フィンランドには、サウナ文化そのものを守り育てるための団体があります。スオメン・サウナセウラ、日本語でいうフィンランド・サウナ協会です。1937年、首都ヘルシンキで設立されたこの協会は、本場のサウナの入り方と精神を、今日まで受け継いできました。今回は、サウナを「文化」として支える、その静かな仕組みの話です。
発足は1937年、湖畔の島から
サウナ協会が生まれたのは1937年。設立の舞台となったのは、ヘルシンキ沖に浮かぶラウッタサーリ島でした。都市化が進み、昔ながらの薪サウナやスモークサウナが姿を消していくことへの危機感が、設立の背景にありました。スモークサウナは煙突を持たず、薪を数時間かけて焚いて煙を室内に満たし、頃合いを見て煙を出してから入ります。壁は長い年月ですすけて黒くなり、やわらかな熱と香ばしい木の香りが、ほかにはない味わいを生みます。協会は島に本格的なスモークサウナをいくつも構え、伝統の火の守り方、蒸気の育て方、静かに汗を待つ作法を、会員の手で守り続けています。設立から数えて、すでに八十年を超える歴史があります。
サウナは、静けさの部屋である
協会が大切にしてきたのは、派手さではなく静けさです。フィンランドのサウナでは、大声で話さず、蒸気に身をゆだね、自分の呼吸と向き合います。ロウリュ(焼けた石に水をかけて蒸気を立てること)は、周りへの一声を添えてから行う。汗を流してから席に座り、次の人のために場を整える。こうした細やかな作法の一つひとつが、他者への敬意と、その場の心地よさを守るために積み重ねられてきました。
サウナは、暮らしの薬局だった
フィンランドには、サウナを暮らしの中心に据える古い言い伝えが数多く残ります。清潔で温かいサウナは、かつて赤ん坊が産み落とされ、病人が養生し、亡き人を送り出す前に体を清める場所でもありました。「サウナでは、教会にいるようにふるまいなさい」という古い言い回しも伝わります。協会はこうした文化的な意味あいごと、サウナを次の世代へ手渡そうとしています。単なる入浴施設ではなく、心と体を整える暮らしの装置。その思想を言葉と実践で伝えることが、協会の大切な役割になっています。
世界へ広がる、フィンランドの火
サウナ文化を国境を越えて分かち合おうという動きも、フィンランドから始まりました。1956年には国際サウナ協会が設立され、各国のサウナ愛好家や研究者が集い、入り方や健康との関わりについて交流する土台ができました。数年ごとに各国で会議が開かれ、サウナの知恵が世界で分かち合われてきました。フィンランド式のサウナは、こうした地道な活動を通じて、世界へ静かに広がっていきました。いま、日本各地でサウナを楽しめる背景にも、本場で文化を守り続けた人々の存在があるのです。
2020年、人類の宝になった
そして2020年、フィンランドのサウナ文化は、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。特定の建物や道具ではなく、「サウナに入るという暮らしの習慣」そのものが、人類共通の財産として認められたのです。火をおこし、蒸気を浴び、身を清める。その素朴な行いが、これほど深い文化になりうる。フィンランドの人々が長い時間をかけて育ててきた事実を、世界が認めた瞬間でした。
盛岡で、本場の作法を
本場が大切にしてきた静けさと敬意の作法は、岩手・盛岡の自宅サウナでもそのまま生かせます。一声を添えてロウリュを楽しみ、家族で静かに汗を待つ時間を持つ。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターで、そんなフィンランド仕込みのサウナ時間を暮らしに迎えるお手伝いをしています。作法や文化の話も、店でゆっくりどうぞ。



