冬になると、肌のつっぱりや唇の荒れ、朝ののどの痛みが気になり始めます。エアコンの暖房を使う部屋では、とくにその傾向を強く感じる方が多いようです。加湿器を置いても湿度計の数字がなかなか上がらず、悩んでいるご家庭も少なくありません。
暖房の季節に部屋が乾く理由は、物理の仕組みとしてかなりはっきり説明できます。この読みものでは、盛岡の冬の気象データを使って乾燥が起きる仕組みをたどり、そのうえで、ペレットストーブの暖め方が湿気とどう関わるのか、どのくらい加湿すればよいのかを整理します。
外の空気は湿っているのに、部屋は乾く
天気予報で耳にする湿度は、相対湿度と呼ばれる値です。その温度の空気が含むことのできる水蒸気の上限に対して、実際にどれだけ含んでいるかを百分率で表します。上限は温度によって大きく変わり、暖かい空気ほど多くの水蒸気を含めます。
そのため、同じ量の水蒸気を含んだ空気でも、温めると相対湿度は下がります。冬の屋外の空気は、相対湿度で見ればむしろ高めです。ところが、その冷たい空気が換気口や隙間から室内に入り、20℃前後まで温められると、含む水蒸気の量は変わらないまま上限だけが大きく広がり、相対湿度は一気に下がります。暖房の季節に部屋が乾く根本の理由はここにあり、エアコンでもストーブでも、室温を上げる暖房である限り同じことが起こります。
盛岡の1月の空気を、部屋に入れてみる
気象庁の平年値(1991〜2020年)によれば、盛岡の1月の平均気温は-1.6℃、平均相対湿度は73%、空気中の水蒸気の量を表す平均蒸気圧は4.0ヘクトパスカルです。屋外の湿度計は、7割を超える値を示していることになります。
この空気をそのまま20℃まで温めるとどうなるか。20℃の空気が含むことのできる水蒸気の上限は、蒸気圧にしておよそ23.4ヘクトパスカルです。4.0を23.4で割ると、相対湿度は約17%になります。22℃まで上げれば、15%前後まで下がります。
実際の室内では、人の呼吸や炊事、入浴、洗濯物などから水蒸気が加わるため、ここまで下がることはまれです。それでも、外気を取り入れるほど室内の空気はこの値に引き寄せられます。2003年以降に建てられた住宅には、シックハウス対策として、1時間に部屋の空気の半分を入れ替える24時間換気の設備が義務づけられています。空気の質を保つために欠かせない仕組みですが、冬はその分だけ乾いた外気が入り続けます。
天井の高さ2.4mの20畳の居間(約78立方メートル)で計算してみます。換気で入れ替わる空気を20℃・湿度50%に保つには、1時間におよそ220グラム、10時間で2リットルあまりの水を空気に加える必要があります。暮らしから出る水蒸気がこの一部を補うとはいえ、冬の加湿が思うように進まないのは、この量の多さのためです。
乾きを強く感じさせるのは、湿度と風です
肌や目、のどの粘膜の乾きは、湿度計の数字だけでは決まりません。皮膚や粘膜の表面から水分が蒸発する速さは、まわりの空気が乾いているほど、また表面に当たる空気の流れが速いほど大きくなります。洗濯物が、湿度の低い日だけでなく風のある日にもよく乾くのと同じ理屈です。
エアコンは、室内の空気を吸い込み、熱交換器で温めて吹き出すことで部屋を暖めます。暖まった空気を部屋の隅々まで行き渡らせるには風量が要り、その温風が顔や手に当たり続けると、同じ湿度でも乾きを強く感じやすくなります。エアコンの乾燥がつらいと感じる方が多いのは、空気そのものの乾きに、この風が重なるためと考えられます。風の感じ方については「エアコンの風が気になる人へ」でも取り上げています。
ペレットストーブと、部屋の湿気
では、ペレットストーブではどうでしょうか。まず確認しておきたいのは、ペレットストーブも室温を上げる暖房である以上、相対湿度が下がる仕組みは変わらないという点です。同じ室温まで暖めれば、湿度計の数字に大きな差は出ません。
違いが出るのは、熱の届け方です。炎の窓や本体の表面から放たれる輻射熱は、空気を介さずに人の体や床、壁を直接温めます。輻射式の機種であれば温風を吹き付けないため、肌や目に当たる風は小さく抑えられ、その分だけ表面からの蒸発も穏やかになります。温風式の機種はファンで温風を送るので、風を避けたい方は輻射式を選ぶと違いを感じやすくなります。輻射と対流の違いは「輻射式と対流式」で詳しく説明しています。
燃焼で生じる水蒸気の扱いも知っておくと役立ちます。木材も灯油も都市ガスも水素を含むため、燃えると二酸化炭素とともに水蒸気が生じます。開放式の石油ストーブやガスファンヒーターは燃焼ガスを室内に出すので、水蒸気も部屋に加わります。乾燥が和らぐ反面、窓の結露の原因になり、一酸化炭素の危険を避けるためのこまめな換気も欠かせません。ペレットストーブは排気筒で燃焼ガスを屋外に出すので、部屋に水蒸気を足さず、燃焼ガスを室内に出さないことを前提に設計されています。燃焼用の空気も屋外から取り入れる給排気の方式であれば、室内の暖まった空気を燃焼に使わないため、乾いた外気を余分に引き込むこともありません。
どのくらい加湿すればよいのか
目標とする湿度には、公的な目安があります。厚生労働省は、急性呼吸器感染症の予防策のひとつとして、乾燥しやすい室内では加湿器などで湿度を50〜60%に保つことを勧めています。空気が乾くと、気道の粘膜の防御機能が低下するためです。また、事務所などの大きな建物に適用される建築物環境衛生管理基準では、空気調和設備のある居室の相対湿度を40%以上70%以下に保つこととされています。
湿度とウイルスの関係については、米国の研究者が2009年に米国科学アカデミー紀要で発表した論文がよく知られています。動物実験の既存データを解析し直した結果、インフルエンザウイルスの生存と感染のしやすさは、相対湿度よりも空気中の水蒸気の絶対量によく対応していたと報告しています。冬に外気の水蒸気量が少なくなることが、流行の季節性と関わっている可能性を示した研究です。
家庭では、室温20℃前後で湿度50%前後をひとつの目安にするとよいでしょう。先の計算のとおり、盛岡の冬にこの値を保つにはまとまった量の水が要ります。加湿の能力は、部屋の広さに見合ったものを選ぶことが大切です。
加湿器と、窓の結露のあいだで
加湿には、もうひとつ考えておきたいことがあります。窓の結露です。室内の空気が冷たい窓ガラスに触れて露点を下回ると、水蒸気は水滴になります。外が冷え込む盛岡の冬は、湿度を上げるほど窓が濡れやすくなり、放置すればカビや木枠の傷みにつながります。断熱性の高い窓ほど結露は起きにくいため、加湿の上限は窓の性能によって変わります。湿度計を窓際と部屋の中央に置き、結露が出始める湿度を把握しておくと、加湿のしすぎを防げます。結露の仕組みは「結露の科学」でも扱っています。
加湿器そのものの衛生にも注意が必要です。厚生労働省のレジオネラ症予防の指針は、家庭用加湿器のタンクの水を毎日すべて入れ替え、タンクの内側を清掃するよう求めています。超音波式など水を加熱しない方式では、とくにこの手入れが欠かせません。
暖房の種類を変えても、冬の空気の乾きは残ります。それでも、温風を浴びずに体を温める暖房と、適度な加湿と、窓の状態に目を配る習慣を組み合わせれば、冬の室内はずっと過ごしやすくなります。盛岡のショールームでは、輻射式のペレットストーブの前で、その暖かさを確かめていただけます。
ペレットストーブのページ 輻射式・温風式の取扱い機種。 エアコン暖房の実力 エアコンの仕組みと能力低下。参考:盛岡の気温・湿度・蒸気圧は気象庁の平年値(気象庁)、24時間換気は国土交通省(国土交通省)、湿度50〜60%は厚生労働省「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(厚生労働省)、建築物の基準は厚生労働省(厚生労働省)、加湿器の手入れは厚生労働省のレジオネラ症のページ(厚生労働省)、絶対湿度の研究はShamanとKohnの論文(2009年、英語)による。計算値は当社による。
