ATK指数の中身を、物理まで戻して書きます。
蓄熱量の計算、冷める速さの時定数、輻射の4乗則。
「うちが決めました」で済ませず、なぜその数字なのかを全部出します。
薪ストーブのカタログに書いてある 10.5 kW という数字。
これは「燃えているあいだ、1時間にどれだけ熱を出せるか」です。
大事な数字です。でも、これだけでは朝起きたときに家が暖かいかどうかは分かりません。
小学5年生バージョン
お風呂で考えてみて。
お湯を出す勢い= kW。カタログに書いてあるのはこれだけ。
でも本当に知りたいのは、湯船にどれだけお湯がたまるか(蓄熱)と、
蛇口を止めたあと、どれくらい冷めないか(持続)だよね。
ATK指数は、その「たまる量」と「冷めにくさ」を数字にしたものなんだ。
ATKが100点のうち40点を蓄熱に配っているのは、
ここに理由があります。
そして蓄熱は、計算で出せます。次の章でやります。
ATK指数の全体像と、機種ごとの数値・計算機は ATK指数のページ(本編)にあります。このページはその「裏側」です。
熱をどれだけためこめるか。中学理科の式そのままで出ます。
| 機種 | 材料 | 重量 | 比熱 | 蓄熱量 | = 電気に直すと |
|---|---|---|---|---|---|
| ハースストーン ヘリテイジ | ソープストーン | 242 kg | 980 | 66,404 kJ | 18.4 kWh |
| ヨツール F 500 ECO | 鋳鉄 | 200 kg | 460 | 25,760 kJ | 7.2 kWh |
| HETA スクルド | ソープストーン | 243 kg | 980 | 66,679 kJ | 18.5 kWh |
| 薄めの鋼板ストーブ(例) | 鋼板 | 120 kg | 490 | 16,464 kJ | 4.6 kWh |
石の 18.4 kWh に対して、鋳鉄は 7.2 kWh。約2.6倍の差です。
18.4kWhというのは、1000Wの電気ストーブを18時間つけっぱなしにできる熱。
火が消えたあと、その熱がゆっくり部屋に出てくる。
これが「朝までぬくい」の正体です。気分の問題ではありません。
式の中に ( 構造 × 0.7 + 蓄熱密度比 × 0.3 ) × 40 という部分があります。
蓄熱密度比とは、本体の重さ ÷ 暖房坪数を、基準(ヨツール F500 ECO の 3.28 kg/坪)で割ったもの。
構造係数(=比熱の違い)が0.7、蓄熱密度が0.3。
Q=m·c·ΔT の c と m を、坪あたりに直して重みにしています。
坪あたりにすることで、小さいストーブが不利にならない。
F500(200kg/61坪)とF105(97kg/26坪)は、kg/坪がほぼ同じなので蓄熱の点は同じになります。
ためた熱が、どれくらいの速さで出ていくか。 これは指数関数(ニュートンの冷却則)になります。
| 本体 | 熱容量 m·c | 時定数 τ | 半分に冷えるまで |
|---|---|---|---|
| ソープストーン 242kg | 237,160 J/K | 1.8 時間 | 1.2 時間 |
| 鋳鉄 200kg | 92,000 J/K | 0.7 時間 | 0.5 時間 |
| 鋼板 120kg | 58,800 J/K | 0.4 時間 | 0.3 時間 |
石は鋳鉄の2倍以上、ゆっくり冷めます。 ATKで石の蓄熱係数が1.55、鋳鉄が1.00(基準)、鋼板が1.07なのは、この物理を写したものです。 鋳鉄を1.00として、石は1.55倍の蓄熱力。二重構造は0.68——空気層が断熱材になり、蓄えた熱が外に出にくい。
この計算は「熱の逃げやすさ(hA)が一定」という単純化をしています。
実際には、本体が冷えるほど熱の出方も弱まる(次章の4乗則のため)ので、
冷え方はもっとなだらかになります。表の時間は、短めに出ています。
それでも材料どうしの「比」は変わりません。
ATKが見ているのは順序と比なので、この単純化で足ります。
── こういうところを黙っておくと、あとで数字が信用されなくなります。だから書きます。
薪ストーブの暖かさが「じんわり体の芯に来る」のは、 輻射(ふくしゃ)──赤外線として直接飛んでくる熱だからです。 エアコンの温風とはまったく別の物理現象です。
4乗です。2乗でも3乗でもなく、4乗。 温度がちょっと変わるだけで、暖かさが激変します。表面積1.5m²で計算してみます。
| 表面温度 | 絶対温度 | T⁴ | 輻射の熱 | 150℃を1として |
|---|---|---|---|---|
| 150℃ | 423 K | 32,061,023,382 | 1.89 kW | 1.00 |
| 200℃ | 473 K | 50,118,189,941 | 3.27 kW | 1.73 |
| 250℃ | 523 K | 74,903,984,174 | 5.17 kW | 2.74 |
| 300℃ | 573 K | 107,912,856,083 | 7.70 kW | 4.07 |
| 350℃ | 623 K | 150,789,255,667 | 10.98 kW | 5.81 |
| 400℃ | 673 K | 205,327,632,925 | 15.15 kW | 8.02 |
300℃で 7.70 kW、200℃で 3.27 kW。
100℃下がっただけで、半分以下になりました。
「火を落としたら急に寒くなった」という感覚は、正確です。物理がそうなっています。
小学5年生バージョン
4乗というのは、「2倍になったら16倍」ということ(2×2×2×2=16)。
温度がちょっと上がるだけで、暖かさはドカンと増える。逆に、ちょっと下がるとドカンと減る。
たき火の前で、一歩下がると急に寒くなるでしょ。あれと同じ理由なんだ。
さっきの式をもう一度見てください。A(表面積)が、掛け算で入っています。
温度が同じでも、表面積が20%増えれば、輻射も20%増える。単純な話です。
ATKの式に 「輻射の質〔構造 × 25 × 表面〕」という表面係数(1.0/1.1/1.2)が
入っているのは、これが理由です。
たとえば AGNI-C の強い凹凸表面は、放熱フィンとして働いています。
意匠として彫ってあるのではなく、熱を広く届けるための形です。
表面積の実測値は、どのメーカーもカタログに書いていません。
うちは実機を見て、凹凸の深さと数から1.0/1.1/1.2の3段階に振り分けています。
ATKの中で、ここだけは主観が入る場所です。
だから幅を3段階に絞り、上限も25点で頭打ちにしてあります。
主観が効きすぎない作りにしてある、というのが正確な言い方です。
100点を4つに配る。この配り方そのものが、うちの主張です。
| 軸 | 配点 | その配点にした理由 |
|---|---|---|
| 立ち上がり | 20 | 速さは「最初の1時間」だけの話。一冬を通せば、価値は限定的だと考えている。 ただしゼロにはできない。帰宅してから焚く人には切実だから。 |
| 蓄熱・持続 | 40 | 最大。火を落としたあとの時間のほうが、焚いている時間より長いから。 02章・03章のとおり、材料で2倍以上の差がつく。ここが機種選びでいちばん後悔が出る場所でもある。 2026-09-09改訂で35→40に引き上げた。 |
| 輻射の質 | 25 | 2番目。「暖かさの質」そのもの。同じ室温でも体感が変わる。 04章のとおり4乗で効くので、影響が大きい。 |
| パワー | 15 | カタログ数値でつく点は、ここだけ。 出力が大きいだけの機種を上位に来させないため、意図的に15に抑えている。 坪あたりの出力密度で見ているので、小さいストーブも不利にならない。 |
100点のうち85点が「構造で決まる暖かさ」。
カタログ数値で取れるのは15点だけ。
ここが、ATK指数がふつうの比較表と違うところです。
数字の大きさではなく、熱の届き方を見ている。
式の中に、割り算の相手として出てくる数字があります。 すべてヨツール F500 ECO(10.5kW・200kg・61坪)を基準にしています。 世界でいちばん売れた薪ストーブを「1.00」にして、他の機種をそこからの距離で見る。
| 数字 | どこで使うか | 出どころ |
|---|---|---|
| 0.172 kW/坪 | 出力密度比 = (定格÷坪) ÷ 0.172(上限1.0) | F500の定格10.5kW ÷ 61坪 = 0.172。坪あたりの出力で見るから、小さいストーブも不利にならない。 F105は4.5kW÷26坪=0.173で、F500とほぼ同じ。 |
| 3.28 kg/坪 | 蓄熱密度比 = (重量÷坪) ÷ 3.28(上限1.0) | F500の200kg ÷ 61坪 = 3.28。こちらも坪あたり。 重い機種が有利だが、暖房面積の広さとのバランスで見ている。 |
| 85 % | 効率比 = 効率 ÷ 85(上限1.0) | 現代のクリーンバーン機で到達している上位の値。ここを満点とする。 |
| 0.76 | 最大出力 × 0.76 = 定格相当 | 最大出力しか公表しないメーカーがあるため。 両方公表している機種で比をとった実測的な換算値。ここは推定なので、幅がある。 |
| 1.30 / 1.55 / 1.48 | 構造係数の上限(立上/蓄熱/輻射) | 各係数をこの値で割って正規化する。係数が上限に達した構造は、その軸で満点になる。 ソープストーンは蓄熱1.55/1.55=1.00(満点)、鋳鉄は1.00/1.55=0.65。 |
| 80 | 適正坪 = 公表坪 × (ATK÷80・上限95%) | ATK 80 でメーカー公表坪数の満額、という設定。 それ以下は割り引く。上限を95%にしてあるので、 どんなに高ATKでも公表坪を超えない。盛る方向には決して動かない作りにしてある。 |
なぜ坪あたりに変えたか(2026-09-09改訂)。 旧い式は絶対値で比べていたため、出力4.5kWの小さなストーブ(ヨツール F105)が、 10.5kWの大型機(F500)より大幅に低い点になっていた。 しかし両方とも「メーカーが推奨している面積に対して」は十分な出力を持っている。 坪あたりの密度に直したことで、F105もF500も同じ77 ATKになった。 小さくてもちゃんと暖かい機種を、数字が正しく評価できるようにした。
式が公開されていても、どこが効くのか分からなければ意味がありません。 基準(鋳鉄③・10.5kW・200kg・86%・61坪=77 ATK)から、 1つずつ動かしてみます。
| 変えるもの | 変化 | ATKの動き | 意味 |
|---|---|---|---|
| 構造を鋳鉄③→二重構造⑤(外板鋳物)に | ⑤ | -12.7 | いちばん大きく動く。空気層が熱を閉じ込め、蓄熱も輻射も大きく落ちる。 |
| 構造を鋳鉄③→ソープストーン①に | ① | +10.2 | 蓄熱と輻射が満点になる。そのかわり立ち上がりは大きく落ちる。 |
| 表面をふつう→強い凹凸に | ×1.2 | +3.4 | 25点で頭打ちなので、輻射係数の低い機種ほどよく効く。 |
| 出力密度を0.172→0.131kW/坪に(8kW/61坪) | −kW/坪 | -2.6 | 坪あたりで見ているので、同じ坪数にkWが小さいストーブを入れると減る。 |
| 蓄熱密度を3.28→2.46kg/坪に(150kg/61坪) | −kg/坪 | -3.0 | 軽い機種を広い部屋で使うと蓄熱の点が落ちる。 |
| 効率を86→80%に | −6pt | -0.2 | ほとんど動かない。効率1〜2%の差を気にしても仕方がない。 |
結論はひとつです。ATKは、ほとんど「何でできているか」で決まる。
出力や効率をいじっても、点はほとんど動きません。そう作ってあるからです。
カタログの数字で順位が入れ替わる物差しなら、作る意味がありませんでした。
上限を0.95にしてあるので、うちが出す坪数がメーカー公表を超えることはありません。
どれだけATKが高くても、必ず公表値より小さく出ます。
坪数を大きく見せると、その分だけ「暖まらなかった」という結果が返ってくる。
ここで盛って得することは、何ひとつありません。
ソープストーンの中古住宅係数は0.80で、鋼板の0.89より低くなっています。
石のほうが良い材料なのに、なぜ下がるのか。
石はゆっくり蓄えて、ゆっくり出す暖房です。
すきま風で熱がどんどん逃げていく家だと、出す速さが追いつきません。
逆に鋼板は表面温度が高く、速く強く出すので、
熱が逃げる家でも押し切れる。
「良い機種」と「その家に合う機種」は、別の話です。ATKはここも見ています。
ここまで書いたので、最後にこの物差しの弱いところも全部書きます。 弱点を書かない数字は、信用しないほうがいい。
| 弱いところ | どういうことか |
|---|---|
| 公式規格ではない | 業界の決まりでも国の基準でもない。うちが作った物差しです。 「ATKが高い=どこでも一番いい」ではありません。 |
| 表面係数に主観が入る | 05章のとおり、実測できないので目で見て3段階に振り分けています。 ATKの中で、ここだけは客観ではありません。 |
| 0.76 は推定値 | 最大出力から定格を推定する換算です。機種によってはずれます。 定格を公表している機種のほうが、ATKの精度は高い。 |
| 炎の姿は測れない | ガラスの大きさ、炎の見え方、扉を開けたときの気持ちよさ。 ここは点になりません。でも、それで選んでいい。 |
| 使い方は入っていない | 薪の乾き具合、焚き方、煙突の設計。 実際の暖かさは、これらのほうが大きく効くこともあります。 湿った薪を使えば、どんな高ATK機でも暖まりません。 |
| 70未満は出していない | ATKを公表しているのは70以上の機種だけ。 載っていない機種がダメ、という意味ではありません。 速暖が欲しい、炎の姿が最優先──別の良さで選ぶ機種です。 |
薪ストーブには、いろんな"子"がいます。
立ち上がりが早い子、ゆっくりだけど朝まで暖かい子。
暖かさは控えめでも、炎の姿だけは誰にも負けない子もいる。
ぜんぶ、個性です。
ATK指数は、そのなかからあなたの暮らしに合う一台を見つけるための、手がかりのひとつです。
それ以上でも、それ以下でもありません。
ここに書いたことは、全部うちが現場でやっていることです。
煙突の高さも、給気の穴も、機種の選定も、この考え方で決めています。
盛岡のショールームには、火を入れた実機があります。数字の話の続きを、炎の前でどうぞ。