燃やすとは何が起きていることなのか。空気はどれだけ要るのか。
足りないと家はどうなるのか。一酸化炭素は、なぜ気づけないのか。
化学式から負圧の計算まで、全部そのまま書きます。
薪ストーブは、燃えているあいだずっと部屋の空気を吸って、煙突から外へ捨てています。 吸った分だけ、どこかから入ってこないといけない。ここを知らずに入れると、 煙が部屋に戻ってきます。
小学5年生バージョン
パックのジュースを、ストローで思いきり吸ってみて。パックがベコッとへこむよね。
空気が入ってこないのに、中身だけ出ていくからだ。
家とストーブも、まったく同じ。ストロー=煙突。パック=家。
へこむこと=負圧(ふあつ)。パックに穴をあけるのが、給気口だ。
昔の家はすきまだらけだったので、勝手に空気が入ってきました。 今の家は、そのすきまを一生けんめい塞いであります。 暖かくて良い家です。そのぶんストーブが息をできなくなる。 薪ストーブと高気密住宅は、ほうっておくと相性が悪い。だから設計するのです。
木の主成分はセルロース。化学式で C₆H₁₀O₅ と書きます。 これが酸素と結びつくと、こうなります。
燃やしても、木が消えてなくなるわけではありません。
炭素は二酸化炭素になって空へ、水素は水(水蒸気)になって煙突から出ていく。
残った灰は、木が土から吸い上げたミネラルです。
そしてこの式の左側には、必ず酸素(O₂)が要る。ここが今日の話の入口です。
空気は、窒素78%・酸素21%・その他1%。
燃えるのに使えるのは酸素だけで、残りの8割の窒素は、ただ温められて煙突から出ていく。
だから必要な「空気」の量は、必要な「酸素」の量の約4.8倍になります。
薪ストーブが大量に空気を吸うのは、これが理由の一つです。
酸素が足りないまま燃えると、炭素は二酸化炭素(CO₂)まで行けず、
一酸化炭素(CO)で止まります。
C + ½O₂ → CO
これが不完全燃焼です。空気が足りない=毒が出る、と覚えてください。
10章でくわしく書きます。
よそのサイトでは結論だけ書いてあります。うちは出どころを出します。 使うのは、燃料工学の標準的な式です。
これが「4.6」の正体です。 そして「O/8」を引いているのは、木がもともと自分の中に酸素を持っているから。 その分は外から入れなくていい。木がよく燃えるのは、燃料の中に酸素が43%も入っているからです。 ここが石炭や石油と決定的に違うところです。
よく乾いた薪でも含水率20%あります。1kgのうち200gは水。
A₀ = 4.61 × 0.80 = 3.69 Nm³/kg
さらに、その水を蒸発させるのに熱を使うので、発熱量も落ちます。
乾いた木 約4.7 kWh/kg → 含水率20%で 約3.8 kWh/kg、
生木(含水率50%)だと 2.0台まで落ちる。
湿った薪は、燃えないのではなく「損」なのです。
同じ熱を出すのに、倍近い薪を燃やすことになる。
理論空気量は「完璧に混ざったら」の話です。 現実の炉の中では、木のガスと空気は完璧には混ざりません。 だから多めに入れる。この「何倍入れたか」を空気比(λ・ラムダ)といいます。
| 空気比 λ | 排ガスO₂ | 10kW時の空気 | どういう状態か |
|---|---|---|---|
| 1.0 | 0.0 % | 12.1 m³/h | 理論どおり。実際にはこれでは燃えきらない。 |
| 1.5 | 7.0 % | 18.2 m³/h | 不足ぎみ。煙が出る。 |
| 2.0 | 10.5 % | 24.3 m³/h | 新しいクリーンバーン機の狙い。 |
| 2.5 | 12.6 % | 30.3 m³/h | ふつうに焚いているとき。 |
| 3.0 | 14.0 % | 36.4 m³/h | 古い機種・焚きはじめ。 |
| 4.0 | 15.8 % | 48.5 m³/h | 引きすぎ。熱が煙突から逃げる。 |
ここが面白いところです。
空気は多いほうが完全に燃えますが、入れすぎると熱まで一緒に捨てることになる。
温めた窒素を煙突から放り出しているだけになるからです。
燃焼の設計とは、この「少なすぎず、多すぎず」を探す仕事です。
最近のクリーンバーン機が二次燃焼・三次燃焼と空気を分けて入れているのは、
λを下げながら完全に燃やすためです。
※ 排ガス分析計でO₂を測れば、その場のλが分かります。 うちが現場に持っていくのは、これを見るためです。
効率80%・発熱量3.8 kWh/kg・空気比2.5で計算しました。
| 定格出力 | 薪の量 | 理論空気 | 実際に吸う空気 | 要る穴 | 直径 |
|---|---|---|---|---|---|
| 5 kW | 1.64 kg/h | 6.1 m³/h | 15.2 m³/h | 25 cm² | φ60 |
| 7 kW | 2.30 kg/h | 8.5 m³/h | 21.2 m³/h | 35 cm² | φ70 |
| 8 kW | 2.63 kg/h | 9.7 m³/h | 24.3 m³/h | 40 cm² | φ80 |
| 10 kW | 3.29 kg/h | 12.1 m³/h | 30.3 m³/h | 50 cm² | φ80 |
| 12 kW | 3.95 kg/h | 14.6 m³/h | 36.4 m³/h | 60 cm² | φ90 |
| 14 kW | 4.61 kg/h | 17.0 m³/h | 42.5 m³/h | 70 cm² | φ100 |
| 17 kW | 5.59 kg/h | 20.6 m³/h | 51.6 m³/h | 85 cm² | φ110 |
10kWの機種で 30.3 m³/h。
200リットルのドラム缶で150本ぶんを、1時間で吸っています。
薪の量 3.29 kg/h という数字にも見覚えがあるはずです。
「一晩で薪をどれくらい使うか」の答えがこれです。8時間焚けば約26kg。
空気は、圧の差があるところを流れます。 どれだけの圧の差で、どれだけ通したいかで穴の大きさが決まります。
だからφ100mmが定番なのです。
φ100の面積は78.5cm²。計算で出た50cm²に対して約1.6倍の余裕。
この余裕は、配管の曲がり・長さ・防虫網・フードの抵抗で食われます。
余裕ではなく、必要経費です。
ヨーロッパで、燃焼機器と機械換気を同じ家に入れるときの安全側の目安として
使われている数字です。室内の負圧が4Paを超えると、
煙突の引きに影響が出はじめる、という経験則から来ています。
うちもこの4Paを設計の線として使っています。
日本には薪ストーブについての明確な数値基準が無いため、
基準がある側に合わせるのがいちばん安全だと考えています。
薪ストーブが吸うのは 30 m³/h。 台所のレンジフードは「強」で 300〜500 m³/h。10倍から15倍です。 勝負になりません。
目安の4Paに対して、25倍以上。
こうなると何が起きるか。煙突が、空気の入り口に変わります。
煙は上がっていかない。逆に、煙突から部屋に向かって空気が入ってくる。
そのとき煙も一緒に入ってきます。
前のページで、煙突のドラフトは20Pa前後だと書きました。 101Paの負圧は、それを軽く上回ります。 煙突の性能ではどうにもならない。これは家の側の問題です。
延床132m²(40坪)・レンジフード400m³/hで、C値ごとに計算しました。 「給気口を開けたとき」と「閉めたとき」を並べています。
| C値 | どんな家か | すきま合計 | 給気口を開けて | 給気口を閉めて |
|---|---|---|---|---|
| 0.5 | 超高気密(性能を売りにした家) | 66 cm² | 129.8 Pa | 402.5 Pa |
| 1.0 | 高気密(いまの高性能住宅) | 132 cm² | 52.8 Pa | 100.6 Pa |
| 2.0 | そこそこ気密(最近の一般的な家) | 264 cm² | 17.8 Pa | 25.2 Pa |
| 5.0 | ふつうの在来住宅 | 660 cm² | 3.5 Pa | 4.0 Pa |
| 10.0 | 古い家 | 1320 cm² | 0.9 Pa | 1.0 Pa |
| 15.0 | 昔ながらの家 | 1980 cm² | 0.4 Pa | 0.4 Pa |
この表がいちばん言いたいことです。
昔の家(C値10〜15)は、すきまが多いので負圧になりません。だから問題も起きなかった。
C値1.0の高性能な家ほど、危険側に振れる。
断熱と気密を頑張った家に薪ストーブを入れるときこそ、換気を設計しなければならない。
「良い家だから大丈夫」は、逆です。
※ C値=相当すきま面積(cm²/m²)。数字が小さいほど気密が高い。 この計算はすきまを1か所にまとめた単純化なので、実際は位置や高さで変わります。 当たりをつけるための計算です。最後は差圧計で測ります。
2003年から、住宅には24時間換気(0.5回/h以上)が義務づけられています。 シックハウス対策です。ここでも空気が動いています。
第3種換気(排気だけファンで、給気は穴から自然に入る方式)の家だと、
この158m³/hも家から空気を捨てる側です。
薪ストーブは、その取り合いに後から参加することになる。
給気口の設計は、24時間換気のぶんとは別に、ストーブのぶんを足して考えます。
第1種(給気も排気も機械)… 給排気のバランスが取れているので相性が良い。
ただし熱交換型は、給排気の風量差が出る機種があるので確認します。
第3種(排気だけ機械)… 構造上どうしても家が負圧になります。
薪ストーブとは相性が悪い。外気導入は必須と考えてください。
いずれにしても、設計の段階で相談してもらえれば、いちばん安く確実に片付きます。
煙は見えます。においもする。だから気づけます。
こわいのは一酸化炭素(CO)のほうです。
色がない。においがない。味もない。気づく手立てが、人間の側にありません。
血の中のヘモグロビンは、酸素を運ぶ乗り物です。
ところがヘモグロビンは、酸素よりも一酸化炭素のほうが200倍以上好きなのです。
COが来ると、そちらとくっついて離れなくなる。
酸素を運ぶ席が、COに占領される。肺は動いているのに、体は酸欠になる。
これが一酸化炭素中毒です。
しかも症状が頭痛・だるさ・吐き気から始まるので、
「風邪かな」「暖房で暖まりすぎたかな」と思ってしまう。逃げる判断が遅れる。
| 空気中の濃度 | 体に起きること |
|---|---|
| 200 ppm | 2〜3時間で、軽い頭痛。この段階では、まず気づけない。 |
| 400 ppm | 1〜2時間で頭痛・吐き気。3時間で命に関わる。 |
| 800 ppm | 45分で頭痛・めまい・吐き気。2時間で意識を失う。 |
| 1,600 ppm | 20分で頭痛。1時間で死に至る。 |
| 6,400 ppm | 1〜2分で頭痛・めまい。10〜15分で死に至る。 |
ここまで書いてきた負圧の話は、最後はここにつながります。
煙が逆流するということは、一酸化炭素も一緒に部屋に入ってくるということです。
だから、うちは負圧の計算をします。脅かすためではありません。
設計の段階でやっておけば、ぜんぶ避けられることだからです。
※ 濃度と症状は一般に知られている目安です。体格・体調・年齢で変わります。 薪ストーブは煙突で屋外へ排気する設備なので、正しく設計・施工され、 正しく使われていれば、室内が高濃度になることはありません。 問題が起きるのは、ほぼ例外なく給気・負圧・施工・メンテナンスのどこかに原因があるときです。
| やること | なぜ |
|---|---|
| ① 外気導入を入れる | 燃やす空気を、部屋からではなく外から直接取る。 部屋の空気を奪わないので、負圧の綱引きに巻き込まれにくい。 高気密の家では原則こちらです。 |
| ② 給気口を計算して付ける | 06章の式で必要な面積を出し、抵抗を見込んで余裕をみた太さにする。 「なんとなくφ100」ではなく、計算してから決めます。 |
| ③ 同時使用を設計で潰す | レンジフードを同時給排型にする、連動給気を入れる、など。 「気をつけて使ってください」で終わらせない。 人の注意力に頼る設計は、いつか破れます。 |
| ④ 一酸化炭素警報器を置く | 人間には気づけないのだから、機械に気づかせる。 ストーブのある部屋と、寝室に。数千円です。 気づけないものは、直せない。 |
| ⑤ 最後は現地で測る | 計算は当たりをつけるためのもの。差圧計で実際に測ります。 レンジフードON/OFFで何Pa動くか。計算と現物が合って、はじめて終わりです。 |
ここに書いたことは、うちが毎回やっていることです。 特別なことは何一つありません。ただ、やっているかどうかで結果は変わります。
| やり方 | 何が分かるか |
|---|---|
| ドアの重さを見る | レンジフードを「強」にして、外へ開くドアを開けてみる。 やけに重い・すきまから風がヒューッと鳴るなら、負圧が出ています。 |
| 線香の煙を見る | 火をつける前のストーブの扉を少し開け、口元で線香をたく。 煙が煙突へ吸われず、部屋側へ流れるなら、引きが負けています。 |
| 焚きつけの煙を見る | 焚きはじめに煙が室内へ出るなら、煙突が冷えているか、給気が足りない。 「いつものこと」で済ませないでください。 |
| 窓を1か所開けてみる | それで直るなら、原因は給気不足で確定です。 窓を開け続けるのは解決ではないので、そこからご相談ください。 |
当てはまるものがあったら、電話をください。
直す方法は、必ずあります。入れる前ならもっと簡単です。
他社で入れた一台のご相談も歓迎します。うちはそれで断ったことがありません。
ここに書いたことは、全部うちが現場でやっていることです。
煙突の高さも、給気の穴も、機種の選定も、この考え方で決めています。
盛岡のショールームには、火を入れた実機があります。数字の話の続きを、炎の前でどうぞ。