寒冷地エアコンの性能は、この二十年ほどで大きく進みました。外気温マイナス15℃でも運転できることは、いまでは業界の「寒冷地仕様」の条件のひとつになっています。それでも東北の冬の夜には、エアコンだけでは埋めきれない時間が残ります。
この読みものでは、外気温がマイナス10℃前後まで下がったときに何が起きるのかを、気象庁の観測値と、公表されている仕様や調査の結果から順に確かめます。そのうえで、電気を使わない熱源が家の中でどんな役割を担えるのかを考えます。
盛岡の冬は、どこまで冷えるか
気象庁の平年値(1991〜2020年)で、盛岡の1月は平均気温がマイナス1.6℃、日最低気温の平均がマイナス5.2℃です。平均で見ると穏やかに思えますが、毎年もっとも冷えた朝の気温を並べると、様子が変わります。同じ平年値で、日最低気温が0℃を下回る日は1月に29.8日、2月に26.8日あり、真冬の朝はほぼ毎日が氷点下です。
| 年 | 盛岡の年最低気温 | 年 | 盛岡の年最低気温 |
|---|---|---|---|
| 2010年 | −12.4℃ | 2018年 | −12.2℃ |
| 2011年 | −11.7℃ | 2019年 | −9.0℃ |
| 2012年 | −12.7℃ | 2020年 | −10.2℃ |
| 2013年 | −11.8℃ | 2021年 | −12.9℃ |
| 2014年 | −11.5℃ | 2022年 | −11.2℃ |
| 2015年 | −9.8℃ | 2023年 | −11.4℃ |
| 2016年 | −8.8℃ | 2024年 | −11.4℃ |
| 2017年 | −13.0℃ | 2025年 | −9.8℃ |
2010年から2025年までの16年間で、年最低気温がマイナス10℃を下回った年は12年ありました。気象台は市街地にあり、郊外や山あいはさらに冷え込みます。盛岡市北部の藪川では1945年にマイナス35℃が記録され、本州で最も低い気温として知られています。
盛岡周辺では、マイナス10℃前後の朝がほぼ毎冬めぐってくると考えておくのが現実的です。エアコンの暖房能力を表示する基準の外気温7℃とは、17℃以上の差があります。
気温が下がるほど、出せる熱は減ります
エアコンは外の空気から熱を汲み上げる機械で、外気が冷たいほど汲み上げられる熱が減ります。カタログの数字にも、その傾向が表れています。冷房4.0kWクラスの普及型の一例では、外気温7℃での定格暖房能力5.0kWに対し、外気温2℃での最大能力は4.5kWと記されています。寒冷地向けの機種は余力を大きくとっていますが、気温が下がるにつれて最大能力が減っていく点は変わりません。当社が機種の大きさごとに試算した「エアコン暖房の実力」の表では、寒冷地タイプでもマイナス10℃で定格の6割台という見立てです。
見落とされやすいのが、家の側の事情です。外が冷えるほど、壁や窓から逃げる熱は増えます。室温20℃の家では、外気温7℃なら温度差は13℃、マイナス10℃なら30℃で、逃げる熱はおよそ2.3倍になります。必要な熱が増える時間帯に、エアコンが出せる熱は減っていきます。この二本の線が交わる気温が、その家でエアコンだけで室温を保てる下限です。
効率も下がり、電気の使い方が変わります
能力と並んで大切なのが効率です。消費した電気の何倍の熱を室内へ運べるかを示す値をCOP(成績係数)といい、外気が冷えるほど小さくなります。ある上位機の仕様表から計算すると、外気温7℃の定格運転では消費電力1に対して約5.4倍の熱を運びますが、外気温2℃の最大運転では約2.4倍にとどまります。
実際の住宅で測った結果もあります。欧州・北米・アジアの7件の実測調査、約550台のヒートポンプのデータを集めた2023年の論文では、外気温5℃からマイナス10℃の範囲でCOPの平均が2.74でした。それより寒い地域では、およそ1.5から2まで下がるとされています。
電気ヒーターのCOPは1ですから、真冬でもエアコンは電気を効率よく熱に変える機械です。ただし、同じ量の熱を得るために使う電気は、秋や春に比べて大きく増えます。冷え込みの深い夜ほど、エアコンは最大に近い力で、しかも低い効率で運転することになります。
霜取りで、温風が途切れる時間
メーカーの解説によれば、室外機に霜が最も付きやすいのは、外気温5.5℃からマイナス7℃くらいで湿度の高いときです。盛岡の冬の大半の日は、この範囲に入ります。霜取り運転にはメーカーの説明で5分から20分あまりかかり、一般的な機種ではそのあいだ温風が止まります。
寒冷地向けの機種には、霜取り中も温風を送り続けるものがあります。それでも霜を溶かす熱はどこかから用意しなければならず、そのぶん室内に届く熱は減ります。霜取りが重なると、室温は小さな上下を繰り返します。とくに冷えきった家を朝に暖め直す時間帯は、エアコンが最大の力で運転し、霜も付きやすい時間帯と重なります。
雪に埋もれる室外機
能力も効率も、室外機が空気を吸えることが前提です。室外機が雪に埋もれると運転できなくなり、吹き込んだ雪が内部で凍ると効率が落ちます。2010年から2026年までの寒候年で、盛岡の最深積雪は16cmから53cmでした。これは平らな場所で測った値で、屋根からの落雪や吹きだまりでは、これを大きく超える雪が一か所に集まることがあります。
大雪の夜や朝には、室外機の周りの雪を取り除く作業が要ります。メーカーは、作業の前にエアコン専用のブレーカーを切るよう案内しています。吹雪の夜に外へ出て除雪するのは、ご高齢の方の多いご家庭にとって小さな負担とは言えません。置台や防雪フードで備えることはできますが、雪の多い冬には見回りが欠かせません。
停電すれば、どの機種も止まります
どれほど性能のよいエアコンも、電気が止まれば動きません。灯油を使うファンヒーターや、外に給排気筒を出す石油暖房機の多くも、点火や送風に電気を使うため、同じように止まります。冬の停電は地震だけでなく、着雪や倒木による電線の被害でも起こります。
大雪や寒波の日は、停電が起きやすい日でもあります。真冬の夜に暖房がすべて止まった家は、断熱のよい家でも少しずつ冷えていきます。冬の停電への備え方は「停電した夜の暖房」にまとめています。
電気を使わない熱源を、もうひとつ
ここまでをまとめると、寒冷地エアコンの限界は、冷え込み、霜、雪、停電という条件が重なる真冬の夜に表れます。言い換えれば、晩秋と早春、真冬でも日中の穏やかな時間帯は、エアコンが効率よく働ける時間です。
薪ストーブは、薪を燃やした熱で暖めるため、外気温によって出せる熱が変わりません。煙突の上昇気流で空気を取り込むので、電気がなくても燃え続けます。鋳物や鋼板の本体が熱を蓄え、放射で部屋を暖めるため、エアコンの霜取りで温風が途切れても室温が下がりにくくなります。もちろん、薪の準備や灰の始末、煙突の手入れといった手間は増えます。
ペレットストーブも、外気温に左右されずに熱を出せる暖房です。燃料の補給と火力の調整を機械が受け持つため手間が少なく、そのぶん運転には電気を使います。停電への備えを重く見るか、毎日の手軽さを重く見るかで、選ぶ火は変わってきます。
エアコンの得意な季節と時間はエアコンに任せ、冷え込む朝晩と停電のときを火が受け持つ。こうした分担を、盛岡の一年に沿って考えたのが「薪ストーブとエアコンの併用」です。限界を知ったうえで熱源を組み合わせることが、東北の冬を安心して過ごすための確かな備えになります。
関連するページ:煙突掃除・薪ストーブ修理・薪ストーブの費用と相場・盛岡・岩手の薪ストーブ専門店
参考:気温と積雪は気象庁(盛岡の平年値・年ごとの値)、藪川の記録は日本気象学会『天気』2011年6月号の解説(PDF)による。暖房能力と消費電力はメーカーの仕様表(普及型の例・上位機の例)、実測調査はGibbほか(Joule、2023年、doi:10.1016/j.joule.2023.08.005)の報道(英語)、霜の条件はメーカーの解説、霜取りの時間と除雪の手順はメーカーの案内による。
