東北へ転勤が決まった、新しく家を建てる、実家に戻る。そうした節目に「暖房はエアコンだけで足りるのか」と調べる方は少なくありません。結論から申し上げると、家の断熱性能によっては越せる場合もあります。ただし、そのためには東北の冬がどれほど冷えるのかを、数字で知っておく必要があります。
この読みものでは、気象庁の平年値、国の省エネ性能カタログ、総務省の家計調査という三つの公的な資料を並べ、盛岡・青森・秋田の冬とエアコン暖房の関係を順に読み解いていきます。
「冬が寒い」を数字にすると
まず、1月の気温を東京と比べてみます。いずれも気象庁が公表している1991年から2020年の平年値です。
| 都市 | 1月の平均気温 | 日最高気温の平均 | 日最低気温の平均 |
|---|---|---|---|
| 盛岡 | −1.6℃ | 2.0℃ | −5.2℃ |
| 青森 | −0.9℃ | 1.8℃ | −3.5℃ |
| 秋田 | 0.4℃ | 3.1℃ | −2.1℃ |
| (参考)東京 | 5.4℃ | 9.8℃ | 1.2℃ |
三つの都市のうち、朝の冷え込みがもっとも厳しいのは内陸の盛岡です。日本海側の秋田は平均では穏やかに見えますが、これはあくまで30年間の平均であり、寒波の朝はさらに下がります。盛岡の観測史上の最低気温は、1945年1月26日に記録したマイナス20.6℃です。
氷点下の朝が、年に百日を超えます
平均気温よりも暮らしの実感に近いのが、日数で見る指標です。同じ平年値で、最低気温が0℃を下回る冬日の年間日数は、盛岡が121.6日、青森が102.5日、秋田が81.0日です。東京は15.2日にとどまります。日中の最高気温さえ0℃に届かない真冬日は、盛岡が12.4日、青森が18.7日、秋田が7.2日で、東京は0日です。
夏についても触れておきます。最高気温が30℃以上になる真夏日は、盛岡が年に22.4日、青森が14.7日、秋田が22.2日あり、東京の52.1日より少ないものの、東北でも夏の冷房は欠かせません。ですから問われているのは、エアコンを置くかどうかより、冬の暖房をエアコンにどこまで任せるかという点です。
盛岡では、一年のおよそ三分の一にあたる朝が氷点下で始まる計算になります。しかも冬日は11月から4月まで続き、12月から3月にかけては毎月20日を超えます。暖房は冬のあいだだけの設備というより、半年近く毎日働き続ける設備だと考えたほうが実態に近いでしょう。
カタログの暖房能力は、どの気温で測られているか
エアコンのカタログに書かれた暖房能力には、測定の条件があります。省エネ性能カタログ2018年冬版の説明によれば、暖房の標準能力は外気温7℃・室内20℃のときに室内へ加える熱量で、外気温2℃のときの低温能力は「寒冷地にお住まいの方は参考に」と添えられています。期間消費電力量も、東京の気温をモデルに、11月8日から4月16日までの暖房期間を想定して計算されています。
先ほどの表に戻ると、盛岡の1月の日最低気温の平年値は、標準能力の測定条件である7℃より12℃あまり低いことがわかります。エアコンは屋外の空気から熱を汲み上げる仕組みのため、外気が冷えるほど汲み上げられる熱が減り、能力が下がります。外気温が下がると室外機に霜が付きやすくなり、それを溶かす霜取り運転のあいだは温風も止まります。外気温ごとにどの程度能力が落ちるかは、「エアコン暖房の実力」に表で整理しています。
国のカタログが示す「盛岡は東京の2.3倍」
同じカタログには、もうひとつ興味深い数字が載っています。年間の目安電気料金は東京の気温をもとに計算されているため、地域ごとの補正の目安として「地域係数」が示されているのです。冷暖房兼用機で東京を1.0としたとき、札幌は3.1、盛岡は2.3、秋田は1.9、仙台は1.6です。
注記によれば、寒冷地でエアコンの暖房能力が足りない場合には、それを補う電気ヒーターの消費電力量も加算されています。つまり、同じエアコンを同じように使っても、盛岡では東京の2倍を超える電気代を見込むのが目安だということになります。カタログに並ぶ年間電気料金をそのまま東北の家計に当てはめると、見通しを誤るおそれがあります。
この係数には、暖房期間の長さも関わっていると考えられます。カタログが想定する暖房期間は4月16日までですが、盛岡では4月にも冬日が平均5.8日あり、11月も9.8日を数えます。寒さが深いだけでなく長く続くことが、東北の暖房を考えるうえでの前提になります。
東北の家計は、灯油で冬を越してきました
東北の家庭が実際に何で暖を取っているかは、総務省の家計調査からうかがえます。二人以上の世帯が1年間に購入した灯油の量(2023年から2025年の平均)は、全国平均の133リットルに対し、青森市が817リットルで全国の県庁所在市と政令指定都市の中で最も多く、秋田市が568リットル、盛岡市が443リットルと続きます。東京都区部は17リットルです。
電気代の年間支出も、盛岡市は166,888円で、全国平均の149,965円を上回っています。灯油と電気の両方を多く使っている姿からは、東北の多くの家庭がエアコン一台に冬を任せず、灯油ストーブなど燃料を燃やす暖房を組み合わせてきたことが読み取れます。寒さの厳しい土地では、熱源を二つ以上持つことが、長いあいだ当たり前の備えでした。
越せるかどうかは、家の断熱で変わります
では、エアコンだけで冬を越すことはできないのでしょうか。鍵を握るのは住まいの断熱性能です。国の省エネ基準は全国を8つの地域に分けており、盛岡市は旭川市の1地域、札幌市の2地域に次ぐ3地域に区分されています。この地域にふさわしい断熱と気密を備えた住宅であれば、逃げる熱が少ないぶん、能力の落ちたエアコンでも室温を保ちやすくなります。寒冷地向けのエアコンは低温での能力も年々改良されています。
それでも、残る課題があります。ひとつは乾燥です。たとえば気温0℃・湿度80%の外気を室内で20℃まで温めると、相対湿度はおよそ2割まで下がります。もうひとつは停電です。2011年3月の東日本大震災では、東北電力管内で最大約466万戸が停電し、青森・岩手・秋田の3県は全域が停電しました。エアコンは電気が止まれば動きません。真冬にこれが起きたときの備えをどうするかは、断熱性能とは別に考えておく必要があります。
乾燥については、加湿器のほか、燃料を燃やす暖房の天板にやかんを置くといった昔ながらの工夫も役に立ちます。停電については、電気を使わずに熱を出せる暖房をひとつ持っておくことが、もっとも確かな備えになります。
エアコンを生かし、火を足すという答え
ここまでの数字をまとめると、東北でエアコンだけに冬を任せられるのは、断熱と気密が十分に高い住宅で、電気代の増加と停電の不安を受け入れられる場合に限られると言えます。多くのご家庭にとって現実的なのは、エアコンの手軽さを生かしながら、外気温に左右されない熱源をもうひとつ持つことです。
すでに灯油ストーブをお使いのご家庭であれば、それを無理に手放す必要はありません。エアコンを春と秋の軽い暖房と夏の冷房に充て、真冬の朝晩は燃料を燃やす暖房が受け持つ。家計調査の数字が示すように、東北の多くの家庭が長く続けてきたのは、まさにこうした組み合わせです。
その候補として、私たちは薪ストーブとペレットストーブをご案内しています。薪ストーブは電気を使わずに燃え続け、ペレットストーブは燃料の補給と火力の調整を機械が受け持ちます。それぞれの機種は薪ストーブとペレットストーブのページでご覧いただけます。お住まいの地域の気温と家のつくりを踏まえて、無理のない組み合わせを一緒に考えます。
参考:気温と日数は気象庁の平年値(1991〜2020年)と観測史上の記録(盛岡・青森・秋田・東京・盛岡の記録)による。暖房能力の条件と地域係数は省エネ性能カタログ2018年冬版(資源エネルギー庁)、灯油と電気代は家計調査の品目別ランキング(総務省統計局)、地域区分は国土交通省、停電戸数は内閣府防災掲載の資料による。
