泥炭(ピート)は植物が水中で何千年もかけて堆積したもので、石炭になる手前の状態だ。アイルランドとスコットランドの高地には広大な泥炭地が広がっており、ここから切り出したブロックが何世紀ものあいだ暖房と調理の燃料だった。
なぜ泥炭を燃やすのか
アイルランドの国土は木が少ない。かつては森林に覆われていたが、中世以降に伐採が進み、17世紀には国土の1%まで森林が減った。薪がない。しかし泥炭地はある。だから泥炭を燃やした。資源が暮らし方を決めた典型的な例だ。
泥炭の発熱量は薪よりも低く、石炭よりも大幅に低い。ゆっくりとくすぶるように燃え、大きな炎は出ない。しかし火持ちが良く、寝る前にストーブに入れれば朝まで熾火が残る。
ピートの香り
泥炭を燃やした煙には独特の甘い香りがある。アイルランドの村を歩くと、この香りがどこからともなく漂ってくる。スコッチウイスキーの「ピーティー」な風味は、大麦の乾燥に泥炭の煙を使ったことに由来する。燃料の香りが酒の味になった。
燃やすものが変わっても
現在、アイルランドもスコットランドも暖房の主力は灯油とガスに移った。泥炭の採掘は環境保護の観点から制限されている。それでも地方の一部では泥炭ストーブが現役で、観光客が「あの香り」を求めてやって来る。
薪、泥炭、石炭、灯油、ガス、電気。燃料は変わっても「火で暖まる」という根本は変わらない。何を燃やすかは、その土地にあるもので決まる。岩手には森がある。だから薪ストーブが合う。それだけのことだ。
