ヘルシンキの中心部から海沿いを南へ歩くと、公共サウナが建っています。着いて最初に思ったのは「これは施設ではなく建築だ」ということでした。木のルーバーが斜めに立ち上がって山のような形をつくり、その上を人が歩いている。屋根が、そのまま歩ける場所になっていました。

街のいちばんいい場所に、サウナが建っていた
まず驚いたのは立地です。海に面した、街の南の先端。日本の都市部なら、まず商業施設か住宅が建つ場所です。そこに公共サウナが建っていて、しかも景色を独り占めせず、屋根を登れるようにして街に開いている。
サウナが「あって当たり前のもの」として街に組み込まれている、というのは、フィンランドの統計を見れば数字の上では分かります。人口およそ五百五十万人に対して、サウナは三百万台を超えるとされています。ただ、数字で知っているのと、街の一等地に建っているのを見るのとでは、受ける印象がまるで違いました。
板の重ね方に、全部あらわれていた
近くで見ると、ルーバーの一枚一枚は、そう特別な材ではありませんでした。角を丸めた木の板を、少しずつ角度を変えながら並べてある。それだけです。ただ、その角度が場所によって変わっていて、面が折れる所では板が扇のように開く。

目地を通す、通さない、という話は日本の大工仕事でもよく出ます。ここでは通すことをはじめから諦めて、ずらしていくことを設計にしていました。雪と氷が乗り、夏は海風と日射に晒される場所です。木は必ず動きます。動くことを前提に、動いてもおかしく見えない形を選んでいる。
もうひとつ。ルーバーの内側には空気が通ります。木の外壁がいちばん傷むのは、水が抜けないときです。外壁を二重にして、外側は完全に濡らしてしまい、内側で防水と断熱を受け持つ。寒冷地で木の建物を長持ちさせる考え方としては、まったく理にかなっています。
サウナ室の壁が、一面ガラスだった
中に入ると、海に向いた面が大きく開いていました。凍った海が、床から天井近くまで一枚で見える。日本の温浴施設で見慣れた「湯気で曇った小さな窓」とは、まったく別の考え方です。

この開口には、ルーバーが二重の役割で効いていました。外からの視線を切りながら、中からは景色が抜ける。すだれと同じ理屈です。裸で過ごす場所を全面ガラスにできるのは、この一枚があるからでした。
そして、室内は暗かった
もうひとつ、写真では伝わりにくい特徴があります。暗いのです。

天井も壁も、暗い色の木で仕上げてあります。照明は天井からは落とさず、ベンチの下や壁の足元から当てる。結果として、目に入る光は「外の雪」と「石のまわり」だけになります。
日本のサウナ室が明るいのは、衛生管理と安全確認のためでもあり、理由のあることです。ただ、暗さは体感温度と時間の感じ方をかなり変えます。同じ九十度でも、明るい部屋のほうが長く感じる。向こうの施設で二十分座っていられたのは、暗さが効いていたのだと思います。
岩手で、どこまで真似できるか
そのまま持ち込めるものと、持ち込めないものがあります。正直に分けて書きます。
持ち込めるもの=窓の高さと向き。これはお金の話ではなく、決める順番の話です。サウナ室の窓は、ベンチに座った目線の高さに水平線が来るように取ります。立った状態で図面を見て決めると、完成してから座ったときに「壁しか見えない」ということが起きます。当社でサウナ室の造作をするときは、必ずベンチ高さを先に決めて、そのあとで窓の位置を出します。
持ち込めるもの=暗さ。照明を天井から落とさず、ベンチ下と壁の足元に回すだけで、同じ雰囲気にかなり近づきます。既存のサウナ室でも、照明の位置を変えるだけなら工事は小さく済みます。
持ち込みにくいもの=屋根を登れる形。岩手の積雪と落雪を考えると、あの傾斜をそのまま作るのは現実的ではありません。屋根に人を上げる前提の建物は、雪下ろしと落雪の逃げ場をどう取るかが先に問題になります。形だけ真似すると、冬に使えない建物ができます。
持ち込みにくいもの=全面ガラス。できないわけではありませんが、断熱性能のあるサッシと複層ガラスが要ります。窓を大きくするほど、暖まるまでの時間と光熱費に効いてきます。景色をどこまで取るかは、費用と相談しながら決める話になります。
よくあるご質問
Q. サウナ室の壁を、あんなに暗い色にしても大丈夫ですか。
問題ありません。ただし足元が見えにくくなるので、床とベンチの段差の所には必ず明かりを入れてください。暗さは雰囲気のためだけでなく、安全とセットで考えるものです。
Q. 木のルーバーは、寒冷地でも傷みませんか。
濡れて乾くことを繰り返す前提であれば、無塗装でも数十年もちます。まずいのは、水が抜けずに溜まる納まりです。板と板のあいだを空けて風を通すこと、下端で水が切れることの二つが守られていれば、色は変わっても構造は残ります。
Q. 自宅のサウナでも、海や景色に向けて窓を取れますか。
取れます。取れるかどうかより、どこに向けるかを先に決めることのほうが大事です。庭のどちら側に見せたい景色があるかを最初に伺い、そこからベンチとストーブの位置を決めていきます。
帰ってきて、思ったこと
あの建物が良かったのは、材料が高価だったからではありません。使われていたのは、角を丸めた木の板と、ガラスと、鉄です。特別なものは何もない。ただ、板をどう並べるか、窓をどの高さに開けるか、光をどこから当てるか、という判断が全部そろっていました。
サウナは箱です。箱である以上、決めることの数は限られています。その限られた数を、ひとつずつ丁寧に決めていけば、岩手でも同じ質のものは作れます。海の代わりに雪野原がある。それは景色として、まったく劣っていません。
D'STYLEは岩手・盛岡で、ハルビアのサウナヒーターの正規販売とサウナ室の造作をしています。窓の位置、ベンチの高さ、照明の当て方まで、図面の段階から一緒に決めます。岩手県はもちろん、秋田県・青森県まで伺います。
この記事について
- 写真は2026年1月26日および2月2日、ヘルシンキ南部の海沿いにある公共サウナ施設で撮影したものです(撮影・有限会社D'STYLE)。施設名は伏せています。
- フィンランドのサウナ台数は、人口約550万人に対し約300万台とする各種の観光・報道記事による推計です。公的な悉皆調査ではありません。
- 建物の構法についての記述は、当日その場で目視した範囲のものです。設計者・施工者に確認したものではありません。


