗ったまま。壁の下から光を当てて、床の雪を照らしていました。

ユヴァスキュラでは、レンガの部屋だった

翌日に訪れた中部の街の施設は、また違う作りでした。サウナ室と水風呂から続く部屋が、古いレンガの壁を残したラウンジになっている。テーブルと椅子が置かれ、照明は落としてあり、飲みものが出る。日本でいえば、サウナのあとに入る食堂に近い機能ですが、明るさと音がまったく違いました。

ユヴァスキュラのサウナ施設のラウンジ。古いレンガの壁を残し、木のテーブルと椅子が並ぶ
レンガの壁をそのまま残したラウンジ。天井の照明は使わず、壁を照らす明かりだけで足りていました。

同じ施設の廊下側の壁に、こういうものが据えてありました。

黒く焼いた板壁に埋め込まれた黒い鉄の炉。金網の奥にサウナストーンが詰まっている
黒く焼いた板壁に、鉄の枠が埋め込まれ、その奥にサウナストーンが詰めてありました。手を近づけると、ほのかに温かい。

石を見せる、という一点にかなり手が入っています。日本ならストーブ本体を隠す方向に設計しがちですが、ここでは石だけを切り取って壁の中に見せていました。サウナ室に入る前から、これから当たる熱がどこから来るのかが分かる作りです。

火が、部屋のまん中に置いてあった

ヘルシンキで入った別の施設には、そのものずばり、火を囲む部屋がありました。

サウナ施設のラウンジ。部屋のまん中に据えられた黒い鉄の暖炉で薪が燃えている
壁際ではなく、部屋のまん中に暖炉が据えてあります。奥は海に面した大きな窓。火と、氷った海の光の両方が同時に目に入ります。

壁付けにすれば場所を取りません。それでも真ん中に置いてあるのは、囲むためです。人は火の周りに、自然と輪になって座ります。壁際に付けた瞬間、その輪が半分になる。サウナのあとの時間に何を期待しているかが、この置き方ひとつで分かりました。

日本の「休憩室」と、何が違ったか

日本の温浴施設の休憩室を思い浮かべると、たいてい次のようになります。明るい蛍光灯、リクライニングチェア、自動販売機、テレビ。空調で温度が一定に保たれていて、外の寒さは完全に遮断されている。

向こうで見た休憩スペースは、その全部が逆でした。暗い。椅子は固い。飲みものは人が運んでくる。そして外の寒さは、遮断されるどころか、あえて残してある。

どちらが良いという話ではありません。日本には日本の事情があります。ただ、「サウナのあとに休む」という同じ行為に対して、これだけ違う答えが出るのだということは、実際に座ってみるまで分かりませんでした。

岩手で、これをどう使うか

当社は薪ストーブの施工を九百件以上、いまも年間およそ二百五十軒のメンテナンスに伺っています。薪の置き場所については、毎年のように相談を受けます。ヘルシンキで見た配置は、その相談への答えとしてかなり実用的でした。

持ち帰った点を三つ書きます。

ひとつ。薪棚は、動線の上に置く。裏手に回さない。ストーブから薪棚までの距離が長いほど、冬の途中で運ぶのが億劫になり、屋内にため込むようになります。屋内に大量にため込むと、虫と湿気の問題が出ます。玄関から炉までの間に、屋根付きで風の抜ける置き場を作るのが結局いちばん続きます。

ふたつ。外気浴の場所には、屋根だけ架ける。壁で囲うと、外気浴になりません。岩手の冬は風が強い日があるので、風上側だけ板を張り、あとは開けておく。ヘルシンキのルーバーは、風を殺しながら景色と空気は通す、という都合のいい仕事をしていました。同じことは、板の間隔を空けて張るだけでできます。

みっつ。椅子は、雪が乗ってもいいものにする。布張りのものを外に出すと、一冬で使えなくなります。向こうで使われていたのは金網とスチールのものでした。座面に雪が乗ったら払って座る。それでいい、と割り切った作りです。

正直に書いておくこと

そのまま真似できない部分もあります。

薪を人の通る場所に積むと、樹皮や木くずが落ちます。飲食を出す場所と近づけすぎると、掃除の手間が跳ね上がります。向こうの施設は床が板張りで、隙間から落ちるぶんには気にしない作りでした。日本の施設でこれをやるなら、清掃の頻度を先に決めておく必要があります。

それから、屋根付きでも雪は吹き込みます。写真のとおり、床に積もったまま営業していました。「雪が入らないようにする」ではなく「入っても困らないようにする」という発想に切り替えないと、この作りは成立しません。

よくあるご質問

Q. 薪棚は、家からどのくらい離すべきですか。
運ぶ手間で言えば近いほどよく、火の粉や湿気で言えば離したほうがよい、という相反する条件になります。建物の外壁から少し離し、地面から浮かせて風が下から抜けるようにするのが基本です。敷地の形によって最適な位置は変わりますので、図面か写真を見せていただければ一緒に決めます。

Q. 外気浴のスペースに屋根を架けると、外気浴になりませんか。
屋根だけなら問題ありません。困るのは壁で囲ったときです。雪が直接当たらないだけで、冬の使い勝手はかなり変わります。

Q. サウナ室の外に薪を置くと、虫が出ませんか。
屋外の薪棚であれば通常の範囲です。問題が出るのは屋内に長期間ため込んだときで、特に樹皮の付いたまま室内に積むと出やすくなります。屋内に置くのは、その日に焚くぶんだけにしてください。

帰ってきて、思ったこと

向こうの施設には、休憩室という名前の部屋がありませんでした。あるのは、火のそばで、寒さの中で、座れる場所です。休むというのは温度を一定にすることではなく、熱と冷たさの往復のあいだに椅子を置くことなのだと、実際に座ってみて分かりました。

薪をどこに置くか。椅子をどちらに向けるか。屋根をどこまで架けるか。設計というほど大げさな話ではなく、置き方の話です。ただ、その置き方が、その場所で過ごす時間の質をほとんど決めていました。

D'STYLEは岩手・盛岡で、薪ストーブとサウナの設置をしています。薪棚の位置や外気浴スペースの作り方は、建てる前に決めておくほど安く済みます。庭や敷地の写真をお持ちいただければ、その場で一緒に考えます。岩手県はもちろん、秋田県・青森県まで伺います。

この記事について

D'STYLE
橋本 大治(有限会社D'STYLE 代表)

住田町の山主だった祖父から三代、火と生きてきました。英国RODTECH社認定の煙突掃除 安全インストラクター(東北第一号)。盛岡・国道4号線沿いのショールームにいます。

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