同じ岩手県内でも、冬の朝の寒さは住む場所によって大きく異なります。三陸の海沿いと北上高地の山あいでは、1月の朝の冷え込みに10℃以上の差があり、奥羽山脈の麓には一冬に10メートルを超える雪が降る町もあります。エアコン暖房の効き方も、こうした土地の条件によって変わってきます。
この読みものでは、気象庁の平年値(1991〜2020年)を手がかりに、岩手の冬を沿岸、内陸の盆地、高原、豪雪地に分けて眺め、それぞれの土地でエアコンをどう位置づけるとよいかを考えます。
本州でいちばん広い県の、いくつもの冬
岩手県の面積はおよそ1万5千平方キロメートルで、北海道に次いで全国で2番目に広く、本州では最も広い県です。西の県境には奥羽山脈が連なり、東には北上高地が広がっています。その間を北上川が南へ流れ、盛岡から一関へと続く平野と盆地をつくっています。さらに北上高地の東側には、三陸の海岸線が続きます。
山脈と高地に区切られた地形は、冬の気候をはっきりと分けます。日本海側から吹く冬の季節風は、奥羽山脈にぶつかって西側の斜面と麓に雪を降らせ、山を越えると乾いた風となって太平洋側へ下ります。そのため、県の西側ほど雪が多く、東の海沿いほど晴れて乾いた冬になります。
「岩手の冬」と一言でまとめても、その中身は地域ごとにずいぶん違います。暖房を考えるときも、まずご自宅のある土地がどの冬に属するかを知ることが出発点になります。
1月の平年値で、県内を見比べます
気象庁の観測点から、性格の異なる地点を選んで1月の平年値を並べました。日最低気温は、朝の冷え込みの目安になる数字です。
| 地点(地域) | 平均気温 | 日最低気温 | 日照時間 |
|---|---|---|---|
| 大船渡(沿岸) | 1.1℃ | −2.4℃ | 141.9時間 |
| 宮古(沿岸) | 0.5℃ | −3.5℃ | 158.4時間 |
| 一関(県南の平野) | −0.1℃ | −3.6℃ | 115.6時間 |
| 盛岡(内陸の盆地) | −1.6℃ | −5.2℃ | 115.6時間 |
| 湯田(西和賀・豪雪地) | −2.6℃ | −5.9℃ | 31.2時間 |
| 遠野(北上高地の盆地) | −2.4℃ | −6.9℃ | 99.7時間 |
| 葛巻(北上高地) | −3.8℃ | −8.2℃ | 47.4時間 |
| 区界(北上高地の峠) | −6.1℃ | −11.2℃ | 64.0時間 |
| 薮川(北上高地の高原) | −6.6℃ | −13.2℃ | 61.0時間 |
エアコンの標準の暖房能力は外気温7℃で測られ、低温暖房能力も外気温2℃の条件で示されています。表のどの地点も、1月の平均気温はこの2℃を下回っています。ただし、下回り方には大きな幅があります。
三陸の沿岸は、晴れて乾いた冬です
宮古と大船渡は、県内では冬の冷え込みが穏やかな地域です。1月の日最低気温は宮古が−3.5℃、大船渡が−2.4℃で、盛岡より2〜3℃ほど高くなっています。宮古の1月の日照時間は158.4時間と、盛岡の115.6時間より4割近く長く、1月に降る雪の量も平年で20センチほどにとどまります。
エアコンにとっては、県内で最も条件のよい地域と言えます。外気温が高めであれば、暖房能力の落ち込みは小さく、効率も保ちやすくなります。雪が少ないため、室外機が雪に埋もれる心配も比較的少なくて済みます。
それでも、朝の気温は氷点下まで下がります。海からの風が強い日は、建物から奪われる熱も増えます。エアコンを主な暖房にする場合も、寒冷地向けの機種を選び、室外機を風の当たりにくい場所に据えるといった配慮が役に立ちます。
盛岡と北上川沿いの盆地
盛岡の1月は、平均気温が−1.6℃、日最低気温の平均が−5.2℃です。12月の日最低気温は−2.5℃、2月は−4.8℃で、12月から2月まで朝は氷点下が続きます。盛岡市は、住宅の省エネルギー基準で全国を八つに分けた地域区分のうち、寒い側から3番目の3地域に分類されています。
盆地では、風の弱い晴れた夜に、地表の熱が空へ逃げて冷たい空気が底にたまる放射冷却が起こりやすく、朝の冷え込みが強まります。平年値の−5.2℃は平均であり、これより大きく冷え込む朝も毎冬あります。暖房を最も必要とする時間帯に、エアコンは最も厳しい条件で運転することになります。
県南の一関は、盛岡より1.5℃ほど穏やかです。北上川沿いの平野や盆地では、寒冷地向けのエアコンを使いながら、冷え込みの厳しい朝晩を別の熱源で補う組み合わせが現実的です。寒冷地エアコンが厳しい冷え込みのなかで何に直面するかは、「寒冷地エアコンの限界」で詳しく取り上げています。
北上高地の高原は、さらに寒い朝を迎えます
北上高地の標高の高い地域では、冷え込みは盛岡よりさらに厳しくなります。盛岡市の北東部にある薮川の1月の日最低気温は−13.2℃、宮古市の内陸にある区界は−11.2℃です。同じ市の中でも、海沿いと高原とでは、まったく別の冬が訪れていることになります。
葛巻は−8.2℃、遠野は−6.9℃で、どちらも盛岡より2〜3℃ほど低くなっています。こうした土地では、エアコンの暖房能力は大きく下がり、霜を溶かすための運転も増えます。エアコンを主な暖房にするより、外気温に左右されない燃焼式の暖房を主役に据え、エアコンは季節の変わり目や補助に回すほうが安定します。
寒さの厳しい地域ほど、暖房の停止が暮らしに与える影響も大きくなります。電気に頼らない熱源を一つ持っておくことは、日々の暖かさだけでなく、冬の停電への備えにもなります。
奥羽山脈の麓は、雪とのつきあいが鍵になります
西和賀町の湯田は、気温だけ見れば盛岡と大きくは変わりません。1月の日最低気温は−5.9℃です。違いは雪の量にあります。降雪の深さの合計は1月だけで322センチ、一冬では1,065センチに達し、最深積雪の平年値は191センチです。1月の日照時間は31.2時間で、盛岡の3割に届きません。
このような豪雪地では、室外機の置き方がエアコンの働きを左右します。室外機が雪に埋もれたり、吹き出し口がふさがれたりすると、空気が流れず暖房の力が落ちます。高い架台に載せ、屋根からの落雪が当たらない位置を選ぶといった据え付けの工夫が欠かせません。
雪による倒木や着雪で送電線が傷み、停電が起きることもあります。豪雪地では、電気が止まっても使える暖房があることの意味が、ほかの地域よりも大きくなります。
土地に合わせて、暖房の役割を決めます
ここまでの内容を、暖房の組み立て方として整理します。沿岸の比較的穏やかな地域では、寒冷地向けのエアコンを主な暖房とし、冷え込む朝や停電に備えて火のある暖房を加える形が考えられます。盛岡や北上川沿いの盆地では、真冬の朝晩を薪ストーブやペレットストーブに任せ、エアコンは秋口と春先、日中の補助に使う分担が無理のない形です。
北上高地の高原や奥羽山脈の麓の豪雪地では、燃焼式の暖房を主役に据え、エアコンを補助に回すほうが冬を通して安定します。いずれの地域でも、住まいの断熱性能や部屋の広さによって必要な熱の量は変わるため、実際の機種選びは家ごとに確かめる必要があります。
岩手の各地で薪ストーブを使う暮らしについては、「岩手の薪ストーブ」のページでご紹介しています。ご自宅の地域の冬をあらためて数字で確かめてから、暖房の組み立てを考えてみてください。
関連するページ:煙突について
参考:気温・日照・雪の数値は気象庁の平年値(1991〜2020年、盛岡・宮古・湯田ほか各地点)、面積は国土地理院の全国都道府県市区町村別面積調、地域区分は国土交通省の住宅の省エネルギー基準による。
エアコン暖房の実力 能力低下の計算式と全13機種の外気温ごとの出力表。 薪ストーブのページ 岩手・盛岡で扱う薪ストーブのブランドと機種。 ペレットストーブのページ トヨトミ・ウォームアーツ・ハーマン。国産からイタリア製まで。