D'STYLE 技術の深いところ / 03

あの係数は、
どこから来たのか。

ATK指数の中身を、物理まで戻して書きます。 蓄熱量の計算、冷める速さの時定数、輻射の4乗則。
「うちが決めました」で済ませず、なぜその数字なのかを全部出します。

  1. ATKは、何を測ろうとしているのか
  2. 蓄熱を、キロワットアワーで出す
  3. 冷める速さは、時定数で決まる
  4. 輻射は、温度の4乗で効く
  5. デコボコが効く、ほんとうの理由
  6. 4つの軸の重み(20/40/25/15)の意味
  7. 基準の数字は、どこから来たか
  8. 感度分析──何を変えると何点動くか
  9. 適正坪数の出し方
  10. この物差しの、弱いところ
01 / 何を測っているのか

カタログのkWは、
「勢い」しか表していない。

薪ストーブのカタログに書いてある 10.5 kW という数字。 これは「燃えているあいだ、1時間にどれだけ熱を出せるか」です。
大事な数字です。でも、これだけでは朝起きたときに家が暖かいかどうかは分かりません。

小学5年生バージョン

お風呂で考えてみて。
お湯を出す勢い= kW。カタログに書いてあるのはこれだけ。
でも本当に知りたいのは、湯船にどれだけお湯がたまるか(蓄熱)と、 蛇口を止めたあと、どれくらい冷めないか(持続)だよね。
ATK指数は、その「たまる量」と「冷めにくさ」を数字にしたものなんだ。

ATKが100点のうち40点を蓄熱に配っているのは、 ここに理由があります。
そして蓄熱は、計算で出せます。次の章でやります。

ATK指数の全体像と、機種ごとの数値・計算機は ATK指数のページ(本編)にあります。このページはその「裏側」です。

02 / 蓄熱

石のストーブは、
18.4kWhの電池を積んでいる。

熱をどれだけためこめるか。中学理科の式そのままで出ます。

Q = m × c × ΔT Q … ためこめる熱(J) m … 本体の重さ(kg) c … 比熱(J/kg·K)… 1kgを1℃上げるのに要る熱 ΔT … 温度の上がり幅(K)… 室温20℃ → 本体300℃ なら 280 ハースストーン ヘリテイジ(ソープストーン 242kg)なら Q = 242 × 980 × 280 = 66,400,000 J = 18.4 kWh

機種材料重量比熱 蓄熱量= 電気に直すと
ハースストーン ヘリテイジソープストーン242 kg98066,404 kJ18.4 kWh
ヨツール F 500 ECO鋳鉄200 kg46025,760 kJ7.2 kWh
HETA スクルドソープストーン243 kg98066,679 kJ18.5 kWh
薄めの鋼板ストーブ(例)鋼板120 kg49016,464 kJ4.6 kWh

石の 18.4 kWh に対して、鋳鉄は 7.2 kWh。約2.6倍の差です。
18.4kWhというのは、1000Wの電気ストーブを18時間つけっぱなしにできる熱。 火が消えたあと、その熱がゆっくり部屋に出てくる。
これが「朝までぬくい」の正体です。気分の問題ではありません。

ATKの式で「坪あたりの蓄熱密度」を使っている理由

式の中に ( 構造 × 0.7 + 蓄熱密度比 × 0.3 ) × 40 という部分があります。
蓄熱密度比とは、本体の重さ ÷ 暖房坪数を、基準(ヨツール F500 ECO の 3.28 kg/坪)で割ったもの。
構造係数(=比熱の違い)が0.7、蓄熱密度が0.3。 Q=m·c·ΔT の c と m を、坪あたりに直して重みにしています。
坪あたりにすることで、小さいストーブが不利にならない。 F500(200kg/61坪)とF105(97kg/26坪)は、kg/坪がほぼ同じなので蓄熱の点は同じになります。

03 / 冷え方

冷めるのも、式で書ける。

ためた熱が、どれくらいの速さで出ていくか。 これは指数関数(ニュートンの冷却則)になります。

T(t) = T室温 + ( T最初 − T室温 ) × e^( −t / τ ) τ(タウ)= 時定数 = m × c ÷ (hA) hA … 熱の逃げやすさ(W/K) 定格10.5kWのストーブが表面280K高いときに出す熱、として hA = 10500 ÷ 280 = 37.5 W/K

本体熱容量 m·c時定数 τ 半分に冷えるまで
ソープストーン 242kg237,160 J/K1.8 時間1.2 時間
鋳鉄 200kg92,000 J/K0.7 時間0.5 時間
鋼板 120kg58,800 J/K0.4 時間0.3 時間

石は鋳鉄の2倍以上、ゆっくり冷めます。 ATKで石の蓄熱係数が1.55、鋳鉄が1.00(基準)、鋼板が1.07なのは、この物理を写したものです。 鋳鉄を1.00として、石は1.55倍の蓄熱力。二重構造は0.68——空気層が断熱材になり、蓄えた熱が外に出にくい。

正直に言うと、実際はもっと長く暖かい

この計算は「熱の逃げやすさ(hA)が一定」という単純化をしています。
実際には、本体が冷えるほど熱の出方も弱まる(次章の4乗則のため)ので、 冷え方はもっとなだらかになります。表の時間は、短めに出ています。
それでも材料どうしの「比」は変わりません。 ATKが見ているのは順序と比なので、この単純化で足ります。
── こういうところを黙っておくと、あとで数字が信用されなくなります。だから書きます。

04 / 輻射

50℃下がると、
暖かさは半分になる。

薪ストーブの暖かさが「じんわり体の芯に来る」のは、 輻射(ふくしゃ)──赤外線として直接飛んでくる熱だからです。 エアコンの温風とはまったく別の物理現象です。

Q = ε × σ × A × ( T表面⁴ − T⁴ ) ε(イプシロン)… 放射率。鋳物や石の黒い表面で 0.9 前後 σ(シグマ)… ステファン・ボルツマン定数 5.67×10⁻⁸ A … 表面積(m²) T絶対温度(K)の 4乗 ← ここが全部を決めている

4乗です。2乗でも3乗でもなく、4乗。 温度がちょっと変わるだけで、暖かさが激変します。表面積1.5m²で計算してみます。

表面温度絶対温度T⁴ 輻射の熱150℃を1として
150℃423 K32,061,023,3821.89 kW1.00
200℃473 K50,118,189,9413.27 kW1.73
250℃523 K74,903,984,1745.17 kW2.74
300℃573 K107,912,856,0837.70 kW4.07
350℃623 K150,789,255,66710.98 kW5.81
400℃673 K205,327,632,92515.15 kW8.02

300℃で 7.70 kW、200℃で 3.27 kW100℃下がっただけで、半分以下になりました。
「火を落としたら急に寒くなった」という感覚は、正確です。物理がそうなっています。

小学5年生バージョン

4乗というのは、「2倍になったら16倍」ということ(2×2×2×2=16)。
温度がちょっと上がるだけで、暖かさはドカンと増える。逆に、ちょっと下がるとドカンと減る。
たき火の前で、一歩下がると急に寒くなるでしょ。あれと同じ理由なんだ。

05 / 表面積

デコボコは、飾りじゃない。

さっきの式をもう一度見てください。A(表面積)が、掛け算で入っています。
温度が同じでも、表面積が20%増えれば、輻射も20%増える。単純な話です。

300℃・表面積 1.5 m² … 輻射 7.70 kW 300℃・表面積 1.8 m²(+20%)… 輻射 9.23 kW 差は 1.54 kW。これは小さなストーブ1台ぶんに近い。

ATKの式に 「輻射の質〔構造 × 25 × 表面〕」という表面係数(1.0/1.1/1.2)が 入っているのは、これが理由です。
たとえば AGNI-C の強い凹凸表面は、放熱フィンとして働いています。 意匠として彫ってあるのではなく、熱を広く届けるための形です。

ここは、正直に「目で見て決めている」

表面積の実測値は、どのメーカーもカタログに書いていません。
うちは実機を見て、凹凸の深さと数から1.0/1.1/1.2の3段階に振り分けています。 ATKの中で、ここだけは主観が入る場所です。
だから幅を3段階に絞り、上限も25点で頭打ちにしてあります。 主観が効きすぎない作りにしてある、というのが正確な言い方です。

06 / 重み

なぜ 20/40/25/15 なのか。

100点を4つに配る。この配り方そのものが、うちの主張です。

配点その配点にした理由
立ち上がり20 速さは「最初の1時間」だけの話。一冬を通せば、価値は限定的だと考えている。 ただしゼロにはできない。帰宅してから焚く人には切実だから。
蓄熱・持続40 最大。火を落としたあとの時間のほうが、焚いている時間より長いから。 02章・03章のとおり、材料で2倍以上の差がつく。ここが機種選びでいちばん後悔が出る場所でもある。 2026-09-09改訂で35→40に引き上げた。
輻射の質25 2番目。「暖かさの質」そのもの。同じ室温でも体感が変わる。 04章のとおり4乗で効くので、影響が大きい。
パワー15 カタログ数値でつく点は、ここだけ。 出力が大きいだけの機種を上位に来させないため、意図的に15に抑えている。 坪あたりの出力密度で見ているので、小さいストーブも不利にならない。

100点のうち85点が「構造で決まる暖かさ」。 カタログ数値で取れるのは15点だけ。
ここが、ATK指数がふつうの比較表と違うところです。 数字の大きさではなく、熱の届き方を見ている。

07 / 基準値

基準はヨツール F500 ECO。

式の中に、割り算の相手として出てくる数字があります。 すべてヨツール F500 ECO(10.5kW・200kg・61坪)を基準にしています。 世界でいちばん売れた薪ストーブを「1.00」にして、他の機種をそこからの距離で見る。

数字どこで使うか出どころ
0.172 kW/坪出力密度比 = (定格÷坪) ÷ 0.172(上限1.0) F500の定格10.5kW ÷ 61坪 = 0.172。坪あたりの出力で見るから、小さいストーブも不利にならない。 F105は4.5kW÷26坪=0.173で、F500とほぼ同じ。
3.28 kg/坪蓄熱密度比 = (重量÷坪) ÷ 3.28(上限1.0) F500の200kg ÷ 61坪 = 3.28。こちらも坪あたり。 重い機種が有利だが、暖房面積の広さとのバランスで見ている。
85 %効率比 = 効率 ÷ 85(上限1.0) 現代のクリーンバーン機で到達している上位の値。ここを満点とする。
0.76最大出力 × 0.76 = 定格相当 最大出力しか公表しないメーカーがあるため。 両方公表している機種で比をとった実測的な換算値。ここは推定なので、幅がある。
1.30 / 1.55 / 1.48構造係数の上限(立上/蓄熱/輻射) 各係数をこの値で割って正規化する。係数が上限に達した構造は、その軸で満点になる。 ソープストーンは蓄熱1.55/1.55=1.00(満点)、鋳鉄は1.00/1.55=0.65。
80適正坪 = 公表坪 × (ATK÷80・上限95%) ATK 80 でメーカー公表坪数の満額、という設定。 それ以下は割り引く。上限を95%にしてあるので、 どんなに高ATKでも公表坪を超えない。盛る方向には決して動かない作りにしてある。

なぜ坪あたりに変えたか(2026-09-09改訂)。 旧い式は絶対値で比べていたため、出力4.5kWの小さなストーブ(ヨツール F105)が、 10.5kWの大型機(F500)より大幅に低い点になっていた。 しかし両方とも「メーカーが推奨している面積に対して」は十分な出力を持っている。 坪あたりの密度に直したことで、F105もF500も同じ77 ATKになった。 小さくてもちゃんと暖かい機種を、数字が正しく評価できるようにした。

08 / 感度

何を変えると、何点動くか。

式が公開されていても、どこが効くのか分からなければ意味がありません。 基準(鋳鉄③・10.5kW・200kg・86%・61坪=77 ATK)から、 1つずつ動かしてみます。

変えるもの変化ATKの動き意味
構造を鋳鉄③→二重構造⑤(外板鋳物)に-12.7いちばん大きく動く。空気層が熱を閉じ込め、蓄熱も輻射も大きく落ちる。
構造を鋳鉄③→ソープストーン①に+10.2蓄熱と輻射が満点になる。そのかわり立ち上がりは大きく落ちる。
表面をふつう→強い凹凸に×1.2+3.425点で頭打ちなので、輻射係数の低い機種ほどよく効く。
出力密度を0.172→0.131kW/坪に(8kW/61坪)−kW/坪-2.6坪あたりで見ているので、同じ坪数にkWが小さいストーブを入れると減る。
蓄熱密度を3.28→2.46kg/坪に(150kg/61坪)−kg/坪-3.0軽い機種を広い部屋で使うと蓄熱の点が落ちる。
効率を86→80%に−6pt-0.2ほとんど動かない。効率1〜2%の差を気にしても仕方がない。

結論はひとつです。ATKは、ほとんど「何でできているか」で決まる。
出力や効率をいじっても、点はほとんど動きません。そう作ってあるからです。
カタログの数字で順位が入れ替わる物差しなら、作る意味がありませんでした。

計算機で、自分でも動かしてみる →

09 / 坪数

坪数だけは、
絶対に盛らない。

適正坪 = メーカー公表坪数 × ( ATK ÷ 80 ・上限0.95 ) × 住宅係数 住宅係数(構造タイプごと) ①ソープストーン    … 一般 ×0.88 / 中古 ×0.80 ②蓄熱石クラッド    … 一般 ×0.90 / 中古 ×0.84 ③鋳鉄         … 一般 ×0.91 / 中古 ×0.86 ④厚板鋼板       … 一般 ×0.93 / 中古 ×0.89 ⑤二重構造・外板鋳物  … 一般 ×0.72 / 中古 ×0.60 ⑥二重構造・外板鉄板  … 一般 ×0.72 / 中古 ×0.60

上限を0.95にしてあるので、うちが出す坪数がメーカー公表を超えることはありません。 どれだけATKが高くても、必ず公表値より小さく出ます。
坪数を大きく見せると、その分だけ「暖まらなかった」という結果が返ってくる。 ここで盛って得することは、何ひとつありません。

石のほうが、中古住宅で大きく下がる理由

ソープストーンの中古住宅係数は0.80で、鋼板の0.89より低くなっています。 石のほうが良い材料なのに、なぜ下がるのか。
石はゆっくり蓄えて、ゆっくり出す暖房です。 すきま風で熱がどんどん逃げていく家だと、出す速さが追いつきません。
逆に鋼板は表面温度が高く、速く強く出すので、 熱が逃げる家でも押し切れる。
「良い機種」と「その家に合う機種」は、別の話です。ATKはここも見ています。

10 / 弱点の開示

この数字が、できないこと。

ここまで書いたので、最後にこの物差しの弱いところも全部書きます。 弱点を書かない数字は、信用しないほうがいい。

弱いところどういうことか
公式規格ではない 業界の決まりでも国の基準でもない。うちが作った物差しです。 「ATKが高い=どこでも一番いい」ではありません。
表面係数に主観が入る 05章のとおり、実測できないので目で見て3段階に振り分けています。 ATKの中で、ここだけは客観ではありません。
0.76 は推定値 最大出力から定格を推定する換算です。機種によってはずれます。 定格を公表している機種のほうが、ATKの精度は高い。
炎の姿は測れない ガラスの大きさ、炎の見え方、扉を開けたときの気持ちよさ。 ここは点になりません。でも、それで選んでいい。
使い方は入っていない 薪の乾き具合、焚き方、煙突の設計。 実際の暖かさは、これらのほうが大きく効くこともあります。 湿った薪を使えば、どんな高ATK機でも暖まりません。
70未満は出していない ATKを公表しているのは70以上の機種だけ。 載っていない機種がダメ、という意味ではありません。 速暖が欲しい、炎の姿が最優先──別の良さで選ぶ機種です。

薪ストーブには、いろんな"子"がいます。
立ち上がりが早い子、ゆっくりだけど朝まで暖かい子。 暖かさは控えめでも、炎の姿だけは誰にも負けない子もいる。
ぜんぶ、個性です。
ATK指数は、そのなかからあなたの暮らしに合う一台を見つけるための、手がかりのひとつです。 それ以上でも、それ以下でもありません。

GO DEEPER / まだ、続きがある

この先も、同じ深さで書いてある。

ここまで読んだあなたと、話したい。

ここに書いたことは、全部うちが現場でやっていることです。 煙突の高さも、給気の穴も、機種の選定も、この考え方で決めています。
盛岡のショールームには、火を入れた実機があります。数字の話の続きを、炎の前でどうぞ。

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