家電量販店でエアコンを選ぶとき、まず目に入るのが「おもに20畳」「おもに14畳」という表示だ。自分の部屋の広さに合わせて選べば大丈夫、とほとんどの人が思う。岩手に住んでいる私たちも、かつてはそう考えていた。
ところが、あの畳数は「外の気温が7度のとき」の能力で決まっている。盛岡の1月の朝、外がマイナス10度になったとき、エアコンが出せる暖房の力はカタログの半分以下になる。
畳数を決めているJISの試験条件
エアコンの暖房能力を測る試験規格はJIS C 9612。この規格が定める暖房の試験条件は、外気温7度・室内20度だ。東京の冬の平均気温が5〜6度だから、関東の基準としては合っている。
問題は、この7度という数字が全国一律であること。盛岡の1月の平均最低気温はマイナス5度、明け方はマイナス10度を下回ることが珍しくない。試験条件と実際の気温のあいだに、17度もの開きがある。
気温が下がると、どれだけ能力が落ちるか
エアコンのヒートポンプは、外の空気から熱を汲み上げて室内へ送る仕組みだ。外の気温が下がると、汲み上げられる熱の量が減り、暖房の出力が落ちる。
標準的なエアコンの場合、7度を下回ると1度ごとにカタログ値から約3.3%ずつ能力が落ちていく。下の数字を見てほしい。
外気温 7℃(JIS試験条件):7.1 kW=20畳
外気温 0℃:5.4 kW=15畳
外気温 −5℃:4.2 kW=11畳
外気温 −10℃:3.1 kW=7畳
外気温 −15℃:2.2 kW=5畳
マイナス10度の朝、20畳用のエアコンが出せる暖房の力は3.1kW。カタログ値の43%だ。20畳のリビングに立っているエアコンは、実質7畳分の仕事しかしていない。
寒冷地エアコンなら大丈夫か
「寒冷地仕様」のエアコンは、低温時の能力低下が緩やかに設計されている。標準型が1度あたり約3.3%落ちるのに対し、寒冷地仕様は約2.0%に抑えてある。
外気温 −5℃:5.4 kW=15畳
外気温 −10℃:4.7 kW=13畳
外気温 −15℃:4.0 kW=10畳
マイナス10度で13畳。標準型の7畳よりはだいぶましだが、それでもカタログの20畳には届かない。「寒冷地用だから大丈夫」と20畳の部屋に20畳用を入れると、冷え込んだ朝は暖まりきらない。
霜取り運転のこと
能力の低下に加えて、もう一つの問題がある。外気温が0度を下回ると、室外機の熱交換器に霜が付く。霜が厚くなると空気の取り込みができなくなるため、エアコンは暖房を止めて「霜取り運転」に入る。
霜取りの間、10分から15分ほど暖房が止まる。気温が低いほど頻度が上がり、マイナス10度以下ではおよそ1時間に1回、霜取りが入るようになる。暖房が切れるたびに室温が2〜3度下がるので、体感温度はカタログの能力以上に落ちる。
なぜ畳数の表示は変わらないのか
エアコンの畳数表示が全国一律なのは、JIS規格がそう定めているからだ。メーカーも「低温暖房能力」という数値をカタログの隅に小さく載せてはいるが、売り場では「おもに20畳」の文字が前面に出る。
これはメーカーが嘘をついているのではない。JISの試験条件で測れば、確かに20畳を暖められる能力がある。ただ、岩手の冬はJISの想定の外にある。
数字を知った上で、暖房を選ぶ
エアコンがすべての暖房を担える地域と、そうでない地域がある。岩手はそうでない側だ。エアコンの能力が半分以下になる温度帯で、何を主力の暖房にするか。その判断材料を、数字で持っておくことに意味がある。
薪ストーブの出力は外の気温に左右されない。10kWの薪ストーブは、マイナス10度でも10kWだ。エアコンで同じ暖房力を得るには、20畳用が4台要る。この差が、岩手の冬では効いてくる。
エアコンの暖房能力と外気温の関係は物理法則なので、この計算は北海道から九州まで全国どこでも同じように使えます。とくに岩手・青森・秋田・山形・宮城の東北5県は冬の外気温が厳しく、この問題が暮らしに直結する地域です。
エアコン暖房の実力 ── 深いページ JIS試験条件・能力低下の計算式・全13機種の外気温ごとの出力表。カタログの数字の正体を、全部書きました。 暖房えらびガイド 家の広さと断熱から、必要な暖房の力を考える。