D'STYLE 技術の深いところ / 02

薪ストーブは、
1時間に30m³の空気を吸う。

燃やすとは何が起きていることなのか。空気はどれだけ要るのか。 足りないと家はどうなるのか。一酸化炭素は、なぜ気づけないのか。
化学式から負圧の計算まで、全部そのまま書きます。

  1. ストーブは、息をしている
  2. 「燃える」とは、何が起きているのか
  3. 理論空気量を、自分で出してみる
  4. 空気比──なぜ2倍以上も吸うのか
  5. 出力別・必要な空気の早見表
  6. 給気口の大きさは、式で決まる
  7. 家が「へこむ」──負圧の話
  8. C値と負圧の早見表
  9. 24時間換気と、取り合いになる
  10. 一酸化炭素──見えない、におわない
  11. うちが必ずやっている5つ
  12. 自分の家で、今すぐ確かめる方法
01 / まず、たとえ話

ジュースを思いきり吸うと、
パックがへこむ。

薪ストーブは、燃えているあいだずっと部屋の空気を吸って、煙突から外へ捨てています。 吸った分だけ、どこかから入ってこないといけない。ここを知らずに入れると、 煙が部屋に戻ってきます。

小学5年生バージョン

パックのジュースを、ストローで思いきり吸ってみて。パックがベコッとへこむよね。 空気が入ってこないのに、中身だけ出ていくからだ。
家とストーブも、まったく同じ。ストロー=煙突。パック=家。 へこむこと=負圧(ふあつ)。パックに穴をあけるのが、給気口だ。

昔の家はすきまだらけだったので、勝手に空気が入ってきました。 今の家は、そのすきまを一生けんめい塞いであります。 暖かくて良い家です。そのぶんストーブが息をできなくなる。 薪ストーブと高気密住宅は、ほうっておくと相性が悪い。だから設計するのです。

02 / 燃焼の正体

燃えるとは、
木と酸素がくっつくこと。

木の主成分はセルロース。化学式で C₆H₁₀O₅ と書きます。 これが酸素と結びつくと、こうなります。

C₆H₁₀O₅ + 6 O₂ → 6 CO₂ + 5 H₂O + 酸素二酸化炭素

燃やしても、木が消えてなくなるわけではありません。 炭素は二酸化炭素になって空へ、水素は水(水蒸気)になって煙突から出ていく。 残った灰は、木が土から吸い上げたミネラルです。
そしてこの式の左側には、必ず酸素(O₂)が要る。ここが今日の話の入口です。

大事なのは「空気の21%しか使えない」ということ

空気は、窒素78%・酸素21%・その他1%
燃えるのに使えるのは酸素だけで、残りの8割の窒素は、ただ温められて煙突から出ていく。
だから必要な「空気」の量は、必要な「酸素」の量の約4.8倍になります。 薪ストーブが大量に空気を吸うのは、これが理由の一つです。

酸素が足りないと、CO₂ではなくCOになる

酸素が足りないまま燃えると、炭素は二酸化炭素(CO₂)まで行けず、 一酸化炭素(CO)で止まります。
C + ½O₂ → CO
これが不完全燃焼です。空気が足りない=毒が出る、と覚えてください。 10章でくわしく書きます。

03 / 導出

「薪1kgに空気4.6m³」は、
どこから来た数字か。

よそのサイトでは結論だけ書いてあります。うちは出どころを出します。 使うのは、燃料工学の標準的な式です。

A₀ = 8.89×C + 26.7×( H − O/8 ) + 3.33×S [Nm³/kg] C, H, O, S … 燃料に含まれる 炭素・水素・酸素・硫黄 の質量の割合 木材(乾物)の組成は、およそ C = 50% H = 6% O = 43% 灰 = 1% S = ほぼ 0 代入すると 8.89 × 0.50 = 4.445 26.7 × ( 0.060 − 0.430÷8 ) = 0.167 3.33 × 0 = 0.000 ───────── A₀ = 4.61 Nm³/kg(乾いた木 1kg あたり)

これが「4.6」の正体です。 そして「O/8」を引いているのは、木がもともと自分の中に酸素を持っているから。 その分は外から入れなくていい。木がよく燃えるのは、燃料の中に酸素が43%も入っているからです。 ここが石炭や石油と決定的に違うところです。

実際の薪は、水を含んでいる

よく乾いた薪でも含水率20%あります。1kgのうち200gは水。
A₀ = 4.61 × 0.80 = 3.69 Nm³/kg
さらに、その水を蒸発させるのに熱を使うので、発熱量も落ちます。 乾いた木 約4.7 kWh/kg → 含水率20%で 約3.8 kWh/kg、 生木(含水率50%)だと 2.0台まで落ちる。
湿った薪は、燃えないのではなく「損」なのです。 同じ熱を出すのに、倍近い薪を燃やすことになる。

04 / 空気比

ちょうどの量では、
燃えきらない。

理論空気量は「完璧に混ざったら」の話です。 現実の炉の中では、木のガスと空気は完璧には混ざりません。 だから多めに入れる。この「何倍入れたか」を空気比(λ・ラムダ)といいます。

λ = 実際に入れた空気 ÷ 理論空気量 排ガス中の酸素からも逆算できる: λ = 21 ÷ ( 21 − O₂% ) 排ガスの酸素が 12.6% だったら … 21 ÷ ( 21 − 12.6 ) = 2.5

空気比 λ排ガスO₂10kW時の空気どういう状態か
1.00.0 %12.1 m³/h理論どおり。実際にはこれでは燃えきらない。
1.57.0 %18.2 m³/h不足ぎみ。煙が出る。
2.010.5 %24.3 m³/h新しいクリーンバーン機の狙い。
2.512.6 %30.3 m³/hふつうに焚いているとき。
3.014.0 %36.4 m³/h古い機種・焚きはじめ。
4.015.8 %48.5 m³/h引きすぎ。熱が煙突から逃げる。

ここが面白いところです。 空気は多いほうが完全に燃えますが、入れすぎると熱まで一緒に捨てることになる。 温めた窒素を煙突から放り出しているだけになるからです。
燃焼の設計とは、この「少なすぎず、多すぎず」を探す仕事です。 最近のクリーンバーン機が二次燃焼・三次燃焼と空気を分けて入れているのは、 λを下げながら完全に燃やすためです。

※ 排ガス分析計でO₂を測れば、その場のλが分かります。 うちが現場に持っていくのは、これを見るためです。

05 / 早見表

機種の出力から、
吸う空気を出す。

効率80%・発熱量3.8 kWh/kg・空気比2.5で計算しました。

定格出力薪の量理論空気 実際に吸う空気要る穴直径
5 kW1.64 kg/h6.1 m³/h15.2 m³/h25 cm²φ60
7 kW2.30 kg/h8.5 m³/h21.2 m³/h35 cm²φ70
8 kW2.63 kg/h9.7 m³/h24.3 m³/h40 cm²φ80
10 kW3.29 kg/h12.1 m³/h30.3 m³/h50 cm²φ80
12 kW3.95 kg/h14.6 m³/h36.4 m³/h60 cm²φ90
14 kW4.61 kg/h17.0 m³/h42.5 m³/h70 cm²φ100
17 kW5.59 kg/h20.6 m³/h51.6 m³/h85 cm²φ110

10kWの機種で 30.3 m³/h。 200リットルのドラム缶で150本ぶんを、1時間で吸っています。
薪の量 3.29 kg/h という数字にも見覚えがあるはずです。 「一晩で薪をどれくらい使うか」の答えがこれです。8時間焚けば約26kg。

06 / 穴の大きさ

なぜ、外気導入はφ100なのか。

空気は、圧の差があるところを流れます。 どれだけの圧の差で、どれだけ通したいかで穴の大きさが決まります。

Q = 3600 × α × A × √( 2ΔP ÷ ρ ) Q … 通したい空気(m³/h) α … 流量係数 0.65(穴のふちで流れがちぢむぶんの割引) A … 穴の面積(m²) ΔP … 内と外の圧の差(Pa)… 4 Pa を設計の目安にする ρ … 空気の密度 1.2 kg/m³(20℃) 10kW機(30.3 m³/h)で計算すると 空気の速さ = √( 2×4 ÷ 1.2 ) = 2.58 m/s 必要な面積 = 30.3 ÷ ( 3600 × 0.65 × 2.58 ) = 0.00502 m² = 50.2 cm² = 直径 約80 mm

だからφ100mmが定番なのです。 φ100の面積は78.5cm²。計算で出た50cm²に対して約1.6倍の余裕
この余裕は、配管の曲がり・長さ・防虫網・フードの抵抗で食われます。 余裕ではなく、必要経費です。

4 Pa という基準は、どこから来たか

ヨーロッパで、燃焼機器と機械換気を同じ家に入れるときの安全側の目安として 使われている数字です。室内の負圧が4Paを超えると、 煙突の引きに影響が出はじめる、という経験則から来ています。
うちもこの4Paを設計の線として使っています。 日本には薪ストーブについての明確な数値基準が無いため、 基準がある側に合わせるのがいちばん安全だと考えています。

07 / 負圧

レンジフードは、
薪ストーブの15倍吸う。

薪ストーブが吸うのは 30 m³/h。 台所のレンジフードは「強」で 300〜500 m³/h10倍から15倍です。 勝負になりません。

Δp = ½ × ρ × v² v = Q ÷ ( α × A ) 延床132m²(40坪)・C値1.0 → すきまの合計 132 cm² = 0.0132 m² レンジフード 400 m³/h = 0.111 m³/s v = 0.111 ÷ ( 0.65 × 0.0132 ) = 12.9 m/s Δp = 0.5 × 1.2 × 12.9² = 約 101 Pa

目安の4Paに対して、25倍以上。 こうなると何が起きるか。煙突が、空気の入り口に変わります。
煙は上がっていかない。逆に、煙突から部屋に向かって空気が入ってくる。 そのとき煙も一緒に入ってきます。

前のページで、煙突のドラフトは20Pa前後だと書きました。 101Paの負圧は、それを軽く上回ります。 煙突の性能ではどうにもならない。これは家の側の問題です。

煙突のドラフトの話を読む →

08 / 気密と負圧

良い家ほど、あぶない。

延床132m²(40坪)・レンジフード400m³/hで、C値ごとに計算しました。 「給気口を開けたとき」と「閉めたとき」を並べています。

C値どんな家かすきま合計 給気口を開けて給気口を閉めて
0.5超高気密(性能を売りにした家)66 cm²129.8 Pa402.5 Pa
1.0高気密(いまの高性能住宅)132 cm²52.8 Pa100.6 Pa
2.0そこそこ気密(最近の一般的な家)264 cm²17.8 Pa25.2 Pa
5.0ふつうの在来住宅660 cm²3.5 Pa4.0 Pa
10.0古い家1320 cm²0.9 Pa1.0 Pa
15.0昔ながらの家1980 cm²0.4 Pa0.4 Pa

この表がいちばん言いたいことです。
昔の家(C値10〜15)は、すきまが多いので負圧になりません。だから問題も起きなかった。
C値1.0の高性能な家ほど、危険側に振れる。 断熱と気密を頑張った家に薪ストーブを入れるときこそ、換気を設計しなければならない。
「良い家だから大丈夫」は、逆です。

※ C値=相当すきま面積(cm²/m²)。数字が小さいほど気密が高い。 この計算はすきまを1か所にまとめた単純化なので、実際は位置や高さで変わります。 当たりをつけるための計算です。最後は差圧計で測ります。

09 / 24時間換気

法律で決まっている換気とも、
取り合いになる。

2003年から、住宅には24時間換気(0.5回/h以上)が義務づけられています。 シックハウス対策です。ここでも空気が動いています。

必要換気量 = 部屋の体積 × 0.5 延床132m² × 天井2.4m = 316.8 m³ 316.8 × 0.5 = 158 m³/h 薪ストーブ 30 m³/h + 24時間換気 158 m³/h = 189 m³/h

第3種換気(排気だけファンで、給気は穴から自然に入る方式)の家だと、 この158m³/hも家から空気を捨てる側です。
薪ストーブは、その取り合いに後から参加することになる。 給気口の設計は、24時間換気のぶんとは別に、ストーブのぶんを足して考えます。

第1種・第3種、どちらが相性がいいか

第1種(給気も排気も機械)… 給排気のバランスが取れているので相性が良い。 ただし熱交換型は、給排気の風量差が出る機種があるので確認します。
第3種(排気だけ機械)… 構造上どうしても家が負圧になります。 薪ストーブとは相性が悪い。外気導入は必須と考えてください。
いずれにしても、設計の段階で相談してもらえれば、いちばん安く確実に片付きます。

10 / 一酸化炭素

こわいのは、
見えないほうだ。

煙は見えます。においもする。だから気づけます。
こわいのは一酸化炭素(CO)のほうです。 色がない。においがない。味もない。気づく手立てが、人間の側にありません。

なぜ、そんなに毒なのか

血の中のヘモグロビンは、酸素を運ぶ乗り物です。
ところがヘモグロビンは、酸素よりも一酸化炭素のほうが200倍以上好きなのです。 COが来ると、そちらとくっついて離れなくなる。
酸素を運ぶ席が、COに占領される。肺は動いているのに、体は酸欠になる。 これが一酸化炭素中毒です。
しかも症状が頭痛・だるさ・吐き気から始まるので、 「風邪かな」「暖房で暖まりすぎたかな」と思ってしまう。逃げる判断が遅れる。

空気中の濃度体に起きること
200 ppm2〜3時間で、軽い頭痛。この段階では、まず気づけない。
400 ppm1〜2時間で頭痛・吐き気。3時間で命に関わる。
800 ppm45分で頭痛・めまい・吐き気。2時間で意識を失う。
1,600 ppm20分で頭痛。1時間で死に至る。
6,400 ppm1〜2分で頭痛・めまい。10〜15分で死に至る。

眠っているあいだに起きたら、気づけない

ここまで書いてきた負圧の話は、最後はここにつながります。
煙が逆流するということは、一酸化炭素も一緒に部屋に入ってくるということです。
だから、うちは負圧の計算をします。脅かすためではありません。 設計の段階でやっておけば、ぜんぶ避けられることだからです。

※ 濃度と症状は一般に知られている目安です。体格・体調・年齢で変わります。 薪ストーブは煙突で屋外へ排気する設備なので、正しく設計・施工され、 正しく使われていれば、室内が高濃度になることはありません。 問題が起きるのは、ほぼ例外なく給気・負圧・施工・メンテナンスのどこかに原因があるときです。

11 / 対策

うちが必ずやっている、5つ。

やることなぜ
① 外気導入を入れる 燃やす空気を、部屋からではなく外から直接取る。 部屋の空気を奪わないので、負圧の綱引きに巻き込まれにくい。 高気密の家では原則こちらです。
② 給気口を計算して付ける 06章の式で必要な面積を出し、抵抗を見込んで余裕をみた太さにする。 「なんとなくφ100」ではなく、計算してから決めます。
③ 同時使用を設計で潰す レンジフードを同時給排型にする、連動給気を入れる、など。 「気をつけて使ってください」で終わらせない。 人の注意力に頼る設計は、いつか破れます。
④ 一酸化炭素警報器を置く 人間には気づけないのだから、機械に気づかせる。 ストーブのある部屋と、寝室に。数千円です。 気づけないものは、直せない。
⑤ 最後は現地で測る 計算は当たりをつけるためのもの。差圧計で実際に測ります。 レンジフードON/OFFで何Pa動くか。計算と現物が合って、はじめて終わりです。

ここに書いたことは、うちが毎回やっていることです。 特別なことは何一つありません。ただ、やっているかどうかで結果は変わります。

12 / 自分で確かめる

道具がなくても、今日できる。

やり方何が分かるか
ドアの重さを見る レンジフードを「強」にして、外へ開くドアを開けてみる。 やけに重い・すきまから風がヒューッと鳴るなら、負圧が出ています。
線香の煙を見る 火をつける前のストーブの扉を少し開け、口元で線香をたく。 煙が煙突へ吸われず、部屋側へ流れるなら、引きが負けています。
焚きつけの煙を見る 焚きはじめに煙が室内へ出るなら、煙突が冷えているか、給気が足りない。 「いつものこと」で済ませないでください。
窓を1か所開けてみる それで直るなら、原因は給気不足で確定です。 窓を開け続けるのは解決ではないので、そこからご相談ください。

当てはまるものがあったら、電話をください。 直す方法は、必ずあります。入れる前ならもっと簡単です。
他社で入れた一台のご相談も歓迎します。うちはそれで断ったことがありません。

GO DEEPER / まだ、続きがある

この先も、同じ深さで書いてある。

ここまで読んだあなたと、話したい。

ここに書いたことは、全部うちが現場でやっていることです。 煙突の高さも、給気の穴も、機種の選定も、この考え方で決めています。
盛岡のショールームには、火を入れた実機があります。数字の話の続きを、炎の前でどうぞ。

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