家電売り場では、「寒冷地向け」「暖房強化型」といった札のついたエアコンを見かけます。室内機の見た目は標準の機種とほとんど変わらず、価格には差があります。その差はどこから来るのでしょうか。
この読みものでは、特定の製品の良し悪しには立ち入らず、業界の定義、冷媒回路の考え方、霜への対処、氷と雪への備え、据え付けの工夫という順に、寒冷地エアコンの中身を整理します。外気温が下がったときに実際に何が起きるかは、「寒冷地エアコンの限界」で別にまとめています。
「寒冷地仕様」という区分ができました
2022年10月、エアコンの統一省エネラベルが改められ、「寒冷地仕様」の表示が新たに設けられました。2027年度を目標とする新しい省エネ基準で、一般地向けと寒冷地向けを分けて基準値を定めたためです。
業界の規格(日本冷凍空調工業会のJRA 4087:2024)にもとづく説明によれば、寒冷地仕様の機種は、積雪や低温による故障を防ぐように設計・製造され、外気温マイナス15℃でも運転できるものとされています。さらに「暖房強化型」と呼ばれる機種は、外気温マイナス7℃でも定格の暖房能力以上を出せることが目安になっています。
つまり「寒冷地」の名には、寒くても暖房の力が落ちにくいことと、雪や氷で壊れにくいことの二つの意味が込められています。以下では、この二つを支える仕組みを順に見ていきます。
寒さで能力が落ちる理由と、圧縮機の工夫
エアコンの暖房は、屋外の空気から熱を集め、圧縮機で温度を上げて室内へ運ぶ仕組みです。外気が冷えると、室外機の熱交換器を流れる冷媒は、さらに低い温度で蒸発しなければなりません。蒸発する圧力が下がると冷媒のガスは薄くなり、圧縮機がひと回りで吸い込める冷媒の量が減ります。運べる熱が減り、暖房能力が下がるのはこのためです。同時に、低い圧力から高い圧力まで一気に押し上げることになり、圧縮機の負担と、吐き出す冷媒の温度が上がります。
寒冷地向けの機種は、この弱点に二つの方向から手を打っています。ひとつは、圧縮機の能力そのものを大きくし、回転数の上限を高くすることです。もうひとつが、インジェクションと呼ばれる回路です。室内で熱を渡した冷媒をいったん中間の圧力まで膨張させ、そこで分かれたガスを圧縮機の途中へ戻します。戻したガスのぶん冷媒の流れる量が増え、暖房能力が上がります。圧縮の途中に冷えたガスが加わるため、吐き出す温度の上がりすぎも抑えやすくなります。
国内では2000年代の半ばから、外気温マイナス15℃で定格の暖房能力を出すことを目標にした開発が進められ、寒冷地向けの機種が広がってきました。
カタログに並ぶ、低い気温での数字
仕様の差は、カタログの数字に表れます。国内メーカーの冷房4.0kWクラスで比べると、普及型の一例は、定格暖房能力5.0kWに対し、外気温2℃での低温暖房能力が4.5kWでした。同じクラスの上位機の一例は、同じ定格5.0kWで、外気温2℃では8.4kWを出せると記されています。定格は効率のよい運転点、低温暖房能力は寒い日に圧縮機を高く回したときの最大値で、機種によって余力の取り方が大きく違うことがわかります。
寒冷地仕様の機種のカタログには、外気温2℃に加えて、マイナス7℃やマイナス15℃での最大能力を載せているものもあります。東北で機種を比べるなら、こうした低い気温での数字を並べるのが確かな方法です。数字の読み方は「エアコンのカタログの読み方」で詳しく扱っています。
霜とどう付き合うか、という設計
暖房中の室外機は外気より冷たくなり、空気中の水分が霜となって熱交換器に付きます。メーカーの解説によれば、霜が最も付きやすいのは外気温5.5℃からマイナス7℃くらいで湿度の高いときで、マイナス15℃を下回ると空気が乾くため付きにくくなるといいます。気象庁の平年値で、盛岡の1月は平均気温がマイナス1.6℃、日最低気温の平均がマイナス5.2℃ですから、冬の大半の日がこの範囲に入ります。1979年に大阪大学で行われた研究でも、外気に含まれる水分の量が同じなら気温が高いほど、気温が同じなら水分が少ないほど、霜の量は少なくなることが確かめられています。
霜が厚くなると空気が通らなくなり、熱を集められません。そこでエアコンは、定期的に霜取り運転を行います。一般的な方式は、冷媒の流れを切り替えて室外機に熱を回し、霜を溶かすもので、そのあいだ室内の温風は止まります。
寒冷地向けの設計では、霜取り中も暖房を続ける工夫がとられます。運転中に生まれる熱を蓄えておき、霜を溶かす熱に充てて温風を止めない方式は、その代表的なものです。どの方式でも、霜を溶かす熱はどこかから用意する必要があり、霜とうまく付き合うことが寒冷地向けの設計の大きな課題になっています。
室外機を、氷と雪から守る仕掛け
霜取りで溶けた水は、室外機の底から外へ排出されます。その量は、メーカーの説明で1時間に約1リットルです。氷点下の夜には、この水が底板や排水口で再び凍り、熱交換器の下に氷が育っていくことがあります。寒冷地向けの機種が底板や排水の部分にヒーターを備えるのは、この凍結を防ぐためです。後から取り付ける凍結防止ヒーターを部品として用意しているメーカーもあります。排出された水は地面でも凍るため、人の通り道を避けて置き場所を決めることも大切です。
雪は、また別の問題を起こします。室外機が雪に埋もれると空気を吸い込めず、運転できなくなります。吹き込んだ雪が内部で凍ると、暖房の効率も落ちます。盛岡の最深積雪は、2010年から2026年までの寒候年で16cmから53cmでした。これは平らな場所で測った値で、屋根からの落雪や吹きだまりでは、これを大きく超える雪が一か所に集まることがあります。
据え付けで決まる部分
寒冷地仕様の性能を生かせるかどうかは、置き方に大きく左右されます。メーカーの据え付けの案内では、雪が積もらない高さまで室外機を上げる置台、背面と側面と吹き出し口に付ける防雪フード、季節風を受けにくい東側や南側への設置が挙げられています。屋根の雪が落ちる軒下やつららの下は避け、二台を上下に重ねると上の機械の排水で下の機械が凍るおそれがあるため、横に並べるよう勧められています。壁に掛ける場合は十分な強度のある壁を選び、専用の金具と防雪の部材を組み合わせます。屋根の上に置くことは避けるよう案内されています。
防雪フードや置台は、本体とは別売りの部材として用意されているのが一般的です。雪が積もったときは、エアコン専用のブレーカーを切ってから、室外機の周りと上の雪を取り除くよう案内されています。機種を選ぶ段階で、家のどの面に、どの高さで室外機を置くかまで決めておくと、冬の不具合を減らせます。
違いを知ったうえで、役割を決める
寒冷地エアコンと標準の機種の違いは、冷媒回路の能力、霜への対処、氷と雪への備え、据え付けの四つにまとめられます。どれも外気が冷えたときに暖房を続けるための工夫で、寒い土地で選ぶ意味ははっきりしています。
一方で、外の空気から熱を汲み上げるという原理は同じで、気温が下がるほど力が減る傾向は残ります。当社が外気温ごとの能力を試算した表は、「エアコン暖房の実力」に載せています。私たちは、エアコンを冷房と春秋の暖房、真冬の補助に充て、主な暖房を薪ストーブやペレットストーブが受け持つ組み合わせもご提案しています。違いを知ったうえで、家の中でエアコンにどの役割を任せるかを決めていただくのがよいと考えています。
関連するページ:ペレットストーブとは・盛岡・岩手の薪ストーブ専門店
参考:寒冷地仕様の定義はJRA 4087:2024にもとづくメーカーの説明(省エネ目標基準値の資料)、ラベルの改正は資源エネルギー庁(統一省エネラベル)による。開発の目標はメーカーの開発記録、低温暖房能力はメーカーの仕様表(普及型の例・上位機の例)、霜の付きやすい条件はメーカーの解説と大阪大学の学位論文の要旨(PDF)、排水量と据え付けはメーカーの設置案内と雪の対策による。気温と積雪は気象庁(盛岡の平年値・年ごとの値)による。