フィンランドの人に「夏の楽しみは」と尋ねると、多くが「モッキ」と答えます。モッキとは、湖のほとりに建つ素朴な別荘のこと。夏になると人々は都会を離れ、この小屋で数週間を過ごします。今日はフィンランド編、湖畔の小屋と、そこに欠かせないサウナの話をします。
千の湖の国の、小さな小屋
フィンランドは「千の湖の国」と呼ばれますが、実際の湖の数はおよそ十八万を超えます。国土のいたるところに湖があり、その岸辺に、無数のモッキが点在しています。国全体で五十万棟を超えるとも言われ、家族で代々受け継がれるものも多い。豪華な建物ではなく、木造の小さな小屋がほとんどです。フィンランドの人にとってモッキは、自然にいちばん近づける、心のよりどころです。
モッキには、必ずサウナ
モッキに欠かせないものが、サウナです。母屋よりも先にサウナ小屋を建てた、という話も珍しくありません。湖のほとりの薪サウナで体を熱し、そのまま湖へ飛びこむ。上がって、また温まる。この、サウナと湖を行き来する時間こそ、フィンランドの夏の中心にあります。夕暮れの湖畔で、サウナの煙が静かに立ちのぼる光景は、この国の夏を象徴する眺めです。火と水と湖が、ひとつながりになっています。
電気も水道も、なくていい
昔ながらのモッキには、電気も水道もないものが少なくありません。灯りはろうそくやランタン、水は湖からくむ。あえて不便な暮らしに身を置くことで、都会でにぶった感覚が、少しずつ取り戻されていきます。携帯電話の電波も届かない湖畔で、薪を割り、火を焚き、湖の水で顔を洗う。何もしない時間を、ただ味わう。この素朴さの中にこそ、モッキの豊かさがあります。便利さを手放すぜいたくです。
泳いで、摘んで、整う
モッキでの夏の過ごし方は、いたって単純です。湖で泳ぎ、森でベリーやきのこを摘み、釣りをし、サウナで整う。白夜に近い夏の夜は明るく、夜おそくまで湖畔で過ごせます。することは少ないのに、心はゆたかに満たされる。自然のリズムに身をあずけ、火と水と森に囲まれて過ごす数週間が、長い冬を越えるための、心の栄養になります。フィンランドの幸福感の源のひとつは、このモッキにあると言われます。
夏至の夜に、湖畔で火を焚く
フィンランドの夏で、モッキがもっとも輝くのが、夏至祭の夜です。ユハンヌスと呼ばれるこの祝祭は、一年でいちばん陽の長い六月下旬にめぐってきます。人々は湖畔のモッキに集い、コッコと呼ばれる大きなかがり火を岸辺に高く積み上げて焚きます。暮れきらない白夜の空の下、水面に炎が映り、赤々と燃え上がるさまは、まさにこの国の夏の頂点です。火を焚く前には、家族そろって薪サウナで体を清め、汗を流して湖へ飛びこむ。古くから夏至の火には、その年の実りや家族の幸せを願う気持ちがこめられてきました。長い冬に耐えてきた北の人々にとって、光と火に満ちたこの一夜は、心をひらいて夏を祝う、かけがえのない時間です。湖と、サウナの蒸気と、岸辺のかがり火。フィンランドの夏の幸福は、水と火と光が一つに溶け合うところに宿っています。その夏至の火の記憶は、モッキとともに、親から子へと大切に受け継がれていくのです。
湖畔の心地よさを、盛岡から
火と水と自然を行き来する心地よさは、湖のない土地でも味わえます。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターで、家にいながら森や湖のほとりのような時間を作るお手伝いをしています。フィンランドのモッキの暮らしに憧れる方、サウナのある暮らしの話を、店でどうぞ。
写真: Trogain (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



